スノボー論(本道を行く)2005年3月作成2015年12月更新

2007年2月8日鹿沢

 我輩はスノーボードを一度もやったことがない。スキーは35年のキャリアがあるが、嗜む

程度で少しも上手くない。若い頃の10シーズンで、年平均6日程度の経験であり、スキーの

技術を磨くには時間不足だった。その後は家族スキーが中心となって、自らの技量を上げる滑

りをしたことがない。それでも35年の積み重ねは、自己流に他ならないが、急な斜面でも何

とか降りられるようになっている。そんなつたない経歴の我輩が、息子の希望に応じ、スノー

ボードの指南役を買って出て、かれこれ6シーズンになる。

 息子が二人いるが、長男が5歳、次男が3歳の頃からスキーを始めさせ、高校生になるまで

自己流のスキーを教えてきた。長男はスキー一筋で、25年近いキャリアとなるが、最近はご

無沙汰となっている。次男坊は高校3年頃からスノボーに転向、初っ端は、見よう見まねでや

っていたが、上達は芳しくなく、質問されてアドバイスをすることもあったが、行く回数が少

なく、本格指導までには至らなかった。

 次男坊は、スキーに対しては本気で取り組まなかったのだが、スノボーになると目の色が変

わり、自分から積極的に行くようになった。スノーボードスクールに入るのが上達の近道と思

われたが、我が家の基本原則である、親が子に何でも教授するとの、自然な成り行きから、理

屈ではあり得ない、スノボーの師弟関係が誕生したのである。

 スキーは日本に持ち込まれて95年の歴史があり、長い年月を経て普及、発展し、技術が確

立され、日本でも一大スポーツとして位置づけられている。スキー人口は長い年月をかけて増

加、発展、職場や学校、友人関係など先輩から後輩に初歩的な技術は受け継がれ、スキー協会

を中心とした指導体制も充実しているので、志を持ってやればどこまでも上達できる。

 我輩のスノボーに対するイメージは遊びであり、スポーツとの位置づけはなかった。スノー

ボードは日本に持ち込まれて25年程のようであるが、近年、スキー人口を抜く勢いでボーダ

ーが増えてきた。ところが、遊び感覚が先立ち、指導者不足もあって、技術的な面が置き去り

になっている。スノボー本来の滑る技術を身につけないで、ジャンプやハーフパイプなど、大

自然を相手にするのを忘れ、ごくごく小さな世界での、度胸試しが主流となって、遊びの域を

超えられない要因になっている。

2011年2月12日鹿沢

 我輩は酒が飲めない口であるが、酒の味わいに、たまらなく興味を引かれたことがある。2

0年前に家を建てたとき、大工さんの帰り際、車通勤ではなかったので冷酒を振舞った。コッ

プ酒をじっくりと味わう仕草が、いかにも美味そうだった。量はコップ一杯、火曜日は必ず抜

いて、酩酊することがない。つまみを必要とせず、酒そのものの味わいを、じっくりと堪能し

ていた。我輩も真似て酒を飲んでみたが、うまみを感じることなく、晩酌の習慣はつかなかっ

た。

 最近は日本酒を嗜む人が減って、ビールや焼酎、ワインが多くなってきているようであるが

飲む目的が違っているように見える。ビールは喉越しの清涼感を楽しんだり、つまみを味わう

ための水代わりなったり、馬鹿騒ぎをして時間を忘れるのが目的で、ビールそのものの味わい

は二の次のように見える。焼酎は値段の関係や健康志向など、日本酒を楽しんでいた人が、安

価に酩酊しようと移行したのではなかろうか。ワインはワインのうまみがあり、味わいに重き

をおいて楽しんでいる人もいるのだろうが、宣伝に感化されて、雰囲気を楽しんでいるように

も見える。酒を飲む人で、酒そのものの味わいをどれだけ楽しんでいるのだろうか。酒をどう

いう目的で飲むのか人それぞれだろうが、どうせ金を出して飲むなら、酒そのものを美味いと

