濟公

タイトル

原題: 濟公
英語題: The Mad Monk
台湾題: 濟公
大陸題: 济公
降龙罗汉
降龙罗汉与济颠
韓国題: 審死官2
審死官續集-濟公
심사관2-제공
ベトナム題: Tế Công
タイ題: จี้กง ใหญ่อย่างข้าไม่มี
ロシア題: Безумный монах
邦題: マッドモンク 魔界ドラゴンファイター
魔界ドラゴンファイター

作品データ

監督: 杜琪峰
脚本: 邵麗瓊
製作: 方逸華
製作会社: 大都會電影製作有限公司
香港公開: 1993年7月29日~8月18日
興行収入: 21,562,580HKドル
-

役名 出演者
降龍羅漢 周星馳(チャウ・シンチー)
伏虎羅漢 吳孟達(ン・マンタ)
白小玉 張曼玉(マギー・チャン)
大種 黃秋生(アンソニー・ウォン)
袁霸天 黃志強(カーク・ウォン)
觀音菩薩 梅艷芳(アニタ・ムイ)

説明

本作は中国の神話や民話が好きな方は存分に楽しめる作品で、民間伝承で有名な僧侶・濟公を周星馳が演じています。所々に笑いのシーンはありますが、周星馳が人を諭して改心させようとするも道が絶たれた事から何もできない自分に苦しむ姿を描くなど、登場人物たちの心の痛みや辛さを表現する事が多いです。また、最後は仏教的な真理である縁起を考える作りになっています。

情報

中国古典文学大系の「西湖佳話」によると、濟公は北宋末~南宋初(12世紀)頃に実在した人物だそうです。18歳で靈隱寺(映画では國清寺)に入って僧になりましたが、癲狂の行為が多く、人から「濟癲」と呼ばれ、長老の教えで悟りを開くも読経を怠り、酒肉を食べたりしていたようです。ちなみに「西湖佳話」にある物語を要約すると…、
ある日、寺の修理をするための募金を集める事になった。濟公は「私は3日のうちに三千貫の金を集めてやる!」と大きく出る。しかし、彼は酒を飲んだり昼寝をしたりして、何日も働かない。それを見た他の僧たちは濟公を責めるが、実は彼は寝ている間に宮中の皇后の夢の中に入り込み、お金を渡すように説得をしていた。首尾よく三千貫の寄進を得たため、後に皆が驚いた。
…と言う内容でした。なお、本にあった濟公の絵は少し太った僧侶で映画とは違っています。

降龍羅漢と伏虎羅漢は十八羅漢の中の2人です。十八羅漢はインドの十六羅漢に中国から2人を加えて18とした物だそうで、その2人は釈迦の直系の弟子のようです。半託迦尊者と注荼半咤迦尊者が降龍と伏虎のようですが、どちらが降龍で、どちら伏虎なのかは諸説があるようです。また、2人は地上では兄弟だったと言う説もあります。降龍と伏虎の法力は「天の龍を降服させる者」「強い虎を伏せさせる者」と言う名前が現すように素晴らしく広大だったようです。

日本語字幕では食事のシーンで幼児化した伏虎が母親の事を「弟」と言っていましたが、これは年下の兄弟の事ではありません。原語では「啫啫」(男性器を表す幼児語)と言っており、両親が驚いたのは変な単語が急に出たからです。これは國語字幕の「小弟弟」(同じく男性器を表す幼児語)から「弟」とされたようです。「鹿鼎記」でも混乱した海富豪(吳孟達)が「啫啫」と言うので、ここはセルフ・パロディなのかもしれません。他に白小玉が降龍の事を「大啫啫」(ビデオ版の日本語字幕では「フーテンさん」)と呼ぶシーンもありましたが、こちらは「巨根」と言う事なのでしょう。

