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「みずほ流」点訳入門教室

18.記号が連続する場合




記号が連続する場合(『てびき』p81〜)

以前にも書いたと思いますが、点字の6点の組み合わせは、空白マスも含めても64通りしかありません。
この64通りで、五十音から各種記号類、アルファベット、数学・理科・情報に関する特殊な記号までを網羅して表現しようというのですから、1種類の点の組み合わせが、いくつもの別の体系の語・記号に重複されて使用される、ということは当然起こってきます。
3・6の点は、1マス分ならつなぎ符、ふたつ重なれば波線ですし、囲み記号として使われれば第1カギで、他の記号と一緒に用いられていれば指示符や他のカギ類にもなるし、英文の中では、ハイフンであったり、連続する場合はダッシュだったりします。
5・6の点も、後ろにマスあけがあれば読点、なければ外字符となりますし、文中注記符やカッコ類・カギ類の一部にも使われています。
同様に、2・3・5・6の点も、第1カッコであり、ふたつ重なれば点訳者挿入符、マスあけを含んでいれば段落挿入符、他の記号と一緒に使われれば二重カッコだったり、第2カッコだったり・・・。
そういうわけですので、記号類が連続する場合、何と何を続けたら読みにくいとか、他の記号になってしまうとか、判読不能になるとか、そういったことを頭に入れておかないと、たいへん不可解な点字表記になってしまうおそれがあります。

基本的には、別の記号に読み間違えられなければいいのです。
『てびき』には優先順位が記されていますが、この順位をすべて頭に入れていなくても(入れていたほうがもちろんいいですが)、それぞれの記号の用い方がわかっていれば、連続して書いてはいけない記号もなんとなくわかってきます。
原本に連続して書いてある記号が、点字でもそのまま連続させられるかどうかということと、前回も書いたように、使われている記号の形ではなく、意味・用法を考えてわかりやすい点字記号を選択する、ということに注意すべきだと思います。

カギで囲まれた会話文で、途中で言い淀んだり、最後まで言わなかったことを表すのに、カギ閉じの前が読点になっているような場合、
「それはそうだけど、」あるいは『それはそうだけど、』
というようなときの、読点とカギの閉じ記号の組み合わせは、二重カギの開き記号と同じです。
同じように、カッコ内の言葉が読点で終わっている場合、
(それはそうだけど、)だと、読点とカッコの閉じ記号が重なって、二重カッコの開きと同じになります。
5・6の点というのは、囲み記号類に多用されているので、不用意に続けると誤読のもとになります。 そこで、こういったときは、読点を省略します。
原本どおりという原則を無視するようですが、間違って読まれる可能性がある以上仕方がない、ということなのでしょう。
ちなみにカギやカッコの閉じの外側に読点がある場合は大丈夫です。
つまり、「それはそうだけど」、『それはそうだけど』、(それはそうだけど)、はそのままでかまわないわけです。

読点の後ろに指示符類の閉じ記号が続くときには、間を1マスあけます。
囲み記号の内側は続ける、という優先順位の高いルールも、誤読の危険を冒してまでは優先されない、ということですね。
こういった誤読の可能性のある記号の組み合わせをTエディタで打ってみると、「ここは、違ってるんじゃない?」と、赤で表示してくれます。
Tエディタの赤表示がすべて正しいわけではありませんが、赤が出てきたら、一度確認するといいと思います。

 囲み記号が連続する場合。
第1カッコは開きも閉じも同じ点(2・3・5・6)です。
ですからこのカッコを閉じたあとすぐに同じカッコの開き記号がくると、同じ形の点のマスが連続することになります。これはよくありません。
カッコなのか点訳者挿入符なのか、開きなのか閉じなのか、さっぱりわからなくなってしまうからです。
原本に、続けてカッコが書いてあっても、点訳では間を1マスあけます。
同様に、形の同じ点を用いる点訳者挿入符と第1カッコの連続の場合も1マスあける必要があります。
第1カッコ閉じ■点訳者挿入符開き
点訳者挿入符閉じ■第1カッコ開き
ということですが、それ以外でも2・3・5・6の点のマスが連続することによって、どこからどこまでが何の記号かかわらなくなる書き方はしてはいけないのです。

