数年後獄ヒバ 捏造 甘口注意

 

 

 好き。

 

 

 指輪を全て外した指が、柔らかく髪に絡む。手触りを確かめるように何度も撫でて、ふと思いついたように手が止まった。

「なぁ、もし俺がお前のこと好きだって言ったらどう思う?」

「信じないね」

 撫でられるお返しに銀の髪に触れながら、僕は笑みを浮かべて返した。

「だよなぁ」

 言った本人も、口の端に苦い笑みを浮かべている。

「じゃあ、君を好きだって僕が言ったらどうするの」

 顔を寄せて皮肉な声で囁くと、彼は白い歯を覗かせた。

「ありえねぇ!んなこといきなり言われたら気持ち悪ィし、頭の心配するぜ」

 そうだろう、と僕も思うよ。君と僕には、そんな言葉はありえない。

「だから、ね。そんな思ってもいないことは口に出さない方が良いんだよ」

「おう、そうだよな」

 寝台の上で色気も何もない睦言を交わしながら、また影を重ねて口付け合う。

 いつからそうなったかは忘れたけれど、どうやら彼と僕は恋人同士というものらしい。僕はそんなつもりもなかったけれど、彼の敬愛するボスがそう称したらしいから、便宜的にそういうことになっているそうだ。

 まぁ、どうでもいいけど。お互い多忙の身だし、彼が時間を開けるのに口実として恋人を使うことがあるとは聞いていた。

「まだいいの?」

 基本的に、二人でいるときに携帯が鳴ることはない。僕は自分の決めた休暇の時は電源を落としているし、恋人との休暇と申請した以上、彼の携帯にも余程のことがない限りボスからも連絡は入らない。

 その静かな休日も今日まで。ボンゴレのボスの右腕だと自負していて、いつも尊敬する彼の側を離れたがらず自分が守ると言っているのだから、早く戻りたいだろうに。

「もうちょっとな」

 誤魔化すように降りてくる唇。そのまま寝台に押し付けられて強引に事を進めようとするから、首の後ろに回した手で銀の髪を引いた。

「休暇の意味、わかってるの」

「あ?」

 間抜け面に口付けて、舌で唇をなぞる。

「昨日から君に付き合わされて、僕は眠い」

 寝ていないわけじゃないけれど、体の熱も治まらないままにうとうととして、深く眠りに落ちる前にまた起こされて、咬み殺す隙もないほど抱き合っていた。

「仕方ねぇだろ。いいんだよ、お前だって乗り気だったんだから」

「最初はね」

 久しぶりだったし、僕が誘うまでもなく君はそういうつもりだったらしいから悪くはなかった。けれど、昔に比べて体格に見合った体力が付いた分、しつこくなったよ。

「最初だけかよ」

 首筋に歯を立てられて、幾つめかわからない痕が残される。わざとらしく、シャツの襟をきちりと締めたときだけ隠れる位置。何も言わないくせに独占欲だけ強い男だと、今更苦笑も浮かばない。

「君こそ、眠そうな顔してる」

 いつも敬愛するボスのためにと身を擦り減らし、自分のことは二の次にして。そうしていることを当の本人に心配されているとは露ほどにも思っていないのだろうね。

「一日二日寝なくても死なねぇだろ。俺も、お前もな」

「まぁ、ね」

 お返しに首に噛みついて、隠せない痕を残す。これは僕の玩具だと見せびらかすように。独占欲は、そういう意味では僕の方が強いのかもしれない。特に執着しているつもりはないのだけれど。腕を回した背中には、多分昨晩の爪痕があるだろう。

