捕食者
「…ん、…っ…」
細い腕が首に巻き付き、しっとりと濡れた肌が寄せられる。自分の下にある白い体を揺すり上げながら、俺は快楽の縁で理性と戦っていた。
もう少し、ぎりぎりまで耐えるつもりで、支えた腰を引き寄せる。
「……ッ!」
偶然良いところを捉えたか、雲雀が体を反らし、それと同時にくっと締め付けられた。
「ちょ…っと、待て…っ」
すでに限界間近だった俺は、それだけで我慢しきれなくなりそうだった。けれどそんなことを言っても止められるわけでもない。
「!…待…ッ」
雲雀が気付いたときには手遅れで、抱え上げた体の最奥に叩き付けるように全てを吐き出していた。
「早すぎ」
乱れたシーツに黒髪が広がるのをぼんやりと眺める。そのまま息が落ち着くまでのつもりで抱き締めていると、雲雀がぽつりと呟いた。
「…仕方ねぇだろ」
気持ち良すぎるのも問題だ。決して俺が早いわけじゃねぇ…と思う。
「君の好きにさせると僕が満足できないんだよね」
「おめーは俺をいじめて遊んでるときが一番楽しそうだからな」
雲雀が不満そうに溜め息をつく。俺だって、もうちょっと何とかならないかとは思ってるが言えるわけもなく、責任転嫁で誤魔化した。
「良くわかってるね」
ほら、目の色が変わる。俺にされてるときのつまらなそうな顔とは大違いだ。
「てめーはわかりやすいからな」
自分主導でないと気が済まない性格なのは知ってるし、趣味が悪い、というか変な嗜好なのもわかってる。それに付き合ってる俺もどうかと思うが、こいつに嵌められてるような気がしないでもない。
「君ほどじゃない」
「――っ…」
くっと締め上げられ、自然とまたそこに熱が集まるのがわかる。雲雀は表情も変えずに体勢を変え、俺の上に馬乗りになる。
「今度は、僕の好きにするよ」
そう言って笑う雲雀は本気で楽しそうで、その顔を不覚にも綺麗だと思ってしまう自分は馬鹿だと思う。
降りてくる唇を受け入れて、髪に触れながら舌先で唇を割る。侵入した先で触れ合った舌に絡め取られるようにして、口付けはより深くなった。
「ん…っ」
ゆっくりと雲雀が体を揺らすと、それだけでじわじわと快感が駆け上がってくる。重なった体重さえ心地良くて、毒に酔わされるように理性を奪われた。
苦しげに口付けながらも雲雀は良いところを探すように深く腰を落とし、その度に肩を震わせて奥のものを締め付ける。
「ヒバリ…」
目が合うと、雲雀はそれは綺麗に笑った。捕食者の笑みというやつだ。
「…っ……」
ゆっくりと確実に体は限界へと連れていかれる。だが、解放の縁へと手を掛けた瞬間に、何度も引き戻された。
「まだ、だよ…」
「…早く、しろよ」
俺の乱される様が面白いのか、雲雀は俺を見下ろしたまま動きを止める。その間も内部は誘うように締め付け、先端が奥に当たって刺激されているのだから性質が悪い。
「…まだ、足りない」
肉食動物さながらに飢えた目をした雲雀が、唇を重ねてくる。普段ストイックな姿しか見ないだけに、その落差に眩暈がした。
舌に口腔内を探られ、歯の裏側をなぞられる感覚に肌が粟立つ。恐怖に近い快楽に体が支配されそうだった。
「ん、む…」
文句は言葉にならない。呼吸ごと閉じ込められたそれは、雲雀の唇に奪われていく。そのまま、息が止まるような激しさで舌を絡められながら、揺らぐように動きが再開された。
「――…ッ」
目を閉じると、与えられる刺激に脳髄が焼き付きそうな幻想に捕われて消えない。雲雀の内部の熱と自分の解放されないままの熱が、擦れ合うほどに電気的な刺激を生み出していく。
「…ん」
かり、と唇に歯が立てられたかと思えば、濡れた目を細めた雲雀と視線がかち合った。限界が近いのか、細い肩が震えている。
「もう、いいだろ…っ」
「――ッ!」
腰を掴んで奥を抉ると、白い体が跳ね上がる。眉を寄せて快感に耐えるようにしながら、その体は愉悦に浸るように深く誘い込んでくる。
「ふ…く、ぅ…っ」
何度も突き上げ、噛み締められた唇から声を暴こうとするが、強情に堪えられて隙間から漏れる息しか聞き取ることはできない。それでもその体が反応していることは事実で、それに取り込まれるように俺も抜け出せない。
「ヒバリ…っ」
揺すり上げる度に強く弱く締めつけられ、暴発しそうになるのを辛うじて繋ぎ止めた。まだ、もう少しと駆け上がって、意識が飛びかけるほどに追い詰められる。
「……、ッ…」
唇が降りた瞬間、視界が白くはぜた。
「――ッ!」
息を止め、雲雀の中に全て叩き付けると同時に、雲雀も体を震わせ、声にならない声をあげて果てた。そのまま力の抜けた体が預けられ、汗に濡れた肌が触れるままに抱き締める。
肩口で、雲雀が息を落ち着かせるように繰り返す呼吸の音が聞こえる。髪に指を絡めれば、しっとりと濡れた感触がした。
動かないところを見ると満足したのだろうか。それとも、ただの小休止か。自分に体力がない自覚はあったが、雲雀のそれは正直底が知れない。するだけして、平気で立ち上がって応接室から俺を蹴り出したことすらあった。
「…もう、いいか」
「……ん」
返事は、もう色の欠片もない。眠気に捕われたゆるい声で吐息混じりに応えられ、苦笑が浮かんだ。今日は、もう終わりらしい。後は雲雀が起きるまで布団になっていてやればいい。
「…このまま、か…?」
変な気を起こせば寝起きの悪い雲雀に咬み殺されるだろう。かといって、下手に動かすわけにもいかない。
「仕方ねぇか…」
このまま、自分も寝るしかない。動かさないように手を伸ばして、毛布を引き寄せる。雲雀の髪に触れながら、自然と溜め息がこぼれた。
俺で雲雀が満足するのなら何度でも付き合ってやるが、その気まぐれに振り回されるのは正直厳しい。なんか、試されてるみたいじゃねーか?
耳の側で規則正しい寝息が紡がれるのを聞きながら、起こさないよう慎重に息を吐いた。
それでも、こうして触れ合っていればどうにも離れがたい。まるで性質の悪い罠のようだ。
「…ヒバリ」
髪に触れながら呼べば、僅かに身じろいだようで、体に掛かる荷重の位置がずれる。「おやすみ」
癖のある髪に口付け、俺も目を閉じた。
明日が来るのが怖いと、こっそり感じながら。
えろを書こうと思ったら、ほんとにやってるばっかりな話になった…
襲い受な雲雀さんとへたれ獄でいいよ