社説のページ

  ■無年金控訴審/「救済」欠く流れでいいか  神戸新聞・社説2006/02/23

 成人学生の国民年金加入が任意だった時代、未加入の学生が重い障害を負っても障害基礎年金が受けられないケースが生じた。そうした扱いを受けた広島市の元学生二人が、不支給処分の取り消しなどを求めた訴訟の控訴審で、広島高裁は原告勝訴の一審判決を取り消し、請求を棄却した。

 控訴審はこれで三件続けて原告の逆転敗訴となり、制度の谷間で苦しむ人たちに立ちはだかった形だ。今回も「救済」の視点を欠く判決といわざるを得ないだろう。

 この学生無年金障害者訴訟は、五年前に九地裁で起こされた。一昨年の東京地裁で賠償などを命じる違憲判決が出て、新潟、広島でも原告勝訴の判決が続いた。

 しかし昨年三月、初の控訴審で東京高裁が示した一審取り消し判決後は、地裁でも原告の敗訴が続いている。東京高裁の判断が、流れを変えた格好である。

 一九五九年に成立した国民年金法は、八五年に全国民共通の基礎年金を導入する大きな改正を経て、八九年改正では加入率2%に満たない学生を強制加入にした。

 今回の原告の一人は、大学四年だった八八年に交通事故で大きな障害を負っている。一審の広島地裁は、八五年の改正で学生を任意加入のまま放置したことが「法の下の平等」を定めた憲法に反するとした。さらに、学生無年金者に受給資格まで初めて認める「画期的な判決」だった。

 これに対し、広島高裁の判決理由は「当時の成人学生を国民年金の強制適用対象から除外したことに一定の合理性があり、違憲とはいえない」とする。

 判決は真っ向から対立するが、憲法判断をおいても、「国民皆保険」を掲げてきた国民年金が長年、学生を任意にして、十分な方策を講じなかったことは事実だろう。その責任は免れないのではないか。

 確かに、約一年前に議員立法で救済策が生まれたことは大きな前進ではある。「特別障害給付金支給法」による、月額四万―五万円の支給だが、本来の障害基礎年金の六割程度にとどまる。

 任意時代に未加入の成人学生で障害を負いながら、障害基礎年金を受給できない者はおよそ四千人にのぼる。無年金障害者は学生だけではない。主婦や外国人など含め、総数で十万人を超えるとみられる。

 日本の年金制度は改正を重ねながらも依然、将来に大きな不安を抱えている。無年金障害者に対する冷たい扱いは、年金制度への不信をいっそう募らせはしまいか。

 過去の不備を清算することが信頼を得る一歩になる。そう考えるべきだ。

 
   
  幸福の保障は/未加入のリスク広報を 朝日新聞・愛媛
--------------------------------------------------------------------------------

「支給に柔軟さ示して」  
無年金障害者の長男もつ父親(54)


  私たち家族は松山市内で暮らしています。現在30歳の長男は、20歳の時に統合失調症と診断され、障害2級の認定を受けています。時々デイケアに通っていますが、仕事はできません。入退院を繰り返し、経済的には厳しい状況ですが、無年金です。20歳になる前に初診を受けるか、20歳の誕生日から初診までの約10カ月間に保険料を納めていれば、年約80万円の障害基礎年金がもらえたそうです。

  3月にあった学生無年金障害者訴訟で、東京地裁は「救済の機会も方法もあったのに立法的措置をとらなかったのは、法の下の平等を定めた憲法に反する」 と重い判決を出しました。大学生の時に重い障害を負いながら、保険料の未払いを理由に障害年金が支給されなかった人たちが起こした訴訟です。これを受け、国会で救済策が議論されていますが、対象は90年までの任意加入時代の学生に限られる可能性があるそうです。

  しかし強制加入になった後も、私の長男のように複雑な年金制度の理解が十分でない場合や、手続き上のミスなどで無年金となった障害者が数多くいるのです。

  息子は高校の後半から家族と会話をせず、自分の殻に閉じこもるようになりました。専門学校も1年半でやめました。その間、何度か病院に行くよう勧めましたが、本人は拒否しました。世間には精神障害者への根強い偏見があります。結局、幻覚や幻聴が現れるなど、病状が重くなった94年4月に初めて診察を受けました。20歳になっていました。

  私はその頃、障害年金という制度を知りませんでした。20歳未満で障害があると診断されれば、年金を受け取ることができる、ということも後で知りました。分かっていれば、違った対応をしていたでしょう。19歳も20歳も、憲法で基本的人権を保障された1人の人間のはずなのに、こんな格差が出るのは納得しがたい話です。

