青空 屋上 コンクリート

 

 

 今日はやたら天気が良い。授業中に野球バカが居眠りしてるのはいつものことだったが、暖かいせいか10代目も船を漕ぎかけていた。何でも昨夜、リボーンさんにしごかれた後遺症とかで寝不足でいらっしゃるらしい。
 俺は、昨日することもなくて早めに寝ちまったせいか、退屈な授業でも眠気が襲ってはこなかった。

「しゃーねぇ」

 席を立って、煩い教師を無視して廊下に出る。煙草でも吸いに行くか、と足は自然と屋上に向いていた。

 

 

 

「げ」

 屋上へ出る鉄の扉を開ければ、そこには先客が横になっていた。
 緩やかな風が黒髪を揺らし、一般の生徒とは違う制服に包まれた手足は無防備に投げ出されている。

「寝てんのか…?」

 起こさないように離れたところから顔を覗けば、雲雀は気持ち良さそうに眠っている。こうして見るといつもの毛を逆立てた猫のような表情とは全然違う。本人には気付かれてはいないと思うが、俺は雲雀の寝顔を見るのは嫌いじゃなかった。

「天気良いもんな」

 応接室に篭って書類と睨み合ってるより、日を浴びながら眠った方が良い選択だと思う。とりあえず邪魔しないように風下のフェンスに背を預けて、煙草に火をつけた。
 吐き出した煙は青い空に登り、ほどなく風で散っていく。不思議とこうしている時間はなにもしていなくとも退屈とは思わなかった。思考は立ち上る煙のように浮かんでは消え、口寂しいこともないからだろうか。
 目を閉じても青空が焼き付いたように瞼の裏に広がる。背中に浴びる陽光は暖かくて、気持ちまでほんのり温めるようだった。

「……またタバコ」

 突如聞こえた声に目を開ければ、雲雀が体を起こして目を擦っている。

「っと…悪ィ」

 風向きが変わって煙が流れたらしい。それだけで起きたのかわからないが、慌てて煙草を踏み消す。

「これで文句ねぇだろ」

「…ある」

 目を何度も瞬かせ、不満そうに柳眉を寄せてこちらを睨んでくる。煙草嫌いにしても、敏感すぎると思う反応だ。

「目に沁みるんだけど、煙」

「大丈夫か?」

 近付いて隣に膝をつき、覗いてみれば長い睫毛が濡れているようで、不覚にも心臓が大きく跳ねた。
 こちらにに向けられた目がすっと眇められ、不機嫌さを表している。

「少しすれば治まるよ。それより」

「――っ!」

 ネクタイをぐいと掴んで引かれ、バランスを崩して床に手をつく。それに構わず首を絞めるように引き上げられ、雲雀の端正な顔が間近に迫る。

「吸うなって何度言ったらわかるの」

 睨む眼光は鋭く、けれど濡れて滲んでいて。気付いたときには唇が触れていた。

「…ってぇ!」

 後頭部に打ち下ろされた一撃で、床に叩き伏せられる。

「死んでいいよ、君」

 ゆらりと立ち上がった雲雀の足が、すっと頭の上に持ち上げられる。

「――ッ!!」

 殺気を感じ、転がって逃げようとしても避けきれず、靴の裏とコンクリートの床に頭を挟まれた。

「何度言っても理解できないような頭は潰した方がいいね」

「だから悪ィって!」

 力が入るとギリギリと頭蓋骨が痛む。それだけじゃなく、床に擦れた耳も痛い。

「吸うなと言ってるんだよ。それに何、さっきの態度は。怒られてる自覚ないよね」

 怒気の篭った雲雀の声はいつも以上に低く、地獄から響いてくるようだった。

「あれは…つい」

 つい、何だ?潤んだ雲雀の目を見てたら、無意識にそうしていた。意味なんてあるわけもない。

「つい?」

 見下しながら、雲雀の足から力が抜けることはない。そろそろ何処かが壊れそうだ。

「したかったからしたんだよ、悪ィか!」

「悪いね」

 どうにでもなれと言い捨てると、ようやく解放された、と思うが早いか腹を思い切り蹴り上げられた。

「ぅぐ…っ!」

 靴の先が食い込んだ辺り、胃の中のものが逆流しそうになり、そのまま咳き込んだ。目の前がちかちかして、うまく見えない。
 陰が落ちたかと思うと、雲雀の手が懐を探って煙草とライターを奪っていく。

「没収」

 いつものつまらなそうな声の中に楽しそうな響きがあるのが分かった。この、サド野郎が!

「待てよ…」

 そのまま屋上を去ろうとする雲雀を呼ぶ声は、弱くしか出ない。

「返して欲しかったら、応接室においで」

 立ち止まり振り返った雲雀は、ぞっとするような笑顔を残し、扉の向こうへと消えた。

「…くそっ」

 動かない体に何とか力を入れ仰向けに寝転がると、気持ち良かったはずの晴れわたる空が憎らしく見える。
 痛む腹に手を当てて目を閉じれば確かに昼寝日和で、このまま寝てしまえれば幸せかもしれない。けれど、頭の中は自分に対する疑念が渦巻いて、痛みよりもはっきりと意識を覚醒させていた。

「何でだよ…」

 雲雀に触れたのは初めてじゃない。それ以上のことだってしているのに、何故か唇が触れるだけのキスが妙に頭に残った。

「何やってんだ俺は」

 頭を抱えたくなるのを堪え、必死に空に向かって毒づいた。
 後で雲雀に会いに行くのが怖かったが、俺を殴れば雲雀の機嫌も直るだろう。痛みが引いて、覚悟ができるまで。それまで青空の下に寝転んで、眩しさに目を閉じていることにしよう。

 今日も、いつもと何ら変わりのない一日だと自分に言い聞かせながら。

 

 

 

 

 


さわやか青春イチャイチャバイオレンス!
(新しいジャンル作った?!)

雲雀さんの機嫌が良いときは黙認される煙草も
機嫌が悪い時は撲殺コースまっしぐら

好きとかどうとか考えるのは
まだまだ先の話