短編連作4
手袋
手を、握ろうと思って手を伸ばして、気付いた。
彼の手を包むのは、黒い手袋で。
本当の肉体から遠く離れた幻でさえ直に触れることも叶わないのかと苦笑が浮かんだ。
「骸」
ただ、声を掛ければいつもの偽りを包み隠す笑顔で振り返る。まるでそこに存在しているかのように。
「何です?ボンゴレ」
落ち着いた声音は水鏡のように平穏を保ち、やわらかく俺を記号で呼ぶ。わかっていてやっている、残酷な男だ。
どう言えばその余裕を崩せるのか分からなくて、色違いの双眸を見返すことしか出来ない。
何故自分ばかり惹かれているのだろうか。冷たい声も腕も求めてしまうのに、お前は何ひとつ俺に残さなくて。
「俺は、マフィアじゃない」
「ボンゴレの後を継がない貴方に何か価値があるとでも?」
皮肉には苦笑を返すしかない。言い返せる余裕など何もなくて、触れそうで叶わない距離は永遠にも近い。
「いずれ僕が貴方の体を手に入れるまで、その場所から退くことは許しません」
懸命に見返そうとしても視線は下がるばかりで、頬に何かが触れていることに気付いた時には、骸との距離は革手袋一枚になっていた。
「むく、ろ」
初めて逢ったときのような、柔らかい微笑み。けれどそれが作られたものではないということは伝わってくる。
「約束ですよ、沢田綱吉」
「…うん!」
頬に触れる手を握り、精一杯の笑みを返す。いつか、この手の距離をゼロにすること、それが俺の望みで。
きっとそれを叶えたときに、もうひとつの願いも叶うだろうと信じていた。
骸さんの手袋がえろいって話