短編連作2　数年後　ボンゴレボスな綱吉と霧の守護者な骸

　

　祝福

　

　

「骸」

　仕事着を、黒いスーツに身を包んだまま彼は立っていた。華奢な体躯を少しも隠さないその服は、似合っているとは言い難かったが不思議と馴染んでしまっている。

「こんなところに何用ですか」

　守護者用にあてがわれた私室を利用せず、近くのホテルに滞在しているところだ。さほど時間も掛からない距離を、わざわざ彼が出向く必要はない。ボンゴレのボスとして声を掛ければいいことなのに。

「好きな人がいる」

　声変わりを終えたとは思えない少年のような声が、けれども昔とは違う落ち着いた響きで呟いた。

「それが、どうしましたか」

　下らない。僕に報告する必要などないことだ。真意を読み取ろうと表情を伺っても、真摯な眼差しからは些かの惑いも見れなかった。彼の心は決まっているのだろう。マフィアのボスという立場には、寄り添う妻がいずれ必要となる。ならば丁度良い、手助けでも求めるのならそれに応じるだけだ。

「他の皆にも反対されると思うから、先に骸に言っておきたくてさ」

　ほら、彼の都合の良いように真実をねじ曲げるには僕の力が必要になる。

「骸は、嫌がるだろうけど」

　小さく首を傾げて、疑いのない目をこちらへ向けてくる。僕が何度ボンゴレを裏切り、害を為しても変わらないそれ。

「何が必要ですか」

　求めるものがいかなるものでも、僕は捧げるというのに。

「祝福を」

　曇り無き微笑みを、少しはにかんだように浮かべる貴方は、いかに残酷か知らないでしょう。

「おおせのままに。我がボンゴレ」

　彼の前へと跪き、手の甲へと唇を落とし、見上げた彼の姿は眩しい。僕はずっと彼に縛られて離れられないのだろうと、無性に思う。

「望みはなんです？貴方の命令とあらば、他の守護者共を惑わすくらい容易いことです」

　しかし、いつまで待っても命は与えられず、困ったような微笑みを浮かべるばかりで。

「ボンゴレ」

「何もいらない」

　同じように膝をつき、ゆっくりと瞬きをする間に額へと何かが触れた。それが唇だったと気付いた頃には間近の彼の顔に、してやったりと笑みが浮かんでいた。

「骸がいれば、それでいいんだ」

　やられた。彼は核心に触れぬままに僕を堕とし、逃げ場さえなくしてしまった。

「それ、は」

　情けないことに、絞り出した声には震えが混じっている。背に回される彼の腕から距離を置くことすら、掻き乱された思考では叶わなかった。

「俺が好きなのはお前だよ、骸」

　他の守護者よりも誰よりも、反対するに決まっている。彼の行く先に寄り添うものは、望まれて生を受け、光の中を歩むべきなのだから。

「祝福が、足りませんよ」

　自らが与えたものなど何の価値もないというのに、それを彼が求めたと言うだけでそこに意味と、必然を感じてしまう。

「皆は俺が説得する。だから」

　共に生きよう。

　彼に伝えなければ。その言葉こそが何よりの光で、祝福なのだと。けれど僕はこみ上げてくるものを抑えることしか出来ず、ただ細い背を抱き締めていた。



　眩い、光。





　貴方は死してなお僕を照らしている。

　ならば、それを守るため、僕は修羅ともなろう。

　

　

　

　

　

すでに短編とは言い難い件

ツナさんも骸も執着と独占欲が強いのを
普段は意識しないか隠しているかしている感じで