濡れた服を洗濯機に放り込み、代わりの服を考えるのも面倒で、バスタオル一枚を肩に掛けただけでうつ伏せにベッドに転がった。まだ眠くはない、けれど寝るのには十分な時間だった。

「そのまま寝んなよ」

 後ろから伸びてきた手にタオルを取られ、髪を拭かれる。何時ものことだけれど、こういうときの彼の手は酷く優しいものだと思う。それが彼の本来の姿なのか、知る必要も無いけれど。

「いいよ、もう」

 ぬるい湯でも多少は体が温まっている。その自分の体温が煩わしくて、濡れ髪を拭く気にもなれなかったのだから。

「よかねぇよ。布団が濡れるだろ」

 言いながらも首筋に降りてくる唇。タオルで髪を掻き上げて、うなじに音を立てて口付けられた。不満のひとつでも言ってやろうと体を転がすと、そのまま圧し掛かられて口を塞がれた。
 遠慮なく侵入してくる舌に、軽く触れて誘えばすぐに絡め取られる。薄く開いたままの目は、言葉の変わりに訴えてくる。仕方なく、腕を回して髪に触れる。それを了承と受け取ったのか、体に指が触れてきた。

「…ん」

 何も身につけないで風呂から上がった僕は、彼の企みには都合が良かったらしい。何も言わないくせに自分のペースで事を進めようとするのには腹が立つけれど、そんなことはどうでも良かった。

 舌先で上顎をくすぐられ、軽く舌に歯を立てる。代わりに、腰骨の辺りを撫でていた手が脚の間に伸びてくる。太股の内側を撫でられて少し身を竦ませると、唇の間から水音が逃げて耳に入った。もう一度深く唇を重ね直して、素肌の背中を引き寄せる。顎に伝う唾液がどちらのものか判別は出来ないが、それよりも濡れた唇が触れ合う感触が疎ましかった。

「お返し、受け取れよ」

 ようやく離れて告げられたのがそれかと、苦笑が滲む。そんなことはわかりきっているから、するなら早くしてしまえばいいのに。

「好きにすれば」

 この場合、僕が与えられる側なのか君が奪う側なのかわからないけれど、どちらでも君の好きにされるということには変わりはない。

「おう」

 まだ水分を含んでいる肌に、唇が触れる。鎖骨や、首筋に掠めるとくすぐったいが、それくらいなら平気で耐えられる。ちくりとした痛みに、また痕が残されたことがわかった。抗議のつもりで後ろ髪を引けば、誤魔化すような口付け。軽く触れるだけのそれが離れると、また耳や、生え際に好き勝手に寄り道をしていく。そんなに面白い反応を返すわけでもないのに、君は飽きないのだろうか。
 舌が肌を流れていって、胸のそこを舐め上げられる。無意識の反応を紛らわすように、僕は思考を投げ出した。気持ち良いのは悪いことではないし、君の行動が僕に快楽を与えようとしているものだとは分かるのに、それに対する反応はできるだけ見られたくはない。これは、僕の意地なのだろう。ただ、それによって彼の行動が悪化することもあるから、声を殺すことに効果があるとは一概に言えなかった。

「ヒバリ」

 臍の辺りでした声に視線を向ければ、わざとらしく目を合わせたまま君がそれに舌を這わせた。見られるのは今更だし、そんなことに羞恥を感じるわけでもない。けれど、情欲を煽られるという意味では君の行動は正解だった。

 必死にそれを愛撫するうちに君の仮面も姿を消し、欲に揺らいだ瞳を見せる。それは僕も同じなのかもしれない。けれど、君がそれをする様を見るのは嫌いじゃないから、決して目を逸らすことはない。濡れた赤い舌がそこを舐め、含んだ唇が上下して、僕に肉体の快楽以上のものを与えてくる。次第に君も我慢できなくなるのか、急いたような動きに変わり、舌先で刺激しながら強くそこを吸い上げた。

「く…っ」

 殺しきれない声が漏れた。意識をそこに奪われた隙に与えられた最後の刺激で、気付けば君の手の中に全て吐き出していた。

「昨日あんだけしたのに出るもんだな」

 息を整えながら、呟く君を見れば手から零れるそれを追うように下腹部に舌を伸ばしている。折角風呂に入ったのに台無しだ、と纏まらない思考のままぼんやりと思う。軽く意識を飛ばしていたような状態で、君が次にすることに気付いたのは鈍い痛みに眉を寄せてからだった。
 精液に濡れた指が、押し拡げるように差し込まれてくる。体に力さえ入れなければ、それほどにきつくはない筈だけれど、やはり内部に侵入した指が押し進む程に、体に力が入ってしまう。

「力入れんなよ…」

「…わかってる」

 ゆっくりと息を吐く間に、奥に辿り着いた指が一点を刺激した。

「──ッ…」

 無意識に、体が跳ねた。油断も期待もしていないのに、体は妙に彼の与えるものに反応する。いや、期待していたのだろうか。何にせよ、わかりやすい反応を返すことは彼の望むところで、そう簡単に思い通りにはならないと貫いてきた姿勢を今更崩すわけでもない。息を止め、奥歯を噛み締めて反応を絶つ。そうすれば、彼はむきになって僕に向かってくるはずなのだから。

「我慢すんなよ」

 わざとらしく同じ所を指先が掠め、ぬるぬると濡れた内部を指が往復する。次第に増やされていく指に僕も体が辛いけれど、それでも声を殺すことを止めはしない。体は素直に反応して欲情を表しているのだから、それで満足してしまえばいいのに。

「っ……」

 突然指が引き抜かれ、喪失感に息が漏れそうになる。それを堪えている間に、君が脚を抱え上げて僕の上に乗り上げてきた。

「いい、よな…」

 余裕のない君の声に、僕の欠けた心が満たされる。待ち望んだ瞬間は、すぐそこだった。

「駄目だよ」

「な…っ」

 腕を伸ばして、顔を押し返す。わけがわからない、といった表情に、僕は指で示す。

「時間切れだよ」

 ベッド脇の時計が0時を回ったことを確認して、もう一度君の顔を見上げる。戸惑いが、次第に動揺に変わっていくのが見て取れた。

「はぁ?!」

 おしまい、と囁いて体を引けば、今度は怒りに顔を赤くした君に詰め寄られる。

「なんだよ時間切れって、聞いてねーぞ!!」

「言ってないからね。とにかく、君の誕生日は終わったから、サービス終了。おやすみ、隼人」

 また来年、とひと息で言い切ってキスをして、思い切り蹴り飛ばす。急所は避けたから、感謝して欲しいくらいだ。僕は広くなったベッドの上で、タオルケットの中に身を丸めた。

「ちょ…冗談じゃねぇぞここまでさせといて!てめぇが良い思いしただけじゃねぇか!!」

 肩を掴んでくる手を愛用のトンファーで弾いて、欠伸をひとつ。うん、丁度眠くなってきたみたいだ。

「信じらんねぇ…寝る気かよ」

 隅に寄って君の寝る場所は確保してあるから、それが最後の優しさ。

 君が最悪な気分で、僕にとって最高な気分で君の誕生日を終わらせられたことに、また来年もと小さく祈って、僕は目を閉じた。

 

 

 

 

「ありえねーッ!!」



 遠くで犬の遠吠えが、聞こえた気がした。

 

 

 

 

 


獄誕祝にえろ分が少ないからって書いたのがこれって
最悪だな!

お風呂えろルートも考えたけど
獄ヒバ的にはやっぱりこっちかな、と。
(あんたごっきゅんの誕生日になんてこと)

はぴばす、ハヤト!