○ちとの遭遇

第一章
「グー」と俺はとりあえず言ってやった。
そんな言葉を吐きながらこの信じられないような、ばかばかしくも、驚くべき大科学冒険物語は、二〇〇×年8月第3土曜日の深夜に始まった。
10時50分頃のことだった。俺、零細宣伝広告プロダクション”ゼロセン”に勤務する不出世のサラリーマン荒熊雪之丞二十六歳独身は、兄の家である東京山の手のオンボロ木造家屋の二階の六畳間、すなわち居候の俺が占領している部屋で、トレードマークの縞模様のパジャマを着、TBSの「お父さんのためのワイドショウ講座」を見ていた。
俺はこの番組と日曜日の「特命リサーチ」は毎週欠かさず見ており、とくにこの番組で山瀬まみがなんだかわけのわからない言葉を発し、ゲストできているコメンテータみたいなおっさんやおばさんがこれまた分けの分からん事を言うという世にも奇妙なところが好きだ。本来この番組はニュース番組の一コーナーとしてあるのだが、俺はそのニュース番組の番組名も知らない。ただたんに俺はこのコーナーだけが好きなのだ。やはり、昼間勤める勤労青年にとっては、この手の番組はたくさんあった方がいい。だけど、できれば同じ時間にはやってもらいたくはない。きっと同じ時間なんぞにやられたら、「わーいどうしよう」といって考えてしまうだろう。
そういえば、俺は前々から疑問に思っていることがあり、あのTVというやつに出てる人間はなぜんあんなに濃い化粧−実際はドウランというのだが−をしているのだろうか?きっと今にドウランの塗りすぎで肌が荒れてしまい若い女性が「私はこれからドウランを塗りません」なんかいって"動乱”が起きるかもしれない。まったくあのドウランという奴は壁に塗る塗料と一緒だ。
おっと、話がかなり脱線してしまった。これが本当の”脱線塗料(脱線トリオ)”だ。
そんな時にいきなりやってきたのが元C国秘密諜報員現民間清掃会社および即席ヌードル会社社長である陳珍朕の一人娘、愛し恋しの心の妻、超グラマー、超セクシー、超キュート、超アイフル、超美人、身長百六十ニセンチ、体重四十八キロバスト九十九センチ、ウエスト五十八センチ、ヒップ八十五センチの蘭花ちゃん十九歳独身のお父さんの陳珍朕さんがやってきた。
えっ?何故いちいち蘭花ちゃんの話をするんだって?それはただたんに俺が蘭花ちゃんを心の妻と思い、いつもいつも見つめていたいから、ついこんな時も言葉に出てしまうんだ。
そう言えばその蘭花ちゃんだが、最近また胸がでかくなってしまった。十八歳のときのスリーサイズが九十八、六十、八十五だったが、バストが一センチでかくなり、ウエストが一センチ細くなり、段々すばらしいプロポーションになってくる。だけど、一年後とにバストが一センチずつ大きくなるとどうなるのだろう?二十歳で百センチ。三十路で百十センチ。ということは、白寿で百七十九センチになってしまう。これはもう超ボインとかいうレベルではない。メチャクチャボインだ。
あっ!また脱線してしまった。だけどこれだけ蘭花ちゃんのボインを強調すれば、きっと全国の蘭花ちゃんファンがうなぎ上りに増えてしまいそうだ。これを俗にうなぎパイ現象というとか言わないとか。
話の本題に入る前に、この章が長すぎるので章替えをしようがえ?

