ラッキー・ファミリー 小説版 ~第一章~
来たる香港返還を前に、旧正月らしい豪華な出演者による恋愛や家族愛を「香港と中国の和合」と重ねて描いた「97家有囍事」。今回は映画と異なる描写がある小説を周星馳に関連する部分を中心に紹介します。中でも最も驚かされたのは当時34歳の周星馳が演じた老恭の年齢でした…。

小説の情報

表紙 裏表紙 中表紙
書名 97家有喜事 発行 勤+緣出版社 ISBN-10 962-447-510-7
原作脚本 黃百鳴、谷德昭 印刷 日昇柯式印刷公司 ページ数 253ページ
責任編集 何平 発行日 1997年1月 寸法 16.5×10.5×1.3cm
出版 勤+緣出版社 言語 中国語(繁体字) 価格 48HKドル(約650円)

タイトルは映画のポスターが使われた表紙と背表紙は「97家有囍事」でしたが、奥付は「97家有喜事」、中表紙は「家有喜事1997」になっています。出版社サイトの紹介文では「家有囍事1997」の表記もありました。「電影電視小說系列⑤」として発売されており、作者名は掲載されていませんが、編集者の何平が「勤+緣出版社」でも著作を持っているため、小説を執筆した可能性が高いです。

原文
牛年囍運翻天賀歲鉅片。
周星馳陪你笑翻一整年。
轉乾坤 鴻運開春 周星馳。
養精蓄銳三百天 利多旺收一整年。
「'97家有喜事」。
翻訳
丑年のハッピーとラッキーで大騒ぎする正月大作映画。
周星馳があなたに付き添うため、一年中、笑い転げる。
逆境をぎゅっ(牛)と覆し、幸運で春を開く周星馳。
蓄えた300日のエネルギーで一年中、多くの利益を得る。
1997年版「家にめでたき事あり」。
備考
台湾版DVD
'97家有事」
「牛轉乾坤」は同音の「扭轉乾坤」を、
丑年にかけて、もじった物。

ちなみに本作の台湾版は本編で表示されるタイトルこそ「97家有囍事」ですが、DVDパッケージではアポストロフィーが打たれ、双喜字が使われていません。また、集合写真は香港版と微妙に異なった物が使われており、周星馳の屈託のない表情を見る事ができます。そして、比較して気付いたのですが、台湾版は9人しかいないのです…。実は周華健は後から合成された物だったのでした。

登場人物の名称の違い

俳優名
(日本での通称)
中文字幕
英語字幕
日本語字幕 DVD-BOX
ブックレット
小説
周星馳
(チャウ・シンチー)
老恭
Kung
コン ロウ・コン(老恭) 喬叔恭
黃百鳴
(レイモンド・ウォン)
老良
Old Leung
兄貴 ロウ・リャン(老良) 喬伯良
吳鎮宇
(ン・ジャンユー)
老非
Old Fei
フェイ ロウ・フェイ(老非) 喬仲非
喬宏
(ロイ・チャオ)
老先生
Sir
ロウさん ロウ・ロウ(老老)
リュウ
喬老伯
伍詠薇
(クリスティーン・ン)
賢淑
Yinsu
イムソ イム・ソ(賢淑)
イン
賢淑
鍾麗緹
(クリスティ・チョン)
小萱
Little Suen
シュン シュン 小萱
吳倩蓮
(ン・シンリン)
小倩
Shenny
シン シウシン(小倩) 小倩
李惠敏
(アマンダ・リー)
金慕玲
Karen Kam
ガム・モウリン リン 甘慕玲
金毛玲
夢娜麗莎 Kam
Monalisa Kam
モナリザ・キャム - Mona Kent
黎姿
(ジジ・ライ)
Gigi
Gigi
ジジ ジジ Gi Gi
周華健
(エミール・チョウ)
郎夢
Dream Boy
ロン・モン 写真家 郎夢
雷宇揚
(サイモン・ルイ)
瀟灑哥(瀟洒哥)
Brother Smartie
アニキ
アニキさん
やくざ 瀟灑

周星馳が演じる「老恭」の「老」は苗字です。「老周」のように苗字の前に置いて親近感を出す表現ではないのでした。「老」姓は広い中国でも滅多に見かけないと言われています。「恭」は新年を「恭喜」(おめでとう)と祝う挨拶から来ています。「老恭」は「ハニー」など夫への呼びかけの意味を持つ「老公」と同音なため、日本語字幕にはなっていませんが、勘違いされるギャグもありました。小説では「喬叔恭」という名前で、三男ゆえに「兄弟の3番目」の意味を持つ「叔」の文字が使われています。