  未加入だったこちらにも非はあります。しかし、最近でこそ年金加入を勧めるCMやポスターをよく見かけますが、息子が20歳になった当時、広報や宣伝を見た記憶はありません。加入を怠った場合のリスクの説明が十分ではないのに、いざとなれば「納めていない方が悪い」 と開き直る政府は、あまりに官僚的ではないでしょうか。

  現行制度では、過去の保険料をさかのぼって納入することはできても、年金はもらえません。せめて「追納すれば一定額でも支給する」 といった柔軟さを示してほしい。メンツにこだわり、苦しむ国民を放置し続けるのが法の下の平等を定めた憲法をもつ民主主義国家なのか疑問です。

  政府には「無年金者をゼロにする」 との方針を示してもらいたい。年金未加入者は4割に上るといいますが、どれだけリスクが知られているか心配です。

--------------------------------------------------------------------------------

無年金障害者

 89年の国民年金法改正(91年施行) 以前、大学生や専門学校生の国民年金は任意加入だった。未加入時代に病気や事故で障害を負ったため障害基礎年金がもらえない「学生無年金障害者」 は、厚生労働省の推定で全国に約4千人。同様に任意加入の時期があった主婦、国籍条項を理由に加入できなかった在日外国人、強制加入後の手続き不備者ら無年金の障害者は計12万人いるとも言われる。

 

 
  ■無年金障害者/「救済」の視点欠く判決だ  神戸新聞 2005/03/28

 障害を負い苦しんできた人たちに向かって、年金がもらえないのは加入しなかったあなたがたが悪い。そう言っているようにも聞こえそうな判決である。

 成人学生の国民年金加入が任意だった時代、未加入のまま重い障害を負った人たちが障害基礎年金の不支給取り消しなどを求めた控訴審で、東京高裁は国側の敗訴とした一審判決を破棄し、原告側の請求を棄却した。東京地裁が国の救済放置を違憲とする初めての判断を示してから、ちょうど一年たった同じ日に逆転判決が出た。

 この学生無年金障害者訴訟は四年前、全国九地裁で一斉に起こされた。制度のはざまに泣く人たちは、元学生だけで全国四千人とみられ、多くは経済状況も厳しい。

 東京、新潟、今月初めの広島とこれまでの判決はすべて原告側勝訴で、救済の流れが定着したように思われた。それだけに、立ちはだかった控訴審の壁が、大きな波紋を広げるのは必至だ。原告側が最高裁に上告する方針とするのも当然だろう。

 東京高裁は国の不支給の判断について、「当時の社会通念上、妥当だった」と認定し、過去の三地裁が「一九八五年の国民年金改正で未加入学生の不利益拡大を放置したのは、法の下の平等を保障する憲法に違反する」とした判断を退けた。

 原告側が国に賠償を求めたことについても、高裁は「過去の無年金者をどう扱うかは国の裁量の範囲内で、さかのぼって救済する義務はない」とした。地裁判決が、国は救済のための立法行為をしなかったとして「国の不作為による賠償責任」を認めたのとは対照的だ。不支給処分を取り消し、受給資格に道を開いた広島地裁判決のような踏み込みももちろん、ない。

 高裁判決は、「救済」という視点があまりにも欠けているといわざるを得ない。年金制度に不備があったとすれば、一歩でも二歩でも改善するための立法措置を率先して講じるのが国の義務ではないか。司法としても、その点を指摘すべきだった。

 昨年十二月、新潟地裁判決を機に、救済機運が盛り上がり、議員立法で救済策が誕生した。その「特別障害給付金支給法」が四月から施行されるのは幸いなことだが、給付は月額四万―五万円で、本来の障害者基礎年金額六万六千―八万二千円との格差は、まだまだ埋めがたいといえる。

 学生無年金障害者問題は、年金制度の不備を象徴する一件だろう。安心できる「国民皆保険」構築のために、国は司法の判断を待つまでもなく、「救済」の姿勢をもっと積極的に国民に示してもらいたい。

 

 
 

■無年金広島判決 障害者の声十分聴け  (中国新聞) '05/3/6

 国民年金制度のはざまで障害基礎年金を受けられなくなった元学生たちを、国の責任で救済せよと命じる判決が広島地裁で言い渡された。国の施策は法の下の平等を定めた憲法に違反するとしたうえで、初めて年金不支給決定処分の取り消しを命じた。違憲判決は三回連続で、国は重く受け止め、原告らの声を素直に聴くときがきている。

 原告の鳥羽秀範さん(38)は一九八八年の交通事故で障害が残り、東広島市の男性(35)は九〇年に重い病気で後遺症を負った。当時は学生時代に重度の障害を負っても、二十歳未満のことなら無条件に障害基礎年金を受給できた。しかし、成人学生は任意で国民年金に加入していないと受けられないとして、未加入の二人は支給が認められなかった。それが憲法違反だと訴えていた。

