父親の威厳











「オレ、ソニックみたいになりたいな〜」




それは、暇な時間を使って遊んでやっていたときのこと。
子供の言葉は時として残酷である。
ナックルズはスクイーズを肩車したまま、固まった。
一方スクイーズはそのまま進まなくなった
父親に気づかず、楽しそうに笑っている。
ぶらぶらと足を前後に動かしながら。

「そそそそ、ソニックのどこがいいんだ?」

思い切り動揺しつつも、かなり必死らしい。
額に脂汗を滲ませながら
ナックルズはスクイーズに聞いた。
スクイーズの視点からは、
恐ろしいほどのナックルズの動揺っぷりは見えない。
頭に?マークを浮かべながらも、質問に答えるスクイーズ。

「だって、ソニックはかっこいいよ!」

「!!!!」

自業自得、ナックルズはその場に撃沈した。
急に下ろさせて文句を言うスクイーズの声も
まったく届かないほどに。
程よく日光で温まった地面に膝と両手をついたまま、
ナックルズは考えに耽っている。

「(…オレはソニックに劣っているのか…?)」

すでに論点がずれていることにも気づかない。
考え込み、すこし目が潤んでいるその顔は、
ルージュがいたら確実に情けない顔、と突っ込まれるだろう。
本当に情けない。
子供の憧れにもなれないとは。
この瞬間、ナックルズの中である決意が生まれた。

「スクイーズ、出掛けるぞ」

「え、ほんと!?どこ行くの?」

「ソニックのところだ」

突然顔をあげて立ち上がった父親に引かれて、
スクイーズもエンジェルアイランドを発った。
この場にいない、母親と姉に書置きをして。













待ってました、と言わんばかりにソニックは
ソニックの行き先を聞きに来たテイルスの工房にいた。

「お、ナックルズ!ひさしぶ………っんな!?」

軽々しく(少なくともナックルズにはそう感じられた)挨拶をした
ソニックに、ナックルズの右ストレートが掠った。
うまくかわしたソニックに舌打ちする。
じりじりと、握り拳でにじり寄って来るナックルズに
すぐさまソニックも臨戦態勢になった。
あ〜あ、と言う顔でそれを見守るテイルスと、
何が起こっているのかよくわからないスクイーズは
すこし離れた場所で二人を見ている。

「堅苦しい挨拶はなしで、ファイトか?」

「ソニック…今日という今日は決着をつける!!!」

「望むところじゃん♪」

闘争心メラメラのナックルズを一目見て、
ソニックもヒュ〜、と軽く口笛を吹いた。
騙される感があるわけでもないし、
それに今日は子供のスクイーズがいる。
本当に決着をつけたいだけか。

「本気でこいよ、ナックルズ!」

「言われなくとも!」

言葉と同時に走り出す二人。
性格が正反対ならば、戦闘スタイルも正反対の二人は、
いつも決着が付いたことはない。
それは何かにつけて理由があったり、ハプニングがあったりで
中断されたことも重なって、だった。
だが今回はそんな理由もなく、ハプニングに邪魔されることもない。
自分を戦いに駆り出す理由は少し違うが、
長年のライバルと決着が付けられることに変わりはない。
ナックルズはその思いに軽く身震いした。

「Hey!もうついて来れないのかナックルズ!?」

本気ではないのだろうけど、広いミスティックルーインを
音速で走り抜けるソニック。
ジャンプ用にソニックが蹴る岩を砕きながら
ナックルズは見失わないように追った。

「正々堂々勝負しろソニック!!」

「なんだ、ガチンコがお望みか?」

「当たり前だ!」


─────そうしなきゃ意味がないんだからな!


ガードしたナックルズの拳がそう語っているようで、
ソニックはなんとなく真相が読めてきた。
そのためにスクイーズを連れて来たのか。
だったら、本気で相手にならないと、
後でなにを言われるか分かったもんじゃない。
走りながらそんなことを考えていたソニックは、
ちらりと向こうにいる二人を見た、ナックルズの視線で
完璧に確信を持った。

「(たまには付き合ってやんないとな!)」

「おいソニック!!前!」

「…へ?」






ベチャッ!!






