木酢液には化学薬品が入ってるの?
Q:本屋で立ち読みしただけなのですが、「木酢液を自然農法のようにPRしているのは誤りで、木酢液にも化学薬品が含まれている」というようなことが書いてありました。どういうことでしょうか。(メールによるお問い合わせ)
A:
もし本当に本にそのとおり書いてあったとしたら、その著者の見識と知識には大きな疑いを持たざるをえません。はっきりいって「無知」ですな...(^O^) が、それではミもフタもないので、その理由をお知らせします。
このての議論には、まずコトバの意味をはっきりさせておかなければなりません。
最初に、「化学薬品」とはなんでしょうか? 平凡社世界大百科事典から引用すると...
化学薬品は,酸類,塩基類をはじめとする基礎化学工業製品,石炭タール成分,石油成分,あるいはそれらの分解産物,重合体など近代化学工業製品群を含んでおり,現代文明を支える化学工業製品の原料から最終製品にいたるさまざまなものが含まれている。これら化学薬品のうち,その生物活性の面で人間の疾病の治療や予防に用いられるものが医薬品=くすりであり,農業生産を阻害する害虫や微生物や雑草の激増を阻止するものが農薬である。その他臨床検査に使用される試薬類,化学薬品の定性試験や定量試験に用いられる試薬類も化学薬品の一つである。 一方,医薬品という点からみれば,上記のような化学薬品のほかに,動植物など天然産のものをそのまま,あるいは若干加工して用いる生薬が含まれる。また西洋医学で用いられる種々の医薬品のほかに,東洋医学で用いられてきた漢方薬がある。これは成分や作用機序について必ずしもすべてにわたって明確になっているわけではないが,現代の薬学ではその有効性が公認されている。このほか,民間伝承的に用いられているものに民間薬がある。ときとして,この民間薬も日本では漢方薬に含められることがあるが,その理論の成立ちや歴史性からみると,別ものとして扱われるべきものである。...(以下略)
これから明らかなように、化学薬品という集合には一般に天然物は含まれていないと考えるのが妥当のようです。したがって、「木酢液にも化学薬品が含まれている」という主張は、「天然物(木材)の燃焼煙から得られた木酢液には、実は故意に化学合成物質の混ぜものがしてある」といっているのと同義となります。まるで木酢液業界に対する言いがかりですね。ブームのさなかには悪徳業者も発生するでしょうから、混ぜ物入りの木酢液もきっと探せば出てくると思いますが、いくらその著者の意識が低くても、そんな意味で言ってるんでしょうか? また、通常我々が「化学薬品」と言うときは、化学実験に使用する試薬など、なんらかの目的をもって使用する薬剤をさすことが多く、この点でもこの著者が適切な科学教育を受けていないことが推定できます。では、「化学薬品」を「化学物質」と読み替えたらどうでしょう。 このほうが、ずっともっともらしく聞こえそうです。 で、先の百科事典には「化学物質」という見出し語はないので、岩波の理化学辞典(第3版ちょっと古い ヾ(^^;))をひいてみましょう。
【化学物質】物質という一般用語の中で、とくに化学の研究対象となるようなものを区別する場合の用語であり、だいたい純粋物と同じ意味のものと解してよい。
とあります。ついでに純粋物とは、同辞典によると、
【純粋物】機械的操作(濾過など)あるいは状態変化(蒸発、蒸留など)によって2種の物質に分離できない物質であり、混合物と対比される。1つの単体あるいは化合物はいずれも純粋物である。化学物質とよばれるものはふつうに純粋物を意味するものと解してよい。(強調部分 by GAMI)
となります。結局こちらの場合も、「木酢液にも化学物質が含まれている」という主張は、それ自体自明のこととなり、この論者の知能とボキャブラリーを疑わせるに十分な材料となってしまいました。なぜ、「木酢液にも化学物質が含まれている」という論述が噴飯ものかというと、簡単に言えば、「ミカンには化学物質が含まれている」とたいそうな勢いで吹聴している人に、それはなんだと問いただしたら、ビタミンCであった。というのと同じことだからです。もちろん「トリカブトには化学物質が含まれている。それはアコニチンという猛毒物質だ。」でも同じことです。
では、見方を変えて、木酢液の成分中には、もともと有毒な物質も含まれているので、これを用いた農法は自然農法とはいえないと書かれていたのではないか?と考えてみましょう。じゃ自然農法って何でしょうかね?またまた先の百科事典で有機農法の項をみると、説明文中に『完全無農薬,無化学肥料のいわゆる〈自然農法〉...』という記述が見つかります。つまり、木酢液を使った農法は、もともと「自然農法」ではないんですね。なぜなら、農薬とは、
農作物を病害虫,雑草などの有害生物から守り,農業における生産性を高めるために用いられる薬剤を農薬という。農薬取締法には,農薬とは,農作物(樹木および農林産物を含む)を害する菌,センチュウ,ダニ,昆虫,ネズミその他の動植物またはウイルスの防除に用いられる殺菌剤,殺虫剤,その他の薬剤,および農作物などの生理機能の増進または抑制に用いられる生長促進剤,発芽抑制剤その他の薬剤をいう,と記載されている。(以下略、平凡社世界大百科事典より)
と定義されているのです。木酢液は化学合成農薬ではないというだけで、農薬の機能ははたしているのですから、「代替農薬」と考えるのが一般的です。したがって、木酢液中に有害物質があろうが無かろうが、木酢液を使ったらそもそも真正の自然農法でないのはあたりまえということになります。ですから木酢液の有用性を主張している人たちも、「自然農法」とはいわずに、「減農薬農法」と言っているのが普通で、その著者は故意にこの事実を曲げて主張していることになります。もともと全く無毒の物質が農薬の代わりになるわけはないので、この点からも、あまりにバカバカしい主張だということがわかりますが...さあ、来るところまで来ましたね...(^0^;) それぞれのコトバの意味をきちんとおさえると、その本の著者は、実はなにも意味のあることを言っていないことが明らかになりました。きっと木酢液に個人的なウラミでもあるんでしょう。最近こういう手合いが実に多いのですが、その著者にはもっとコトバの意味を勉強してから出直してもらうとしましょうか。
で、次の疑問は、じゃあ木酢液中の有害成分ってなんだ?...ですが、これに関しては、当HPの「木酢液」の項をすでに読んでくださっていると思いますので当然ご存じでしょう。でも木酢液はその製法からして煙のなかに含まれている成分が濃縮されたものですから、その程度の有害物が危険だと騒ぐなら、七輪でサンマも焼けませんし、そもそも自動車(とくにディーゼル車)に乗るなんざ自&他殺行為ですな..ヾ(^^;) ちなみにGAMIは、バス以外はめったに自動車にも乗りませんが....
(99/3/15)