 判決は、鳥羽さんらが支給を認められなかった原因は一九八五年の国民年金法の改正にあると指摘。その時点で学生を国民年金の強制加入にするか二十歳未満と同じ扱いにするべきだったのに、法改正でも放置したのを「極めてまれで異常」と判断した。そして学生の任意加入を続けたのは合理的理由のない差別で、違憲であると断じた。さらに救済するには立法措置しかないのに、国会が必要な法改正を行わなかった立法の不作為による賠償責任を認めた。

 学生無年金障害者訴訟は全国九地裁・高裁で係争中。東京、新潟両地裁に続く違憲判決で、流れはほぼ定着したとみていいだろう。

 東京、新潟での敗訴を受け、元学生と主婦の無年金障害者の救済を図る議員立法の「特別障害給付金法」が四月から施行される。対象者は約二万四千人で、月額五〜四万円が支給される。だが、給付はあくまで「手当」で、障害基礎年金の六割と少ない。

 未納、滞納の人や、在日外国人を含めると無年金障害者は約十二万人に上る。救済する対象枠や支給額が妥当なのかどうか、論議する必要があろう。

 全面勝訴の判決に、鳥羽さんと自ら働いて生計を立ててきた母親は描いていた夢がやっと実現したと喜ぶ。鳥羽さんだけでなく、いずれの原告も収入の道はほとんどなく、家族の支えだけを頼りに、ぎりぎりの生活をしている人たちだ。

 無年金障害者のケースを持ち出すまでもなく、現行の年金制度はその場その場で取り繕ってきたにすぎない。国民の不信や不満を受け、国の抜本的見直し論議はやっと始まろうとしている。度重なる違憲判決も年金制度の誤りを指摘している。

 「年金は平等に」と訴える無年金障害者たち。国と社会保険庁には「自己責任」論を押し付け、控訴という手段で対決するだけでなく本気で耳を傾ける姿勢がほしい。

 

 
 
■制度の不透明さ問う 学生無年金障害者訴訟'05/3/2
 (中国新聞地域ニュース)


  「法の下の平等」争点

 国民年金への学生の加入が任意だった時に障害者になり、障害基礎年金を受給できない広島県の原告二人が、年金不支給決定処分の取り消しと各二千万円の賠償を国などに求めた「学生無年金障害者訴訟」の判決が、広島地裁で三日に言い渡される。制度のはざまで放置され続けた障害者の訴えは、国民にとって複雑でわかりにくいと言われる年金制度のあり方を浮き彫りにしている。(川崎崇史)
 広島市中区にある障害者の授産施設「もみじ作業所」。原告の一人、鳥羽秀範さん(38)=南区=は、施設が販売するクッキーの型抜きなどを担当している。共に働く五十九人の仲間は、障害基礎年金を受けている。だが、鳥羽さんには支給がない。


【写真説明】障害者の授産施設で10年以上働く鳥羽さん(手前)。他の利用者と違い、障害基礎年金を受給できない

 

     一九八八年夏。広島大の四年生だった鳥羽さんはバイクで事故し、身体障害や記憶・知的障害など重い後遺症が残った。作業所での収入は月一万円余り。「子どもをこのまま残しては死ねません…」。鳥羽さんの母智子さん(71)は、支援者が開いた二月十九日の集会で、声を震わせた。
 障害基礎年金は、国民年金法が定める障害一級―二級と認定された人に年間約百万―八十万円を支給される。二十歳未満の人が障害を負った場合は、問題なく支給を受けられる。しかし、二十歳以上の人は、障害を負って最初に医師の診察を受けたときに、国民年金へ加入していなければ、障害基礎年金を受け取る資格が得られない。

 加入1%余り

 国は五九年に同法を施行してから九一年に改正法を施行するまで、二十歳以上の学生の国民年金への加入を任意としていた。当時の大学生で、国民年金に加入していたのは全体のわずか1%余り。こうした状態の中で鳥羽さんのように年金を受けられない障害者が生まれた。
 「制度のはざまに放置された」―。広島地裁の訴訟で原告側は、年金制度の欠陥や国のずさんな対応を批判した。原告は、加入を強制された学生以外の成人と差別され、さらに、二十歳から無条件で年金を受給できる未成年の障害者とも差別されているとし、「法の下の平等に反する」と主張。「国は早くから問題を認識しながら対策を怠った」として、国家賠償を求める。
 これに対し国は「保険料を負担する能力が乏しい学生を任意加入とした判断には合理性があった」「学生は卒業後に厚生年金などへ加入するのが通常で、年金への関心が低いために加入率も低かった。制度の欠陥ではない」と反論する。
 しかし、全国九地裁に一斉提訴された学生無年金障害者訴訟で、最初の判決となった東京地裁判決(昨年三月)は「学生無年金者の救済を放置したのは憲法一四条の法の下の平等に違反する」と判断、国が法律改正などの適切な対応を取らなかったことの責任を認めた。
 新潟地裁判決(同十月)は「保険料免除がないのに、当時の学生が国民年金に加入するのは極めて困難。政府の広報も不十分だった」と判断。「八五年ごろには、無年金者の状況が審議で報告されたりしているのに、問題を放置したのは著しく不合理」と批判した。