次の瞬間、ソニックは硬い地面に激突していた。
顔面から直に、である。
ようやく追いついたナックルズが助け起こした。

「いきなり足かけるか?フツー…」

半分意識が飛んでいるソニックの前に仁王立ちした、
自分の相方…ルージュに声を掛ける。
するとルージュは、荒くため息をついた。

「なに行ってるの!こっちはフローズが
大騒ぎして大変だったのよ?」

「…フローズが?」

「中途半端な書置きするから…まったくもう…」

確かに書置きには「出かけてくる」としか書かなかった。
よく出かけるルージュとフローズに比べて、
ナックルズとスクイーズは島にいることの方が多い。
それが突然なんの前触れもなく
出かけてしまったから、動揺したのだろう。

「パパ!!」

「…フローズ!」

テイルス、スクイーズと共にフローズが駆け寄ってきて、
思い切りナックルズに抱きついた。
子供にもかかわらず、力強いそのタックルに半ばよろけながらも、
ナックルズはフローズをしっかり抱きとめる。

「心配したんだよ!?」

「ああ、ごめんなフローズ…」

すでに倒れているソニックは完全無視だ。
テイルスに連れられ、家族団らんを邪魔してはいけないと、
二人はそそくさとその場をあとにした。

「…で、わざわざ書置きしてまでソニックに挑みに来た理由を、
アタシが納得できる程度に教えてくれるかしら?」

「……う……」

「パパ?」

言葉に詰まるナックルズに、スクイーズが視線を向けた。
…ここで答えないのは男の恥!!
妙な責任感が生まれたナックルズは、
多少口ごもりながらも質問に答えた。

「…父親が、子供の憧れになれないのは…情けないだろ?」

「???」

「…スクイーズが…ソニックみたいになりたいっていうからさ…」

「な〜るほど…こういうことね…」

「ああ…」

だがそれも、こうやって簡単に終わってしまった。
所詮そこまでの父親だったという話で。
その話を聞いたルージュはおもむろに、
スクイーズを抱き上げて聞いた。

「スクイーズは、ソニックのどこがいいの?」

「だって、すっごく走るの早いじゃん!
オレもあんな風に走りたいな〜」

この言葉を聞いて、俯き気味だったナックルズは
ガバリ、と顔を上げた。
見れば不敵に笑ったルージュと、わかっていないスイクーズ。
つまり…


「オレ、ソニックみたいに(走れるように)なりたいな〜」

「だって、ソニックは(走ってる姿が)かっこいいよ!」



…と、いうことである。
本日二回目、ナックルズは再び撃沈した。
その姿を見て笑ったルージュが、再びスクイーズに聞く。

「じゃあ一番憧れてる人は?」

「もちろんパパだよ!」

その返答に満足したルージュは、
スクイーズを抱えたままナックルズの前に立った。
ずい、とスクイーズを差し出す。

「…スクイーズ…」

差し出された小さな体を思い切り抱きとめた。

「わ、パパ痛いよ〜」

「あっと…ごめんな、スクイーズ」

「ねえパパ!今日はこのまま遊びに行こうよ〜!」

フローズが騒ぎ出した。
ルージュを見遣ると、好きにしたら?と
言っている様で。
今日は特に機嫌がいいから。
そう思ってナックルズは子供二人の手を取った。

「よし、行くか!」







***
作:狭霧さん サイト:amber-sky

さいころ>
ああこんなに頂いてよろしいのでしょうか夫婦漫才。しやわせ過ぎ…v
突っ走って周りが見えなくなるのは父親になっても変わらないようで、それがまた良い味出してます。
憧れてる人、と訊かれてパパ!なんて答える子供ってどのくらいいるんでしょうね。ゴキゲンゴキゲン
これからも、愛すべき父親でいて下さいねナックルズ〜。
狭霧さんありがとうございました!

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