PM12:30
「おい、ヒバリ」
応接室のドアを開けて踏み込むと、呆れたような顔に迎えられた。
「また蹴り出されたい？」
「蹴られるためにわざわざくるか」
デスクの椅子から移動して二人掛けのソファの隅で休んでいた雲雀の隣に、すこし距離を開けて座る。
「昼飯は」
「済ませたよ」
「そうか」
そのまま、横に転がる。
「……君、ね」
「何だよ」
雲雀に追い出されないのをいいことに太股に頭を預けて、俗に言う膝枕の状態になった。
「別に」
やってみたはいいものの気恥ずかしさに目を閉じていると、雲雀の指が頬の掠り傷に触れる。そのまま何をするわけでもなく離れていくのを少し残念に思う。
「お前のせいでヤニ切れなんだよ。膝ぐらい貸せ」
僅かだった煙草は朝のうちに吸いきって、買いに行く機会もないまま昼になってしまった。
「そのまま禁煙すればいいのに」
ぽつりと雲雀が呟くのに余計なことは言わない。ヤブヘビはもう御免だ。
雲雀が溜め息を吐くのを感じながら目を閉じた。膝枕ってやつは思いの外温かくて眠気が襲ってくる。
そのうち起こされるだろう、と甘えたことを思いつつ、睡魔に素直に身を任せることにした。
PM14:00
「…？」
奇妙な息苦しさに眠りの縁から引き戻される。
「……！」
目を開けると、呼吸困難の原因に気付いた。
「――ッ殺す気か！！」
鼻と口を塞いでいた手を退け、慌てて起き上がる。
「起きない君が悪い」
「普通に起こせ！」
雲雀に普通などというものを説く虚しさを感じつつ、足りない酸素を取り込む。
「メール、きてたよ。君の大事な人から」
「勝手に見んな！」
雲雀の手の中から携帯を奪い取り、急いで確認する。
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001
07/07 13:28
From 10代目
Sub Re:おはようございます！
まだサボり？
午後の授業終わっちゃうよ(>_<)
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「10代目…」
携帯を握り締め、今すぐお側に！と立ち上がりかけた俺の後ろ襟を雲雀の手が掴んだ。
「授業終わるまでサボって行きなよ」
「てめ、面白がってんなよ！」
引っくり返った俺の手から携帯を取り上げて雲雀が笑う。こいつの場合は引き留めることに意味があるんじゃない。俺に意地悪したいだけだ。
「メールが来てから30分、どう思ってるかな」
「……ッ」
確かにいつも10代目からの連絡には即返事をしてる。寝ていても気付かないことなんてねぇ。今のは、俺が気付く前に雲雀が携帯を取ったに違いない。だが、それを10代目に説明するわけにもいかない。
「てめぇ…」
睨み上げても、雲雀は涼しげな表情を変えない。
「ねぇ、どうするの」
俺というおもちゃで遊んで雲雀はご満悦のようだ。しかし、俺だって素直に遊ばれちゃいねぇ。懐に手を伸ばし…
「げ」
ライターはあるが煙草がない。買い損ねたことを忘れていた。絶体絶命、大ピンチだ。
「馬鹿だね、君」
「うるせぇ！煙草がなくたって…ッ」
吠え掛けた口は、雲雀に塞がれる。どういうつもりか、雲雀の口でだ。
「ん…む…ッ！」
文句は言葉にならず、巧妙な雲雀の手管によって舌ごと絡め取られた。そのまま、息もできないような口付けに流れていく。
雲雀は卑怯だと思う。
どんなにむかついていても、正直気持ち良いのには弱いし、俺だって年頃の男だ。ついそんな気になっちまう。
「煙草がなくても、なに？」
「…うっせぇ」
すいません10代目。今日はやっぱり授業受けられそうにないっス。放課後にできればお送りしますんで、また後で。
PM15:00
お互い適当に整えただけの制服で、しばし寛ぐ。事が済んだ後は我に帰ったようで少し気まずかった。
「もう俺の携帯いじんなよ」
10代目にメールを送って、緩慢な動作でサイドテーブルに携帯を置く。ソファに背を預けている雲雀の手が届かなさそうな位置に。
「見られて困ることあるの」
「ねぇけどよ…お前勝手にデータ消すだろ」
一番大事な10代目のデータは俺の頭の中に残ってるからまだいいけどな。何で雲雀がそんなことをするのかは知らないが、どうせいつもの嫌がらせだろうと思って気にも留めない。
「お前以外に見られた方がやべーか」
電話帳の中の雲雀の名前。あのふざけた着うたも10代目にだけはほんとは知られたくはなかった。
「なら、君と僕にしかわからないパスにすればいいのに」
唇の端を引き上げて意地悪く笑う雲雀は、本当に綺麗でむかつく。
「なんだよそれ」
「さあね」
ひょいと手渡され、思わず受け取ったのは、雲雀の携帯。
「これのパスが解けたら教えてあげるよ」
「…ヒントは」
携帯を睨んでも何も思い浮かばない。俺が雲雀の思考回路を理解できるわけがないんだ。
「ノーヒント。ただし、3回間違えたらその携帯、爆発するよ」
「げ…マジかよ」
ありえないと言い切れないあたりが困る。適当に試してみるわけにもいかない、というか、実質2回しかチャンスがないようなものだ。
「ランダムな数字とかじゃねぇんだよな？」
「そんなつまらないことしないよ」
1027、はねぇよな。語呂合わせにしたって、雲雀の好きそうなもの…並盛？駄目だ、わかんねぇ。