黃百鳴が演じる「老良」の「良」は、おそらく「夫」の意味を持つ「良人」から来ているのでしょう。日本語字幕で名前は呼ばれませんが、「永遠的明星 レスリー・チャン メモリアルDVD-BOX Vol.1」に封入してあるブックレットでは「リャン」と國語でした。そして、小説の「喬伯良」にある「伯」には「長男」の意味があります。どちらも彼の役柄に合わせていますね。なお、日本版DVDパッケージにある「長男ムン」は誤字です。BOXの作成中に前作の役名・常滿が混ざってしまった事が考えられます。

吳鎮宇が演じる「老非」は小説では「喬仲非」です。「仲」には「兄弟の2番目」の意味があるため、次男の彼にピッタリです。そして、「仲」は「さらに」、「非」は「~しなければならない」の意味がありますが、これは老非の「博士号を取得しても次の学位を求める性格」を表しているのでしょう。結果的に彼は変化しましたが、この性格による「社会に出ず大学に残り続ける」という行動は「変わりたくない=今の香港を維持したい」という返還に戸惑う香港人の気持ちの表れである可能性があります。

喬宏が演じる父親の「老先生」はフルネームが不明です。ブックレットの「ロウ・ロウ(老老)」は香港版の解説にある「老老頭」(老おじさん)から来たのでしょう。他に「父ロウ」や「父リュウ」(名前)、DVDパッケージでは「リュウ家」(苗字)の表記も見られます。小説でも「喬老伯」(喬おじさん)でした。この苗字が映画の配役決定後に付けられた物であれば、喬宏から取ったのでしょうが、「喬」は「橋」と同音なため、本作のテーマとして香港と中国を繋ぐ「懸け橋」の意味も込めているのかもしれません。

寝床の女性の名前

挿絵①(5ページ)

挿絵の説明:喬家の父子4人は皆、異なる味と様式の朝食だ。すべて大嫂・賢淑の用意に頼っている。

小説も家族の紹介から物語が始まります。映画の老恭は起床するなり大哥(兄・老良)に「好心啦、福心啦」と歌いながら金をせびり、しゃぶしゃぶを注文し、スーパーファミコン(SFC)でゲームをしていましたが、その姿は「無職の遊び人」以外の何者でもありません。ちなみに「武狀元蘇乞兒」でも使われた「好心啦~」のフレーズですが、これは新馬師曾の「萬惡淫為首(乞食)」から来ています。

小説では「三男の叔恭はあか抜けていて、誰にも束縛されない自由な人物だ。ウィットに富むユーモアは父親譲りなのだが、気の向くままに好色なため、多くのトラブルを引き起こす。騒がしいので家族は皆、ビクビクしているのだ」と詳しい描写がされていました。…より自由な印象を受けます。

本編 ロビーカード

そんな老恭が一夜を共にした女性の名前は映画では「Tequila」ですが、小説では「Mary」でした。どちらも酒から来ています。また、「Tequila」を演じた女性の名前は不明でエキストラとの噂です。

そして、老恭が遊んでいるゲームは小説では「Street Fighter」としか表記されていませんが、映画では撮影時点の最新作、SFC版「ストリートファイターZERO2」(発売日:1996年12月20日)をマジコンで私的複製してプレイしています。ある意味では香港の若者文化のリアルな再現なのでした。

自由奔放な金慕玲

ロビーカード 本編

老非が次に学びたい音楽について大学で曹教授(馮意清)と話した後、小説では突然、声をかけて来た金髪の女性に老非が初恋を感じ、彼女のバイクの後ろに乗ってドライブする描写があります。ロビーカードに大学の前で撮られたスチールが残っている事からシーンも撮っていたようですね。

このバイクの女性は映画の中文字幕で「金慕玲」と表記されていましたが、小説では「甘慕玲」でした。粵語で「甘慕玲」(gam1 mou6 ling4)は「金髪の阿玲」を意味する「金毛玲」(gam1 mou4 ling4)の近似音になっているため、小説では老非がまさに「名は体を表す」と心で思う描写もあります。

