算死草

タイトル

原題: 算死草
英語題: Lawyer Lawyer
台湾題: 整人狀元
大陸題: 算死草
整人状元
韓国題: 算死草
산사초
ベトナム題: Trạng sư xảo quyệt Trần Mộng Cát
Toán tử thảo
Chỉnh nhân trạng nguyên
タイ題: คนเล็กทนายเทวดา
หรือ จุ๊ย ขี้จุ๊
邦題: ハッスル・キング

作品データ

監督: 馬偉豪
脚本: 馬偉豪、黃浩華
製作: 馬偉豪
製作会社: 天下電影製作有限公司
香港公開: 1997年8月1日~9月5日
興行収入: 27,163,795HKドル
-

役名 出演者
陳夢吉 周星馳(チャウ・シンチー)
何歡 葛民輝(エリック・コット)
呂忍 莫文蔚(カレン・モク)
水蓮花 邱淑貞(チンミー・ヤウ)
何中 林保怡(ラム・ボーイー)
龍二哥 黃偉文(ウォン・ワイマン)

説明

本作は策略王と呼ばれる訴訟代理人が仲違いした弟子の無実を晴らす法廷劇です。荒唐無稽に思えるも筋が通っていたり、失言を誘って相手を黙らせるなど周星馳が得意とする話術で真犯人を追い詰めるまでが楽しめます。数々の下品なギャグが目立ちますが、要所で際立つ面白い演出も多く、愛や友情を絡ませて描く物語は衣装を中心とした美しい映像と共に強い印象を残します。

情報

タイトルの「算死草」は「計算高い、ケチ」の意味です。また、英語題の「Lawyer Lawyer」はジム・キャリー(香港名:占・基利)が弁護士を演じた映画「ライアー ライアー」(原題:Liar Liar)から来ています。なお、当時の周星馳は「香港のジム・キャリー」と呼ばれていました。

李兆基が演じる丐幫幫主の洪十八は、その名前から金庸の武俠小説「射鵰英雄傳」に登場する「降龍十八掌」を使う北丐・洪七公の子孫、または関係者の可能性が考えられます。ちなみに洪十八は中盤でヌンチャクを振り回す際、李小龍のような声を出します。

周星馳が演じる陳夢吉は清朝時代に実在した有名な狀師(訴訟代理人)で、含みのある性格をしているも、文章や言葉が鮮やかで美しく、常に貧しい人を救うために訴訟代理を行っていたと言われています。方唐鏡、劉華東、何淡如とあわせて「廣東四大狀師」と呼ばれていました。

陳夢吉が何歡と一緒に縄跳びをしながら歌うのは広東語の童謡「熊人歌」です。

雷宇揚が演じる客棧東主は「熊貓(パンダ)は何色?」と言うクイズの答えを明かす際、「皆、紅色(赤色)だと思うだろうが、熊貓は白黒だ。」と言います。この突然の赤色の登場は「紅」と「熊」の広東語発音が同じ事から「熊貓」が「紅貓」(赤い猫)にも聞こえると言う所から来ています。

張達明が演じる客棧東主は「点、長く線を書く、壁に槍は不要、でくの坊対でくの坊、おじいさんが痩せて肉がなくなった。これは何の字だ?」と言うクイズの答えを「中文字」(中国文字)だと言いますが、この文字は「麽」です。…ここは正式な答えよりも客棧東主の大まかすぎる答えと、続けて言う「皆、英文字(アルファベット)だと思うのさ。」と言う、あきらかに中文字よりも画数が少ない文字を引き合いに出す所が笑えるのですが、以下に野暮を承知で解釈を書きました。

クイズ 文字 解釈 答え
点、長く線を書く 点を書いた後に長い横棒を書く
壁に槍は不要 丿 壁に槍をかけないため縦になっている
でくの坊対でくの坊 阿木(でくの坊)=木が対になっている
おじいさんが痩せて肉がなくなった 阿公(祖父)の「公」から肉=乀を取る