「返す」
押し付けるようにして雲雀の手に携帯を戻す。考えたってわかんないもんは仕方ねぇ。
「君、諦めが悪いんじゃなかったっけ」
「こんなのわかっても俺にメリットはねぇしな。時間の無駄だ」
「ふぅん」
つまらない、とか言い出すのかと思ったらそうでもないらしい。代わりに身を乗り出して俺の携帯に手を伸ばす。
「おい…こら！」
俺が止めるより早く、携帯は雲雀の手に落ちた。仕方なく雲雀を後ろから抱き締めて腕の中に閉じ込めるが、すでになにやら操作し始めている。
「今度は何しやがった」
取り上げると、液晶画面の真ん中には設定完了の文字が並んでいた。
「さぁね」
雲雀の表情は見えないが、きっと笑っている、声がそんな感じだ。
「お前な…」
文句を言い掛けて諦めた。こいつは何度言っても聞きはしないし、むしろ俺の反応を楽しんでるんだから、何もしない方が良い。
携帯を閉じて脇に置くと、雲雀が体重を預けてくる。細いくせに身長は俺より高かったりしやがるから、支えられないことはないが流石に全部は重い。
「どけよ、重いだろ」
「気が向いたらね」
君の頭も重かった、と呟かれ、悪ィ、と返した。雲雀にしては、今日は結構長く好きにさせてくれた方だったな。
「…もうちょっとしたら俺は帰るからな」
「好きにすれば」
腕の中の細い体を抱き締める。時々抱き枕みたいなもんが欲しくなるのか、自分がガキみたいだと思うが何も言わない。そうしないと気まぐれな抱き枕は俺の腕から逃げ出してしまうからだ。
体重も、温度も心地良かった。
「教えてあげようか」
体を捻り、俺の耳元で唄うように雲雀が囁く。
「…なんだよ」
「僕の携帯のパス」
いろんな意味でぞくぞくするから、その表情はやめろ。獲物を見付けて舌舐めずりしてるようで、食われる側の俺は怖いなんてもんじゃない。
「――ッ！！」
耳に唇を触れたまま囁かれ、一気に心拍上昇した。俺が固まってる間に、雲雀は腕の中から抜け出てデスクに向かう。
「ほら、帰りなよ。邪魔だよ」
「てめぇ…ッ…今の、反則…ッ！」
自分でも顔が熱いのがわかる。当の雲雀は平気な顔で書類を書き始めていやがる。
「くそ…覚えてろ！」
何が、とは言えもしないが、捨て台詞を残して俺は携帯と鞄をひっ掴んだ。
10代目のところまで走ってく間に顔が冷めることを願いつつ。
PM15:30
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001
07/07 15:02
From 獄寺君
Sub 放課後
授業が終わる頃にお迎えに上がりますんで！(^ー^)b
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「獄寺君、何しに学校きたのかな…」
携帯を閉じて俺は溜め息をついた。結局いたのは朝学校に来るまでと、お昼食べてる間だけだったし。どこ行ってるのかなー、なんて怖くて聞けないし。送ったメールの返事は来なかったから、どこかで寝てたのかな。
「ツナの送り迎えだろ？お、来たみたいだな」
廊下の向こうから走ってくるのは確かに獄寺君だ。山本やっぱ目が良いな。っていうか獄寺君全力疾走？危ないから！
「10代目ー！」
わあぁ呼ばないでいいから！
あれ、獄寺君顔赤いや。走ってきたからかな。
「そんな慌てなくてもいいのに…」
「10代目をお待たせするわけにはいきません！」
あぁ、周りの視線が痛い。ほんと、獄寺君って周囲気にしなさすぎるよ。
「んじゃ帰るか。そういや獄寺、保健室でも行ってたのか？」
「？何でだよ」
これ、と山本が自分のほっぺたを指差す。獄寺君がその位置を触って…わ、また赤くなってる。
「バンソコ貰えて良かったな」
「うるせぇ野球バカ！」
ま、俺は追求はしないよ。誰にでも知られたくないことはあるもんね。
「ん？」
また校歌の着うた？でも今回は随分音が高いような…
「あ…の野郎ッ！」
また獄寺くんですか。ツッコミの余地もないよ、流石に。
「ちっ」
今度はメールみたいだ。わー字打つの早いな。
「今のって、ヒバリの飼ってる鳥みたいな声だよな」
「あ、それか！」
飼ってるかどうかわからないけど、ヒバリさんの頭の上で鳥が歌ってるのを聞いたことがある。ていうか録音したのかな…ってやっぱり着うた自作してんの？！
「ヒバリの話はすんな！」
メールは送り終わったのか携帯をポケットに突っ込んで、獄寺君はいつものように山本にケンカを売ってる。
「とりあえず帰ろうよ」
「そうっスね、10代目！」
「そーだな」
ほんとは、聞いちゃいけないんだろうけど気になってる。だって、獄寺君とヒバリさんって仲悪そうだし。
どんなメールだったの？とか、聞けないよね絶対。
マナーモードにすればいいと思うよごっきゅん！
長くなりすぎて本題が逸れた気もするけどまぁいいか
この後ちょくちょく番犬として呼び出されることでしょう
幽霊が見えるかどうかは…どうなんだろう
雲雀さんなら人外の能力とか持ってても不思議じゃないよ
まーお呼ばれして期待とか色々でてんぱってる獄が書きたかっただけ
携帯はいちゃいちゃネタ？
ちなみに、雲雀さんの携帯のパスはあれだと思います
「8810」
爆発するってのは勿論嘘ですから