ゴッド・ギャンブラー 賭聖外伝 台湾版 ~第三章~
スチールでのみ残る未使用シーン?



洪光に呼ばれ、外国人女性たちと大小ゲームを行う直前の左頌星のスチールです。サイコロや賭け金の位置などから、本編とは違う脚本で撮られたシーンがあったのではないかと推測できます。



こちらは台湾版VCDのパッケージにあるスチールです。本編で綺夢がBillyに銃を向けるシーンとは少しアングルが違っており、もしかしたら、銃を向けるシーンが長かった可能性も考えられます。ちなみにトリミングが異なりますが、日本版ビデオのパッケージにも同じ物が使用されています。


同じく台湾版VCDからの2枚です。左は予選で左頌星が対戦相手の様子を伺いながら、カードを確認しようとしています。多分、彼が勝負時に注文したポテトチップスが届く前に入るシーンだったのではないでしょうか?また、右も背景から予選時の物だとわかるのですが、洪光が白いストールを首にかけているのです。…2人が予選を勝ち進むシーンは元々、多く撮られていたようですね。



こちらも台湾版VCDからです。本編ではデート中、左頌星がタバコにむせるシーンはカメラを固定したままで撮られていましたが、このスチールを見ると本来はアップが挿入される予定だったのではないかと思ってしまいます。周星馳の表現力を楽しむためにも、ぜひ入れて欲しかったです。


左は台湾版VCDにある、「國際賭王大賽」に現れた左頌星を見て喜ぶ黑仔達と驚く陳松のスチールです。前章のNG集を見ても、わかるように左頌星の登場に関するシーンは色々と撮っていたのではないかと思います。また、右は左頌星が「特異功能」を使うスチールですが、こちらも本編とはアングルが違い、このアップが入る流れだった可能性も考えられます。…なお、右は当時の周星馳と本作の最適なイメージとして、香港の俳優の商品を扱う店で長らく写真が売られていました。

主要人物たちの名称の違い

俳優名
(日本での通称)
粵語字幕
(粵語版英語字幕)
國語字幕
(國語版英語字幕)
日本語字幕
周星馳
(チャウ・シンチー)
左頌星
C.S.Cho
左頌星
Tso Chung-sheng
シン
亞星
Shing
阿星
Sheng
星仔
Shing(Sing)
阿星
Sheng
星哥
Shing(Sing)
阿星
Sheng
星爺
Shing
星公子
Master Sheng
星星
Shing
星星
Sheng Sheng
吳孟達
(ン・マンタ)
三叔
Uncle Tat
三叔
Uncle
タット叔父さん
達叔
Uncle Tat
黑面蔡
Tsai
タットさん
黑仔達
Blackie Tat
黑面蔡
Tsai
ブラッキー
張敏
(チョン・マン)
綺夢
Yee Mong
綺夢
Yi Meng
イー・モン
劉鎮偉
(ジェフ・ラウ)
陳松
Chan Chung
陳松
Chen Chung
チャン
松哥
Chung
松哥
Chung
秦沛
(チョン・プイ)
洪光
Hung Kong
洪光
Hung Kuang
ハン・コン
洪爺
Mr.Hung
洪爺
Master Hung
ハン
尹揚明
(ワン・ヨンミン)
Billy
Billy
Billy
Billy
ビリー
元奎
(ユン・ケイ)
賣魚盛
Fishy Shing
鴨肉扁
Dcuk Meat Pien
セン
盛哥
Shing
盛哥
Sheng
吳君如
(サンドラ・ン)
亞萍
Ping(Ah Ping)
阿萍
Ping
ピン
盧苑茵
(アンジェリーナ・ロー)
六姑
Luk
花姑
Hua
ルー
陳淑蘭
(シーラ・チャン)
沙膽英
Ying
芳姐
Fang
イン
(不明。芝女役)
芝女
Chee
小蘭
Hsiao Lan
チー

左頌星の名前は当時、劉鎮偉の作品に関わる事が多く、前年の「流氓差婆」で副監督を務めた左頌昇の名前のパロディです。「昇」と「星」は広東語の発音が同じなため、ギャグになっています。

英語字幕の「C.S.Cho」は「Chung Sing Cho」(頌星左)の略でしょうが、後の「賭俠II之上海灘賭聖」で周星馳が演じる人物の名前が「周星祖」(Chow Sing Cho)となっている事から、何かの手違いにより、この英語字幕が名姓の順だと知らないまま、自由な解釈で使われた可能性も考えられます。

