「…悪ィかよ」

「――ッ!」

 わざと弱いところを指で抉って、雲雀の反応を見る。
 雲雀は明らかに体が反応していても、それでも唇を噛んで声を堪え、赤くなった目元のまま睨み付けてくる。体を重ねてもあくまでも屈しないその態度に、俺は嵌っているんだろう。

 十分に濡らしたそこから指を引き抜けば、白い背中が震える。それに覆い被さるようにして、既に熱くなっている自身をあてた。

「ヒバリ」

 癖のある柔らかい黒髪に隠された耳元で呼ぶと、備えるように口許を手で覆い、頷きを返してくる。正直なところ俺も限界で、したいことには変わりはなかった。

「入れるぜ…」

 濡らしはしたものの、おざなりにしか解していなかったそこはいつも以上にきつい。それでも体重を掛けて押し込めば、体勢のせいか無理はなく深いところまで届いた。

「…ん」

 片手で口を塞ぎながら小さく雲雀が呻く。思ったより辛いのだろうか、細い眉は苦痛を示すように寄せられ、短い息を噛み締められた唇から僅かに漏らすだけだった。

「無理しねぇで声出せよ」

 耳の後ろに口付けながら囁いても、頑として頷かない。それどころか、早く、と掠れた声で言われてはこっちも余裕がなくなる。
 細い腰に手を添えて、ゆるゆると腰を引く。激しく突き立てたい気持ちを抑えながら、体内の温度を味わうように再び深く押し込んでいく。

「ぅ、ん…ッ」

 粘膜の擦れ合う感覚と、雲雀を犯しているという支配欲を刺激する事実に、性欲が沸き立つ。肉体の快楽だけではないそれは、俺を雲雀に溺れさせるには十分だった。

「なぁ、後ろだけでこんなにしてんのかよ」

 さっき出したばっかりだろ、と自身を握りこんでやると、確かな質量だけでなく濡れた感触が手の中にあった。

「生理現象、だよ…ッ」

 切なげに細い声が、憎たらしいほどに聞こえる。素直に認めてしまえ、と思うけれど、素直な雲雀なんて面白くもないとは思う。

「てめぇが淫乱なだけだろ、そんなんで風紀守れんのか」

 思ってもいない言葉が雲雀を詰る。そんなことで雲雀が傷付くわけもないとわかっていても、自分を追い込むように嗜虐心は止まらない。もっと滅茶苦茶に追い詰めて、自分に縋らせでもしたいのか、俺は。

「ッ…守る、よ」

 抵抗を示すように強く締め付け、雲雀の眼光が増す。並盛の風紀を守ること、それが雲雀の矜持であり、何者にも侵されざる強さの源なのだろう。例え今俺が首に手を回したとしても、その細い首も、雲雀の心も折ることなど出来はしない。

「言ってろ…!」

 強く腰を打ち付ける度にぐちゅりと濡れた音が響き、手の中のものをきつく握り締めてもまだ逃げようともしない。

「ふ…、ぅく…ッ」

 自分の手首に歯を立ててまで、雲雀は声を堪えている。逆に言えばそうでもしなければならない状態に陥っているということか。それに気付いたとき、ようやく苛立ちの余りに酷く抱いている事実に気付いた。

 唐突に動きを止めた俺に、雲雀が視線を投げ掛ける。その目尻も睫毛も濡れそぼり、快楽か苦痛かにまみれていた。

「…っ…悪ィ」

 暗い思考の底から正気に立ち返って、慌てて腰を引こうとするが、きつい締め付けに上手く行かない。

「…ヒバリ」

 髪を撫でて訴えると、雲雀は小さく首を振った。

「……いい、このまま…」

 途切れながらも呟かれた言葉に、辛うじて取り戻し掛けた理性は瓦解した。

「後悔すんじゃねぇぞ」

「――ッ!」

 机に押し付けるように体重を掛け、わざと前立腺を抉るように突き立てる。間髪入れず激しさを増した抽挿を再開し、指を絡めた自身も爪先でなぞるように擦り上げた。

「ぁ、んぅ…ッ!」

 がたがたと雲雀がしがみついたデスクが揺れ、両手が離れたせいで抑えきれなかった声が僅かに漏れ聞こえた。嫌がるように首を振る度に柔らかい黒髪が波打ち、けれど深く俺を咥えこんだそこは離すどころか食い付くようにきつく締めつけてくる。

「…ヒバ、リ…っ」

 馬鹿のように繰り返し名前を呼びながら、汗の滲む背中に口付けて、うなじに歯を立てる。突き上げる度に揺れる腰に誘われるように、内部を掻き回しあからさまに水音を立ててみせる。

