透明人間
退屈な午後、ふと思い付いた言葉が口をついた。
「透明人間になれたら幸せだろうね」
「何だそりゃ、物騒な話だな」
ソファの隣で煙草を吸っていた君が、僕の呟きを聞き咎めて呆れたようにこちらを見る。
「なんで物騒になるの」
失礼な。君らしい無遠慮なもの言いも考え物だよ。
「てめーが見えねぇといつ咬み殺されるかわかったもんじゃねぇからな」
「君はいつ死んでも良いように覚悟しておけば」
こうして君の目を覗き込んだときに映る黒が邪魔だというのに、君にはわからないだろうね。
「……そういや、透明人間は網膜まで透明だからものが見えねぇって説もあるぜ。他人からも自分からも何も見えねぇって…」
それって寂しくねぇか、と呟く君の目には僕の色が映っていて。
同情しているの。君は相変わらず馬鹿だね、本当になるわけもないのに。
「じゃあ、ならないよ」
「っ…だよな!」
一言で表情が明るく変わる。単純だと思いながらそれを見ている僕も、単純なのだろうか。
「君を咬み殺しても見ることができないんじゃ、楽しみが半減するからね」
「てめ…ッ!言うに事欠いてそれかよ!」
「同情して損した?」
「!!しねぇ!そんなんぜってぇしねぇからな!!」
真っ赤になってわめきたてるのは、図星の証拠。そんなにわかりやすいくせに、自分ではわかってないのは何故だろうね。馬鹿だからかな。
「君が透明人間になったら、包帯でぐるぐる巻きにしてあげるよ。どうせいつも包帯だらけだし」
「ファラオはもういいっつーの!てめぇこそ、透明になっても学ラン羽織っとけよ」
「ワオ、裸に学ラン?」
「そーゆー意味じゃねぇッ!!」
君が透明人間になって寂しくめそめそ泣いてたら、僕が見付けて印をつけてあげるよ。
そうすれば、僕も君も安心でしょ?
透明になるなんて非現実的で下らないことだけど、そんなことで不安になる君が、馬鹿で可愛い。
そう思う僕もかなり君に毒されて、馬鹿になってしまっているのだろうね。
雲雀さんがごっきゅん好きすぎて唐突に変なこと言い出して困る
目とか髪とか好きなんだろうな
透明な生物って真っ暗な洞窟の中とかにいたりするから
やっぱり目は見えないんだと思う
必要ないからね