左頌星の呼ばれ方に合わせ、この時点で現在に至るまでの周星馳のニックネームはすべて出尽くしています。「星爺」の呼びは本作が最初だと言われていますが、それは映画での話であり、テレビでは「430穿梭機」の時点で、すでに呼ばれていました。台湾版では「星爺」が「星公子」となっていましたが、日本でも1996年に周星馳は「コメディの貴公子(プリンス)」と称された事があります。

「聖」と「星」の広東語発音は声調は違えど同じ「sing」です。そのため、主人公の名前とタイトル及び別名が近似音になっていると言うネタがあります。國語発音で「星」は「xing1」ですが、台湾版で、あえて「星」を「Sheng」と表記したのも「賭聖 du3 sheng4」の國語発音に合わせたからでしょう。

また、「賣魚盛」こと盛哥の英語名は香港版も台湾版も左頌星のニックネームと同じなため、英語字幕で見ていると混乱します。なお、台湾版では「鴨肉扁」と呼ばれており、本編では盛哥が仕事をしている描写がないため、特に呼び名は気にならないのですが、「賭聖廷續篇 賭霸」では魚河岸に行くシーンで設定が生かされているため、「魚売りの盛」でないと少し違和感が残るのでした。

ちなみに台湾版における英語字幕の混乱は「賭神」と「賭聖」の表記にも現れています。

中文名称 香港版VCD 台湾版VCD
賭聖 The Gambling Saint King Gambler
賭神 The God of Gambler King Gambler

…区別が付きません。なお、「賭聖」が「Saint of Gamblers」と呼ばれるのは「賭俠」からで、続編である「賭聖廷續篇 賭霸」では「The Saint of Gambling」や「Gamble Master」と訳されています。

この他、「綺夢」も台湾版では國語の「qi3 meng4」ではなく、広東語に合わせてた物になっていますが表記は異なっています。「綺夢」は「美しい夢」の意味ですが、「春夢」(潜在意識にある性的欲求から見る夢)の意味があるため、中華圏では上品ではない役名だと批評された事もありました。

エレベーターのおばあさんの流派

本作は英語字幕を元に日本語字幕が作られたようですが、わかりやすさとテンポを重視した事で台詞の面白さが制限された部分があります。ここからは周星馳や吳孟達による勘違いギャグや急に別の方向へと進んでしまう面白さ、地域による翻訳の違いなどを一部、紹介したいと思います。





左頌星:それは何流ですか?

(阿婆の木剣で叩かれる左頌星。阿婆はエレベーターを降りて声を出す。)

阿  婆:チュン。早く開けとくれ!

左頌星:何でたたくんだよ?何流だろ?



左頌星:峨嵋派の剣法ですか?

(阿婆の木剣で叩かれる左頌星。阿婆はエレベーターを降りて声を出す。)

阿  婆:阿松や!早くドアを開けとくれ!

左頌星:おばあさん、何で剣で叩くのさ?…まさか、崆峒派?



左頌星:あなたは、もしかして、峨嵋派の総帥ですか?

(阿婆の木剣で叩かれる左頌星。阿婆はエレベーターを降りて声を出す。)

阿  婆:阿松や!早くドアを開けとくれ!

左頌星:おばあさん、何で剣で叩くのさ?…まさか、崑崙派の総帥?

錢似鶯が演じる阿婆の怯えた表情が印象的なシーンですが、武俠小説などでお馴染みの門派が異なっています。日本では当時、まだ武俠小説が浸透していなかったため、触れられていません。

文化大革命の時か否か





黑仔達:昔、お前が密告した事は分かってるんだ。
     お前が自分の親父を売ったんだ。




黑仔達:昔な、…聞く必要もないが、100%、お前が公安局に走って行って、
     告げ口したんだ!もし、お前の親父がわしの兄貴じゃなかったらな、
     文化大革命の時、わしは最初にケンカしていたぞ!



黑仔達:昔な、…聞く必要もないが、大方、お前が密告しに走ったんだ。
     お前の親父がわしの兄貴じゃなく、
     文化大革命の時じゃなかったら、すぐにわしはケンカしていたぞ!

香港版と台湾版は似ていても細かい所が違います。香港版の「100%」(十成)の部分は台湾版では「80%」(八成。ここでは「大方」と訳しました。)となっている所が面白いです。罵り言葉「你老母」のように人を責める際、その親を責める間接的な方法を使っている所に中国らしさも感じます。

サッカー賭博?野球賭博?