他に映画に登場する英語名「夢娜麗莎 Kam」は小説で登場せず、「Mona Kent」という英語名が登場しています。彼女は英語字幕の「Karen」からもイメージは莫文蔚(Karen Mok)が「墮落天使」で演じたキャラクターなのでしょう。金慕玲が革ジャンに身を包み、夜遊びをする消費的な姿は本作のテーマとしてはイギリスの植民地になった事で西洋化した香港を表しているのだと考えられます。

…そして、小説では金慕玲が家に遊びに来る際、映画にはない以下のような描写がありました。(描写紹介は内容に合わせ、原文を生かすだけでなく、対話形式に再構成する手法も交えます。)

小説
もう9時だが、阿非の彼女はまだ姿が見えない。すでに料理はおいしそうな香りを漂わせている。阿恭は死ぬほど腹が減ったため、我慢できず、先に盗み食いして味わおうとした。手を伸ばした所、厳粛な態度の喬老伯に後頭部を箸で叩かれた。阿恭は手を引っ込め、我慢して待つ。

老恭は金慕玲に興味がある?

挿絵②(43ページ) 本編

挿絵の説明:喬非の初恋の人、車神こと「金毛玲」は喬家で大騒ぎ。

金慕玲が帰り、彼女を気に入らない父親が老非に「次の人は反対しないから」と伝えた後、小説では老恭が二哥(二番目の兄・老非)に「ねえ、二哥。美人の彼女と付き合っても僕に紹介しないなんて、まったく、ひどいなあ!」と言っています。映画で老恭は「兄さんのあの女、悪くないね。いないよりマシだよ」と言って、金慕玲が小遣いをくれた事だけに喜んでいたため、小説の言葉にも逆の意味があると思っていました。しかし、この段階では老恭は金慕玲を気に入っていたのです…。

小説
阿恭が客人を送って戻って来た。二哥が美しい女性と出会った事が羨ましく、金毛玲とは初対面なのに、もっと早く会えれば良かったという気持ちが大いにある。話の中に金毛玲を慕い、気に入ったという感情が溢れ出ていた。

くじ当選で狂喜する老恭

本編

老恭が「六合彩くじを買っていない」と言い、父親からお年玉を貰った後、映画では無言で自分の部屋に行きますが、小説では「僕をイライラさせないでくれ!一人で少し静かにしていたいんだ!」と言い、生気のない表情で部屋に入って行きます。…その後は以下のような描写がありました。

ここは周星馳が落ち着かない様子で六合彩くじを隠す場所を探し、ベッドの上で飛び込みなどを見せてくれる映画の方が印象的ですが、連続宙返りや頭をさする演技も想像すると面白いですね。

小説
部屋の鍵を閉めた後、阿恭はまるで別人になった。狂ったように喜び、部屋の絨毯の上で連続宙返りをしたのだが、ベッドの上方に頭をぶつけたので、やめた。彼はぶつけて痛い頭をさすりながら、袋の中に手を突っ込んで六合彩くじを取り出した。しきりに狂ったようにキスし、嬉しそうに「儲かったぞ!儲かったぞ!財神万歳!万々歳!」と叫んだのである。

電話で呼び出した女性の英語名

本編

映画 Michelle、Angel、Pauline、Irene、Dolly、Linlin、Gigi 計7人
小説 Michelle、Angel、MarilynLinda、Doreen、Parlin、Lin Lin、Gi Gi 計8人

老恭が呼ぶ女性の名前も異なっています。「Doreen」と「Parlin」は表記を間違った可能性も考えられますね。小説では「老公」と聞き間違えたGigiが老恭を確認する際、以下の質問をしています。

小説
Gi Gi:そうよ!私はGi Giよ!あなたはどなた?「貓尿榮」(安酒の阿榮)なの?

阿恭:違うよ!

Gi Gi:ああ、「肥龍」(太っちょの阿龍)?きっと「骨精強」(立派な気骨の阿強)でしょう?

阿恭:違うよ!老恭だ!

Gi Gi:何よ!皆、私の老公(ハニー)になりたがっているんだから。一体、どこの馬の骨よ?

阿恭:尖東の情聖、ホットな油尖旺区の大衆の恋人。姓は老、名は恭とは僕の事だ!

Gi Gi:おおっ!やっぱり、あなたは油麻地で7街区も追われて斬られそうになるも、
    すごく逃げるのが早かった、あの阿恭なのね?

