「文句があるなら、咬み殺すよ?」

「げ……っ」

 自慢の息子に歯を立てる振りをして言われ、背筋が冷える。雲雀のことだ、やると言ったら本気でやりかねない。

「しないよそんなこと」

 汚いし、と呟かれても安堵で溜め息が漏れる。

「物騒なこと言うんじゃねぇよ」

 雲雀が離れた隙に取り敢えず上着で隠して、治まるのを待つ。

「君を咬み殺すくらい、いつでもできるからね」

 欠伸をしながら呟いた言葉を、聞き逃すことは出来なかった。

「そう何度もやられねぇよ」

「口だけは立派だね。生意気……」

「―――ッ!」

 上半身に掛けられた雲雀の体重に、あっさり押さえ付けられてしまう。軽いはずなのに、負けてしまうのはどういうことか。

「ここまで僕に反抗するやつは教師にも生徒にもいないからね。生意気な君には、特別にお仕置きをしてあげるよ」

 ご褒美の間違いじゃないかと勘違いするほどに妖艶な唇は魅力的で、蛇に睨まれた蛙が如く、喰われるまで動けなかった。

「……ん」

 容赦無い口付けに、このまま本気で喰われるんじゃないかと恐怖したが、それでも抵抗する気が起きないのは、色々と気持ち良いからだ。胸やら腰やらが密着して、細い脚も絡めるように擦り合わされて、体に掛かる重みすら心地良い。

「ヒバ、リ…」

 堪えきれずに腰を撫でると、唇に歯を立てて睨まれた。余計なことはするな、ということだろうか。しかし、素直におとなしくしてはいられない。

「まぁ、いいけど」

 不服そうながらも、俺が触るのをそれ以上咎めるわけでもなく、勝手に口付けを続ける。思考を奪われつつ、手は自然に背中から腰へと滑り、制止の言葉もないのをいいことに下着と共にズボンを脱がせてゆく。
 晒された白い脚を気にすることなく、雲雀からの口付けは止まない。こちらも負けずに舌を絡めても、すぐに絡め取られて主導権を握られた。

「――……ッ」

 雲雀が何を考えているかは想像も付かないし、自分もどうしてこうなったかはわからない。それでも、体は欲求に正直で、止められそうもなかった。

「さっきから君のが当たってるんだけど」

「仕方ねーだろ」

 密着している上に、雲雀が微妙に体を動かす度に余計な刺激が加わっている状況で、中途半端なままのそれがおとなしくしていられるわけもない。

「ふぅん」

 目を細めた雲雀の手が伸ばされ、それを捕えて、先走りに指を濡らす。

「お…」

 何をするのかと思えば、そのまま自分のそこを指で慣らしているようで。

「何してんだ……」

「こうしないと痛いでしょ」

 驚愕混じりの俺の問いに応えながらも雲雀は手を動かしていて、どうやら指が差し込まれているように見えるのだが、気のせいだろうか。

「でしょ、ってなぁ……」

 本気なのか問い正すこともできず、居心地の悪い特等席でそんなものを見せられていてはたまらない。

「こういうことは俺にやらせろよ」

 浅くそこを弄っていたらしい手を取り上げ、代わりに自分の指をそこにあてがう。

「痛いのは嫌だからね」

「おとなしくしてりゃ痛くなんてしねぇよ」

 自信はなかったが、思ったより濡れていたそこは中指一本を抵抗無く受け入れた。中は存外に熱く、拡げようと動かす度にきゅうきゅうと指を締め付ける。

「こんなきつくて入るのかよ……」

「君、したことないの?」

 呟きを聞き咎められ、すかさず揶喩するように言われた。

「うるせぇ」

 反論できず、慣れぬ手付きでそこを弄っていたが、雲雀の手にそれを離されてしまう。

「じゃあ、動かないで……」

 膝を立てた雲雀が体をずらし、さっきまで自分の指が入っていたそこが、自身の先端に擦り合わされる。

「無理すんなよ」

 ぞくぞくと期待に体が色めくが、精一杯余裕ぶって囁く。腰を支える手に僅かな動きが伝わってきて、雲雀が自分の体にも容赦無いことを知らせた。

「……ん」

 ゆっくりと、きつくて熱い感触が進む。雲雀は小さく呻いたのみで、俺の肩口に顔を伏せたまま声も出さずにいた。

「入った、か……?」

 根本付近まで熱く包み込まれた感覚があり、先刻までよりも雲雀の肌と密着している気がする。

「まだ、これからだよ」

 唇の端を上げた雲雀が僅かに腰を浮かせれば、それだけでそこが絞め上げられ、全身に染み入るような快感が襲う。

「わかったぜ……覚悟しろよ」

 腰を抱え、軽く下から突き上げてみると、雲雀の体が小さく跳ねる。繰り返し揺さぶると、相手の息が少しずつあがってくるのがわかった。こちらも想像以上の快楽に流されそうになりながら、限界の行き処を探していた。

「は……」

 雲雀ののけぞる喉に舌を這わせ、吸い付いて痕を残す。腰を押さえ付けるように深く犯せば、咬み殺されるほどの強い締め付けが襲った。
 濡れた音が静かな応接室に響く。まるで他のものの気配を感じないような濃厚な接触に、脳がいかれそうだった。

「ヒバリ……っ」

 憎むべき相手のように苦々しく名を呼んで、限界を知らせる。密着した肩で、雲雀が小さく頷いたのを感じたような気がして、お互いを高めるような激しい突き上げを始める。

「……ん、……っ」

 雲雀が息を飲み、下腹部に力を入れる。と、今にも暴発しそうな自身が奥にくわえこまれたまま動かせなくなった。

「このまま、いくぜ……っ!」

「……いい、よ」

 口付けを受けて雲雀を見上げ、熱に溶かされそうになりながらそのまま、最奥に全てを吐き出した。

「……っ……」

 衝撃を受け流すように白い体がのけ反り、飛沫を飛ばして小さく震えると力を失ったように倒れ込んできた。

「終わったか……」

 安堵の溜め息を付くと、雲雀が嫌な笑みを浮かべる。

「一回で終わり?僕はまだ満足してないよ」

 くっと締め付けられ、またそこが熱を持ち始めるのが分かる。

「まだすんのかよ」

「弱音を吐いても許してあげないよ」

 

 

 結局雲雀の気が済むまで付き合わされ、食われる、ということを体感した気がする。
 するだけして、帰って良いよと放り出されたのはすっかり日が暮れてからだった。

「気が向いたらまた肩を揉ませてあげるよ」

 応接室の主は、そう言って扉に鍵を掛けた。

「そりゃ、光栄デス」

 ぐしゃぐしゃになったシャツを適当に整え、俺は帰路についた。

 暗くなったいつもの道を一人で歩いていると、あまりの現実味のなさに、さっきまでのことが夢だったように思えてくる。けれど、この手に感じた体温は確かにあいつのもので、手に残る柔らかい髪の感触や、首筋に触れた吐息も忘れられそうにない。

 雲雀が何を考えているかは相変わらず分からないが、あいつは気まぐれだから仕方ない。とりあえずは余韻に浸りながら、今日は寝ることにしよう。

 

 

 

 

 


初えち話

ごっきゅんの方からは何も出来ないといい
へたれ万歳

精神的な進展はものすごく遅いと思う
獄寺の鈍さが原因だけどなー