side:H
「…ふ、…っ」
シーツに押し付けられた唇から洩れる音がいやらしく耳を叩く。まるで自分の発する声ではないようで、気持ちが悪い。
「ヒバリ、声聞かせろよ」
背中の側から聞こえる声は平常より低く掠れていて、欲に溺れかかっているよう。
「――ッ!」
指で内部を抉られ、痛みではないものが体を貫く。わざと、弱い場所を狙い澄ましたその意図が、より僕の声を塞ぐ。
「なぁ…」
熱い舌が背中を伝う。声が、いちいち背筋に響いて煩わしい。
「もう、いい」
喉が震えるのを堪えて呟く。背後で唇の端が上がる気配を感じた。
「まだだろ」
「……ッ」
指の差し込まれているままのそこを舌が這う。強くシーツを握りすぎて指が痛い。
時折、この年下の男は酷く残酷に思える。優しい声で名前を呼び、その同じ唇で僕の体を蹂躙する。そんなことで支配欲を満足させようというのか、憐れみはするけれど。
「ふ…、く…」
指が増やされ、無理矢理に押し広げられると、強い異物感に息が洩れる。体の反応を押し殺そうとするほど、刺激の与えられる強さが増す悪循環に陥っていく。それでも、僕は自分の欲のために行為を終わらせることは望まなかった。
堪えることで、ただ迎える時を待つ。
「いいか…」
熱を帯びた声が囁くのに、声を出せずに頷いた。
ゆっくりと押し入られ、息が詰まる。体の奥まで突き立てられ、ようやく短く息ができた。動かないままでも自分の心拍が耳に痛い。
「……っ」
僅かな身じろぎが強い奔流となって熱になる。同時に手の内に握り込まれたそこも、軽く刺激された。
止まろうとすればするほど、意識とは裏腹に体が反応し、火がついたように熱くなる。けれど、暫く待ってもそれ以上先へは進まなかった。
「…何、…?」
「……なぁ、なんでこんなことすんだよ」
問い掛けようとしたその時に、言いにくそうに君が口を開いた。声が体の中に響いて、少し辛い。
背を向けたままの僕にしか聞けないのか、ただ言っているときの表情は容易に想像できた。今更そんなことを聞かれても、答えることは決まっている。
「嫌がらせ」
「…言うと思ったぜ」
溜め息混じりに呟いた直後に強く律動を始められ、思わず出そうになった声を何とか堪えた。
背を向けていることに対する恐怖はなかったが、表情が読めない分、次にどうされるのか予測はつかなかった。それでも、額をシーツに押し付け、声を出すまでには至らない。
「ヒバリ…」
苦い、吐息混じりの声。僕の体はぞくぞくとその快感に震えた。悩み、打ちひしがれ、苦しむ君が、今の僕の獲物。
体を餌にしても、その程度のことで捕えられるなら躊躇うこともしない。
「…まだ…」
煽るように囁けば、応えるように激しくされる。腰を持ち上げ、より深く繋がるようにすれば、奥まで届く熱が抉るように突き上げてくる。
形が感じられるほどに締め付けても自由を奪うことはできず、摩擦がさらなる刺激を生んだ。
「ん…、く…ッ!」
そこを握られた指の隙間から雫が落ちるほどに濡れ、快楽に堕ち掛けているような錯覚に陥る。内部も、滑りが良くなったのか濡れた音を立てながら激しく犯される。
「……は…ぁ…っ」
「…ヒバリ…」
身の内をさいなむ嵐は、まだ静まりそうになかった。
side:G
日が登り始めた頃、腕の中から雲雀が抜け出すのを感じた。結局何度かした後、背中を向けて雲雀が寝始めたから、俺もそのまま寝てしまったらしい。
同じだったはずの匂いは、汗で濡れるほどに雲雀のものに戻って、嗅覚から神経を刺激してきていた。でもまぁ、そういうのも悪くはねぇ。
風呂場のドアの音を聞きながら、俺はもう一度寝ることにした。
もう一度、いつもの時間に目が覚めると雲雀は帰ったようで、部屋の中に気配はなく、玄関に靴もない。
体を起こして、支度をしながらぼんやりと部屋を見渡すが、いつもと変わらない自分の部屋だった。
ただ、冷蔵庫の中には雲雀が作ったボロネーゼが、作りすぎたからとラップを掛けて入っていた。「…美味いじゃねぇか」
レンジで温めて食べると、薄味だが案外しっかりした味に驚いた。台所から追い出されていたから良く分からないが、聞こえてた音からして手際良く作っていたみたいだし、普段から自分で支度してるんだろうか。
「想像できねぇな、やっぱり…」
雲雀といえば制服とトンファーで、屍の上に立つ姿しか想像できない。逆に、エプロンとフライパンと台所との組み合わせは犯罪的だった。
平和が似合わないわけじゃないが、日常とは切り放された存在のように感じていた。「ま、可愛いところもあるじゃねぇか」
自然と口元が緩む。あの雲雀のこんな一面を知っているのが自分だけのような気がして、パスタの味と共に優越感に浸ることにした。
ツナさん視点が微妙に楽しかったりー
なんとなくボロネーゼって思い浮かんだんだけど
ミートソースとの違いがあんまりわかってなかったりするんだけど