緑の草木が豊かに茂り
小さな小鳥が歌を歌う
柔らかな風がその間を吹き
小さな小屋の周りを回った。



ここは聖なる浮き島
その名も・・・・エンジェルアイランド





〜パパと私と、僕とママ〜




「ブーン、ブーン!」
・・・エンジェルアイランドに響き渡る、明るくて元気な声。
全身が炎のように赤く・・・少々好き勝手な方向に伸びる針も同じ色。
エメラルド色の瞳が輝くその声の主は、スクイーズ。
片手にヘリコプターの模型を持ち、足で走り回りながらも口ではエンジン音を響かせる。
ボーイソプラノで響き渡るそのエンジン音は、まだどこか幼さを感じさせた。
「ブーン、ブーン、ブゥーン!」
幹の周りを回り、倒れた大木を乗り越える。
巨大なジャングルを飛び回る偵察ヘリだ。
「ブゥーン、ブーン!」






「・・・・・。」
そんな彼を、落ち着いた感じで眺めている彼女。
眺めながらも・・・ふと考える。
彼は・・・あんな模型を持っていたかどうかと。
それも・・・かなり新しい感じがする。



「・・・スクイーズ!」
「?・・・お姉ちゃん!」
彼女の言葉に、スクイーズは嬉しそうにそう言って駆け寄った。
純白の毛並みに大きな耳。
黒っぽい羽に包まれて、澄んだ紫色の瞳が彼を見る。
彼女の名はフローズ。
スクイーズの、たった一人の優しい姉。
「・・・スクイーズ、何持ってるの?」
「あ、これ?ママがね、新しいオモチャ買って来てくれたんだ!」
フローズの問いにスクイーズは嬉しそうに答えると、持っているヘリコプターの模型を姉に見せた。
見せられたフローズはと言うと、両手を後ろにやって少し首をかしげる。
「ふーん。」
とりあえずそう答えておいて、その模型を眺めるフローズ。
・・・・もちろん羨ましいと言えば羨ましいのだが、実際姉である彼女が弟にそう言っても仕方が無い。
年上として姉として、ここは我慢しなければならないのだが・・・それもちょっと寂しい。
「・・・よかったね。」
フローズは穏やかに笑いつつ軽い感じで言う。
そんな姉を前にスクイーズもニコッと笑った。



いつもどおりの、明るい会話。
ここまでは、いつもと同じだったのに





「あ、お姉ちゃん。
これお姉ちゃんのヌイグルミでしょ?」
忘れ物だとでも思ったのだろうか・・・・
スクイーズはそう言って地面においてあるクマのヌイグルミに駆け寄ると
ヌイグルミの右手をムンズと掴んで姉の所に持ってきた。
その時。








ブチッ





・・・ドサリ








「あ・・・・。」
「・・・・・。」
小さく呟くスクイーズに、絶句してしまうフローズ。
互いに・・・そのヌイグルミを見つめながら。
・・・・やがてフローズが、片手無しになった哀れなヌイグルミを拾い上げる。



・・・お姉さんだから、泣いちゃいけない。



誰に言われた訳でもない。
ただ・・・・義務感として、いつの間にか彼女の心に刻まれていた。
それらが今まで彼女を縛り付けてきたのも事実・・・・。
「あ・・・えっと・・・・。」
「・・・・・・。」
口ごもるスクイーズ。
そんなスクイーズを前に、フローズは相変わらず絶句したままだ。
「あの・・・お姉ちゃん?」



・・・お姉さんだから
泣いちゃいけない
わがまま言っちゃいけない
羨ましがってもいけない

なんで・・・なんで・・・
なんでアタシばっかり我慢しなくちゃいけないの?










パンッ





「!」
フローズの右手がスクイーズの頬を叩いた。
スクイーズは叩かれた頬に手を当てながらも、驚いてフローズを見つめる。
・・・他に何をした訳でもないのに息が荒い彼女。
ただ・・・彼女も黙ってスクイーズを見つめている。





・・・どうすれば良いのか解らない。





それは、二人とも同じ・・・・。











「フローズ、スクイーズ!」
響き渡る声。
その声に、二人はビクンと体を震わせた。
「一体どうしたの!?」
その声とともに姿を現したのは、大きな耳に黒い羽。
エメラルド色の瞳を持つ、二人の母親・ルージュ。
ルージュは荒い息をしている姉と、頬を押さえている弟をサッと見ると
スクイーズが被害者と判断してとりあえず彼を抱き上げた。
・・・未だヌイグルミの片腕を持ったままの彼を。
「ダメじゃない、フローズ!」
「!?」
「!」
・・・叫ぶかのようにフローズを叱り始めるルージュ。
それを聞くと
スクイーズの胸にはモヤモヤとした罪悪感が
フローズの胸には更なる怒りが湧き出した。