指示符の内側に第1カギが続くときや、二重カギの内側に第1カギが続くとき、波線の後ろに第1カギが続くときは、第1カギを第2カギなどに変えます。
第1指示符の開きというのは、5の点のマスと3・6の点のマスの2マス記号ですが、ここに第1カギの開き(3・6)がくると、第2指示符の開きになってしまいます。閉じも同じで、第1カギで囲まれた語を第1指示符で囲んだつもりが、第2指示符に囲まれてしまう、ということになります(試しにやってみると、Tエディタはちゃんと(?)第2指示符と解釈します)。
二重カギの内側に続く第1カギ、波線のうしろの第1カギ、というのはもうおわかりですね。
続けてしまうと3・6のマスがずらずらと続いて、何がなにやらわからなくなってしまいます。

第2カギというのは前にも書きましたが、非常に使いやすい記号で、どこに使ってもわりと誤読の危険性が少ないんです。
つなぎ符・第1カギ・指示符等に使用されている3・6の点のマスを含まない記号だからだと思います。
第1カギは1マスの記号なので、わかりやすいという利点がある反面、他の記号と使用する点が競合している、というデメリットがあるんですね。
それで、記号の連続によって第1カギが使えなくなったら、支障がないかぎり第2カギに変えてしまっていいと思います。

 カッコの中のカッコ。
カッコの中にさらにカッコが使われている場合は、中のほうのカッコを別のカッコに置き換えます。
名古屋市(愛知県の県庁所在地(尾張徳川家のお膝元))
みたいな使われ方のカッコは、そのまま全部を2・3・5・6の点にしてしまうと、ショザイチのあとで一組のカッコが終わっているのか、最後の2・3・5・6のマス二つ分が点訳者挿入符の開きなのか、よくわからなくなってしまうからです。
こういった場合は、(尾張徳川家のお膝元)に使われているカッコのほうを二重カッコなどにする必要があります。

 ルビのカッコ。
点字では、墨字のように小さな文字でルビ(振り仮名)をつけるというわけにはいきませんから、必要なルビをまず書き、語そのものの読み方は直後にカッコをつけて書き入れます。説明のカッコと同じ使い方です。
その後にさらに説明のカッコがある場合には、語の読みのカッコと説明のカッコを1マス離して書くか、支障がなければひとつのカッコの中に入れて書いてしまいます。
「緩衝装置」という語に、「ショック・アブソーバー」というルビがついていて、さらにカッコして(衝撃をやわらげるための装置)などと書いてある場合、
ショック■アブソーバー(カンショー■ソーチ)■(ショーゲキヲ■ヤワラゲル■タメノ■ソーチ)
もしくは、
ショック■アブソーバー(カンショー■ソーチ、■ショーゲキヲ■ヤワラゲル■タメノ■ソーチ)
というような書き方で(原本の内容にもよりますが)おおむね良いと思います。
記号の重なりとは関係ありませんが、点字は仮名文字の体系ですから、漢字の読みそのものを書いたルビは必要ありません。「名古屋」に「なごや」というルビがついていても、ナゴヤ(ナゴヤ)と書く必要がないことは、わかりますよね。

墨字では、いくらたくさんの記号類が重なっていても、だいたい一目で見て取ることができますし、実際のところ、そのひとつひとつをきちんと認識しなくてもたいてい支障はありません。
しかし、点字の場合は各語・各記号をひとつずつ読み取って、さらにそれがどことペアになった囲み記号なのか、どこまでを網羅する前置記号なのか、確認しながら読まないと、何がなんだかわからなくなってしまう、ということが多々あるのではないかと思います。
そこで、『てびき』で触れていないケースでも、これはあまりに読みにくそうだ、煩雑なわりにはさして必要な記号でない、と判断される場合は、できるだけ記号類を重ねて書かないほうが良いのではないか、と思います。
基本はあくまでも原本どおりですし、著者の意図を無視するような省略はするべきではないと思いますが、とりあえず情報が伝われば良い、という程度のものは、ある程度点訳者の判断で、不要な記号類は多用しないようにしたほうがいい、というのが私の考えです。

というわけで、練習問題ですが、不要なカッコをわざとたくさん入れてありますので、省略できるものは省略し、別のカッコ類に変えたほうがいいものは適宜変えてください。点訳方針としてはあまり原本の書き方にこだわりすぎないほうがいいと思います。
(歴史に関することを題材にしましたが、内容の真偽は定かではありません。あくまでも練習用の文章です)
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  練習問題 29
 1.聖徳太子は推古天皇の摂政で、この女帝の甥である。古代の貴族階級の姻戚関係は複雑極まりない。兄弟姉妹婚が多いから、どこかで必ず血がつながっている。ちなみに推古(これは諡号――おくりな(死後おくられる尊称)で、もとの名前は額田部女王(ぬかたべのひめみこ)というらしい)天皇は蘇我馬子の姪だから、聖徳太子も蘇我氏とは血縁関係にある。