日本語字幕では同じく食事のシーンで伏虎が父親・李茂春(劉江)の事を「パパ」と言っていましたが、原語では「伯伯」(おじさん)です。しかし、降龍が喜んだ後の日本語字幕では「白白」(パパ)と言う意味不明の物になっていました。これは原語では「洗白白」(「風呂に入る」の意味の幼児語)と言っており、「伯伯」と同じ発音なため、日本語字幕に「白白」が来たのでしょう。なお、「賭俠」で刀仔(劉德華)が幻覚の中の龍九(陳法蓉)が自分を誘惑していると思い込むシーンがありましたが、彼女は「先にお風呂で体を洗ってくるわね。」と言う時に「洗白白」を使っていました。幼児語に可愛らしさを演出する効果もあるとすると、成人女性も使うようです。

大種が食堂で注文をするシーンがありますが、自信がなく緊張している彼は「フカヒレを一杯ください。」(俾碗翅)の発音を間違え、「糞を一杯ください。」(俾碗屎)と言ってしまいます。

降龍が変身したお化けは漫画「オバケのQ太郎」(香港題:Q太郎)のQ太郎(Q仔)です。通行人(苑瓊丹)に殴られ、「口にかけた2本の豚の大腸で乞食を脅かすなんて、本当に人でなしだ。お前は死んでしまえ、死んでしまえ。」と言われても笑顔を保っていました。ちなみに腹部にアメリカの国旗に似た星と線があるドロンパは香港では周星馳と同じく「星仔」と呼ばれています。

白小玉を助け、ベッドへ運んだ後に降龍が言う言葉を翻訳すると次のようになっています。

降龍:人が君を訪ねて来るのは馬桶(便器)に座りに来ている事と同じだ。
    座っている時は、もちろん快適でも馬桶に対して感情は生まれない。
男たちは娼婦を人間ではなく、単なる性欲処理の道具と見ていると言う事を、降龍は笑いもせず、怒りもせず、さらりと真面目な顔で言っています。なお、ビデオ版の日本語字幕では下品にならないように「男は女を飾りだと思う。」と訳してありました。

降龍を好きになった白小玉は「娼婦は辞める。」と言って豆腐屋になりましたが、「豆腐屋」とは名ばかりで、男を誘っては体を売っています。実は「豆腐を売る」(賣豆腐)は隠語で「売春」の事を言うのです。さらに豆腐には「女性の白い肌、柔らかい肌」と言う意味もあり、広東語の「食豆腐」と國語の「吃豆腐」は本来の「豆腐を食べる」の意味の他に「女性に(性的な)悪ふざけをする」や「ベッドイン」「性的な愛撫」などの意味もあるようです。

大種の本名は國語版では「朱大祥」、「天映娯樂」のDVD版では「朱大常」となっていますが、広東語版では「周溢祥」です。なお、「大種」(大種乞兒)は広東語で選り好みが激しい人、小さな利益を嫌う人の事を言うそうです。

法力の効果が消える時間が近づき、貴公子の姿が乞食になってしまうのを心配した降龍は急ぎながら「大種!」と叫びますが、部屋にいて気付かない大種には、発音が似ている「賣粽!」の声が聞こえたように錯覚するため、「ちまき売りか?」と言います。

邦題の「魔界ドラゴンファイター」にある「魔界」は黑羅刹が住む地獄の事で、「ドラゴンファイター」は降龍羅漢の英語字幕である「Dragon Fighter Lo Han」から来ています。

巨大な者が街を破壊すると言う設定に「ゴジラ」(香港題:哥斯拉)を思い出しがちですが、これは前年(1992年)の「ジョイ・ウォンの妖女伝説」(原題:千人斬)の影響があったようにも思えます。ちなみに降龍と黑羅刹の体が同じくらいの大きさで、降龍が黑羅刹にパンチを繰り出す写真が存在するので、当初は降龍も法力で巨大化して肉弾戦をする設定だったのでしょうか。

ラストは「香港小姐」(ミス・コンテスト)の授賞式のパロディで、そのテーマ曲であるSeverineの「Un banc un arbre une rue」も使われています。なお、降龍が尊者になった事があまり気に入らない玉帝が不満そうな顔をしていますが、「香港小姐」で優勝できなかった参加者が悔しさと不満の中で仕方なしに優勝者へ拍手しているような感じにも見えます。

戻る