数年後マフィア設定 捏造
獄寺隼人の誕生日
「10代目。獄寺隼人、只今戻りました」
今回の任務も右腕として問題なく片付けて参りました、とは胸を張って言えはしないが、出来る限り騒ぎを大きくせず周辺への被害もちょっとしか出さずに済ませた。昔の俺とは違うんだぜ、と心の中で呟きながら我がボスの執務室のドアを叩く。
「ん、入っていいよ」
マフィアのボスらしからぬ穏やかな声音は、その大空のごとき柔らかな気性があらわれているのだと思う。どこかの誰かとは大違いだ。
「おかえりなさい、獄寺君」
「遅くなりました。少々てこずりまして…」
「いいよ、お疲れさま。後はこっちで処理しておくからゆっくり休んでよ」
ご自身は書類の塔に埋もれながらも優しい言葉を掛けて下さる。はっきり言って、俺以外のボンゴレの守護者どもは事務仕事に向かない連中ばかりで、俺が任務で外に出ることになると大概10代目にしわ寄せが行くことになっちまう。リボーンさんは10代目に期待するあまり厳しく接して、これぐらい自分でやらせろと言うけれども、ボスの補佐が右腕たる俺、獄寺隼人の真の仕事だ。10代目のお言葉といえど大人しく休んでいるわけには行かない。
「しかし、10代目…」
「丁度雲雀さんも帰ってきてるし」
「……は?」
何故そこで奴の名前が出るのか。真意を測りかねて思わず間抜けな声を出しちまった。まさか、あの雲雀に書類仕事を手伝ってもらうとか言うんじゃないでしょうね、10代目。
「今日、獄寺君の誕生日でしょ?」
「はぁ」
そういえば、そうだった。それがどうしたというのだろうか、10代目の真ん丸い目を見つめ返すが、さっぱり分からない。
「……それが、どうかしましたか」
「だから、誕生日って恋人に祝ってもらうものでしょ?丁度いいねって」
こいびと。
その単語が何故いま出てくるのだろうか。誕生日なのは俺で、10代目でも雲雀のヤローでもない。
「10代目?」
「……あれ、付き合ってるんじゃなかったの?」
こてん、と10代目が首を傾げるのに釣られて、同じ方向に首が傾く。
付き合う、とは誰と誰のことだろうか。どうも会話が繋がっていない気がする。
「恐れ入りますが10代目、誰と誰の話をしてらっしゃるんで…?」
これ以上手間を掛けさせるわけにはいかないと、失礼を承知で伺ってみる。どこかで認識していることが違うのだろうというのは確かだ。ならば、それをはっきりさせなければ。
「獄寺君と、雲雀さんだけど」
「…………は?!」
いかん、思い切り声を出してしまった。10代目が元より丸い目をさらに丸くしていらっしゃる。しかし、驚いたのはこちらも同じことで。
「え?あれ、違った?」
「いやいやいや、10代目、誤解です。気のせいです。何かの間違いです」
机の上の書類タワーを崩さないように慎重に、かつ大胆に手をついて10代目に詰め寄る。無礼も何もあったもんじゃないが、それだけはないとわかっていただかなければ。
「だって…あれ?」
「何で俺があいつとなんか付き合わなきゃいけないんすか!」
中学の、初めて会った時から犬猿の仲で、会えば喧嘩、会わなくても思い出しては怒りの募る相手のどこが恋人だというのか。俺は初めて10代目の慧眼たる超直感を疑ってしまいそうになった。
「えーと……なんでって…」
確かに、あいつとは体の関係はあるし、続いてもいる。それは10代目に知られてはいないはずだし、セフレのような爛れた関係を10代目の純なお心が理解されてるとは思えない。つまり、誤解だ。雲雀の部屋に行ったりするのも、雲雀が俺の部屋に来るのも、欲求解消のためだけであって、決して恋人とかそういうものとは違う。
「10代目ぇ…」
なんだか、泣きそうな気分だった。ボスにあらぬ誤解を与えて、気まで使わせてしまうとは右腕としてあるまじき行動だ。これからは自粛せねばなるまい。雲雀に咬み殺されようとも。
「いや、あの…うん、ごめん獄寺君。俺の勘違いだった」
あはは、と乾いた笑いを浮かべられるが、どこまで信じて下さったかはわからない。こうなったら、身を持って潔白を証明するしか。
「10代目、誕生日でもなんでも関係ないっすから!お仕事手伝います!」
スーツの袖をがっと捲って、書類のタワーに掴みかかる。この量を片付けるのは一晩掛かるだろう。しかし、徹夜してでも右腕としての職責を全うし、浮ついた気持ちなど無いことを認めていただかないと、俺と雲雀が…なんて恐ろしい誤解は解けないかもしれない。
「う、うん…ありがと。ほどほどによろしくね」
「任せて下さい10代目!」
この後、ふらりとやってきた雲雀に何故か咬み殺されたんだが、いつもの気まぐれだろう。
10代目の誤解が解けたのかは、わからない。
自覚なし獄ヒバ
雲雀さんに「なんとなくムカついたから」って咬み殺されます
あれ、これで恋人ルートに進むの…?