赤と白と黒

　

　

　死んだかな。

　手加減はしたのだけれど。

　こめかみから血を流す君の銀の髪を掴んでコンクリートの地面から顔を上げさせれば、小さな呻き声。
　あぁ、良かった。君と出会ってから覚えた手加減は、失敗はしたことはない。失敗したら、弱い君は死んでしまうからね。

「隼人」

　膝をついて、頭を抱え込み、血に濡れるのを気にせずに何度も髪を撫でた。その度に紅い色は広がって、べたべたぬるぬる、不快だった。でも僕は、この匂いがすき。君の命と同じでしょ？

　どくどくと、君の命の音がする度に広がる色。そういえば、頭を切ると血が大袈裟に出るというけれど、これもそうなのかな。心配になって手の平で押さえてみたりするけど、止まる気配はない。

「これくらいの怪我、いつもしてるでしょ。情けないね」

　仕方なく、ぐったりと動かない体を抱き上げて屋上を後にする。折角の良い天気が君のせいで台無しだよ。

　保健室までは、少し遠かった。

　

　

　

　

「やりすぎだ」

　いつのまにか校内に入り込んでいた保健医は君の知り合いらしく、けれど男は診ないと宣言しているから僕は安心して君を連れてこれた。何かその度に言われるけれど、僕は気にしない。
　包帯と、ガーゼを側に用意して、消毒液の瓶を逆さにする。

「おい、何やってんだ！」

　髪に染み込んでいた血が流されて、白いシーツに広がっていく。ようやく見えた傷口は、やっぱりそんなに大きくはなかった。

「坊主、おめぇな…」

　うるさい奴は無視することに決めている。それよりも、僕は次々に溢れる血を脱脂綿に吸わせることで忙しいんだ。

「…無茶苦茶しやがって」

　カーテンを閉めて消えた保健医が呆れたようなため息を吐く理由は知らない。消毒液を染み込ませた脱脂綿で傷口を綺麗にして、薬は臭いが嫌いだから使わない。そのままガーゼを当てて、テープで固定。君が起きないと包帯が巻き辛いから腹に一撃。

「ぅぐ…ッ！」

　げほげほと咳き込んで、飛び起きた体。水に沈んだ緑が、僕に向けられる。

「ヒバリ…てめ、何しやがんだ！」

「動かないで」

　声を低くして言えば、君は素直に従う。段々と、僕は君の扱いが上手くなってきたようだよ。
　手を回して、少し強めに包帯を巻く。血を失って白くなった肌と、その髪に良く似合うと思う。僕の手当ての腕も、君のせいであがったね。

「なぁ隼人、おめーなんでこんな奴と付き合ってんだ？」

　カーテンの向こうから聞こえた声に、おとなしくしていた君が驚いて身を固くする。この男が気配を殺していたからって、気付かない君は相当鈍いらしい。

「こいつが勝手にイチャモン付けて殴ってくんだよ！好きで殴られてんじゃねぇ！」

　質問に対する答えには半分くらいしかなってないけど、そんなことはいい。君が気付いてうるさくなったから、ここにはもういたくない。

「じゃあね」

　椅子を引いて立ち上がると、シャツを掴まれて引き留められる。

「…待てよ」

「なに」

　うつむいている君の表情は、ここからは前髪に隠れて良く見えない。

「ぜってーやり返すから、首洗って待っていやがれ！」

　精一杯の虚勢で身を支えながら僕を睨み付けてくる君に、自然と笑みが浮かぶ。

「楽しみにしてるよ」

　手を払い、君に背を向けて保健室を後にする。まだ何か吠えてるみたいだったけれど、僕にはさっきの言葉で十分。何度折っても立ち上がって向かってくる君が、僕の小さな楽しみなんだ。



　屋上、応接室、どこがいいかな。

　

　

　君を血の海に沈めるのは。

　

　

　

　

　

自分で怪我させておいて優しく(？)手当てしてくれる雲雀さん
そしてDV馴れしてるごっきゅん

端から見たら心配にもなるよねー