水槽

 

 

 深夜、水に入る彼の姿を見たことがある。満月が近く、月光で照らされた彼は、水に沈んでも白く浮かび上がっていた。
 あれは校内のプールだったけれど、まるで魚のようだとそれを見ていた。
「ねぇ」
 シャワーを水に変えて浴びながら、冷えた体に肌を寄せる。
「んだよ」
 表面は冷たくても、内側に燻った熱が治まってないのはお互いのようで、逃げられることもない。
「君を水槽に入れて飼いたい」
「……意味がわかんねぇよ」
「金魚鉢には入りきりそうもないからね」
 鱗やヒレの代わりに髪を揺らめかせれば、観賞に堪えうるだろうに。
「馬鹿なこと言ってんなよ」
 彼には通じないけれど。まぁ、きっとそのうちに水槽を飛び出してしまうだろうからね。
「じゃあ、上手くやりなよ」
 唇を合わせてしまえば言葉なんてなくなるから。
 誘えば堕ちるわかりやすい彼。僕を満足させるには時間が掛かりそうだ。

 

 

 


好きすぎるのも困りもの。