左頌星:超能力は1度使ったら、2ヵ月は休まないと。

黑仔達:2ヵ月も?それじゃ当分、使えないのか?

左頌星:サッカー賭博なら。

黑仔達:サッカー賭博だと?

ここの秋元良介氏(「濟公」の翻訳も担当)の日本語字幕は非常に簡潔です。元のギャグが伝わりにくいため、悩んだ末にお茶を濁したのではないでしょうか?さて、そのギャグはと言いますと…、



左頌星:ダメだよ。毎回、超能力を一度、使った後はね、
     必ず半月ほど回復させないと、もう一度、使えないんだ!
     「××」(チョメチョメ)をこするだろう?こするよね。

黑仔達:半月ほどだと?そんなのありかってんだ?
     今日は競馬シーズン最後のレースだぞ。
     まだ、賭ける必要があるんだよ!

左頌星:「賭波」(サッカー賭博)にしなよ。

黑仔達:「波」(おっぱい)だと?お前、「波」もこするのか!

左頌星:んっ?

…例えが大変に下品なのです。「使った後に回復」や伏字を使われると男性の自慰行為を連想せざるを得ません。さらに黑仔達が反応した「波」は「ボール」の他に「胸」の意味もあるため、こちらも性的な方面に繋がります。映画では直後、阿萍が自分の胸を大きくするために触って欲しいと左頌星に頼みに来ましたが、そのシーンにも繋げているのでしょうか?そして、台湾版はと言うと…、



左頌星:毎回、一度、こすった後はね、少なくとも数ヶ月は休まないと、
     もう一度、こする事ができないんだ。こすって、こすって、
     こすって…って、何がこするだよ!

黑仔達:数ヶ月も休むだと?お前、何の冗談だよ?
     競馬シーズンの最終日だぞ。面白くもないじゃないか?

左頌星:「賭棒球」(野球賭博)にしなよ。

黑仔達:「球」(タマ)だと?「球」もお前はこすれるのか?

左頌星:んっ?

…同じく下品でした。「球」は國語の方言で男性器を指すため、ここでは「睾丸」を暗示しています。また、どれも異なる休息の期間は英語字幕では「1ヶ月か2ヶ月」となっていました。「野球」は台湾の国技に合わせての変更ですが、ここは地域の特色とギャグを上手く絡めたと感心しています。

「男たちの挽歌」や下ネタは訳さず





黑仔達:そして、このコートを着るんだ。

左頌星:そのコート、叔父さんのだろ?

黑仔達:まじめに聞け。これは単なるコートではない。
     神聖なる博徒のよろいだ。今日からお前の別名は"賭博聖"だ。

左頌星:博徒のよろい?トバクセイ?どんな字なの?

黑仔達:くそったれが!

簡潔な日本語字幕です。「くそったれが!」は英語字幕の「Bull shit」からですが、香港版では…、



黑仔達:それからこれだ。これを着るんだ。これこそが…。

左頌星:Markのだろう?上の部屋で見た事がある。

黑仔達:何がMarkだ、馬鹿野郎!
     あらゆる賭け事へのセンスを持つ者は皆、自分のスタイルを持っている。
     これこそが早朝から深夜まで懸命に働く、清らかで気高き「賭聖」の戦衣だ。
     そう!今日からお前は江湖で「賭聖」(とせい)と言う別名で呼ばれるのだ。

左頌星:自分のスタイルを持つ?「とせい」だって?
     あのさ、「せい」って、どの「せい」の字なの?

黑仔達:「性病」の「性」だ。

左頌星:それは、あんたの方だろう!

…「聖」と「性」が広東語では同音だと言う事から、下品なギャグになっています。「Mark」は周潤發が演じた「男たちの挽歌」(原題:英雄本色)のキャラクターの名前ですね。そして、台湾版は…、



黑仔達:それからこれだ。これも着るんだ。これこそが…。

左頌星:小馬哥が着ていたのだ。ビデオで見た事がある。

黑仔達:何が馬だ、馬鹿野郎!
     あらゆる賭け事へのセンスを持つ者は皆、自分のスタイルを持っている。
     これこそが早朝から深夜まで懸命に働く、清らかで気高き「賭聖」の戦衣だ。
     今日からお前は江湖で「賭聖」(とせい)と言う別名で呼ばれるのだ。

左頌星:自分のスタイルを持つ?「とせい」だって?
     あれっ?あのさ、「とせい」の「せい」って、どの「せい」の字なの?

黑仔達:アイヤー!「腎虧」(腎虚)の「腎」だ。

左頌星:あんたこそ「腎虧」だろう!

