中学生獄寺+10年後雲雀 空白の13日間捏造

 

 

 血と消毒液の味

 

 

 全身を包む痛みの中、何度か意識は上昇と下降を繰り返し、眠りとも言えないまどろみの中にいた。

 傍らに黒い影がいることに気付いたのはいつ頃だろうか。片目を辛うじて開ければ、そこには彼の姿があった。

「ヒバリ…」

 乾いた喉のせいで思ったより掠れた声はそれでも届いているらしく、雲雀がすっと目を眇めた。

「久しぶりに見た顔だけど、また傷だらけだね」

「……うっせぇ」

 姉が現れたせいで俺が前後不覚に陥る前、病室に雲雀が顔を出した時に気付いたけれど、10年経っても雲雀は雲雀で、ちっとも変わっちゃいなかった。いや、さらに手に負えないくらいには強くはなってんだろうが。

「気に入らないな、僕の所有物に勝手に傷付けるなんて」

 そう呟く雲雀の目は混じり気のない本気で、俺を睨み付けている。

「君が死ぬのは構わない。でも、僕の縄張り以外にしてくれる」

 不機嫌さを張り付けた瞳は切るように鋭く、ナイフのように俺の命を削り取っていくようだ。

「…俺の命は10代目のもんだぜ。どこで死のうと俺の勝手だ」

 ふと、雲雀の表情から鋭さが揺らぐ。伸ばされた手は、喉を押さえ、肩口を覆うように触れてきた。

「君の命を誰にあげてもいい。でも、この体は僕のものだよ」

「――ッ…」

 包帯の上から抉るように爪を立てられ、息が止まる。

「ねぇ、君を壊すのは僕なんだから、他の誰にも壊されないように強くなってよ」

 我儘で自己中心的な口ぶりは変わらず、けれどずっと不愉快さを滲ませていた。

「言われ、なくても…っ」

 与えられた拷問の末に自分が守れたものは沈黙しかなく、他の何ひとつも守ることはできなかった。時代の違いとかそんなもんじゃなく、力が足りないのだと痛感させられていた。

「10代目から聞いたぜ。またお前に助けられたんだってな…」

「違うよ。僕は風紀を汚す奴が嫌いなだけ」

「は…てめぇらしいや…」

 息をする度に喉が引き攣る。きっと雲雀は全てを見ていて、あの時俺が命乞いでもしていたら見捨てていたか、横から止めを刺すかしていたんだろう。でなければ、意識を失うほどの打撃を与えられた後、命を奪われるまでの間に助かっているとは思えない。

「…やっぱりてめぇはここにいたんだな」

「違う。連絡が来たから戻ったんだ」

 眉を寄せるその姿は、変わっているようで本質のところは何ひとつ変わらず、大切なものにも変わりはなさそうだった。その雲雀の手は、俺の知っている雲雀と同じで、少し冷たい。

「そ、か」

 包帯が暴かれていくのを止めることもできず、雲雀の思うままにさせておけば、首筋の傷口に爪を立てられる。

「……ッ」

「綺麗…」

 雲雀の舌がそこに触れ、流れる赤い雫を舐め取る。猫のように、何度も、何度も。

「ほんと、てめぇは血が好きだな」

 辛うじて塞がっていた傷が、あちこち抉られていく。雲雀の苛立ちを示すように立てられた歯、正確に傷を上からなぞっていく爪が、痛みに麻痺した神経を目覚めさせた。

「、っ…」

 布団を剥がされて、端から包帯を解かれ、傷口を晒されるたびに痛みを与えられる。

「ヒバリ…ッ」

 今更体を見られることに羞恥はないが、それよりも固定されている左手まで雲雀の指が届いて、背筋が冷える。

「なに」

 丁寧に、かついい加減に包帯が解かれた。ギプスすらも、乱暴に外されてしまう。

「もう、いいだろ…」

 雲雀が自分の玩具だと言い張る俺が壊されて、面白くないのだろうことはわかる。かといって、これ以上傷を抉られれば今後に支障をきたしかねない。

「まだだよ」

「ぐぁ…ッ!」

 ベッドに乗り上げた膝が、体重を掛けて左手の指を押し潰す。

「君が僕のものだってことを、体に教え込むんだ」

「こ…の、サド野郎…ッ」

 残酷な言葉を口にして、綺麗に笑うから手に負えない。鎮痛剤に散らされた痛みに耐えながら悪態を吐けば、それこそ悪魔のような笑みを浮かべる。

「聞き飽きたよ、それ」

 10年の間に何度俺は傷を作り、何度それを雲雀の手で書き換えられるのか。想像もしたくない。
 長い指が首筋に掛けられて、喉仏を圧迫される。

「く……っ」

 そんな顔をするな。俺の上に馬乗りになって首を絞める雲雀は、まるで情欲に溺れた目で見下ろしてくる。

「君が動かなくなるまで、付き合って貰うよ」

 辛うじて動いた右手で雲雀の手の甲に爪を立てても、圧迫する力は緩まない。気道も、頸動脈も押さえられ、視界が白く瞬く。

「ぁ…ッぐ…ぅ」

 口を動かしても、飲み込めない唾液が顎を伝うばかりで、酸素を取り込めない。

「細い首、折れそうだね」

 雲雀の声すらも遠くに聞こえる。意識が闇に落ちそうになった頃、別の痛みに急速に引き戻された。

「ぐ…、ァ…っ」

 腹部を体重を掛けた膝に押し潰され、胃液が逆流する。頭の中で信号が点滅するように、危険を示していた。
 ふと、全てが解放され、急激に吸い込んだ息にむせ返る。吐気も催して、何度か顔をシーツに押し付けて咳き込んだ。

