白い世界

 

 

 正面から抱え込まれて、顔は見えない。
 けれど、煩く胸を叩く鼓動が、僕にまで伝わってきて、迷惑だよ。



 背中に回された腕。指先が、時折確かめるようにシャツに絡む。
 息が上がらないように殺しながらなど、眠れるものか。


 寒さに身を捩る。肩まで布団を掛け直し、目の前の温かいものに身を寄せた。
 間近に、銀色に透ける睫毛が見える。薄く開いた唇が乾いているようで、濡らしてやろうかと舌を伸ばし掛けたところで、唐突に響いた着信音に邪魔をされた。
 手を伸ばして携帯電話を手に収める。画面を見れば、草食動物からの他愛もないメールのようだった。
「…………」
 操作して、間抜けな寝顔を画面に写し撮る。
 僕だって、写真付きメールくらい送れるんだよ。


 シーツの中、近くなったのは距離と、身に纏う匂いくらいのものだ。
 朝日が射し込んできて、薄いカーテンでは遮ることも出来ず明るくなり始める部屋。まだ、学校へ行く時間じゃない。身を寄せて、温もりを奪った。
「う……ん…」
 唸りながら、寝惚けているだろう目を薄らとだけ開ける。微かに緑を覗かせて、また元通り。ついでに、僕を腕の中に巻き込んでいく。
 汗ばむ季節ならば、暑苦しいと蹴り飛ばしてやるものを。今は、背中が冷えることすら疎ましくて、触れるのを許してやる。
 何度か浮上した意識は、温もりによって眠りへと誘われる。次に目が覚めたときにも、こいつは目の前にいるだろうか、そんなことを思いながら。

 

 

 


正面から抱き合って寝る獄ヒバです。状況を説明せねば伝わらんよ。