荒川の昆虫写真展 写真展様子

 2013年8月、地元のデパートにおいて「荒川の昆虫写真展」を開催した。展示数は625種A3写真1000枚の、昆虫写真展としては国内最大級となった。子供たちが身近な昆虫に興味を持つきっかけとの思いで開催したのだが、残念ながら7日間で総勢1300名程で、子供で賑わったとは言い難かった。

写真展にこぎつけるまでには社会の病巣を目の当たりしてきた。開催までの出来事を、日記から拾ってみた。

2014年6月2日

2011年

1月1日(土)の日記より

 2010年は二つの大きな目標を持って取り組んできた。一つは昆虫サイト「荒川昆虫記」のグレードアップで、未同定昆虫の解明を課題とした。しかし、2010年に撮影した昆虫の数がかつてないほど多くて、画像編集、ファイル作成に追われ、グレードアップ完成には程遠い状況である。現状表示している昆虫数1200に、解明昆虫を少なく見積もって400、新たな昆虫が200と見ると、掲載数1800種、写真枚数10000枚の膨大な昆虫サイトになる見込みである。熊谷荒川という特定な地域の生態系が浮き彫りになり、地域の財産になる。2011年には、早めにグレードアップを完成させ、「荒川昆虫写真展」と銘打って展示会を開きたいと思っている。

 もう一つは、三年前から書いている小説の第一篇の完成を目指していた。四百字詰め原稿用紙に換算すると三千枚程になる。見直しをかけているうちに話の時期を変更せざるを得なくなり、話の書き足しなど、見直せば見直すほど終着点が遠くなってしまった。今の構想だと三篇になり、一万枚の長編になる予定だ。六十歳を過ぎて、どれだけのことができるか考えると完成するか疑問となってくるが、2011年の早い段階で第一篇を完成させたいと思っている。

 

4月22日(金)の日記より

 一昨日、思い切ってA3サイズまで印刷可能なプリンターを購入、2010年撮影した昆虫を中心に、A3サイズでプリントしてみると、まあまあの写り具合で、これなら写真展に耐えうると判断し、本日、写真を持って、熊谷市の教育委員会に、荒川の昆虫写真展を開催するよう提言しに行ってきた。教育委員会の受け付けに提示しようとすると、内容を聞こうともせずに、展示場を管理する部署へたらい回しされた。そこでは提言文書とA4写真を一枚受け取り、各部署に回してみるとの答だった。

 身近な空間の素晴らしさを、地域の子供たちに実感してもらう写真展との考えで、教育の一環として充分価値があると思っているのだが、教育委員会の受け付け体制では、余計なことはしないと言うのが鉄則となっているようで、社会の荒廃、子供たちの成長を阻害する教育の現状を改善していく姿勢は、残念ながらこれっぽっちも見られなかった。予想していたことだが、門前払いの感が否めず、聞く耳を持たない行政に、腐敗の深刻さを改めて実感した。

 

2012年

7月19日(木)の日記より

 昆虫写真展の開催に向けて地元の教育委員会に提案をし、7月下旬を目安に改めて話し合うことになっている。一方で、東日本大震災の被災地のことが頭に浮かび、「身近な昆虫写真展」の名目で、各県の教育委員会宛てに、提案書と写真展に必要な資料を送付してみた。昨日は東北6県、今日は北海道、新潟、長野の計9県で、中学生が主体で開催するよう、提案した。A3サイズの写真、375種、450点となり、昆虫写真展としては日本最大であり、世界的にもトップクラスと思っている。地域の子供たちが、身近な自然に目を向け、自らの生活空間の素晴らしさを知ってもらいたいとの願いを込めている。果たして写真展を実施する県があるか分からないが、日本の未来にかかわる、大イベントになると思っている。

 

7月26日(木)の日記より

 昆虫写真展の実現に向けて一歩踏み出し、プリントアウトの準備を進めると、肝心のA3写真紙が手に入らないのに少々慌てさせられた。A3サイズを自前でプリントアウトする人は少ないようで、売れないがため、生産量が抑えられ、450枚となると新たに製造ラインを動かさないと揃わないようである。自分のしようとしている事が、どれほどおおごとなのか、再認識することになった。

 