ちなみに日本語字幕では答えが「漢字」、日本語吹替版では答えが「中国文字」なため、問題も「口に串、囲いに玉、点と棒にバッテン、家の中に子が一人。」と別物に変えられています。

方唐鏡(羅家英)が飼う「神犬拉茜」はエリック・ナイトの小説「名犬ラッシー 家路」に登場する犬の名前から来ています。また、台湾版では陳夢吉が犬を称える際に言う「拉茜好!」(ラッシーは良い!)が近似音の「拉屎好!」(排便は良い!)を思わせる強調の仕方をしているようです。

鍾景輝が演じる何西爵士は実在した香港の実業家・何東を暗に示しています。余談ですが、何東を始祖とする名門「何東一族」には著名人も多く、その中でも驚きなのが何東の弟・何甘棠の孫に当たるのが李振藩(李小龍。彼の母親・何柏蓉=何愛瑜が何甘棠の三女)だと言う事です。

尼姑(候煥玲)は「首飾りには小さな扉があり、扉の裏には、あんたたちの何西爵士を表す『西』の字がある。」と説明しますが、これは広東語で女性器を表す「閪」の字を暗示しています。卑猥と言う理由で日本版では説明されていないため、陳夢吉が「『西』の字について話すと私は…。」と言いかけると阿仁(李健仁)が「興奮します?」と聞くシーンや「阿歡にもあった事を悟ったんだ、『西』…の字の翡翠の首飾りがね。」と言う言葉の途中で周囲が「男なのに?」と言いたげな表情で驚くシーンの面白さが半減しています。

本作が香港でテレビ放送された際は陳夢吉が阿仁に豚の舌を使うタイミングを説明する際の台詞が暴力的で性行為を暗示させる事から削除されているため、阿仁が「わかりました。」と言った後は陳夢吉が部屋から出てくるシーンになっています。以下に該当部分を翻訳しました。

陳夢吉:もう一度、言って聞かせてくれ。

(黙ったまま、突っ立っている阿仁。陳夢吉は面倒くさそうに早口でまくし立てる。)

陳夢吉:クソッ!しばらくしたら、老練かと言うくらいの、でっかい水柱が出てくる。この穴が、
     一族皆殺しにしたいくらいの、お前の顔全体を、放出した水でいっぱいにした時、
     お前は、この野垂れ死んだ豚の舌で、お前の母親の穴を塞ぎに行くんだよ!

阿  仁:おおっ!それを早く言ってくださいよ!

陳夢吉:下劣野郎め!


莫文蔚が演じる呂忍は、粵語も國語も女性を意味する「女人」の近似音になっています。さらに英語字幕では「Woman」に似せた「Wu Man」と言う名前になっていました。ちなみに初期の段階では呂忍を疎ましく思った陳夢吉が、ある日、彼女を香港に連れ出し、売り払うと言う危険な設定がありました。さらに陳夢吉が香港で何歡が訴えられている事を知ると言う繋がりだったため、呂忍が新聞を読むシーンや寺院での剃毛シーンは当初、なかったのだと推測できます。

何歡が水蓮花を追いかけるシーンなどで流れる曲は「心肝寶貝」です。本作では女性が歌うバージョンの他、葛民輝が歌うバージョンがありますが、オリジナルは梅艷芳が歌っています。

拷問される何歡は「あんたは僕と『楊乃武ごっこ』をして遊びたいの?」と言いますが、楊乃武は畢秀姑(小白菜)と不倫の末に共謀して彼女の夫を殺害したと疑われ、知縣によって拷問を受けた人物の名前です。この「楊乃武與小白菜」は「清末四大疑案」の1つに数えられる冤罪事件で、物語の舞台である1899年より26年前の1873年(同治十二年)に起きたと言われています。

陳夢吉の剃毛を行う大師(劉以達)は前年の「食神」で彼が演じた夢遺大師のセルフ・パロディに思えます。ちなみに台湾版では大師の声を吳孟達の専属声優・胡立成が吹き替えています。