「隼人」

 そうされるのに弱いと知っているからこそ、ピアスの飾られた耳に舌を這わせて、囁き掛ける。そうすれば、欲に堕ちた君の顔を見れるから。

「何だよ」

 口付けたり、髪を食むように唇を寄せたりしながら、熱い手の平は性急に余韻の跡を辿る。

「嫌いだよ、君のこと」

 言葉遊びなどではない、僕の気持ち。いつまで経っても子供のようにわがままで、身勝手で、弱い君。

「俺もてめぇが大嫌いだぜ、恭弥」

 笑みを浮かべたそれが、僕の唇を塞ぐ。そう、その身の程知らずの傲慢さも僕を苛つかせるんだ。愚かな犬が、やたらに噛みついてきて僕に痕を残す。

 現実と非現実の間で、君と僕の距離は酷く近かった。似ているものを嫌うのは当然でしょ。

 君の髪や、瞳の色、体の造りはとても綺麗で好きだけど、君のことは何よりも嫌いだよ。

 でも、この感情を言い表すのなら。

「でもな、恭弥。俺はおめーのこと嫌いだけどな」

 憎悪に近いそれは。

「愛してるぜ」

「…僕もだよ。殺したいくらいに、ね」

 君との行為は、腐った果実のような甘さで息が詰まる。不覚に囚われる視線は釘を打つよりも確かに貫いて、けれど首に回した腕は命を奪うまでには至らない。

「……ッ」

 出会った頃より大きくなった手が躊躇いなく肌を滑り、膝裏に差し込んだ手でそのまま脚を抱え上げられる。容赦する気もないのだろう、残滓に濡れたそこが無理矢理に押し開かれていく。

 背中に手を回すのは無意識の習性のようなもので、慣れた体温が体を繋ぐ度に爪を立てた。そうすることで眉を寄せて歪む君の顔を、見たいだけなんだ。

「集中、しろよ…っ」

 乱暴なくらいにするのは、苛立ちの証拠だ。声を噛み殺して反応を抑えるだけで、主導権を握れない悔しさが表情に出る。僕だって、嵐のように体の中を荒らす君に何も感じていないわけじゃない。ただ、笑みを返せばそれを君は勝手な解釈で、余計に苛立ちをぶつけてくるだけだ。

「…隼人」

 熱くなった吐息が漏れるのは仕方ない。一方的に与えられるのではなく、僕も君を奪っているのだから。そっと息を塞がない口付けをし、より深くとねだるように首に回した腕で抱き寄せた。

 

 

 

 

 

 シーツに体を預けながら、飽きもせず髪に絡む指に身を任せてぼんやりと視線を君に投げる。

 不必要に感情が介在しないのに、僕が許して当然のように君がここにいるのはどうしてだろうか。僕だって、都合が悪ければ追い払うし、君が忙しいときは連絡もない。優先順位は決して高いとは言えないのに、それでも気付けば互いの部屋で埋め合うように肌を合わせていた。

 足りないのだと君が言うように、僕もきっと足りていない。他のことに気を回していれば忘れてしまうような、ほんの些細なものが。

 これを感情というのなら、名前を付けて分類されることもあるのだろう。けれど、そんなものは必要ないし、結果などは求めてはいなかった。欲しいのは、何もないんだ。

「なに難しい顔してんだよ」

「君ほどじゃない」

 大人になっても緩む気配のない眉間の皺に唇を寄せる。視界の端の時計は、聞いていた予定の時間に迫っている。片手で胸を押し距離をつくると、君は諦めたような笑いを浮かべた。

「おめーはまだ時間あんだろ、寝とけよな」

「君に言われるまでもないよ」

 体を離されると少し肌寒くて、シーツの上に毛布を探る。けれどいつの間にか蹴落としたらしく、見えるところにはなかった。仕方なく温度を保つように体を丸めると、口付けと毛布がふわりと降りてくる。

「じゃあな」

 煙草に火を点ける間もない慌ただしさで、結局たいして眠ることもないまま君は出ていった。少しもの足りない残り香の中で、僕は頭まで毛布を被って目を閉じる。

 学生の頃は時間を持て余すくらいの自由があって、それを当然だと思っていた。けれど一度違う世界に脚を踏み入れると、望むと望まざると濁流に押し流され時間を失っていく。

 僕の守りたいものは、ほんの小さなもので。きっと君の主の望むものとは遠くはないし、君の敵に奪われるものでもあるのだろう。

「皆殺しにすれば早いのに」

 欠伸と共に呟きが漏れる。君が弱いながらに迷いつつも決めた道は厳しいのだろう。手助けなんてしてやらないし、時には敵対することもあるかもしれない。それは僕が僕である限りは避けられないし、君も知っている。

 だから、今は毛布にくるまって牙を研く。



 恋人などと下らないことを言う、大嫌いな君を咬み殺す日を心待ちにして。

 

 

 

 

 


 数年後、恋人ルート選択時の獄ヒバ?

ツナさんは二人が相思相愛だと思ってるので
それって恋人って言うんじゃないの?とか言ったりしてます

本人たちはそんなの気持ち悪いとか思ってそうだけど
なんとなく恋人ポジションに納まってしまっていったりとか
そんな感じで10年後にはすっかり出来上がっちゃってるといい

…無理かな?