8月8日(水)の日記より

 写真展の夏休み開催を断念し、時間の余裕ができたので8月に入って頻繁に写真撮影に出かけている。河川敷は雑草が生い茂り、虫の集まる草花が限られ、見られる昆虫の数は極端に少ないが、出かけるたびにそれなりの成果が出ている。今日も午前中に探索してきたが、体長(推定17〜20ミリ)の1.5倍もある尾長の蜂と出遭った。後足が太く、腹部はコンボウ状で、おそらく、過去に記録されていない種類だろうと、仮称、アシブトコンボウヤセバチと呼ぶことにした。世紀の大発見とは言わないが、貴重な記録になることは確かである。

 

8月20日(木)の日記より

 7月、熊谷市の展示場に「昆虫写真展」を提案したが、価値を認めたものの、同じことの繰り返しに過ぎない企画展が何年も先まで決められていて、展示がいつできるか明らかにならないので、断念した。今日は国立科学館に「身近な昆虫写真展」の提案ができるか電話してみると、オペレータ止まりで、展示担当者は聞く耳持たずで、電話にも出なかった。熊谷の展示場と同様、「特別」がテーマの、マンネリ化した企画展が先々まで組まれているに違いない。

 多くの子供たちが、身近な生活空間を知らずに、「特別」が映し出された、遠くばかり見せられ、生活を失って日々迷走している。自分らしさを封印され、真似ることが個性とされ、人生の何の足しにもならない特別が夢とされ、生きる楽しさと喜びを全く知らずに大人になってしまう。人生を喪失した大人たちは、自分の誤った道筋を見直すことなく、同じ過ちを子供たちに押しつけ、不幸の連鎖が起こっている。不幸の連鎖を断ち切るには、身近な空間を見つめ直すことが肝要で、身近に目を向けるきっかけとして、生活環境と切っても切れない「身近な自然」と交わることを推奨する。身近には未知との遭遇が転がっており、家庭には究極の面白さが潜んでいる。

 

12月14日(金)の日記より

12月も半ばに差し掛かり、今年も残すところ半月あまり、年内目標の課題が進まず、あらゆるものが手元から離れて行ってしまうようで、安穏としていられない気分である。そんな中で、昆虫写真展の会場の目途が立たずに苦慮していたのが、地元のデパート(今年の7月に提案)から手紙が来て、来年の夏休みに合わせた写真展について話し合いたいとのことだった。まだ決まったわけではないが、来年度に計画してくれる可能性が出てきた。楽観視はしていないが、地域の昆虫写真であり、会場として最も相応しい場所であることは確かである。

 

2013年

2月20日(水)の日記より

 今年の8月に昆虫写真展を開催することが正式に決まった。開催日数は1カ月と見込んでいたが、催事場の都合で6日間となり、残念だが、何もしないより大きな前進となり、新たな機会が作れると思っている。

 

6月19日(水)の日記より

 荒川の昆虫写真展まで2カ月を切り、展示写真の見直しをかけて、本日最終決定するまでに至った。625種1000点となり、展示写真の抽出にあたって見込んだ通りの数字となった。写真の良し悪しは多少あるものの、見応えに大きな差は無く、荒川の自然の豊かさを充分披露できる写真展になりそうである。

 

6月27日(木)の日記より

 写真展の運営について、中学生に協力してもらおうと、地元の学校に申し入れをしてみた。昆虫写真展は当初からいじめ問題と関連付けて進めてきて、教育委員会に提案した経緯があり、いじめ問題に対する積極姿勢は見受けられず、話がまとまらなかった。仕方がないので地元のデパートに提案し、ありがたいことにご協力をいただくことになった。今度は学校長当てに生徒の協力要請をしてみた。写真展の趣旨は子供たちにじかに話をしないと理解してもらえないとの立場で、訴える時間をもらえないか頼んだが、そういうことはできないというのが学校の方針だった。子供たちは2度と経験できない、意義のあることだから、子供たちの将来を見据えて、再考してほしいと申し渡し、再度連絡待ちとなった。いい返事が返ってくるとは思えず、学校の姿勢は、いじめ問題が長年続いてきた要因と、つくづく思った。

 

7月1日(月)の日記より

 写真展の運営を中学3年生にさせられないか、中学校に当たってみると、ある中学の校長は個人的な写真展には協力できないとの回答があった。写真展の趣旨に、地球温暖化問題と身近な生活に与える影響、いじめ問題も絡めた写真展であることを記したが、全く意に介していなかった。そもそも市の教育委員会に持ち込んだ話で、展示場にまる投げされ、展示場では3年先まで企画してあって、いつできるか分からなとのことだった。いじめ問題は今日始まったものではなく、20年以上前から起こっている。話題にならない間隔の長短はあるもののいじめ問題が解決されたことは無く、結局何の改善策もないまま今に至っている。

