車炎上事件
それは、1997年夏、ある平和なはずの日曜日の夕方のことであった。
私は所用を済ませ、自宅に帰ろうと駅前に立っていた。
駅から私の家の付近まではそう遠くない。
普段なら15分ほど歩いて帰る。しかし、このときは、決して本数が多いとは
言えない私の家方面のバスが、偶然にも良いタイミングで来ていた。
そこで、夏の蒸し暑さにうんざりしていた私は、素直にバスに乗ることにした。
直前にバスが行ったばかりだったのだろうか? バスは妙に空いており、
運転手と私と知らないおばさんの3人しかいない。
5分と経たないうちに、私の家に近づいてきた。しかし、
いつもと違う、不吉なあともすふぃあが周囲を包んでいた。
な、なんだ、この黒煙は?
どうみてもゴミを焼く煙というレベルではない。
「ま、まさか、火事なのか?」と、不安な気持ちで私の家のほうを
ながめた。そうこうするうちに、
バスは、私のアパートのとなりの交差点に、信号待ちのため停車した。
それは、まさに黒煙のもっとも濃い中であった。
幸いにも、煙は私のアパートから出ているわけではなく、
私のアパートが火事という最悪の事態だけはなさそうに見えた。
しかし、その直後、
「火事だ!」
運転手が叫んだ。私はとなりのアパートが火事なのかと思った。
「まずい、となりのアパートのすぐ脇には、私の車が止めてある。
延焼などしていないだろうか?」
バスの最前方に座っている運転手からは良く見えるようだが、
私の席からは良く見えない。
不安をつのらせながらも座っていると、さらに運転手が叫んだ。
「車が燃えてる」
お、おい、ちょっとまて! その方向で車っつったら、
駐車場に停めてある俺の車か、その隣の車の2台しかないやんけ。
あの距離で停めてるんだから、どっちにしろ2台とも燃えてるん
ちゃうかぁ?
私はこの時点で自分の車をあきらめかけていた。
そのとき、長い信号待ちが終わった。
しかし、運転手は乗客のおばちゃんに火事の解説をするのに夢中で、
なかなか発進しようとしない。
「いいから、早く発進せんかい!
このボケ、カス、スカタン!」
私が心の中で叫んだのは、言うまでもない。
その数秒後、とりあえず一安心の光景が目に飛び込んできた。
燃えているのは、私の車ではなく、私の車が停めてある駐車場の
そばの路上の改造車であった。

しかし、この距離で燃えられたらいつ延焼するかわからん。
バス停でバスを飛び降りた私は、さっそく自分の車の救出に
むかった。
車に近づこうとして、私は足が止まった。
燃えている車の中で何に引火しているのかわからないが、
ときどき爆発音が聞こえる。
長年の愛着はある反面、購入後8年も経ち、
下取り価格が出るかどうかも怪しい車である。
この車の救出のために命をかけて、万一のことがあったとき、
世間になんと言われて笑われるかわかったもんじゃない。
バスの上では一度はあきらめかけた車である。
私はマイカーの自力による救出を断念し、
すでに付近の住民により通報済みだという消防車の到着を待った。
それから、数分後だろうか、消防車が到着したのは。
消防士は勇敢である。弱くなってきているとはいえ、まだ爆発音の
聞こえる車のすぐそばで放水の準備をしている。そして、放水開始...
火は、あまりにもあっけなく、一瞬で消えた。
おそるべし消防パワーである。
感動した私は、こんどシムシティーをやるときは、
消防署をたくさん作ることを心に誓った。(嘘)
鎮火してから、我に返った私は、どうしてこういう貴重な映像を
写真に残さなかったのだろう... という後悔の念にさいなまれた。
しょうがないので、とりあえず鎮火後の写真を撮っておいた。
<資料映像> 私の車と炎の位置関係の想像図
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