 議員も未加入

 昨年、成立した年金制度改革関連法の審議の過程で、国会議員の未納、未加入が次々と発覚して問題となった。立法のプロでさえこのありさま。それほど年金制度は国民に分かりにくいものであることが露呈した。
 仏教大(京都市)の鈴木勉教授(福祉政策論)は「制度の欠陥を放置しながら、学生の自己責任だという国の論法は間違っている」と指摘する。判決は、国民に信頼される年金制度をどう再構築するかを考える上でも、大きな意義を持っている。

 

 
 

 

■無年金障害者に救済の道 (東奥日報社説2004/11/24)

 「学生無年金障害者を放置したのは違憲」とする東京地裁の判決が出てから八カ月。この無年金障害者を救済する法案が十二月初めにも成立する見込みとなった。

 この訴訟は、成人学生が国民年金加入が任意だった時代に加入しなかったため、障害基礎年金を支給されない重度障害者四人が、国に賠償を求めていた。

 学生無年金者とは、一九九一年に改正国民年金法が施行される以前、二十歳以上の学生の年金加入が任意だった時代に、年金に入っていなかったことを理由に、障害を負っても年額七十九万円から九十九万円の障害基礎年金の支給が受けられない人のことだ。二十歳未満で障害を負った人には年金が支給されている。このため「制度のはざま」と言われている。

 外国人も八二年の法改正まで国籍条項で年金に加入できず、主婦も八六年まで任意加入だったため、同様の無年金者が生じた。

 東京地裁で争われていた訴訟の判決は今年三月二十四日に言い渡された。国が何の是正措置を取らなかったのは憲法違反と初判断した。国民年金法改正で未加入学生の不利益が拡大したのに放置したのは、法の下の平等を保障する憲法に違反、国には立法上の不作為による賠償責任がある、とも指摘したのである。

 同様の判決は十月二十八日、新潟地裁からも出された。判決では、国連障害者権利宣言が採択されていた一九七五年ごろから、障害者団体などの活動で無年金問題は知れ渡っていたと指摘。八〇年ごろには国民年金法を改正すべきだった、とまで踏み込んだ。国が八五年の法改正時には、無年金者をなくす方向での施策が期待されていたのに、何ら措置を取らなかったことを厳しく指弾したのである。

 国会議員の立法行為が国家賠償の対象になるかどうかについて「多数決によって人権侵害が行われるような状態では、議員の判断に任せられず、裁判所が救済を図るしかない」とまで言い切った判決の意味は重い。

 学生無年金障害者の救済については、超党派の「無年金障害者を考える議員連盟」が「無年金障害者救済法案」の骨格をまとめたほか、与党の年金制度改革協議会も議員立法による救済策の検討を重ねてきた。また、民主党も議員立法として救済法案をまとめ、先の通常国会に提出していた。

 こうしたことから、与野党間で一本化に向け調整していた。与党案では、在日外国人を救済対象からは外していたが、「在日外国人を対象とすることを検討する」との修正を加えることで合意、法案の早期成立を目指した与野党の姿勢は評価してよいだろう。

 法案が成立すれば、来年四月から月額四万−五万円の「特別障害者給付金」が支給される。救済の対象は最大で二万四千人が権利として恩恵を受けることができる。

 法案には高所得者への支給制限や、対象者は自ら社会保険庁に支給を申請することが盛り込まれている。

 年金制度は、さまざまな問題を抱えている。国民年金の未納率が高いこともその一つ。一方で国会議員年金は、わずか十年の保険料支払い込みで年間四百十二万円(月額三十四万三千円余)の年金を手にできる。しかも、給付の約七割に税金が使われている。まさに「おいしい年金」なのである。この辺りにも不公平感が出ないよう国会議員自らが改革の論議を深める必要があろう。

 不自由な体で厳しい生活を強いられ続けてきた無年金障害者は、複雑な制度の谷間に落ちた弱者であるが、ようやく救済の道が開けた。もろもろの公的年金について、国民にわかりやすい制度の確立に、早急に取り組んでもらいたい。

 

 
 

 

<2004年11月12日>無年金障害者救済

■平等な支給を求めたい (琉球タイムズ2004/11/12)

 国民年金が任意加入の時代に未加入のまま障害を負い、障害基礎年金が受けられない無年金障害者を救済する法案が今国会で成立する見通しだ。
 来年四月から元学生と主婦に月額約四万―五万円の「特別障害給付金」が支給される。最大で約二万四千人が対象になるという。