 自分はもとから学校に一切の期待を持っておらず、子供たちにも話して聞かせ、本人もその気で学校をみていたので、いじめに悩まされることはなかったようだ。我がホームページ「荒川の自然」の開設目的に、

毎日追われる生活がごく当たりまえの社会になってしまい、多くの人々が生活を見つめなおすことを忘れてしまった。生活の基本をなす身近な空間に目を向け ず、遠くばかりを見るようになり、家庭や家族が崩壊し、生活の基盤を失った人々で町は溢れている。生活を取り戻すには身近を知ることから始まり、家庭の役割と家族のつながりを意識していくこたが重要だ。地球温暖化の問題が確実にわが身にふりかかっており、生活を取り巻く自然環境に目を向けていくのも、生活 を守る一因となる」

と記している。

 子供たちを守ってやれないもどかしさから、全力投球してきたことで、個人的な趣味としか見られない学校の実態を嘆かざるを得ず、子供たちの心を癒せる機会を放棄するのは大罪である。学校はいじめ問題をなくすことは出来ないが、和らげる義務がある。新たないじめが発生した時には、全教員に責任を取らせるべきである。

 

7月4日(水)の日記より

 写真展に備える、展示写真一覧表を作成、報告書の役割を持たせて展示数と同じ1000行の文言を書き綴った。荒川における生態系調査の報告書の体裁をとり、生態系に係わる人にとっては貴重品となるに違いない。一般の人が読んでも無意味と思われ、作製部数を限定、展示写真の説明は説明員を仕立てて、子供にも分かり安い内容にするつもりだ。いずれにしても大きな区切りができ、後は写真への記述のみとなった。

 

7月17日(水)の日記より

 7月も半ばが過ぎ、昆虫写真展まで1カ月を切り、大詰めを迎えた気分である。写真の準備は大分進んだが、人的な部分が全く目処が立たず、諦めムードである。

 

8月2日(金)の日記より

 展示写真1000点のプリントアウトを昨日から始め、2日間で250枚仕上がった。他にも調査報告書、25ページ100部、来場者配布用のチラシ800枚プリントアウトした。新旧パソコン3台、A3プリンター2台をフルに活用し、非常体制と言ったところである。明日からは2台のプリンターで写真打ちだしができそうであり、進みが早くなるはずである。インクが問題で、30セット用意したが足りなくなりそうで、カラーインクを追加注文した。いずれにしても、時間とお金のかかる取り組みである。

 

8月3日(土)の日記より

 連日プリンターをフルに動かしており、日射しやほこりを嫌って窓を閉めており、熱気が部屋にこもって、夜になっても少しも涼しくならず、外気がどんな状態か分からないので、明朝の温度予想ができない。

 

8月4日(日)の日記より

 今日も写真の打ち出しで釘付けとなり、インクが不足して買い物に出るだけで身動きが取れなかった。本当は今日中に仕上げる予定だったが、2台のプリンターのうち、古い方が時々色が出なくなり、ごまかしごまかしで、連続打ち出しは諦め、通常の倍以上の時間がかかってしまった。写真の打ち出しはカラーインクばかり消費し、特に黄色がすぐになくなってしまい、一方でセットで購入した黒インクはほとんど減らず、どんなに見積もっても使い切るのは難しそうである。

 

8月5日(月)の日記より

 昆虫写真展の写真の打ち出しが午前中に完了、疲れが一気に出て、何をやっても手に付かない感じで、午後に昼寝をしていくらか調子が戻った。写真の掲示は、一つのパネルに4枚又は6枚とし、メインにするものは4枚とし、パネル制限を加味して抽出するのに時間を要した。プリントアウト中にやってきたのでいい加減となり、見直しをかけて何とか収まった。一気に準備が進んで、気分的に大分楽になった。

 

8月12日(月)の日記より

 写真展の準備は大詰めを迎え、今日は写真を会場傍の予備室に持ち込み、家ではできない作業を明日出向いてする予定である。まだ時間があると思っていたら、明後日には写真を掲示する作業があり、実質的にはもう始まっている。「荒川昆虫記」の全面更新を完了して、DVDにコピーをする予定だったが、全く手が届かなかった。いずれにしても時間のかかる作業で、息切れをしてしまった感がある。

 

8月13日(火)の日記より

 今日は写真展の準備で、会場傍の会議室を借り切り、写真を6枚、ないし4枚をセロテープで貼り合わせ、展示パネルに貼り付けしやすいように準備した。1000枚を1枚1枚画鋲でとめていくことを考えると、5倍の速度で貼りつけられるのではないかと思っている。見通しの甘さで、予定したものが幾つかできなかったが、目的とする写真展示は間違いなくできそうである。

