血まみれドロップス

　

　

ガラガラ

　

　土曜の午後、何もすることなく本を読みながら、カラフルな飴の沢山入った缶を振る。手の平で受け止めたそれを確認せずに口に放り込むと。

「あ」

　ハッカ味。急いで本を放り出し、隣で同じように本を読んでいる奴の顔を掴んで、口移しに寄越した。

「なに」

　不機嫌に寄る眉は読書の邪魔をされたせいか、口の中の味のせいか。

「俺、それ嫌いなんだよ」

　口直しになる飴を探して缶を振るが、出てくるのは同じような白い色ばかりで区別がつかない。

「…くそっ」

　ヤケになって缶を鳴らしていると、右手ごとそれを奪われる。

「嫌いなものを僕に押し付けるの」

　どうやら不満はそこにあるらしい。舌の上に残った味と、こいつの機嫌とを秤に掛ければどっちが重いかは自ずと分かる。

「――かったよ、てめぇで舐めりゃいいんだろ」

　ほら寄越せ、と引き寄せようとするが、頑と抵抗されて微動だにしない。

「何だよ」

「そういうことじゃない」

　手を放るように離されて、視線が外れる。仕方なく、口直しを諦めて投げ出した本を拾いに腰を上げた。

　

ゴキ。

　

　不穏な鈍い音に恐々と振り返れば、眉根を寄せた音の主と視線が合う。

「何やってんだ」

　してることはわかるが、意味が分からない。大体、口に入れたばかりの飴は相当固いはずだ。

「咬み殺してるの」

　生意気だから、とかわけの分からないことを呟くのを、改めて本を拾いに行きながら聞く。

「――ッ…」

「？」

　飴を咬み殺す音が途絶えたと思えば、雲雀が口元を押さえていた。

「おい、どうかしたか？」

　あの勢いで舌でも咬んだとしたら、相当痛いはずだ。慌てて顔を覗き込みに行く。

「ん」

　口を開けないのか、そのまま小さく頭を振った。そんなに痛いのか。

「見せろよ」

　手首を引けば抵抗なく離れ、顎に手を掛けるとしぶしぶといった感じで口を開く。

「切ったのか？」

　赤く滲む舌の側に、鋭く欠けた飴の粒が、薄ピンクに染まっていた。

「出せよ」

　口元に手をやると、視線が責めるように向くが、後頭部を押して頭を下げさせると、手の平に唇が触れて飴の欠片を置いていった。

「ったく、飴は咬むもんじゃねぇだろ」

「やっぱり生意気…」

　不満げな呟きに溜め息を返す。

「何わけわかんねぇこと言ってんだ」

「白くて、ちっちゃい癖に…ムカつく」

　そう言う目はこちらに向けられていて。

「……てめぇ、誰がちっちぇーだと！？」

　わざとらしく咬み殺したのはそのせいか。俺はあんなに不味くねぇってのに。

「口直しするよ」

　それでも素直にそれに誘われてしまうのはどういうことか。

「…まず…」

　ハッカと血の匂いと味に惑わされながら、禁煙ぶって口寂しくなるなら、他のことで口を塞いでしまえば気にならないことを知った。

　

　

　

　

　

サクマドロップス薄荷抜きがあればいい

ハッカの飴って焼肉屋とかでもらうけど食えないから誰かにあげちゃう
んで何味か忘れたけどハッカそっくりなのってあるよね？
よく騙される…

で、普通にお互いの家で寛ぐ雲雀さんと獄寺くんでした