大人獄寺×中学雲雀 年の差パラレル
花見
花見がしたいと、誘われた。秘密の場所があるのだと、年に似合わず無邪気な笑みを浮かべたから、今日はそれに付き合うことにしてやった。
「静かに、な」
大きな屋敷の裏手、通用門らしきところを通って侵入する。人が住んでいる気配はないのに手入れのされた庭には違和感があったけれど、彼の親戚の家か何かだろうと気にはしなかった。
庭を仕切る垣根の向こうに、一際大きな桜の木が植えてあった。そこに歩み寄れば、風が吹く度に白い花弁が舞った。
「古い樹だね」
新しいものが増えるばかりだけれど、街には時折こうして時間の流れに置いていかれたような場所がある。そういうものは、嫌いじゃなかった。
「この建物が出来た時にはここに立ってたらしい」
「ふぅん」
花散らしの風が強く吹く。数日後には、この満開の桜は見る影もなくなっているだろう。失われるからこそ、その短い刻を愛でるのだろう。
「それで、ここに僕を連れてきて、今日は終わり?」
「……もう少し、付き合ってもらって良いのか」
返事をせずに背後の彼に寄り掛かれば、腕の中に抱きこまれた。もう少しだけ、そう言ったけれど伝わっただろうか。
年上のはずの彼は、随分と甘え下手なようだった。
春の話。