何歡が髪を切った「彌敦道九號」(ネイザンロード9番地)は現在、「香港半島酒店」(ザ・ペニンシュラ香港)がある場所であると言う説と九號は欠番になっていると言う説があります。なお、映画の影響で中華圏では後に「彌敦道九號」と言う名称の床屋などが多く作られたようです。

陳夢吉が法廷で「被告が極度に醜い顔だと思う人は挙手を願います!」と言った後、手を挙げずに何歡の味方だと思わせたインド人の法廷警察・Vamdemは最後、裏切るように無言で手を挙げる所が笑えますが、台湾版では「イエーイ!」と言う元気な声も上げています。

証拠品として新たに登場する「圓月彎刀」は古龍の武俠小説に登場する刀です。架空の話だと思っていたため、陳夢吉は「あるの?本当にある?」と言ったのだと推測できます。また、「血滴子」は明朝末期~清朝初めに存在した斬首用の武器で「空飛ぶギロチン」とも訳されます。ちなみに日本語字幕では「ヌンチャク」となっていましたが、その後に登場するのは三節棍です。ここでは三節棍を脇に挟んだ陳夢吉が李小龍のような動きを見せてくれます。

日本版だけを見ると、陳夢吉が新しい証人を召喚する前、何中は「お前の父さん」(你老豆)と言われた事で抗議するシーンは単に難癖を付けたのだと思いがちですが、「你老豆」には「お前の父親を犯す」の意味があり、さらに同音で「お前の使い古された穴」(この場合は肛門)の意味になる「你老竇」と捉える事ができるため、侮辱されたと怒るのでした。なお、これは陳夢吉の巧みな心理攻撃で実際の証人に何中の父親・何西爵士を呼んでいます。

陳夢吉が何中に詰問するシーンでは李漁による好色文学「肉蒲團」の話が出ますが、焦る何中は登場人物に「金瓶梅」の潘金蓮の名前を出してしまい、陳夢吉は「西遊記」の唐三藏の名前を出して失言を誘いました。なお、香港では「肉蒲團」を映画化する際、直接的な肉欲のイメージを払おうとしているのか、広東語で「肉」と同音の「玉」(「宝石」の意味)を使い、「玉蒲團」と表記する事が多いです。さらに英語字幕では「玉蒲團」は「A Tale of Two Cities」(二都物語)、潘金蓮は「The soldiers」(兵士たち)、唐三藏は「Snow White」(白雪姫)と訳されています。

何歡が言い渡された刑罰である「還首之刑」は「絞首刑」の意味ですが、捉え方では「首を(縄で)囲む」の意味もあるため、陳夢吉は後に続く「之刑」(~の刑)は決して「死刑」ではないと法官大人(方保羅)に言います。その際、陳夢吉は「之」(zhi1)に合わせて発音を近い物にした方が良いと考えたのか、「死」を「sei2」ではなく、意図的に異読である「si2」を使っています。

日本版では説明がありませんが、水蓮花がイギリスへ留学しに行った事に関して、陳夢吉と何歡は「沙士比亞」(シェークスピア)の「比亞」(bei2 a3)を似た発音の「髀罅」(bei2 la3)=太ももの付け根、つまりは「股間」と勘違いしたまま話を進めています。 以下に該当部分を翻訳しました。

何  歡:イギリス文学を勉強するんです。

陳夢吉:おおっ!すなわち「シェークスベイラ」(沙士髀罅)だな?

何  歡:ああっ!さすが、師匠は素晴らしい。「ベイラ」(股間)さえも知っているなんて。

陳夢吉:「ベイラ」は彼女が学ぶのに適しているね。

何  歡:素晴らしいですね!イギリスの「ベイラ」とは。

陳夢吉:「ベイラ」についてなら、君も私に聞いてくれよ。

なお、台湾版では「比亞」(bi3 ya4)を「屁癢」(pi4 yang3)=尻が痒いと勘違いしていました。

戻る