感じたいものである。

 スノーボード界の実情は、現代の酒の味わいと同じで、スノボー本来の味わいを探求せずに

つまみを追い求めているのである。スキー場に行くとスノーボーダを多く目にするが無鉄砲な

スピード狂が、緩斜面で暴走するのが上等とされ、急斜面になると横滑りでずり落ちてくるの

が大半である。無意味に回転したり、ジャンプを試みたりするのがベテランの見せ場となって

いる。ボードを制御しきれずに事故が多発し、どこのスキー場でもボーダーに対して特別に注

意を喚起している。悲しいかな、訪れたスキー場では、急斜面をさっそうと降りてくる者は皆

無であった。

 スノボーはスキーと同様、山と雪の大自然を相手にしているもので、どんな斜面も征服する

のが目的、目標であり、そのために技術を磨くのである。「征服感」が本来の味わいで、ジャ

ンプやハーフパイプは単なる「つまみに」過ぎないのである。酒の味わいを楽しめずに、つま

みの味わいを論じても、全くの空論であり、面白みが分からぬままに、去っていく者も多くい

るのではなかろうか。

2013年1月19日鹿沢

 ゲレンデで見る多くのスノーボーダが、ターンを知らず、体を振って無理やり向きを変えて

いる。スキーは2枚板だから、先ずはボーゲンでエッジの使い方を知り、左右の足交互に加重

を移すことによってターンができるようになる。初めから、スピードをコントロールすること

が中心なので、一日で安全な滑走を学び、上達の糸口をつかむことができる。後は経験に応じ

て技術を進化させればいいのだから、危険度はそれほど高くない。経験を積めば積むほどうま

くなり、体力に応じて楽しみ方を替えられ、高齢まで続けている人も少なくない。

 滑りやすい雪を相手にするのだから、スキーのようにスピードをコントロールするエッジが

重要になってくる。スノーボードは一枚板で足が固定されているので、体重移動が難しく、板

の一部に加重をかけてエッジをきかせるのは、たやすい技術ではない。スキーで言う、ボーゲ

ンやシュテムターンを経ずに、いきなりパラレルターンやジャンプターンをやるようなもので

非常にとっつきづらいのである。 スノボーには初心者に適した滑り方が無く傾斜面にボード

を直角に向け、山側に後傾姿勢になってエッジを立てるのが、速度を抑制する唯一の手立てで

ある。この方法だとターンにはならず、一回一回停止して向きを変えることになる。スピード

を維持してターンをするには、ボードに対して横向きになった体を前方や後方にゆっくり傾け

大きなターンをするか、体を振って無理やり方向を変えるかである。スピードの抑制とターン

は別々なので、スピードの出ない緩斜面のみ有効である。

2015年2月14日アサマ

 滑走している状態で、板の上でただじっとしていたのでは、方向も速度も板任せとなって、

体の安定は保てない。体の安定を保つには、自らの足で雪の状態を感じ取ることが重要で、踏

み込みの技術が必要になってくる。膝の屈伸によってアクセントをつけ、膝を折って強く踏み

つけると、雪と板の間に摩擦が生じる。加重をどこにかけるかによって、雪に対する抵抗が異

なり、いかにエッジをきかせるかがポイントとなる。エッジングの技術を学ぶことがスノボー

の本道である。以下に写真を交えて解説してみる。

【ロングターン】ゆったりとした大きなターン ※一連の流れをイメージすることが肝要

@体とボードを斜面下方に向けて動き出し、膝は軽く落とし、両腕は軽く広げてバランスを取

る。雪面にボードが平らだとコントロールができないのでエッジを生かす動作に移る。

A体を山側に傾けてボードの谷側を起こし、エッジ滑走にする。雪面をエッジでとらえると膝

の屈伸で自由にボードへ荷重がかけられる。(反動が感じられるよになる)

