10年後獄ヒバ捏造
残酷な恋人
「また煙草…」
「仕方ねぇだろ」
それでも、ベッドの中の恋人に遠慮して、端の方で火を点けた。
「施設内全部禁煙にすればいいのに」
まだ眠いのか、溜め息に欠伸が混じったような呟きに苦笑を返す。
「公共の場所は禁煙にしてあるだろ。プライベートな空間でまで禁止されたらたまんねぇよ」
ガキの頃からの習慣はなかなか消えず、何度殴り倒されても止めることは出来なかった。もちろん武器との関連もあるが、こいつにそんなことを言ったって聞くわけもない。
「本数も減らないし」
「昔よりは減ったぜ、これでもな」
口いっぱいに煙草を銜えて火を点けるなんてことは今はしないし、最近は意識して減らしてもいる。
「…ああ言えばこう言う」
「そっちこそ飽きずに文句言ってるだろうが」
くわえていた煙草を弾き飛ばされたことは数えきれない上に、その後に手痛いおしおきを食らったことだって星の数だ。
「やめない君が悪い」
「いいだろ、吸っててもちゃんと身長伸びたぜ」
中学の頃はいつも見上げてたこいつにいつのまにか追い付いて、気付いたときには追い越していた。
「僕はそんな心配してない。君の煙が僕の体を蝕むんだよ」
身長の話をすると、いつも決まって俺のせいになる。自分の身長には拘りがなくても、俺に負けたという事実が気に入らないんだろう。
「んなことねぇだろ」
布団から半分だけはみ出た髪を、手を伸ばして撫でる。少し短くなった髪はそれでも柔らかく指に絡んだ。
「僕は将来肺癌で死ぬんだ」
「馬鹿言うな。お前が俺より早く死ぬなんて想像できねぇよ」
煙草を灰皿に押し付けて、布団ごと恋人を抱き締める。いつかの話にしたって、こいつがいなくなるなんて考えられないし、自分の方が先に死ぬもんだと思ってる。
「じゃあ、禁煙」
「無理だな」
口寂しくなった代わりに、唇を重ねる。久しぶりの逢瀬を文句で潰そうとする恋人の口を塞いで、肌を探って布団の内に手を滑り込ませた。
「我儘だよ」
「どっちがだ」
応えるように首に回された腕に引き寄せられ、そのまま遠慮なく溺れることにする。
「小さいままの方が可愛かったのに。重いよ、今」
「うるせぇ、お前こそちゃんと食わねぇから細いままなんだよ」
不要な肉の付いていない体、くっきりと浮かぶ鎖骨に軽く歯を立てる。
「うるさい。咬み殺すよ」
後ろ髪を引く手は本気じゃないが、その気になれば俺なんて敵わないくらいにこいつは強い。それは10年前と変わらず、俺はいつもこの背中を追い掛けてきた。
「好きにしやがれ」
首筋や肩に咬み痕を残されるのは今更だ。服を着れば誰かに見られることもない。
「生意気…」
がじ、と肩口に噛みつかれて、そこを舌が這うだけで俺は煽られた。俺とこいつはこんなところが正常ではないかもしれないと苦笑が浮かぶが、悟られないように首筋に顔を埋めた。折角乗り気なときに水を差してお預けになるのはごめんだ。
「恭弥」
髪から僅かに覗く耳に唇を寄せて、小さく名前を呼ぶ。
「…ん、なに」
お互い欲に溺れた振りをして、体に触れ合っている。白く細い指が髪を梳くだけでやたらと欲情した。
「……しようぜ」
喉が詰まるような錯覚に脅えながら、誤魔化すように笑った。もう少し理性を簡単に手放せたら楽だろうといつも思っていた。けれど、全てのしがらみを捨てることが出来ない俺がそれを望むことは許されなかった。
「いい、よ」
仰のいた白い首に、痕の残る接吻をし、細い体の全てを晒させても躊躇いはない。
恋人、というには血生臭すぎて、ライバルと言うほど想い合ってもいない俺たちは、どんな奴でも寄り添えない歪な形同士、肩を寄せ合っていた。
「隼人」
早く、と急かすような目に誘われるままに、脚を抱え上げて深く繋がる。
体を暴かれながらも何よりも綺麗に笑うこの男は、他の誰でもなく残酷な、俺の恋人だった。
10年後、恋人ルートを通った場合の獄ヒバ
研究施設とボンゴレアジトの間は
雲雀さんは専用猫扉で行き来してるといい