大人獄寺×中学雲雀 年の差パラレル
委員長の気まぐれデート
予定を聞かれたから、空いているとこたえただけだった。またいつものようにホテルのロビーで待ち合わせて、部屋に行くのかと思ったのだけれど。
「夕飯、まだだろ?」
問われて頷く。夕方まで学校で委員会の仕事をしていて、そのままここにきただけだから。エレベーターは、知らない階を目指して上がっていく。
「安心しろよ、俺の奢りだからな」
最上階の展望レストランは、やけに人が多かった。別に代金の心配なんてするわけもなく払わせるつもりだったけれど、席が空いていなければ意味がないのに。そう考えていたら予約の札がある席に連れられて、用意周到さに少し呆れた。だからわざわざ事前に予定を聞いたのか。
「ここ、美味しいの?」
「まあな」
そう言うからには何度か来たことがあるんだろう。日が沈みきった街の明かりが点るのをぼんやり見ていれば、グラスと何やら見たことのない料理が並べられた。
「何これ」
懐石は食べたことはあるけれど、洋食をこうして店で食べることなんてほとんどないから勝手がわからない。
「なにって、前菜だろ」
片仮名だらけの説明をされても少しも味の想像ができない。動作だけを真似をして口に入れてみるとやはり食べ慣れない味がして、美味しいかどうか理解する前に飲み込んでしまった。
「今日は僕とご飯を食べたかったの」
「それもある」
順番に運ばれてくるのは飾りのように盛り付けられた料理で、やっぱり懐石に似ているようで味は洋食だった。肉か魚かそれ以外か、なんて考えながらグラスに口をつけたら、水じゃなくて味のない炭酸水で、なんだかもう食べるより未知のものと警戒することに疲れてしまった。
「ねぇ、これは?」
向かいの席のグラスには、僕の目の前のものとは違う、ほんのり色のついた飲み物が入っている。興味を持って手を伸ばしたら、直前で制された。
「これはやめとけ」
「…ふぅん、お酒飲んでるの」
わざとらしく大人はずるいよね、と言ったら慌てた顔を見せる。別にワインに興味があるわけでもないけれど、子供扱いされるのは面白くない。
「飲みたいのか?」
「別に」
成人しなければお酒は飲んじゃいけないことくらい知っているし、飲みたいわけでもない。ただ、自分だけ違うものを飲まされているのが気にくわなかっただけ。ふいと視線を横に向ければ回りの客は男女の二人連ればかりで、同じ色のグラスを傾けていた。
なんだかますます面白くなくて、窓の外に視界を移す。ふと気付けば、ビルの明かりの隙間に色とりどりの光を纏ったツリーが見えた。そういえば、日誌に記した今日の日付は12月24日。去年まで委員会の仕事が終わったらそのまま浮かれた連中を咬み殺すために街を巡回していたのに、今日はそんなことも忘れて僕はここにいる。
「ヒバリ」
見れば、困ったような苦笑がひとつ。街の治安と秤に掛けてもこの人との約束が大事な訳じゃないけれど、このところ大きな騒ぎもないし、風紀の仕事は哲に任せてしまって大丈夫だろう。
「…どうしてもって言うなら、後で部屋の方でな?」
まだ僕がワインを飲みたがって機嫌を損ねたと思っているんだろうか。わざわざ周りを気にして小声で言うなんて、馬鹿らしい。
そう、馬鹿みたいだけれど僕はこうして時間を過ごすのは悪くないと思っている。それはほんの気まぐれでしかないけれど、例えば原因のひとつとしては、胸ポケットの包みを僕に気付かれないようにしきりに気にしているような、そんな男が目の前にいるからだろう。
だけど次に食事をするなら和食がいいと提案してみるのも、ほんの少しの気まぐれのうちで。
初めて飲んだワインの味は、やはり僕にはまだ理解できそうになかった。
学ラン姿の中学生とホテルのレストランでディナーデートしちゃう系駄目な大人獄寺でした。
なんだかんだいって雲雀さんはまだ子供味覚だとかわいいな。