第二章
と、くだらないギャグとともに章が変わった。
とりあえず、陳さんが俺の部屋に訪ねてきていきなりこんなことを言った。
「雪之丞さん。私、あなたにグーの音も言えなくなるようなこと教えてやるよ」
おれは、そのときつい「グー」と言ってしまった。これでやっとこの物語の冒頭部分に戻ったわけだ。で、俺が何故そんな事を言ったかというといきなり人の部屋に入ってきていきなりグーの音も言えなくしてやるといわれたら、さすがの俺も黙ってはいられない。黙ってはいられないのだが、かといって何を言っていいのかわからなかった。そこで取り合えず俺は「グー」と言ってみたわけだ。
「雪之丞さん。あんたまだくだらないギャグばっかり言ってるあるか。いいかげんにしないと嫁のもらいてないあるよ」
俺が陳さんの言葉に言い返そうとしたらいきなり違う声が聞こえてきた。
「雪之丞君は、何をやってもどうせ奥さんになってくれる人なんかは出てきませんよ」
おれは、誰だと思って、部屋の入り口を見るとそこには、俺のよく知ってる老人が立っていた。それは、松戸栽園テスト研究所長のマッドサイエンティスト、松戸歳園博士だった。松戸博士は八十歳になる農学博士だが、それ以上にタイムマシンとか宇宙船の発明家として知られているハチャハチャな科学者だ。俺は、陳さんと松戸博士に言い返そうとした。しかしまたもや誰かの声が俺の声をかき消した。
「お父さんも、博士もそんな事言っちゃ可哀相じゃない」
そっ!その声は、愛し恋しの心の妻、超グラマー、超セクシー、超キュート、超アイフル、超美人、身長百六十ニセンチ、体重四十八キロバスト九十九センチ、ウエスト五十八センチ、ヒップ八十五センチの蘭花ちゃん十九歳独身の蘭花ちゃんではないか。さすが蘭花ちゃん。俺のことをしっかりかばってくれて・・・。
「いくら雪之丞さんだって、アメーバーや、ミトコンドリアや、真田虫ぐらいなら結婚できるわよ。ネー雪之丞さん」
「ウー、ワン、ワン」
うぅぅぅ……いくら蘭花ちゃんでもそれはひどすぎる。せめて、オランウータンや、チンパンジーぐらいは言って欲しかった。
「で、博士、雪之丞さんに例のこと説明しました」
俺が抗議する暇もなく蘭花ちゃんは話題を変えてしまった。
「いや、私も早く説明したかったのじゃが、いかんせん雪之丞君があまりにも馬鹿なことをやっていたのでつい言いそびれてしまった」
「ウー、ワン、ワン」
「こうやって雪之丞君も謝っておるから蘭花ちゃんここはワシに免じて許してやってくれないか」
「そうあるよ。蘭花、博士に免じて雪之丞君を許してやるよろし」
「そうね、そこまで皆に言われたら仕方ないから雪之丞さんを許してあげるわ。だけど、今度こんなことをしたら警察に連絡するからね」
何がなんだかわからないまま俺は犯罪者にされていた。
「俺がいつ警察に届けられなきゃ行けないようなことをしたんだ」
俺は、あまりの怒りについ叫んでしまった」
「雪之丞君はどうやら自分の罪がわかっとらんようじゃな。君の場合は、その顔じたいが猥褻物陳列罪に適用されるということを」
「ウー、ワン、ワン」
俺はとりあえず叫んでみた。

第三章
「というわけで、雪之丞君出発じゃ」
「えっ?何がというわけですか?俺はなにも説明を受けてませんけど」
「何を言っておるのじゃ雪之丞君。何のために作者がわざわざ章を変えたと思っておるのじゃ。少しは作者の気持ちを汲んであげなさい。そんな事だからいつまで立っても毛じらみやミジンコぐらいしか相手にしてくれないんだぞ」
「そっ!そんなやつらに相手にしてもらいたくないですよ」
「何を言っておる雪之丞君。そんな事を言っておったら君の友達のミトコンドリアのまー君や、団子虫のよーこちゃんが悲しむぞ」
「だっ、だれですか、それは。」
俺は思わず博士の言葉に反論してしまった。だが俺はここで考えた。ここでまた俺が反発すると、博士が調子に乗って話が脱線したままになるだけだ。ここで俺がぐっとこらえれば話が進み読者もきっと喜んでくれるだろう。
「いやー、雪之丞君いじめると面白いあるね。きっと読者も喜んでるあるよ」
「ウー、ワン、ワン」
俺が叫んだ後なんとか博士から事情を聞いた。
その話を要約するとこう言うことらしい。松戸博士の家に代々伝わる古文書に山下財宝の隠し場所が書かれており、そこへ財宝探しに行く。
というものだ。齢80歳の博士の家に代々伝わる古文書に何故、第二次世界大戦中の財宝のありかが書かれているかは謎だが、それはハチャハチャ小説らしくあまり気にせず無視をしていこうと思う。
「雪之丞君いくあるよ」
「雪之丞さん一緒にいきましょ」
「これからみちとの遭遇へ出発じゃ」
陳さんの掛け声とともに俺達は山下財宝の発掘へと向かった。

第四章
俺達一行が部屋から道路へ出るといきなり松戸博士が叫んだ。
「おう!いきなり遭遇してしまった」
「えっ!何があったんですか松戸博士?」
俺は、思わず松戸博士の言葉にびっくりして、「設楽りさこ」と「牛」を思い出してしまった。これが本当の「ビックリシタラーモーゥ」というやつだ。
「で、博士何と遭遇したのですか?」
「雪之丞君それはここでは聞かない方がいいと思う」
「何故ですか博士。気になるじゃないですか」
「いや、これは企業秘密なのじゃ。もう少し待ってくれ。きっとこの小説が終わる頃にははっきりしていると思う」
「当然じゃないですか、そんな書くだけ書いて終わらないままに次のやつを書くのは、どっかの売れっ子小説家ぐらいですよ」
「こっ!これっ!雪之丞君そんな事を言うもんじゃない。その小説家だって好きで途中で止めるわけではないのじゃ」
「そうよ雪之丞君。その小説家だって好きで途中で終わりにしてるわけじゃないわ。ただたんに売れてくると自分の好きなものを書けるようになるので、つい、出版社に言われて書いてるようなものが後回しになるだけよ。だから、5年後とか10年後にいきなり続きが出たりするでしょう。」
「そうあるよ雪之丞君。本来なら君は今ごろ小説なんかに出ていなかったあるよ。このシリーズ本当は10年以上前に既に終わってるあるね。確かに原作者は終わったとは一言も言ってないあるが、最近作風が替わってるからきっともうこのノリの小説は書かないと思うあるよ。そんな中物好きな人間がこのような形で書いたりするから作者もきっとまかせてしまうあるよ」
俺は3人にいきなりまくしたてられて困惑してしまった。なっ!なんで俺ばっかりが・・・。いつもいつも俺ばっかりなんでこんな事を言われなきゃいけないんだ。
「とにかく皆行きましょう。雪之丞さんに付き合ってると馬鹿が移ってしまうわ」
蘭花ちゃんの冷たい言葉と一緒に俺達は歩き出した。