阿恭:それは僕だ!

小説ではGigiと会う前に部屋を出た老恭が出かけるために兄の車のキーを奪う描写があります。

小説
阿非:阿恭、何をするんだ?

阿恭:はぁ…!

阿良:本当に六合彩くじを買いに行っていないのか?

阿恭:はぁ…!

(ため息を漏らしながら、阿恭は大哥の服のポケットに手を突っ込んだ。阿良が叫ぶ。)

阿良:何をする?

(ポケットの中の車のキーは簡単に阿恭に取り出された。)

阿非:大哥の車を借りて、憂さ晴らしに行くのか?

(阿非は少し同情して言った。)

阿恭:はぁ…!

(阿恭は答えない。ただ、ため息で自分の苦痛を表示するだけだ。阿良も情にもろい。)

阿良:絶対にバカな事はするなよ!

(阿恭は車に乗り、発進しながら2人の兄に手を振り、長いため息をついた。)

小説では老恭が遊びに出かけた一方で、以下のように思いを巡らす父親の描写もあります。

小説
この家の商売はすでに自然と阿良の管理に帰属している。だが、すでに阿非は卒業しているし、阿恭も大人になった。長男には次男と三男を引き連れて、事業を開拓するよう促す必要がある。

バーで会う女性の名前

ロビーカード 本編

謝可可が演じるバーに遊びに来ていた女性は、映画では本人の名前そのままの「可可姐」(日本語字幕は「ココ」)でしたが、小説では「Ada」となっています。当初は周星馳と「九品芝麻官」や「西遊記大結局之仙履奇緣」で共演の実績を持つ蔡少芬(Ada Choi)を予定していたのでしょうか?

この時に登場する彼女の兄・阿基(張學潤)は、小説でも亞基という名前です。粵語の「基」は男性の同性愛者である「ゲイ」と同音なため、それと勘違いした老恭の言葉は可可姐を怒らせますが、小説では六合彩くじに当選したテンションのせいなのか、さらに失礼な言い方をしていました…。

小説
Ada :私の事をほったらかしにして、やっぱり、また新しい彼女に換えたんじゃないの!

阿恭:君も新しいのに換えただろう!…この兄ちゃんは誰さ?

亞基:アタシは亞基よ!

(この男は体をくねらせ、オカマっぽく紹介した。)

阿恭:おおっ!意外にもこんな奴とやってるのか!

Ada :彼は私の兄さんよ!

阿恭:わぁ!兄妹恋愛か。すごく楽しいね!

Ada :この若造、覚えておきなさい。山と水がいつか出会うように、
    人もまたどこかで出会う事になるんだから。…帰りましょう!

阿恭:冗談を言ったんだ。そんなにマジになる必要ないだろう!

この描写がある時、小説の挿絵ではイメージとして、先に病院の画像が使われています。

挿絵③(65ページ)

挿絵の説明:Gi Giは阿恭の数多くいるガールフレンドの一人だ。

バーで瀟灑と勝負

本編

小説では瀟灑に目を付けられた不運な老恭が急に顔なじみの大王良に引っ張られ、バーの一角に連れて行かれます。そして、登場した瀟灑はその名前とは裏腹に「しゃれた容姿ではない中年男性で痩せていて肌はカサカサ」と表現されるも「冷酷な眼差しで人を震えさせ、前に行くのを躊躇させる」と言われるように怖い存在として描かれていました。2人がサイコロで勝負をする前、小説では次に来る客の性別を当てる勝負が始まりますが、老恭が観察力の鋭さで勝利します。…なお、映画では「大王良」とは呼ばれませんが、老恭を呼ぶ瀟灑の手下を施介強が演じていました。

小説
次に来る人が男か女かを賭ける。瀟灑は女が来ると言った。阿恭は「誰もがあんたを女好きだと知っている。僕は男だと言う他ないな!」と言う。赤いマニキュアと美しいハイヒールに目が行く。瀟灑は笑った。逆に阿恭は、よく見るとこの人は女の格好をした男だと気付いた。阿恭は「何がおかしい?」と聞く。瀟灑がその人に「まさか、女じゃないのか?」と聞くと、その人は「ええ。私は男なのよ!」とオカマ口調で言った。「くそ!男が騙るんじゃねえ!」と瀟灑。観衆は大笑いした。

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