「…ふぅ、…く、ん…ッ」

 合わせるように雲雀の声が漏れ、薄暗い部屋の中がまるで別世界のようだと勘違いさせられる。けれど、机上から舞い落ちる白い紙は、視界の中に確かな現実を知らせている。
 この応接室で行為に及んだことは数知れないが、大概はソファの上で終わる。自分や雲雀の部屋でも、ソファやベッドに行くことが自然になっていたから、こうして立ったまま雲雀を後ろから抱くのは、初めてだった。

「…癖になりそうだな」

「な、に」

 呟きを耳に止めた雲雀に噛み殺した声の中で問われて、苦笑に紛れて誤魔化した。正直命は惜しいし、こんなとこで終わりにされても困る。

「何でもねぇよ」

 ちゅ、と音を立てて赤く染まる耳の後ろに口付けた。それだけで小さく身を震わせるほど敏感になっているのか、雲雀は肩を揺らして細く息を漏らす。

「…そろそろ、終わっとけ」

 動かないまでも雲雀の中は心地良く締め付ける。けどそんなんじゃまだ足りない。ぐじゅぐじゅに濡れた自身を擦り、弱いところばかり狙って突き立てれば、堪えきれないように体を反らして反応する。その度に締め付けが襲い、俺の体も限界を訴える。それをまだ早いと散らしながら、毒のように甘い雲雀の体を味わっていた。

「…ハヤト、…っ」

 悲鳴のように呼ばれて黒い瞳とかち合った。そのまま猫のように細められる目と、笑みを湛えた唇に視界がくらりと揺れる。唇に触れたい衝動に駆られても、この体勢のままでは叶わない。それを知っていて、雲雀は笑うのだ。あくまでも主導権は自分のものだと、思い知らせるように。

「くそ…ッ」

 自分の思うままになるとは思ってもいない。けれど、そう思い込ませた上で突き落とす雲雀が憎たらしかった。そっちがその気なら、手加減だってしてやらない。顔の横に手をつき、体重を掛けるように大きく突き立てる。デスクが軋む音も、ぐしゃぐしゃに散らばる書類も気にしてはいられない。ただ、雲雀を追い立てるように、自分を追い詰めるために内壁を擦り、前立腺を先端で突き、濡れた粘膜を擦り合わせた。

「ぁう…!…ん…ッ!」

 髪を振り乱しながら、雲雀までも性欲に溺れたように自ら腰を揺らす。繋がった箇所から熱が伝染するように、互いに加熱して止まらない。

「っ…んく、ぅ…ふぅ…ッ」

 がり、と音が聞こえそうなほど手首に歯を立てて、雲雀が堪えきれない吐息を殺している。そろそろ限界なのは自分も同じで、辛うじて引き伸ばしていただけだ。限界の向こうに行くように、加速度を増して体の奥を掻き回し、快楽を植え付けていく。

「……ッ!」

 声にならない声を上げた雲雀が、引き攣るように体を反らす。同時に襲った締め付けは、まさに咬み殺すほどの勢いで、気付いたときには意識は飛んで、雲雀の奥深くに精液を注ぎ込んでいた。

「ぁ……っ」

 雲雀が小さく声を漏らし、同時に握り込んでいたそこが熱を放つのがわかった。ほとんど意識をなくしているのか、そのままくたりと動かなくなる。

「…はぁ……」

 息を吐いたまま、体重を掛けないように雲雀にのし掛かる。汗で濡れた肌同士がくっつく感触が、心地良い。
 しばらく背に額を預けるようにして雲雀の匂いに酔いしれていると、体の下で雲雀が小さく身じろいだ。

「…?」

 肩を丸めるようにして上半身を捻り、真上にいる俺に視線を合わせてくる。

「今日のは、良かったよ」

「……っ!」

 皮肉にしても性質が悪い。そんなことを猫のように目を細めて満足げに言われても、折角の余韻が台無しだ。

「てめぇは、なんでそう…」

 憎たらしい、けれど本気で憎めはしない。顎を押さえ付けて、綺麗に笑う唇にようやく口付けた。そのままもう一回くらいしてやろうかと企んでいると、不意に視線が外される。その先を追えば、暗くても分かるほどに床を覆い散らばるのは元書類の山。もしかして、と体を起こして視線をやれば、足元にも散乱している。

「あー…」

「このまま、もう一回してもいいよ」

 心を読んだような甘い誘いは悪魔の囁き。色香を放つ姿に見惚れる俺を、抜け出すことの出来ない地獄へと誘っている。それに逆らえるかと言えば、答えはひとつしかなかった。今は、不幸にも踏み散らされた足の下の書類なんて気にしてはいられない。

「…机、買い換えないと」

 体重を掛ける度に酷く軋む音を立てるそれに、雲雀がやけに冷静に呟いた。

 

 

 

 

 


唐突にえろ展開に流れていったので
思いついていたえろシチュを使ってみました

執務机っていいよね…!