気づいたころには、もう末期だった。 望んでしまう。 我慢できない。 全てを捨ててしまえたら、と思ってしまった。 オレに、許されることではないのに。 オレには重たい使命があって、 オレはそのために生まれて生きているのであって、 決して、 あの女を愛するためなんかじゃないのに。 「こんばんは」 背後から耳元でささやく、女の声。 月もうすい雲に覆われている暗い夜。 彼女、ルージュはナックルズに近づいた。 「なにぼーっとしてんのよ。 アンタ、これを守護するのが仕事でしょ!」 乱暴にマスターエメラルドを叩きながら、ルージュが言った。 そうだ。 オレは護らなければならないものがある。 それは、マスターエメラルド。 「ナックルズ」 ルージュがささやいた。 何かと思ったら、いきなり後ろから抱きつくように、首に腕を絡ませてくる。 ゆっくり、そっと。 「アタシは世界一のトレジャーハンターよ。 アンタ、そのこと知ってるでしょ」 「・・・なんだ、急に」 「アタシはね」 ルージュの腕に、少し力が入る。 耳元できこえるいつもの強い口調。 「アンタに護ってほしいなんて思ってない」 「!!」 驚いて振り返ったオレに、ルージュは「ふふっ」と笑ってみせた。 そして、オレの首元に顔を摺り寄せる。 ルージュが触れたオレの、体温が上がる。 「こんな寒い夜に一人ぼっちの馬鹿なアンタの隣で、同じものを護りたいだけよ。 アタシは自分のことは自分で護れるわ。」 ルージュは言った。 夜の闇のなかでも際だつ、美しい笑みをうかべて。 オレは、求めてもいいのか? ともに、生きてくれるのか? 「・・・愛してくれるのか?」 「ええ、愛してあげる」 その代わり、アンタも同じだけ愛して頂戴。 「一緒に、生きてくれるのか?」 「ええ、生きてあげる」 その代わり、死んでも一緒にいて頂戴。 ルージュは付け加えて一言言いながら、笑った。 今日はいつもより、よく笑う。 はしゃぐ、嬉しそうな顔。 オレは、 「オマエを愛してる」 ルージュは知ってるわ、と言った。 |
(この体温を手放しはしない) |