「苦しい?」

 髪を掴んで上を向かされ、顎を舐め上げる舌に唇も割られた。切れた唇を尖る歯に責め立てられ、血と吐瀉物が混じる味に、悪い意味で眩暈がする。

「あ…たりめーだろ…」

 唇が離れ、冷たい目に視線を合わせる。

「その方が生きてる感じするでしょ」

 真面目な顔で呟く雲雀に、それまでされたことへの抵抗もなく、苦笑が浮かんだ。

「ばーっか…そーゆーときは、こうすりゃいいんだよ」

 首の後ろに回した片手で引き寄せ、ぎこちないながらも抱き締める。

「生きてる音、すんだろ」

「そうだね…」

 少し短くなった雲雀の髪が、肩に触れる。背中に回された手に、ようやく安堵の息を吐く。俺はこいつに、こんなこともずっと教えられずにいたのか。

「あんなことしなくたって、俺はおめーのもんだぜ」

 10代目に捧げた命以外はな、と言うと、雲雀の苦笑まじりの吐息が触れる。

「…君が逃げなければ、僕は気の狂うような殺人衝動に捕われずに済む」

「なんだよ、それ」

 顔を見ようにも、肩に押し付けられて叶わない。仕方なく、髪に触れる。柔らかい髪は確かに雲雀のそれで、10年の流れなんて実感がわかない。けれど、こいつはそれだけ俺の知らない部分を持っているんだ。

「ヒバリ…」

 俺が大人なら、もう少し強く抱き締めてやれただろうか。

「ん」

 ぞくりとして、思わず声が漏れた。雲雀の舌が、いきなり鎖骨を舐めている。

「…ちょっと待て!」

 襟首を掴んで引き離せば、眉を寄せ、目を細める不満そうな顔が見えた。

「なに」

「いきなり何してんだてめぇ!」

 状況とか、俺の怪我とか、考えてねぇのか!

「何って…」

「しなくていい!」

 実践しようとする雲雀をもう一度引き離して、睨みつける。怪我人の体力を消耗させてどうするっつーんだ、こいつは。

「抵抗されると余計にしたくなるよ」

「しなくてもすんだろーが…」

 まずい。雲雀がその気になったら今の俺なんかじゃ止められそうもねぇ。獲物を狙う目に見つめられて、背中に冷や汗が滲む。

「久しぶりの小さい隼人が血まみれで美味しそうなのに」

「ちっせーとか言うな!」

 俺だって、大人になった雲雀にどきどきするし、少しは悪い考えも浮かぶ。でも、そういうことするのは、なんか気が引けるっつーかそんな感じがある。

「……?」

 ふと雲雀の左腕に触れたとき、違和感があった。

「おい…怪我してんじゃねぇか!」

 黒いスーツのせいでわからなかったが、そこだけ不自然に服が破け、血の乾いた跡がある。

「…忘れてた」

「忘れんな!上着脱げ、見せろ」

 右手で襟を掴んで言えば、不満そうな顔ながらも雲雀は俺の上から避けて隣に座り、上着を脱ぐ。白いシャツが血で赤黒く染まって、時間が経ったせいか乾いて肌に張り付いている。

「っかやろー…ちゃんと手当てしろよな」

 あの敵と戦った時に負った傷だろうか。雷の炎が体を裂く痛みは何度か味わったけれど、自分よりも雲雀が怪我をするほうが痛いのは、きっとこいつが痛いと思わない分だ。

「血は止まった」

「消毒しねぇと腐って落ちるぞ」

 シャツを切り裂いて、張り付いた布を剥がせばまた血が溢れてくる。野生動物でもあるまいし、ほっといたらそのままかよ。

「舐めて」

 差し出された腕に、自然に唇を寄せる。雲雀が傷を負うことは滅多にないけれど、この倒錯的な行為は、逆にこいつと俺の日常のようになっていた。

「駄目だ、止まんね」

 口を離し、血に濡れた自分の唇を拭おうとすれば、雲雀にそれを奪われる。俺の口から舐めるなら、自分ですればいいのに。

「手当ては自分でしろよ」

 そう言って、自分も怪我人だったことを思い出す。横になった体のあちこちから痛みがぶり返して、眉を寄せた。

「ついでに、俺のもな」

 失血でくらくらする頭を枕に押し付け目を閉じた。沈んでいく意識の中、僅かに感じたのは嗅ぎなれた消毒液の匂いだった。



 きっと、今度のキスは、血と消毒液の味がするに違いない。

 

 

 

 

 


包帯まみれで病室で横になってるごっきゅんのえろいことといったら…!
精神的にも肉体的にも傷つけられて、それでも心までは屈しない隼人がいいんです

小さい隼人が精一杯背伸びして頑張ってたら
大人雲雀さんは咬み殺したくなって仕方ないと思います

とりあえず、所有物にはマーキングを忘れずに
ごっきゅんはDV慣れしすぎだ