 

8月14日(水)の日記より

 今日は「荒川の昆虫写真展」写真掲示日で、何人かの手伝いを頼み、事前準備が功を奏する形となって、会場担当者の予想した、半分以下の時間で仕上がった。根を詰める作業が続いて疲れ切ってしまい、写真展では居眠りでもしているようである。いずれにしても、ここまでこぎつけたことで、ホッとした。今日の作業は冷房下でやったので暑さを知らず、外に出て、日射しを浴びて今日も猛暑だったと実感した。

 

8月15日(木)の日記より

 今日から「荒川の昆虫写真展」が始まり、女房殿と二人で10時〜19時まで対応した。ピーアール不足で入場者は少ないと思っていたら、意外と多く、混雑までしなくとも、会場が空になることはなかった。受付だけでなく、来場者の質問を受けたりしていたら、かなりハードな作業となり、19時ちょうどに終了した時にはぐったりで、今日以上に来場者があったらとても対応しきれないと、嬉しい悲鳴を上げてしまった。通常の展示会がどれほど来場者があるのか分からないが、組織的に対応しないと大がかりな展示会は無理であり、いずれにしても、昆虫生態を調査していくには、組織化が不可欠と認識した。

 

8月16日(金)の日記より

 今日の写真展の来場者数は、昨日に比べて3分の2程だったが、来場者の方から質問を受けたりしていると、話している時間が非常に長くなり、昨今の生活では長話は慣れていないので、疲れてしまう。明日は来場者が多くなると見込んでおり、果たして体がもつか心配になるが、多くの方にお褒めの言葉を頂き、頑張るしかないと、言い聞かせている。

 

8月17日(土)の日記より

 写真展を開いて分かったことは、現代の子供たちの多くが、昆虫に対して関心が低く、昆虫写真を見ても良し悪しを下す感性を持ち合わせていないようである。関心を持っているのは、10人に1人ぐらいである。身近な生き物を全く知らずに育ち、成長していくのが果たしていいことなのか、じっくり考えてみる必要がある。

 

8月18日(日)の日記より

 写真展の来場者は子供から熟年まで幅広く、同じような年齢でも関心度は半々に分かれ、男女を問わず熱心に見てくれる方も少なからずいる。写真枚数1000点は、改めて見てみると多すぎると分かった。熱心な方で、写真に記したコメントを、1枚1枚全部読んでくださる方もおり、2時間以上がかかっていた。

 

8月19日(月)の日記より

 写真展は後一日を残すだけとなりったが、やっとここまで来たとの実感で、疲れてしまった。子供たちが昆虫に関心が無いのには驚きの一方、男子、女子問わず、子供10人に1人は昆虫大好きがいて、気にいった展示写真をプリントアウトしてあげると、大喜びで持ち帰った。熟年者を中心に興味を示してくれる人が多く、帰りがけにお褒めを頂き、当初の思惑が全く外れても、大いに満足できる写真展となっている。

 

8月20日(火)の日記より

 6日間の写真展が今日で幕を閉じ、来場者数は多くなかったが、対応に時間がとられ、かなりの負担となった。撤収が無事終わると、やっと終わったと言うのが実感で、思った以上に長く感じられた。

 

8月21日(日)に日記より

 「荒川の昆虫写真展」の報告がまとまり、6日間の来場者数は1360人程だった。果たして数が多いのか少ないのか分からないが、夫婦二人で対応するには適数で、これ以上多かったら収拾がつかなかったのではと思っている。目的とした、子供たちに見せてあげたいとの思いは全く成り立たず、ここまでひどい社会状況かと、嘆かずににいられなかった。一方で、子供の10人に1人は、家族とともに昆虫を愛好し、熱心に見入る姿に感激、嬉しくなった。昆虫に関心のある子供には声をかけて、気にいった写真を2枚プリントアウトして上げると、大喜びして持ち帰ってくれた。

 熟年世代が多く来場し、関心を持つ方が多く、帰りがけに称賛の言葉を残していただいた。熟年の世代には女性も多く含まれ、想像以上に関心を持ってくれて、同様にお褒めの言葉をいただいた。女房殿は亭主の道楽ぐらいにしか考えていなかったので、反響の大きさに、写真展の価値を見直していた。できることは精一杯やったとの満足感が、今の本音である。