ねえパパ。






ずっとこのままでいたいって、思わない?






ねえママ。






ママは今、シアワセでしょう?


















未来への詩











昇りきっていない初夏の太陽。
渇ききるような日差しが、容赦なく照りつける。
汗が程よく流れていった。
どうやら、今日の気温は高くなるらしい。
空に浮かぶ神秘の島…そこにいてなお最も高い場所に立つ男は、
優しげに目を閉じた。
見守るためにある、きれいな紫の瞳を。

「パパ!」

元気な声が上がる。
同時にテンポのよい足音が祭壇に響き渡る。

「今日はずいぶんと早起きだな、スクイーズ」

「なに言ってるんだよ、今日は朝から稽古してくれるって言ったのパパだよ?」

耳に響く元気な声に、男…ナックルズは苦笑した。
そして自分の側で未だ残る幼さを隠そうともせず、直す暇もなく起きてきたらしい
ことが簡単に分かってしまう息子の頭を撫でた。
ナックルズとは違う髪質だから、寝癖がすこし酷い。
寝癖だぞ、といいながら直そうとすると、いいよ!と振り払われた。
頬を膨らましながら怒る顔に、今一度笑う。
ナックルズを見上げる瞳は、彼とは違う透き通った緑色をしていた。

「それじゃ、ぼちぼちやるか」

後ろで輝く宝石を一度だけ振り返った後、ナックルズはスクイーズに引っ張られて
祭壇を駆け下りるように走った。









時々、本当に時々だが、ナックルズは思う時がある。
昔の自分は…本当に一人でマスターエメラルドを守り続けていたのかと。
守ること自体に問題はまったくない。
問題なのは、一人だったということ。
ナックルズ族の生き残りはもちろんいないわけだし、
守り続けられるのはナックルズ一人だけだ。
でもそれは、ナックルズの堅物的思考から出ていた考えで。
傍に…誰かしらいることは、できなかったのだろうか。
『一人で守らなければいけない』というのは、ナックルズの勝手な考え。
いや、守ると言う行為をすることができなくとも、傍にいることはできたはずだ。
それを今ナックルズは、ふと考えてしまう。
もちろん過去に未練などなく、先にあるのは未来だけ。
そう思っていても、過去の自分がなんとなくかわいそうで。
過去の想いは、自分に戻っては来ないけれど。









「パパ!ただいま!!」

課題として与えたスクイーズの素振りを見守りながらナックルズが
佇んでいると、自分に走り寄ってくる姿が。

「おかえり、フローズ」

駆け寄った娘の頭をゆっくり愛しさをもって撫でてやる。
彼の、不器用なりの愛情表現だ。
フローズとスクイーズもそれを知ってか知らぬか、ナックルズにそうやられるのが
一番安心することのようで。
成長しきったとは言い切れない小さな娘を抱きかかえると、
ナックルズはもうじき来るであろう人を待った。
横でスクイーズが「オレも乗っけてよ!」と騒ぎ始め。
そのまま口げんかを始めそうな姉弟をなだめながら。

「ルージュ」

私服に身を包んだ、今一番傍にいてほしい人。
履き慣れた靴を軽く踏み鳴らし、変わらぬ身のこなしで。

「おかえり」

言葉はあまり必要ない。
それは二人の心が確かに通じ合っている証拠。
笑いながら帰ってきた母親に、スクイーズは駆け寄った。
この姉弟はやけに母親っ子と父親っ子で、でも同じくらいどちらも好きなようで。
家族の中に確かな愛情が存在することは容易にわかる。
いつからか当たり前になった日常。
過去では絶対にありえなかった風景。
たった四人だけれど、この島をにぎやかにするには十分だった。

「ねえパパ」

四人、温かいというにはちょっと暑い日差しを受けながら、外に陣取る。
ナックルズの背中に寄りかかるように抱きついているスクイーズが、
さらに身を乗り出しながら言った。

「オレ、ずっとこのままでいたいな」

それは、子供ゆえか…それとも、紛れもない真実か。

「ねえママ」

つられるように、フローズが口を開く。
父似の紫の瞳で二人を見つめながら。

「ママもパパも、シアワセだよね?」

朧げに、夢のように。
浮いているようなシアワセだけれども。
生きている今が一番大切だと思うから。
ナックルズとルージュは顔を見合わせて、笑いあった。
愛しい二人の子供を抱きしめて。

「ルージュ」

「…なに?」

「オレは、今シアワセだって…きっと本心から言える気がするんだ」

「そしたら、アタシも同じね」

手に取ることはけっしてできないシアワセ。
でも確かに存在するそれ。
だから歩いていける。
傍に寄り添うことができる。
お互いに、差し出す手を握り締めながら。















「あ、オレ弟がほしいなあ!」

「絶対妹よ!ね、パパ!」

「…………(滝汗)」

「大変ね、お父さん?」
















***
作:狭霧さん サイト:amber-sky

さいころ>
初めての投稿小説はなんと夫婦漫才!ありがとうございます狭霧さん(泣)
私の妄想に沿って書かれたかのような内容に悶えっぱなしです。
大変ですが、可愛い子供達のために弟と妹宜しくお願いしますねパパv

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