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| 「こ、公瑾どの……っ!」 「なんだ」 「どう、して」 「それが、役目だからだ。私の」 「そんなっ。それどころじゃ」 「出発は明日、予定通り」 驚愕がみえる従卒たちを見回して、はっきりと言った。 瞳を、潤ませている者もいる。そして自分はそれを容赦なく切り捨てた。言葉が出ない従卒たちを置いて周瑜はくるりと背を向け室の戸を閉める。 「……周中護軍どの」 やっと一人の従卒が声を絞り出せたときには、静けさが戻っていた。 *** *** *** よみがえる、あの時の記憶。思い出すのもぞっとするような事をあの時の自分はよくできたものだ。あれから八年たったというのに、いまだによぎる不安。 「どうした公瑾。なにか見えるのか?」 声をかけられ、しばらく自分は窓の外を眺めていたことに気づく。 「いえ。なんでもありません。御主君」 周瑜は朱色の空から、ほの暗い室内に視線を移した。孫権はつまらなそうに書面に目を置いている。 「俺が面白くもない政務をこなしているときに、そなたがのんびりしているのは割に合わない」 「申し訳ありません。ですがそういう問題ではありませんよ」 困ったように微笑んで、握っていた書簡を持ち直した。 孫策を失って八年。孫権も今は立派にこの江東を治めている。兄の突然の死を乗り越え、武将たちからの孫策と比べる視線に耐え、慣れない仕事をこなせるようになっていた。 すると戸口の外から声がかかった。 「失礼します。呂蒙です。殿、公瑾どの、お邪魔してもよろしいでしょうか」 「入れ」 孫権が答えると、もう一度失礼しますと言って呂蒙が戸を開ける。呂蒙の手元の物を見つけ、孫権があからさまに表情を曇らせた。 「やっぱり入るな」 「御主君」 周瑜が孫権をたしなめる。呂蒙はちょっと気まずそうに孫権を盗み見る。 「え、あの」 「入りなさい子明。言付けがあるんじゃないか? その、書簡について」 「……はい」 呂蒙の左腕に抱えられている三、四束の書簡を指さす周瑜に、頷いたまま顔を上げられずそっと中へ歩み寄った。ああ、こんなことなら呂範に頼まれたとき断っておけば良かった。彼は押しつけるようにしてまんまと逃げたのだ。 「殿。この書簡に今日中に目を通して、返事を頂きたいのですが……」 おずおずと孫権に書簡を差し出す。 「今日……って、もう日が暮れるんだけど」 「はい、あの、でも……お願いします」 「今、他のをやっているから明日に回せないだろうか、それ」 「でも子衡どのがどうしても今日中に、と強くおっしゃって。ですから」 「じゃあ子衡にそう頼んでくれ」 「いえ。大事な書簡ですのでどうか」 「俺が今読んでいるのだって大事なものだが?」 呂蒙が完全に押されていた。 周瑜は二人のやり取りを、口元が緩むのを止められず見ていた。こんなことを言ったら怒られるのだろうけれど。でも。 ほほえましい。 しかしさすがにこのままにしておけないので、やんわりと口をはさむ。 「御主君、私もお手伝いいたします。子明も手伝ってくれますから。そうだろう? 子明」 「え」 にこにこと。まさにそんな表情の周瑜がそこにいた。呂蒙に決定権はない。 孫権も丸め込まれつつある。彼はむすっとしたまま、こう言った。 「その代わり今日はこの書簡で終わりだぞ」 「はい」 周瑜は相変わらずにこにこしている。 呂蒙は軽い頭痛を覚えた。 ―了― 2004.4.4 |
| ★あとがき★ はじめて孫策の命日当日に、孫策追討らしい話を書きました!! 自分でやっといて何ですが、こんなふうに追討記念ができて感激です〜! サイトの記念企画と重なっていたので、うまく更新につなげました。 今回は本当に短編小説でした。短い短い;; でも個人的には気軽に読める話にしたかったので、満足満足♪♪それと、死ぬところはつらいので書かないことに… なんだか孫権と孫策の口調とか性格が似ちゃってどうしようかと思いました(笑) お仕事嫌いなところとかね… ポイントは意外と苦労の多い呂蒙くん。確か前回(優々のとき)も周瑜にやられてましたね;; 使いやすいキャラです(^-^) タイトルは、ちょうどこの話を書き始めたときに聞いていた曲からとりました。 ’04.04.04 |
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