むっくとごっきゅん

 

 

「ヒバリー」

 最近、用もないのにここ、風紀委員長の根城、応接室に顔を出すようになっていた。別に、あいつがいようといなかろうとどうってわけじゃないが、声を掛けながらドアを開ける。
 そこにはいつもの嫌そうな顔をするか寝ているかしている雲雀はいなかった。

「クフフ…彼はいませんよ」

「っ!てめぇ…六道骸!」

 見慣れたはずの部屋の中に、怪しい気配を漂わせた男が一人、立っている。それだけで別世界に連れ込まれたような違和感に五感が支配された。

「そう警戒しないで下さい。僕は敵対するためにきたわけじゃありません」

「信じられるか!!」

 よもや雲雀のいない隙にこの部屋に入り込むとは思っていなかったが、会ってしまった以上自力で対処しなければならない。奴は、10代目の体を狙っているのだ。
 後で雲雀に怒られるかもしれないが、部屋を荒らす心配をしていられる状態じゃなかった。早さ重視で、数本のダイナマイトを放り投げた。続け様に爆発を起こす様子を見ながら次弾を構えるが、爆煙がいつまで経っても晴れない。

「……ッ?!」

 突如、煙の中から気配なく伸びてきた手に首を掴まれた。

「血の気が多いところは変わりませんね」

「く…そ…ッ」

 手にしたダイナマイトは火が点けられる間もなく床に落ちる。首を押さえられているだけで、全身に力が入らない。

「そんなことでボンゴレ10代目を守れるんですか?」

「…!!」

 まだ俺は諦めちゃいねぇ。リストバンドからチビボムを手の平に落とし、火が点いたそれを親指で骸へと弾いた。

「おや?」

 自分も身を守る術はないが、このままやられるよりはずっとましだ。

「――ッ!!」

 爆風で背後のドアに叩き付けられ、息が詰まる。崩れ落ちて床についた手は、まだ動きそうだった。

「これでは、話はできそうにないですね。彼の話でもと思ったんですが」

 煙の中、骸の姿が揺らぐ。確かめるように瞬きするうちに、影のように掻き消えた。

「幻覚…?!」

 気付けば、応接室の内装にも、自分の体にさえも爆発の影響はなくなっていた。最初から、騙されていたのか。

「なにをしているの」

 突然後ろから掛けられた声に背筋が凍る。

「ヒバリ…」

 先刻したたかに背を打ち付けたはずのドアは、俺が部屋を訪れたときのままに開いていた。そこに立つ雲雀の足が見える。

「今、あいつが…」

 床に手をついたまま雲雀を振り仰げば、冷ややかな視線に刺された。言ったからといって信じて貰えるとは思えないし、面倒なことになりそうだった。

「なに」

「……何でもねぇ」

 首を振り誤魔化すが、腹の中に残る黒い靄は消えない。骸は、彼の話でもと言った。彼とは10代目のことか、それとも――

「邪魔だよ」

「いてっ」

 雲雀の足に蹴り転がされて、そのまま床に身を預けた。精神的な疲労が体まで蝕んでいるようだった。
 俺が心配しなくても、雲雀は強い。もし骸に狙われるようなことになっても自分の身くらい守れるだろう。それより、自分がまた操られでもしたら、10代目の身が危ない。

「くそ…ッ」

 床に毒づいても仕方ないが、他に何もできない。

「いつまで転がってる気?目障りだよ」

「……うるせぇ」

 こうして考えること自体、思考があいつに支配されているみたいで腹が立つ。
 床に額をつけて盛大に溜め息を吐けば、雲雀の足が背中に踏み下ろされた。

「うざいよ、君」

「悪かったな」

 いっそのこと雲雀と喧嘩していた方が気が紛れるってもんだ。

「ヒバリ」

「なに」

 血の匂いのする日常に心の平穏を求めるなんておかしいかもしれないが、それでも今のぬるま湯に浸るような生活は捨て難かった。

「コーヒーいれて」

「僕がいない間に勝手に部屋に入っておいて何言ってるの、君」

「ッ…てぇ!手加減しろよなお前!」

 脇腹を蹴り上げられて、俺はたまらず飛び起きた。容赦の無い蹴りはまさに雲雀のもので、そんなことにも不意に安心してしまう。

「飲みたいなら勝手にすれば」

「…ちっ」

 それだけ言って、雲雀はデスクに向かってしまう。許可が出ただけよしとするか、と思うと妙に笑いがこみ上げてくる。

「お前の分もいれるからな」

「いらない」

 予想していた回答を受け取って、コーヒーを淹れに行く。どうせ不味いと文句を言われるのはわかってるが、そうしたい気分だった。
 雲雀といて安心するなんて妙な感じだけど、不思議と悪い気はしなかった。機嫌次第で命を奪いかねない針のむしろだって、慣れちまえばどうということはない。
 適当にインスタントコーヒーの粉末を入れたカップにいい加減にポットの湯を注いで、両方にミルクふたつと砂糖ひとつを入れて混ぜる。立ち上る湯気を眺めながら、また溜め息が零れた。
 何も考えるな。首を振って思考を払い、熱いカップに手を掛ける。

「コーヒーはいったぞ」

 眉を寄せる雲雀に、カップを差し出す。

 悪夢は、悪夢のままでいい。
 今は考えず、忘れ去るだけだ。

 

 

 

 


たまに骸さんが現れたりしてもいい

ちょっかいかけてますが、6959でも6918でもありません
むしろ2769のが好みだったり(また茨の道)

どう考えても後半の獄ヒバいちゃいちゃが意味無く長すぎでした