父は死んだ
その死に様は波高き社会に負けた一兵卒ではなく
愛する家族を護る炎に命を焦がしながら魂の薪をくべ続けた
一家の主として
そして男として
何より人として
雄々しくあまりにひたむきな姿だった

父は仕事に追われた
人は家庭を顧みない男と思うだろう
しかし父はいつも家族のために闘っていた
己を摩耗しながら

娘は幸せな結婚をした
息子は大学を出て研究者になった
理解のある嫁ももらった
妻は慎ましいながらも不自由のない生活に幸せを感じていた
ただ夫との時間が欲しかった
それだけが後悔だった
父の不幸はそれだけであろう

今 息子は研究所にこもってひたすら試行していた
妻も顧みず
ただ人の笑顔を創り出すために

父の精神は引き継がれる
その子 孫 そのずっと先も
気づかないうちに渡されたバトンをリレーする
魂の遺産を