ライター

　

　

　

キン

シュボ

カシン

　

　流れるように聞こえる音は慣れた動作から生まれたもので、僕はまどろみから目を開けた。

　カーテンの隙間から見える窓の外は薄く白じんでいて、夜明けを示している。

「……また、吸ってるの」

　喉は少し乾いていて、思ったよりも掠れた声が出た。

「起こしたか？」

「別に」

　そっと髪に触れる手。無遠慮なくせに、こういうときばかり遠慮がちだね。

「そんなの吸ってるから背が伸びないんだよ」

　僕よりも幾分か低い角度を見下ろすのは嫌いじゃないけれど、それをとても気にしているのは知ってる。

「うるせぇ、まだ成長期は終わってねーんだ。今に抜かしてやるよ」

「期待しないで楽しみにしてるよ」

　自分の身長なんて気にしてないのに、君の背がここのところ伸びてるのは知ってる。身体測定の度に一喜一憂して、伸びたときだけ僕に報告しにくるせいだ。

「言ってろ、俺は将来有望だぜ」

　まるきり子供みたいで、少しおかしい。年下扱いされるのは嫌がるのに、行動は子供のそれと大差ない。

「身長なんてどうでもいいよ」

　外から見えるものに左右されることはないから。

「よかねーよ」

　節ばった指が煙草を揉み消し、抱き寄せてくる。

「こうするときに大変だろ」

　妙に真面目に言うせいで、笑みが込み上げてくる。

「馬鹿だね、君」

　視界の端には誰かの専用になっている灰皿。放っておいたらいつも空き缶を灰皿代わりにしていたから、ひとつだけ置いてあるもの。
　少しずつ、僕の領域に君が踏み込んでくる。
　最後の砦など、ないというのに。

「誰が馬鹿だって？」

　拗ねたような唇が降りてくる。長めの前髪がいつも少しくすぐったい。

「……ん」

　問い返しておきながら口を塞ぐの、自分に自信がない証拠だよ。
　馬鹿な奴。おそらくはこの学校で一番頭が良いはずなのに、手を付けられないほどの、愚かさを持っている。
　その油断と、優しさが君の弱さ。

「ヒバリ」

　名を呼ぶだけで何も告げず、また僕をシーツへと沈める。
　学校に行くまでにもう少し眠れると思ったけど、無理みたいだね。

「もう、朝だよ」

「知ってる」　

　首筋にまた痕が残された。

「まぁいいけど……」

　応接室のソファか、屋上で寝ればいい。たまには音楽室でもいいかな、何処かの馬鹿に邪魔されなければ。

「君、バイク乗れる？」

　胸元に下がり掛けた頭を、髪を掴んで引き留めてみる。

「あぁ…一応乗れるぜ、免許はねぇけど」

「じゃあ、決まり。していいよ」

　面倒な通学も、少しは楽になる。責任は本人に取らせないとね。

「なんだよ」

　困惑混じりに呟きながら、それでも躊躇いなく手は滑り、体をなぞっていく。
　何度こうして夜を共にしたかはわからないけど、その度にこいつは僕の体を学習しているようで、いつも同じ抱き方はしない。

　僕としては、楽な方がいいんだけど。
　ただ、お互い理由無く肌を触れ合わせているのだから、気持ち良いことは悪くはない。

「…ん…」

　自然に息が漏れる。無駄に敏感な体の反応が疎ましい。声を殺すために、側にある肩に顔を押し付けた。
　むかつくから、名前は呼んでやらない。僕が君を追い詰めるまではね。

「なぁ、ヒバリ」

「……何」

　不意に呼ばれ、薄く目を開けて見上げれば、眉間に皺を寄せて何か良いたげな顔。

「何でもねぇ」

　誤魔化すように降りてきた唇は、少し苦い煙草の香り。そのうち僕にも移ってしまうだろうか。

　

　また学校に行けばいつも通り、僕は風紀委員長として手の掛かる不良な後輩を取り締まって、喧嘩を売られる日々。

　今日は気分が良いから、君には特別に地獄への直行便を用意してあげるよ。

　

　

　

　

ヴァリアー戦が終わる頃には少しは距離が近付いてるだろうか
学校ではいつも通り顔合わせるたびに喧嘩しつつ(一方的に)
普通にお泊りできるくらいにはなれるといい

一応全体として時間軸は一本通してあるので
実は話の時期によって関係性に差があるのです

時間軸考えて話作るの好きなんだなー