Bスピードが出たところで、膝をゆっくりと谷側に向ける。ボードは雪面に平らとなり、その

まま前進する。膝を落として、ゆっくりと後ろ足を山側にずらすと、ボードは雪面をなめるよ

うに弧を描いて谷側へ進んでいく。

C谷側に向いたところで体を山側に傾け、エッジ滑走にして斜面を横切るように進んで行く。

ロングターンの時はエッジ滑走から体を起して平坦滑走に切り替える。

D写真では膝が伸びているが、本来は膝がもっと前に出た方が安定した滑りとなり、次に起こ

す動作がしやすくなる。バーンの広さや雪面状態によって次のターンをどこにするか目安をた

て、次のターンの準備で、体を少しずつ起こしていく。

E体を起こすのに合わせ、ボードの側面を谷上がりから平坦にして、次のターンに備える。タ

ーンは体を振ることは禁物で、膝の曲げ伸ばしで体重移動を意識する。

F体を起こして直立になったところで、すぐにターンの準備に入り、後ろ足を山側に引くよう

にする。続けて膝を落とすと体が前傾となり、ボードの山側が浮いてエッジ滑走へ移行、斜面

を横切る滑走からカーブを描いてボードは谷側に向く。

G後ろ足を後ろに引くようにし、前段と逆方向に斜面を横切る形になり、ボードの谷側を浮か

せてエッジ滑走、後は同じ事の繰り返してで、停止する時はエッジを立てて踏み込む。

【ショートターン】膝を使った切れのあるターン ※一つ一つの動作を次の動作へ連動

@スノボーをする人を多く見てきたが、スキーで言うウェーデルンの様なショートターンをす

る人は見たことが無い。ここでは小刻みにボードを振り分ける滑りを解説する。

Aできるだけ膝を前に出して腰を沈めて滑走、すぐに後ろ足を前方へ押し出してターンに入り

エッジをきかせたところで強く踏み込み、反動で体を立てる動作に入る。

B体が起きたら止まらずにボードを平坦に戻し、そままま続けて後ろ足を後ろに引くようにし

て次のターンに入っていく。膝を前に出して腰を低くし、前傾姿勢となって、ボードの山側を

立ててエッジの食い込みを意識する。

Cエッジをきかせたところで踏み込み、その反動によってボードの進行を替え、小さなターン

となる。感覚的にはボードで雪面をなめるようにして間断なく切り替える。

D後ろ足で雪をかくように後方へ引くと反対方向にボードが向く。エッジがきいたところで踏

み込んで傾いた体を起こしにかかる。膝の上げ下げ(膝を前に出して前傾を常に意識する)で

体を前に押し出すような形となる。

E流れを閉ざさないように体を起こしにかかり、@と同じ姿勢に戻る。一定のリズムで間断な

く滑る事が肝要で、続けて後ろ足を前方に押し出して方向転換にかかる。

F一連の動作を技術として意識するのではなく、映像として捕らえ、イメージを作りあげる。

ラグビーのルーティーンと同じように、体がイメージ通り動くようにする。(体を動かすのは

自分の意識と考えがちだが、イメージによって脳の判断で動かしている)

G能力を引き出し、高めるには、イメージ通りに体が動くようにする。イメージが間違ってい

ると正確な動作ができず、サッカーでいえばシュートは枠に飛ばないと言うことになる。

スノボー写真集(連写写真を掲載しています)はこちら

 2007年以降、スキー場には滅多に行かなくなり、スノボーの現状は把握していないので

ボーダーの上達ぶりはハッキリと分からないが、息子の依頼で年1回程度出かけた時の感想は

相も変わらず、アルペンスノーボードの発展が少しも感じられず、ボーダーの減少傾向が目に

つくだけだった。

 2014年の冬季オリンピックで、アルペンスノボー部門、女子パラレル大回転で日本女子

が銀メダルを取った。コーチはスイス人?で、日本にはアルペンスノボードの指導能力の高い

人がいなかったと言うのが実情のようである。

 アルペンスノーボードで銀メダリストが出たことで、一過性にせよアルペンスノボーに関心

が高まり、テレビでも何度か取りあげれれていた。テレビで見る限りではアルペンで出てきた

のは銀メダリストの彼女一人だけで、アルペンスノーボード界の実情は見えてこなかった。

 2015年の2月に、息子の依頼でアサマ2000に行った。そこで目にしたのはアルペン

スノーボーダーが多くなったと言うことだった。まだ駆け出しが多かったが、中級斜面を雪煙

りをあげる、まさしくアルペンスノーボーダーだった。かなり上達をしているボーダーもおり

一人殿下になっていた息子も、だらけ始めた滑りを見直すようだった。

 スキー、スノボーの実情は、社会全体の経済事情も影響し、激減に歯止めがかからないよう

に見える。スポーツを楽しむ感覚は、社会全体が薄れており、金儲けに結びついた、就職難の

回避策に見える。企業の思惑や打算が先行して、純粋にスポーツを楽しむと言う風習は皆無に

なってしまった。

 冬のスポーツとして、スキー、スノボーは欠かせないものであるが、スポンサーの付きづら

い競技であるからには、個人の経済事情で発展させていくしかない。スノーボード自体は小柄

な日本人には有利なスポーツであり、指導体制の充実と、競技人口が増えればオリンピックの

メダリストを増産することも可能な気がする。

 あらゆるスポーツに言える事だが日本の指導体制は利権がからんで良好とは言えず、型には

めることによって指導者が名声を維持しようとしている。スノボーでも解説で記したが、選手

一人一人の能力を高めるには、潜在能力をいかに引き出すかにかかっている。技量の優れた選

手でも、精神的に迷走しているものは結果が出ない。意識はイメージの宝庫であり、動作は脳

の演出である。脳に優れた演出をさせるために、時間をかけて意識と演出を一体化させていく

のである。

 現代の教育は暗記をさせるのが目的で、テストの成績が生徒と先生の価値を決めている。言

わば白痴化教育で、想定ができない人間を量産している。東日本大震災で露呈したのは、地震

の影響を全く想定できず、原発事故の想定が全くできていなかった。先を見通して(イメージ

する)実行することは、正に能力を高めることであり、最も能力の高さが要求されるサッカー

を小さい頃からさせるのが、社会の発展と人類の発展に繋がると言っては、大袈裟だろうか。

2016年12月21日追記