運動会の白い粉と湯ノ花混ぜたら石灰硫黄合剤かぁ?
Q:
「石灰硫黄合剤」に関して、これはその名の通り「石灰」と「硫黄」を合わせたもの だから、 農薬の中で特別に危険なものだと避ける必要もない。というような話を聞 きました。
「石灰は普通に撒くし、硫黄は温泉で入ったりするでしょう。」ということだったの ですが、これってそんなに気軽に撒けるものでしょうか?この薬を撒く時は、手袋に マスクにメガネをして・・とかって書いてあったりします。散布剤が飛び散って汚れ たり、家材が傷む、などとはよく聞きますが、人体にはどんな悪影響があるか全くわ からないので教えて下さい。
もし思っていたより怖いものでなければ、ハケで塗ると いうのを聞いたので、試してみようかと思うのですが・・・。
A:
その話、場合によってはちょっと聞き捨てならん発言ですなヾ(^^;)
まず、
【1】その話が上記の質問の通りで、人に対する安全性が問題ないという意味なら...
いえいえ、人体には十分影響がありますよ。まずはちょっと人が悪いけど、その話の揚げ足取りから...
たしかに運動会でかけっこするトラックの白線引きに使う消石灰はおなじみですが、これは石灰に水をくっつけたモノ。ホントの石灰(生石灰)は日常接するもっとも危険な毒物です。
成人の経口致死量は10gですが、10gも飲み込む前に猛烈な発熱によって口腔内や食道が焼けただれ苦しみますよ〜ヾ(^^;;) ちょっと目に入っただけでも角膜が焼け溶けて失明ですナ。
生石灰は、パック詰めのセンベイや海苔の乾燥剤として使われていることがあります。子供には絶対さわらせてはイケませんし、水で濡らすのは厳禁です。
イオウだって、温泉に入ってる程度ならいいけど、殺菌目的の濃度だからそんなにアマいもんじゃないし、イオウ本来の殺菌力が石灰硫黄合剤とすることによって増強されます(浸透力が増す)。
その話のアナロジーでいくと、炭素は炭のモトだし、窒素は空気の主成分でおなじみだから、その化合物であるシアンはアブナくないと言えるわけですが、実際はトンでもない!!!
シアンは青酸の毒性のモトといえば、どんなに危険か分かるでしょう。それに量的な観点では、例えば、梅酒をいくら飲んでもアル中以外では死なないからといって、青梅を種ごとタラフク食ったらどうなるでしょう。青酸中毒でハイそれまでです。
どうもその話のモトになってる考え方は、物質の量による効果の違いに関する認識が薄いし、原料となる物質の性質からそれらが化合してできる物の性質がわかるなどという、オモロイもののように思えます。百歩譲って、もしかしたら聞いてる人を安心させるための方便のつもりかもしれないとしても、ウソはいけません。それ信じて安心した人が、 ナメて使って事故ったら、誰が責任取ってくれるんでしょうか...
さて本題ですが、石灰硫黄合剤ほど、接触して簡単にイタイ目にあえる薬剤もありませんよ。
人にとっては強烈なアルカリ性がその元凶ですが、こいつのために金属は腐食するし服だってダメ。
一番コワイのは、こいつがタンパク質を溶かしてしまうことです。我々の皮膚はタンパク質ですから、これが溶けちゃいます。
手にちょっとついたくらいなら、すぐに水洗して手あれ程度ですみますが、目や呼吸器に入ったらタダじゃすみません。気道粘膜や角膜が溶けてしまいます。 だから、本に書いてあるとおり、この薬剤を使うときにはゴーグル(脇のあいてるメガネじゃダメだよ)やマスクが必須なのです。
「農薬」というと、やれ発ガン性だのわけのわからん慢性毒性で騒ぐのが一般的ですが、我々が庭でまくときに真っ先に重要なのは、むしろ接触による急性の毒性ではないでしょうか。この意味では石灰硫黄合剤はもっとも使いたくない薬剤の一つです。特に薬品を扱い慣れない私たちシロウトが気楽に使うべき薬剤といえるでしょうか?
刷毛で塗るのは過度の飛散リスクを避けるうえで利口な方法ですが、塗布部と顔との距離が近いので、腰の強い毛を使うとトゲに引っかかって、かえってハネたりしてヤバイです。どっちにしても使用に際しては十分注意してください。
あっと、それから、これ、酸性のモノと混ぜないでください。硫化水素ガスが発生してあぶないですよ(多量に吸入すると死にます、酸性肥料と混ぜて死んだ実績あり...σ(^^;)じゃないよ)
さて、そうではなくて、話の趣旨が
【2】土壌汚染に限定しての意見だったとしたら...
次に、土壌に残留する分についてはどうでしょうか。
この場合には、結果として最初の意見はまったく正しいと思いますが、それは次の理由よります。
もともと、土壌中に含まれるイオウ分は米国の土壌で約0.1%(硫酸塩として)程度だそうです。日本のような火山国ならもっと多いと思います。一定の量が雨によってゆっくり流亡すると同時に、雨などによって補給されて均衡しています。それに比べて年に1〜2回の石灰硫黄合剤散布によるイオウの増加量はたかが知れてます。
また、石灰分に関してはpH調整などで散布する量が圧倒的でしょうから、これも問題とはなりません。
ただし、その話の趣旨とははずれますが、注意すべきことは、上記理由は、たまたまこの薬剤の散布量がほかの農薬に比べて圧倒的に少ないから成立することであり、有機リン剤のようにシーズン中ずっと散布するような薬剤と同じ土俵で論じることは間違いだということです。
つまり石灰硫黄合剤はイオウと石灰に分解しやすいから土壌残留が少ないなどと考えるなら、それは違いますよということです。仮に他の農薬並の散布量でまいたら、土壌はイオウだらけで、微生物のバランスが狂い、おまけに石灰分で固くなってヒドイものになってしまうかもしれません。
なんとなれば、土壌分解性の観点からは、オルトランなどの有機リン剤の方がはるかに速く容易に分解するのです。有機物ですから、最終的には窒素や二酸化炭素(一部イオウなど)などになって、いなくなってしまいます。農薬というと農薬否定に偏向した文章に接する機会の方が多く、そこに書いてあるのはすでに現役引退した比較的分解しにくい有機塩素系薬剤の土壌残留ばっかりですが、現在使われている農薬は事情が違います。
一方、石灰硫黄合剤は石灰とイオウ以上に分解したくてもできません...ヾ(^^;) 残留が減るには流亡しかないのです。
余談ですが、今回の例のように、危ないんだけど散布量が少ないから影響が明瞭に表に出ないだけということは、我々が見逃しやすいことですが、これはほかの無登録自然農薬などに関してもいえないとは限りません。
現状では、「非」化学農薬はいわば「モグリ」であり、全体で見ればその使用量は極めて少ないのですから、その環境への悪影響がどの程度のものか十分なデータをもとに検証されたわけではないことは常に留意する必要があります。
「農薬」の名がつかないというだけで単純にありがたいと思い、これでコワイことなしにすべてが解決するという考えは、化学農薬単純否定派の人には取っつきやすいかも知れませんが、実は、農薬をまけばすべて解決すると単純に信じるのと同じ次元なのです。
(2001/1/8、1/14改訂追加)
本件に関しては、次のページもご参照下さい。ローズアベニューのQ&A保存版です。
石灰硫黄合剤は安全ですか? http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Namiki/3863/shomoku1.html