…「聖」(sheng4)の近似音「腎」(shen4)から「腎虧」(腎虚)と言う話になりました。実はこちらも「過度な性交で男性の体の衰弱」を意味する事から下品なギャグと言えます。「小馬哥」も香港版と同じく「英雄本色」のMarkの台湾での名前からですね。「賭神」の繋がりで周潤發の有名な役が出たようにも思えますが、「他來自江湖」や「一本漫畫闖天涯」などでもMarkのネタは出た事があります。

子供じみた発言が笑いを誘う





綺  夢:大丈夫?

左頌星:平気さ。君は?

綺  夢:私も。

黑仔達:俺は痛い。

左頌星:かすり傷だよ。大した事ないさ。

黑仔達:勝手な事を。

こちらも簡潔な日本語字幕です。残念な事に黑仔達が言う面白い発言が訳されていません…。



綺  夢:あなたは大丈夫?

左頌星:大丈夫。…君は大丈夫?

綺  夢:私は大丈夫。

黑仔達:わしは大丈夫じゃない。

左頌星:甘えているんじゃないの?ペロペロって舌を出してさ。
     まずは大きいって事を理解しなよ、自分が。

黑仔達:認めんぞ。わしはアイスクリームが食べたい!

香港版では綺夢に寄りかかって甘えている左頌星が自分を棚に上げ、黑仔達を「良い年した大人なんだから」と責めるのですが、なぜか話がすり替わり、黑仔達は自分の年齢を認めない上、さらに子供が大好きなアイスクリームを引き合いに出して主張すると言う無厘頭さが大変に笑えます。



綺  夢:あなたは大丈夫?

左頌星:あっ…。大丈夫。…君は大丈夫?

綺  夢:私は大丈夫。

黑仔達:わしは大丈夫じゃない。

左頌星:つべこべ言うなよ。子供は転ぶのを怖がらない。
     転べば転ぶほど早く成長するんだ。

黑仔達:嫌だ。わしはアイスクリームが食べたい!

台湾版も同じく黑仔達の発言が笑えますが、左頌星の言葉から辛辣さが薄れています。実は香港版も台湾版も英語字幕に「ice-cream」と言う単語は登場しているのですが、話の流れとしては少し突然すぎるため、英語を元に作った日本語字幕も、ここは触れない事にしたのだと思っています。

他に気になった点

日本版 キリスト?

日本版 ブラッキー!

香港版 古烈治?
Jesus Christ?
香港版 達哥、達哥…
Tat Tat
台湾版 救世主?
Saviour?
台湾版 阿星…
Sheng…

左は左頌星が女装した黑仔達を見て驚くシーンです。ここの日本語字幕は香港版の英語字幕から翻訳した「キリスト?」(台湾版も同じ意味になる「救世主?」)でしたが、実際は「古烈治?」と言っています。「古烈治」はオランダ・アムステルダムのサッカー選手であるルート・フリット(グーリット)の事で黑仔達のカツラが当時の彼の髪型と似ている事からギャグとして名前を出したのでしょう。

ちなみに「少林足球」で「玉面雙飛龍」の一人を演じた張栢芝に役名はありませんが、PCゲームの「少林足球 電腦遊戲」の説明書では「古烈芝」と言う役名になっているため、こちらもルート・フリット選手を意識した物だと言う事がわかります。…周星馳は彼を好み、応援していたのでしょうか?そう考えると「賭聖」の台詞は元々の「キリスト?」をアドリブで変更した可能性も考えられますね。なお、莫文蔚が演じた「玉面雙飛龍」は説明書では「古華蔚」で、こちらも「古華特」ことアムステルダムのサッカー選手であるパトリック・ステーフェン・クライファート(クライフェルト)から来ています。

右の画像は洪光との対決に綺夢が登場するシーンです。日本版を含めた香港版などでは賣魚盛と阿萍が黑仔達を心配し、彼の名前を叫んでいるのですが、驚く事に台湾版では左頌星の名前を叫んでいるのです。賣魚盛たちは左頌星が戻って勝負をしている事を知っていたのでしょうか?

この他、阿萍が女神の格好をするシーンで日本語字幕は賣魚盛の台詞を「自由の女神?」としていましたが、原語では「民主女神?」と言っています。これは天安門広場に作られた民主化活動のシンボルで、本作の前年(1989年)に起きた「六四天安門事件」を取り上げてギャグにしています。(台湾版ではシーンに合わせ、大陸の学生運動を応援する曲「歷史的傷口」を流していました。)

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