 この問題では、二〇〇二年七月に全国の学生無年金障害者三十人が東京、大阪などの九地裁に提訴していた。

 今年三月の東京地裁に続いて、十月の新潟地裁は、国が加入呼び掛け義務を怠ったとして「立法上の不作為」を認めた。それぞれの原告三人に五百万円ずつ、二人に七百万円ずつ賠償するよう命じている。国は控訴している。

 救済法案は、三月の判決を受けて自・公両党と民主党が国会に提出、双方の案を調整して一本化したものだ。

 だが、国民年金の国籍条項が撤廃された一九八二年以前に障害を負った在日外国人と、任意で加入する仕組みがなかった八六年の法改正以前に障害を負った在外邦人など約九万六千人は対象になっていない。

 元学生と主婦だけへの支給は、憲法で定めた「法の下の平等」の原則に沿ったものとは言えない。

 三党は在日外国人などを対象にするかどうか今後検討するとし、必要と判断した場合に「措置する」との修正を加えている。「可能なところから救済する」という判断だとしても、全員救済で調整しなかったのは疑問と言わざるを得ない。

 全員の救済には財政難を理由に財務省が難色を示しているが、障害基礎年金の支給に差別があってはならない。国会で徹底的に論議すべきだろう。

 年金に対する国民の不信感は、政府の年金政策に不備があり、将来を託すことへの不安があるからだということを忘れてはなるまい。

 政府は年金に対する国民の意識と理解を深めるために全力を挙げて取り組む必要がある。そのためにも「法の下の平等性」を確保し、無年金障害者をなくすよう努力すべきだ。

 

 
 

 

<2004年10月29日> 無年金障害者訴訟

■ 政府は救済を急ぐべきだ (琉球タイムス2004/10/29)

 学生の国民年金加入が任意の時代に加入していなかったため、障害基礎年金を受け取ることのできない重度障害者二人が起こした無年金障害者訴訟で新潟地裁(犬飼真二裁判長)は、「法の下の平等を定めた憲法に違反する」として、国に計千四百万円を賠償するよう命じた。
 同じような裁判は全国九地裁で起こされている。三月には東京地裁で同様の判決が下されたが、国は「立法上の不作為」を認めず控訴中だ。

 犬飼裁判長は「一九八五年の国民年金法改正で、二十歳以上の学生を『任意加入』のままとし、学生の受ける不利益を放置したことは、著しく不合理な差別」と理由を述べた。加入を呼びかける義務を国が果たさなかったとの判断である。

 国は「任意加入の道が開かれていたのに、本人が入らなかった」と主張していた。だが「収入がない大多数の学生にとって保険料を払うことは困難。十分な広報がなく、障害年金がもらえなくなると理解する機会もなかった」との指摘は当を得ており、改正時に適切に対応しなかった国の責任は重い。

 年額七十九万―九十九万円の障害基礎年金が受けられない元学生は全国で約四千人。外国人も八二年四月の法改正で国籍条項が撤廃されるまで加入できず、八六年までの任意期に障害を負った主婦を含めると約十二万人に上る。

 自民、公明両党は「救済法案」を先の国会に提出、今臨時国会で成立させ来年四月から程度に応じ月額四万―五万円の「特別障害給付金」の支給を目指しているが、財政難から元学生と主婦約二万四千人に限定されそうだ。

 民主党の独自案は在日外国人も対象に加えている。全員救済を盛り込んだ前厚労相の「坂口力私案」は財務省が難色を示し、棚上げされたままだ。

 年金を受け取れない障害者の多くは経済的に困窮している人たちである。「ただ平等に扱ってほしい」という原告の思いを真摯に受け止めるのは当然として、救済法案も平等の原則に沿って成立を図る必要がある。

 

 
 

 

■無年金訴訟/度重なる違憲判決は重い (神戸新聞2004/10/29)

 制度のはざまで障害基礎年金を受けられなくなった元学生たちを国の責任で救済せよと命じる判決が、また言い渡された。

 任意加入だった学生時代に国民年金に入っていなかったために、重い障害を負いながら年金を受給できないでいる元学生たちが、国を相手に、全国一斉に起こしている学生無年金障害者訴訟の判決である。

 今年三月、全国に先駆けて東京地裁であった判決に続き、新潟地裁も二十八日、「制度改正時の広報が十分でなく、不利益を受けた学生を放置してきたのは、法の下の平等を定めた憲法に違反する」と判断し、原告二人に計千四百万円の賠償を支払うよう命じた。

