つなむくクリスマス小ネタ
ありきたりなバカップル
「約束、しましたよね?」
ちくちくを通り越して、どすどすと視線と言葉が刺さってきている気がする。いや、気のせいではないだろう。ともすれば彼の手にした三叉槍で貫かれそうだと背中を冷や汗が伝う。
「うん……だからごめんって」
両手を挙げたお手上げポーズのまま、せめて機嫌を取ろうと引きつった笑顔を浮かべるが、それが逆効果だと綱吉はまだ気付いてはいなかった。
「謝れば何をしてもいいと思ってるんですか!これだからマフィアは!」
八つ当たりぎみに振り回された武器によって、テーブルの上から瓶やらコップが飛び、耳障りな音を奏でていく。
普段なら、優秀かつ心配性な右腕が何事かと飛んでくるような状況だが、タイミングが良いのか悪いのか彼は出張中だ。
「骸」
必死に呼び掛けると、室内で絶賛破壊活動中の竜巻の中心にいる青年、綱吉のただひとりの恋人はぴたりと動きを止め、声の主へと向き返った。
「今更機嫌を取ろうとしても無駄ですよ。僕の失意はそれほどまでに深い」
そうして伏せられた目にほだされてしまうのは悪い癖だった。
「……骸、悪かったよ。今年は我慢してくれないかな?その代わり、なんでも言うこと聞くから、な?」
迷う様が見て取れる。もうひと押しだと綱吉は直感した。
「来年は、ちゃんと予約するから!」
間合いを詰めて手首を掴めば、その手から自然と槍が消えた。攻撃の手段を消したということは戦意をなくしたということに等しい。
「……約束ですよ」
抱き寄せれば、背中に腕が回された。
なんとか、今年は無事にクリスマスが迎えられそうだ。
──あの店のブッシュ・ド・ノエル、今から来年の予約はできないかな……
可愛い恋人を慰めながら、若輩たるマフィアのボスは深いため息をついた。
喧嘩するほど仲がいいんです。