短編 つなむく 微えろ
肺呼吸
「──ッ…」
「…っはぁ…っ…ごめん、骸…」
彼との情交は、いつも深いところまで意識を飛ばす寸前に断ち切られ、引き戻されてしまう。
「謝らなくてもいいと言ってるでしょう、綱吉くん」
情けない顔をする彼は昔から変わらず、そんなところも僕は好きだった。
「でも…さ」
「綱吉くん」
躊躇う唇を軽く塞いで微笑んでみせる。僕は気にしていないというのにそれは罪悪感なのか何なのか、損な性格ですね。
「このまま、もう一回しましょうか?」
首に回した腕を解かないまま囁くと、また素直に顔に出て。溺れてしまうというのに君は果敢にももう一度潜るつもりらしい。
肺呼吸しか出来ない哺乳類に過ぎない君が、僕のいる深海まで潜るにはもう少し努力が必要なようです。
おや、諦めないんですか。奇特な人ですね貴方は。僕の嫌いなマフィアのボスだというのに僕に近付いて、あまつさえ僕の世界を侵食して空の青い色に塗り替えてしまった。
それでも、ここまで来るのには覚悟が必要なんですよ。もっとずっと長く息を止められなければ、僕の側にいることはできない。
ねぇ、どうせ諦めないつもりなんでしょう。何をやっても駄目で、情けなくて弱いくせに、嘘だけは吐かない人ですからね、貴方は。
僕は優しいですから、せめて浅瀬で待っていてあげますよ。君が何度水面に逃げても、また潜ってくることを知っていますから。
──いっそ、僕が肺呼吸を出来るようになってしまったほうが早い、ですかね?
つなむくのえろは難しい。