 国は、先の東京地裁判決を受けて「立法上の瑕疵(かし)はない」と控訴しており、メンツをかけて争う構えを見せている。しかし、今回の判決も、一九八五年の年金法改正時に元学生たちを救済する手だてを講じるべきだったとし、差別を放置してきた国の怠慢と責任を厳しく指摘した。

 一連の訴訟における違憲判断の流れは、これで定着していくのではないか。再び下された違憲判決の内容を国は重く受け止め、的確に対応すべきだろう。

 同様の裁判はほかに、大阪、京都など七カ所でも争われている。いずれの原告も、収入の道がなく、家族の支えだけを頼りに、ぎりぎりの生活をしている人たちだ。「年金は平等に」と訴える障害者たちの声に、本気で耳を傾ける姿勢がほしい。

 無年金障害者は、全国に四千人いる同じような境遇の元学生だけでなく、任意加入時代に入っていなかった主婦や、国籍条項のために加入できなかった在日外国人ら計十二万人がいる。

 東京の判決を受けて、自民、公明両党は月四万―五万円を支給する救済法案を、既に通常国会に提出しているが、継続審議になっている。さらに問題は、対象を元学生と主婦に限っていることだ。

 民主党は在日外国人も含めた救済法案を提出しているが、まだ本格審議は行われていない。通常の障害年金の約半分にあたる支給額が妥当かどうか、救済する対象枠を含めて、早急に論議をする必要がある。

 無年金障害者のケースを持ち出すまでもなく、現行の年金制度は多様化する今の社会には合わず、多くの問題を抱えていることは言うまでもない。欠陥法を、その場その場で取りつくろってきたにすぎない。

 度重なる違憲判決は、こうした年金制度設計の誤りを指摘した。もはや、抜本改革しか、解決の道はない。

 

 
 

 

■無年金問題/救済へ一歩は踏み出した(神戸新聞・社説 2004/04/07)

 「国が学生無年金障害者を放置してきたのは違憲」とした先の東京地裁判決を受け て、与党年金制度改革協議会は六日、来年四月実施をめざし、具体的な救済策を六月 中旬までに取りまとめることを決めた。

 「救済は福祉的措置で」と坂口厚生労働相が試案を発表してから二年近くたつ。三 年前に全国各地で集団提訴した元学生ら、多くの無年金障害者には「ようやく国が腰 を上げたか」の思いだろう。

 障害者を支える家族らが高齢化している事情を考えると、遅すぎたきらいはある。 だが、救済へ一歩踏み出した政治の姿勢には、一定の評価を与えてよい。

 しかし、本当に大切なのは、これから詰めていく救済策の中身だろう。

 与党協議会で浮上している救済案は、無年金障害者のうち、学生と専業主婦約二万 四千人を対象に、一人あたり月額四万円程度を支給するという内容になっている。

 とはいえ、対象を学生と専業主婦に絞ることが適切としていいのかどうか。無年金 障害者にはこのほか、国籍条項で国民年金に入れなかった在日外国人や、経済的な理 由で保険料を滞納していた人などがおり、全国で計十二万人に上る。与党内にも在日 外国人も対象に、という声はある。

 年金を払ってきた人とのバランス上、どの範囲まで救済すればいいのか難しい問題 だが、無年金障害者の実態を見つめた上、柔軟な論議を進めることを求めたい。

 支給額も重要なポイントだ。月約四万円という数字は、二十歳未満で重い障害となっ た人が現在受けている月額約六万六千円の障害基礎年金のうち、六割分が保険料でな く、国庫(税金)支出で賄われていることを一つの参考に、はじき出されている。

 その算定根拠は、給付を国庫支出で賄うことが前提になっている。だが、年金保険 料を財源に充てるべきだ、との意見もある。こうした財源問題も、無年金障害者はも ちろん、広く国民の声に耳を傾けて、納得のいく結論を出す必要がある。

 ただ理解しにくいのは、与党が救済を打ち出す一方で、国が控訴したことだ。  地裁判決は不作為による国家責任を初めて認めたが、国は「立法上の瑕疵(かし) はない」との主張を譲らない。自らの不作為を認めた例はなく、大阪や京都など全国 八地裁の同様訴訟への影響を恐れたものだろう。

 国は自らのメンツより無年金障害者の思いに応えなくてはいけない。判決が指摘した「法の下の平等」とは何か。不作為を戒めた判決を謙虚に受け止め、原点に立ち返った救済策の実現に努めるべきだ。

 

 
 

 

■年金法の不備が生み出した学生無年金障害者 2004/4/2BNNワイドショー

小規模作業所ホップの山道直樹氏

東京地裁が立法の不作為による違憲と国家賠償認めるも、政府は控訴の構え。

 学生が任意加入とされていた時代、未加入であったため20歳を過ぎて障害を負っても、障害基礎年金が支給されていない人たちがいる。「学生無年金障害者」と呼ばれる人たちだ。

