短編連作1 無自覚な骸さん

 

 口付け

 

 

 接触していた部分が離れた。そう認識したのは皮膚の感覚からではなく、己の視界を埋めていた彼、沢田綱吉の顔が離れていったからだ。否、距離を置いたのは自分で、彼は動いてすらいない。

「どうか、しましたか」

 問い掛けた声は案外すんなりと出た。自分がどうやら平静であるということを六道骸は確認し、表面には表さず安堵していた。

「――ッ!!」

 まだ数センチしか離れていない距離。その間近で見てしまった。綱吉の顔が、驚きに見開かれた目のまま真っ赤に染まっていくのを。

 骸は、平常心などとうに手放していたのだとここでようやく気付く。そもそも同性に対してそのような欲求を持つ可能性すら考えてはいなかったのに、何故彼に対しては違うのかと、触れることを希求するのかという疑問には答えは出なかったが。

「む、むく…」

「黙りなさい」

 何故、どうして、と続くだろう唇を塞いで、その柔らかい感触に酔わされてしまいそうだと胸中で呟いた。

 

 

 

 

 


恋しちゃったらいい