咬み殺す

 

 

「ねぇ、咬み殺していい?」

 応接室で過ごす午後、いつもと変わらずソファで寛いでいたのに、機嫌が良いのか悪いのか唐突にそう訊かれても咄嗟には答えられなかった。

「…何だよ、いきなり」

「したいだけ」

 じっと見つめられると落ち着かなくて気分が悪い。雲雀はいつものつまらなさそうな顔で、けれどその目は血に飢えているように揺れていた。

「外で群れてる連中でも好きに咬み殺しゃいいだろ」

 何とか標的を逸らさんと窓の外を伺えば、遠くから幾人かの生徒の声が聞こえた。しかし、雲雀は首を緩く左右に振って外を見ようともしない。

「君がいい」

 そんな目で見つめられたら、何も言えなくなる。強請るような、甘える猫のような、細められた瞳が俺を狙っていた。

「――好きにしろ」

 瞼を降ろし、両手をあげる。何をされるにしろ、抵抗はするだけ無駄だとわかっていた。

「ん」

 どうやら機嫌は取れたようで、俺の口から煙草を取り上げると、膝を跨いで乗ってくる。その体勢はまずいと思うが、雲雀はお構いなしだ。

「――っ…」

 喉笛に噛みつかれる、なんて気分を味わうことになるとは思わなかった。
 皮膚の上から、歯が骨を探るような感触。触れた唇と濡れた舌、温かい吐息が痛みよりも生々しい。
 喉仏の辺りを二三度咬んで、離れたと思って油断すれば、動脈を這うように舌が伝う。まるで、確実に仕留めるためには何処を咬むべきか考えているようだ。
 やるならひと思いにやってくれ、と言いたくなるが、下手に刺激して雲雀の機嫌を損ねればそれこそ咬み殺される。俺はおとなしく生贄の羊を演じていれば良い。

「…ッ!」

 がり、と齧る音が聞こえたような気がする。瞬時に突き抜ける痛みは、肩口の皮膚が食い破られたことを伝えていた。
 非現実的な現状に眩暈して、血の匂いがするような気までしてくる。実際、そこからは僅かにでも血は流れているのだろう。雲雀の舌がそこを何度も舐め取っては満足そうに微笑んでいるから。

「――ッ!」

 もう一度、歯が立てられた。鋭い犬歯が肩にめり込む。容赦なく噛みつかれ、今度こそ本当に咬み殺されそうな気がしてくる。

「ヒバリ…っ」

 耐えきれず、思わず名前を呼んだ。それでも力は緩まない。それどころかより深く抉るように牙が食い込んできた。
 閉じた瞼の裏が、真っ赤に染まる。意識すらも遠のきそうなくらいに責め苦は続く。

「は…」

 どれくらいそれが続いたか、雲雀が離れてようやく息をできた。

「もういいよ」

 唇を舐めながら微笑む雲雀を見上げる。満足そうで何よりだが、俺はそれどころじゃない。ぐったりとソファに背を預けて、動く気力すらない。

「…満足、したのかよ」

 こいつの好きにさせて、俺は何をしているんだろうか。自嘲が浮かぶ。

「今はね」

 ご褒美なのか何なのか、雲雀から唇を重ねてくる。それが自分の血の匂いというのは気付かない振りをして、柔らかい唇の感触を改めて目を閉じて味わうことにした。

 この応接室には物騒な吸血鬼が住んでいるんだな、とぼんやりと思いながら。

 

 

 

 

 


獄ヒバはイチャイチャバイオレンスな感じでいいと思うよ

雲雀さん咬み癖つきすぎ