 01年7月、全国9カ所で障害年金の不支給処分の取り消しと損害賠償を求め集団訴訟してから約3年が経過した04年3月24日、東京地裁で判決が言い渡された。「何ら是正措置も講じなかった立法の不作為による違憲を認め、国に賠償を命ずる」との判決は、ほぼ原告勝訴と呼べるものだった。

 判決で問題視されたのは「85年の年金改正」「社会通念」「20歳」である。

 簡単にまとめると、85年に年金法が改正されたものの、20歳前に障害を負った学生と、20歳後に障害を負った学生との間で、同じ障害基礎年金が支給される、されないの格差が大きくなってしまった。「大学進学が裕福な者のみ」という社会通念も、改正時には消滅している。

 さらに、こうした事実を把握しながら何の是正措置も講じなかったのは立法の故意による怠慢(立法の不作為)であり、「年金法で格差が生じたことは、法の下の平等を定めた憲法14条に反する違憲である。よって、国に賠償責任を命じた」というものだ。

 札幌で訴訟中の原告の1人、小規模作業所ホップの山道直樹氏は判決についてこう話す。

 「100%ではないが、ほぼ主張が認められた内容は評価できる。他都市での訴訟に与える影響も大きいだろう。今後、無年金障害者に対して、どのような救済策がなされるのか見守らなければならない。ただ、控訴だけはしてほしくない」

 しかし、切実な願いも届かず、与党による無年金障害者を救済する法案提出とともに、政府は控訴の方針を明らかにしている。裁判と救済法は別物として捉えているのだ。

 政府としては、立法の不作為による違憲と国家賠償を認めるわけにはいかないのだろう。例外的なこの判例を認めてしまえば、同様の裁判において国家賠償が次々に認められかねない。救済策を立法化する代わりに、どうにかして国家賠償を回避したいのだ。

 だが、無年金障害者を救済する法案でさえ、実は原告側の主張とは食い違いを見せている。02年に坂口厚労大臣が打ち出した救済策(財務省の抵抗により見送り)と同様、障害基礎年金の半額程度となる月額3〜4万円を、福祉措置として一般財源から支給する方針で現在進められている。

 原告の主張は、あくまで「不支給処分の取り消し」であり、障害基礎年金が支給される解決策を望んでいるのだ。年金法の不備により違憲状態が続いたため、無年金障害者が発生したのである。とすれば、法の不備とされた年金法で解決するのが当然ということだ。

 さらに、あまり触れられていないが、障害基礎年金が支給されるための条件(納付要件)も、年金法の問題点である。その納付用件とは、

1.初診日の前々月までの加入期間に、保険料納付済み期間(免除期間含む)が3分の2以上あること

2.初診日の前々月までの直前の1年間のうち未納月がないこと(06年3月まで)

 ここでいう「初診日」とは、障害の原因となったケガや病気を初めて治療した日(初めて病院に行った日)のことである。障害状態にないときであっても、その原因となった病気であれば、遠い過去のことであってもそれが「初診日」となってしまうのだ。こうした、年金法の難しさや周知不足も、無年金障害者を生む一つの要因ではなかろうか。

 判決日から2週間後の04年4月7日が控訴期限である。ハンセン病訴訟のように、直前で控訴断念といったケースもあり、まだ今後どうなるのか断言はできない。だが、無年金障害者の救済も含め、この判決を真に受け止め、05年度の年金改正に向けた抜本的な改革を求めたいところである。


■越山正禎(こしやま まさつぐ)■
1972年生まれ。青森市出身。現在、札幌市在住。緑内障により、視覚に障害を持つ。スクリーンリーダー(画面読み上げソフト)を使用してパソコンで記事を書く。ただいま社会福祉士を目指し勉強中。

 

 
 

 

■無年金障害者 国、国会は早急に救済の手を (熊本日日新聞2004/3/30)

 学生無年金障害者訴訟での違憲判決を受け、国会で無年金障害者の救済をめざす動きが活発化してきた。

 超党派の議員でつくる「無年金障害者問題を考える議員連盟」(八代英太会長、百三十三人)が取り組んでいる法案化の準備作業もその一つだ。同連盟の救済策は、在学中に障害を負った成人学生だけでなく、専業主婦などにも救済の道を開く内容。

 制度のはざまで年金を受け取ることのできない人々の救済は急務であり、各党は今国会での法案成立に全力を尽くすべきだ。

 さきの東京地裁判決は、大学生時代に国民年金に加入していなかったことを理由に、国が障害基礎年金を支給しないのは憲法違反だとする判断を初めて示した。立法の不作為を認め、国に賠償を命じた画期的な判決であった。