「・・・ママには
・・・ママには何も解らないんだ!」





「ちょっとフローズ!何処に行くの!?」

「お姉ちゃん!ママッ!」










・・・いつの間にか、走っていた。
まるで、何かから逃げているかのように。
・・・とある所に向かって。



「・・・パパ。」
「フローズか、どうした?」
彼女の言葉に、穏やかな感じで答える父。
赤い体に、スクイーズとは違って綺麗に生え揃っている針。
そして瞳は澄んだ紫・・・彼の名は、ナックルズ。
「・・・・・。」
フローズは、黙ったままナックルズに向かって両手を広げる。
ナックルズはそんな娘を見ると、不器用ながらも優しく抱き上げた。
「・・・どうした?」
「あのねパパ。」
父の大きな胸に抱かれ・・・優しい声を聞いて。
この時、やっと彼女の中で煮えたぎっていた怒りがゆっくりと冷めていくのを感じる。
「・・・スクイーズがね、アタシのヌイグルミの腕を取ったの。
パパからもらった・・・お気に入りの奴だったのに・・・・。」
「そうか、それは可哀想だったな。」
ポツポツと話し始めるフローズに、ナックルズは優しく慰める。
そしてその後も、娘の顔を見つめ続けた。
その目は、黙ったまま“まだ続きがあるんだろ?”と聞いている。
「それでね、アタシ、スクイーズのほっぺ叩いちゃったの。」
「・・・それで?」
頭ごなしに叱るのではなく、最後まで話を聞こうとしてくれる父。
フローズは、そんな父に安心感を覚える。
“パパにならなんだって話せる”・・・そんな感じ。
「そしたらね、ママが来て・・・アタシを叱ったの。
悪いのはスクイーズなのに・・・・。」
「・・・そうだな。」
最後まで話を聞いて、優しく言ってくれる父。
・・・フローズは、そんな父が好きだった。
「でもな、フローズ。
いくらスクイーズが悪くても、叩いたらダメだろ?」
「・・・ごめんなさぁい。」
素直に謝るフローズ。
そんなフローズの言葉に、ナックルズは穏やかに笑って娘の頭を撫でた。
「後でスクイーズにも謝ろうな。」
「はぁい。」










・・・その数分後だろうか。
父の胸に抱かれているフローズの前に、おずおずとスクイーズがやって来る。
「あの・・・お姉ちゃん。」
スクイーズの言葉に反応してか。
ナックルズは優しくフローズを地面に下ろすと、スクイーズの方に向けた。





「・・・ごめんなさぁい。」
・・・先にそう言ったのは、弟であるスクイーズ。
その言葉に、フローズはまだわずかに煮えていた怒りが、完全に冷めるのを感じた。
「・・・アタシもごめんね。
ほっぺ・・・痛かったでしょ。」
「うん・・・でも今は平気だよ。」
フローズの言葉にスクイーズはほんの少し微笑んで答えた。
そんなスクイーズを前に、フローズも微笑する。




「さぁ・・・これで仲直りだな。」
優しくそう言って、二人の頭を撫でる父。
そんな父に、二人は元気に答える。
「うん!」
「そうか、そうか。」
父はニコッと笑ってそう言うと、両手で二人を持ち上げ左右の肩に乗せた。
・・・右がフローズ、左がスクイーズ。
「パパ、すごい!」
「わぁ、高い!」
ほとんど同時に言うフローズとスクイーズ。
そんな二人の間で、ナックルズは再び笑った。










・・・その時。
ふと、ナックルズが顔をあげた。
父を見つめていたフローズとスクイーズも、釣られてそちらを見る。
そんな三人の目に・・・誰かが映った。
少し小走りに、真っ直ぐ向かってくるその“誰か”は・・・・。
「あ、ママ!」
「!・・・ルージュ。」
「・・・・・。」
明るく言うスクイーズとナックルズ。
そんな二人の隣で・・・フローズは何も言わずにやって来るルージュを見ていた。
ルージュはそんな三人の側にやってくると、穏やかに笑う。
そして・・・優しく言った。













「・・・フローズ、ゴメンね。」
「ママ・・・・。」
ルージュの言葉に、フローズは目の奥が熱くなるのを感じる。
そして・・・そのまま腕を目に当てて泣き出した。
「お・・・お姉ちゃん?」
「・・・ごめんなさぁい。」
突然の事でオロオロとするスクイーズを前に、フローズは小さく・・・しかしはっきりとそう言った。
そんなフローズに、ルージュとナックルズはフッと笑う。





「ほらフローズ・・・・。」
ルージュはそう言ってナックルズの肩からフローズを抱え上げると、優しく自分の胸に抱いた。





・・・そんな・・・優しいママの暖かい胸の中で。
フローズは・・・いつまでも泣いていた。





パパとスクイーズ、それに・・・ママに見守られながら。





***
作:やっほーさん サイト:ちっちゃなサイト

さいころ>
二つ目もなんと夫婦漫才でした…と言うよりは(さいころの)ドリーム小説です(笑)
ああっ、いいのでしょうかこんなにv
お姉さんだからって我慢しないで、もっと甘えたらいいよフローズ。
やっほーさん、どうもありがとうございました〜v

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