大人獄ヒバ
スイッチ
やたらと忙しい。10代目のためを思えば不満などにはなりえなかったが、回される書類の中にはあの男の破壊活動の尻拭いとしか思えない表記が見え隠れしていて、つまりは間接的に振り回されているのだとため息が出る。
「…ったく」
それでも、ここで仕事の手を緩めることは10代目に負担を強いる結果を招いてしまう。しかし、獄寺はそんなことを自分に許すほど脆弱な忠誠心を持っているわけではなかった。
処理済みの書類を分類して積み重ね、束になったそれを片手で抱える。いつもこんなものと共に現れていたら、我がボスは自分の顔を見ることすら嫌になってしまうのではないか。杞憂に過ぎないとわかっていても、気分が薄暗くなるのを止められはしない。何より、かの人の引き攣った笑顔は見ているこちらが辛いのだ。
自然重くなる足取りで、廊下を進む。下げた視界の中、綺麗に磨かれた革靴の先を認識して視線を上げると、そこには諸悪の根源が立ちはだかっていた。
「随分辛気くさい顔をしているね、獄寺隼人」
「……てめぇのせいだろ、ヒバリ」
あちこちで暴れている割に、本人は実に飄々としていて。掴み所のない雲であると無駄に実感させられる。こうしてボンゴレのアジトに現れること自体、稀だと言っても過言ではない。
「知らないよ。僕には関係ない」
つんと背けられた鼻先が憎たらしい。書類の束を叩き付けてやろうかと浮かぶ苛立ちは、整理し直しになると面倒だという冷静な計算で抑え込まれた。
「て、め、え、の、破壊した諸々の処理に追われてんだよこっちは!」
「ふぅん」
せめてもの文句も何処吹く風だ。これ以上相手をしても時間の無駄だ、と舌打ちをして横を通り抜けようとした。
「!」
だが、腕を掴まれてそれは叶わなかった。そのままぐいと壁に押し付けられ、漆黒の双眼が間近に迫る。
「溜まってるんだ」
発散させないと、どうなるかわかるよね?
唇同士が触れ合う寸前の距離で囁かれて理性が揺るがない男がいるものか。
書類を持っていない方の手を腰に回せばもう口付けるしかない。スーツを纏った脚が絡み合いそうなほど身体を密着させ、誘う唇に噛み付いた。
応えるように甘噛みされ、舌を整った歯列に滑らせる。廊下だとか、そんなことはもう吹き飛んでしまっていた。
「ふ、…ん」
唾液が溢れる前にこくりと喉を鳴らし、雲雀がそれを嚥下する。舌を絡めるほどに唇の隙間からは濡れた音が絶えず漏れて、互いの呼吸の音と混ざり合い耳殻を犯した。
もっと欲しい、と欲を出そうとした瞬間、ばさばさと紙の落ちる音に現実に引き戻された。
「やべ…っ!」
放り出す勢いで雲雀から離れ、足元に散らばった書類を拾い集める。折角の分類もこれでは台無しだ。
「じゃあね」
こうなることを予測してわざと誘ったのだと、今さらにして気付くとは。罠に嵌めた犯人を恨めしい思いで睨み付けた。
「てめぇ、な…」
「明日の朝には発つから」
ひょいと書類を飛び越えて雲雀が手を振った。つまりはそれまでになんとかしろということで。
「くそっ」
誘うならまともに誘いやがれ、と文句を言う前に相手は廊下の向こうに消えている。とにかく足元に広がる白い紙を急いで拾い集めるしかなかった。
いろいろ溜まると暴れちゃう雲雀さんてかわいくないですか。
にしても書きたい部分に至るまでが相変わらず長いです。
獄寺が急いで仕事を終わらせられたら朝までコースです^^がっつり食べられるといい…