 一九五九年に制定された国民年金法は、未成年で障害を負った人には障害福祉年金、加入者には障害年金を支給するとしている。同法は国民皆保険を目指していたが、二十歳以上の学生などは任意加入だった。八五年の法改正で、二つの年金は障害基礎年金に統一され、未成年で障害を負った人の受給額はほぼ二倍に増額された。判決は、この時点で不利益の格差が拡大したと指摘、法の下の平等を定めた憲法に違反すると断じた。

 ただ、救済の手だてが全く講じられてこなかったわけではない。九四年には衆参両院の厚生委員会が、無年金障害者に対する所得保障を速やかに検討するとの決議を行った。坂口力厚労相も二〇〇二年に、福祉的措置による救済の試案を発表している。

 坂口試案は、国民年金が任意加入だったため加入しなかった二十歳以上の学生や専業主婦のほかに、一九八二年四月の国籍要件撤廃前に障害を負った在日外国人、強制加入になって以降も未加入あるいは保険料を滞納していた人も救済対象とし、福祉予算で対応する内容だった。しかし対象者は十二万人、支給総額五百〜六百億円に上る試案に財務省が反対し、試案は頓挫した。

 議員連盟は、こうした経緯を踏まえ、無年金障害者の救済対象を六分類。学生、主婦、在日外国人、在外邦人の四類型の保障を、対象者が多い未加入者や滞納者の二類型に先行させる救済方法を検討している。坂口試案と比べ、財政負担を軽くすることで法案成立の実現性を高め、救済につなげるのが狙いだ。

 同連盟は救済策の骨格内容を三十一日の連盟総会で説明する予定で、内容は坂口厚労相が提起した福祉制度による救済を後押しすることになりそうだ。与野党を超えた政治の動きは、救済を躊躇(ちゅうちょ)してきた行政を動かすことにもなろう。

 与党年金制度改革協議会も議員立法を含めた救済策を検討中だ。救済対象や支給額の議論はこれからだが、厳しい財政状況のため、対象は学生と主婦だけに限定される可能性も否定できない。財源措置など、議員連盟と連携しながらより充実した救済策を練ってほしい。

 年金を受給できない障害者の多くは、経済的に苦しい立場に置かれており、一刻も早く救済の手を差し伸べるのは政府の責務でもある。

 

 
 

 

■無年金訴訟/違憲判断受け救済を急げ(神戸新聞・社悦 2004/03/25)

 国民年金に入っていなかったことを理由に、重い障害を負いながらも障害基礎年金を受けられない人たちがいる。学生の国民年金への加入が任意だった時期に障害(一級)を負った、「学生無年金障害者」と呼ばれる人たちだ。全国で約四千人いる。

 その元学生たちが、国が障害基礎年金を支給しないのは、法の下の平等を定めた憲法一四条に違反するなどとして、不支給決定の取り消しと計八千万円の損害賠償を求めた裁判で、東京地裁は二十四日、「国が救済措置を取らなかったのは違憲」として、千五百万円の支払いを命じた。

 訴訟は、同じ境遇にある全国の元学生ら三十人が三年前、東京、大阪、京都、広島など全国九地裁で一斉に起こした。東京地裁がその最初の判決で、このあと全国各地で予定されている一連の判決のほか、年金制度をめぐる国の基本姿勢にも大きな影響を与えることは間違いない。

 判決で注目されるのは、国が救済措置を取らなかったことに対する違憲判断だ。

 年金制度が整った一九五九当時の大学進学率は低く、それからみれば学生を強制加入から外したのは違憲でないとする。だが「学生が万一障害を負った場合に備えて、年金が受給できるような制度を設ける必要はなかったのか」と指摘し、その後の状況の変化にもかかわらず、国が「何らの立法的手当てをしないで放置することは、憲法一四条に反する」と結論づけた。

 判決は、年金制度創設当時の原則を順守するあまり、社会の変化に応じて何の手だてもしなかった国の怠慢を厳しく戒めている。国は、今回の判決を謙虚に受け止め、速やかに救済措置を講じるべきだ。

 国民年金制度は、「国民皆年金」をうたい文句に二十歳から六十歳までの国民を被保険者として、障害を負った場合には障害基礎年金、六十五歳からは老齢基礎年金が支給される。

 ところが、九一年まで成人学生は年金加入が「任意」とされていたために、無年金障害者を生む結果につながった。

 二十歳未満で障害者になれば障害基礎年金が支給されるのに、二十歳を過ぎて同じ状況に陥っても年金は支給されない。この不平等な取り扱いが、なぜ放置されてきたのか。一連の集団訴訟は、国のそんな「不作為」に疑問を投じている。

 同じように無年金障害者となった人は学生に限らず、専業主婦や外国人ら全国に約十二万人もいる。現在、年金改革の論議が進んでいるが、こうした法の谷間で取り残された人たちを放置してはならない。