第五章
「博士どこへ向かうんですか?」
俺は博士に聞いてみた。博士はなんか悩み出しこう答えた。
「とりあえず、お墓へ向かう」
「えっ!お墓ということは山下大将の墓ですか?」
「いや、違う。近所の墓だ」
俺は、何故博士がいちいち近所の墓に向かうのかはわからなかった。が、取り合えず博士にしたがっていれば間違いはないなと思い、(そう思って今までどれだけひどいめに合わされているかわからないが)皆で近所の墓に向かった。
「お〜っ!」
墓につくといきなり博士は叫んだ。そして一人満足そうにしていた。とおもったら博士だけではなく陳さんや、蘭花ちゃんまで満足そうな顔をしていた。
「なんで皆そんなに満足そうな顔をしてるの?」
そんな俺の問いかけにも皆は見向きもせずに先へと進んでいった。
おかしい!おかしすぎる!お菓子が過ぎると太りすぎになる。杉真理と杉良太郎で二人杉だ。
などと考えている暇はなかった。それに俺も馬鹿ではないそんなくだらないことをいつもいつも考えてはいない。
「では雪之丞君次は魚屋に行くぞ」
「えっ?魚屋ですか博士]
「そうじゃ、魚屋じゃ」
俺が何故魚屋なんかに行くのかと思案している最中いきなり
ワン!ワン!
と、犬の泣き声がした。すると博士が待ってましたとばっかりに
「お〜っ!」
とうなり声をあげた。そして周りを見るとまたもや陳さんや蘭花ちゃんまで満足そうな顔をしていた。その時俺はふとある事がひらめいた。もしかしたら?いや、そんな事はない。もしそんな事だったらきっとこの小説の読者が怒り出すような気がする。だけど今までの経緯からいってそれ以外は考えられない。しかし……。
俺がそんな事を考えているうちに、一行は魚屋に付いた。そして博士がある魚をさしてまたもや、
「お〜っ!」
とうなり声をあげた。そして周りを見るとまたもや陳さんや蘭花ちゃんまで満足そうな顔をしていた。
そしてその魚を見た瞬間俺は先ほどの俺の推測が正しかったことを確信した。
「はっ、博士!」

第六章
「はっ、博士!」
何故か俺は前の章と同じ事を繰り返してしまった。これではまるでTVのバラエティー番組ではないか。あのバラエティー番組のCM前にやってた事をCMが終わるとすぐにもう一度繰り返すのはよして欲しい!もし、あれがなければ実際は半分ぐらいの時間で終わってしまうんだろう!だけど待てよ?半分で終わってしまったら、残りの半分は何をやるのだろうか?やはりこういう時の定番は片平なぎさが出ている土曜ワイド劇場の再放送になるのだろうか?だけど、別にすべての局が土曜ワイド劇場を持ってるわけじゃないし、そうなるとどうなるのだろうか……。
俺は悩みに悩んだ挙げく足をつかんでしまった。これが本当の「挙げ足取り」だ!
と、そんなことはどうでもいい。
俺は博士達の今回のたくらみがすべて分かってしまった。
だけど、本当に彼らはこんなことのために俺を呼び出したのだろうか……。
俺は半信半疑の気持ちで恐る恐る口を開いた。
「はっ、博士、まさか、これは全て”○ちとの遭遇”といいたいのですか?」
俺の言葉に博士はにやりと笑い答えた。
「お〜雪之丞君良く分かったな。君のそのしわが2本しかなく、ミトコンドリアのまー君や、団子虫のよーこちゃんが住み着いてるその頭で」
「それぐらい僕でも分かりますよ!」
「そうか、そうか、その通りじゃ。まずは、”道との遭遇”。次が、”墓地との遭遇”。次が、”ポチとの遭遇”。最後に”こちとの遭遇”じゃ」
「で、博士、それが山下財宝とどんな関係があるんですか?」
「いや、関係など全く無い。あまりにも皆暇じゃったから雪之丞君をからかっただけじゃ」
博士はそう言い終わると高らかな笑い声を上げていた。
そして、蘭花ちゃんも陳さんも・・・。
俺はなにも言葉が出ずその場に座り込んでしまった。
そして、俺の耳にはいつまでも3人の笑い声が聞えていた。
そして、博士がいきなり笑いを止めて一言つぶやいた。
「これが本当の、”オチとの遭遇”じゃ」
その言葉をきっかけにまた3人が笑い出した。そして、その笑い声がいつまでも続いていた。

荒熊雪之丞の運命はいかに奇絶、壮絶、また怪絶!

−了−


荒熊雪之丞シリーズ