 2.この時代は、同母の兄弟・姉妹でなければ結婚できたので、やまほどお妾さん(というか、正妻やら第二夫人・第三夫人やら、)がいる貴族は一族の間で結婚すれば、よそものに自分の財産を奪われたり、勢力をそがれたりする心配がなかった、ということなのかもしれない。

 3.推古天皇は敏達天皇(訳語田大王(おさだのおおきみ))の奥さんだった。「敏達」〜「用明(橘豊日大王(たちばなのとよひのおおきみ))」〜「崇峻(泊瀬部大王(はつせべのおおきみ))」〜「推古」、と繋がっていく。(  )内は生前の呼び名で、天皇になってからの名前。天皇になる前には「大兄(おおえ)(皇位を継承する可能性のある皇子のことを言うらしい。<日嗣皇子>(ひつぎのみこ)ってことだ)」とか、ただの「皇子(みこ、もしくはおうじ)」とか、身分上のポジションによって、いろいろ変わってくるらしい。

 4.ちなみに、用明さんは敏達さんの弟で、聖徳太子(厩戸王子)は用明さんの子供、太子のお母さんで用明さんの奥さんだった穴穂部間人媛(あなほべのはしひとひめ)は崇峻さんのお姉さんである。で、用明さんと推古さんも姉弟だったりするんである(もちろん、同母・異母、いろいろなんだけど、)。

 5.歴史のテストかなんかで、この時代の系図を書け、なんて問題が出たら、死んじゃうね。系図とまではいかなくても、婚姻関係をのべよ、とか(そんな問題は出ないか、)・・・。聖徳太子(ちなみにかれの本名(?)は厩戸王子(うまやどのおうじ)というそうだけど、かなり怪しい説によると、彼はほんとうは<イエス・キリスト>(時代が違うだろ、時代が!)で、だから厩――馬小屋で生まれた、そういうわけで『うまやど』、・・・『源義経=ジンギスカン説』よりむちゃくちゃ怪しい説だ)の奥さんは蘇我馬子の娘で、蘇我蝦夷の同母妹・刀自古(とじこ)さんという(またまたちなみに、蝦夷・刀自古兄妹の腹違いの妹が、崇峻帝の何番目かの奥さんである(注1))。刀自古さんは山背大兄王子のお母さんなんだけど、山背くんは、蝦夷の息子入鹿(注2)に殺される、つまり従兄弟に攻め滅ぼされたわけ。でもって、入鹿くんのお母さん(つまり蝦夷さんの奥さん)(このひとは一説によると、石上(いそかみ)の斎宮だったそうだけど、どうして結婚できたんだろ?斎宮って独身じゃなきゃいけないんでしょ?)は、蝦夷さんの叔母さんだったりするんである(蝦夷さんのお母さんは物部氏――蘇我氏と敵対していた有力部族――の出身で、その年の離れた妹、・・・らしい?)。ひえー!!頭ぐちゃぐちゃになりそう・・・ってか?

 6.入鹿くんが崇峻帝(日本史上珍しくも臣下に殺された天皇)(この臣下ってのは、何を隠そう馬子さんである)の子供だっていう説もあるらしいけど、ってことは、蝦夷さんの奥さんは、蝦夷さんと結婚する前、崇峻帝の奥さんの一人だったんだろうか?・・・。このあたりもなかなかに複雑である。もうひとつ付け加えると、聖徳太子のもう一人の奥さん(太子には正式な奥さんが4人ほどいたらしい)は、大姫と通称される(本名は「うじのかいたこのおうじょ」という妙な名前の人物である(ワープロで漢字が出てこない!))、推古天皇の娘である・・・(なんだかどんどんわけがわからなくなってくる――)。さて、ここまで読んで、誰が誰の伯父(叔父)・伯母(叔母)・兄弟・姉妹・奥さん・ダンナさんか、きちんと言える人はえらい!(えらい、といういより異常、といったほうがいいかもね、)。

 7.(注1)馬子さんが崇峻帝を暗殺したとき、いっしょに殺された、という説があるらしい。でも、このひと、馬子さんの娘なんだけどな・・・。
   (注2)蘇我入鹿くんは、ご存知の通り、『大化の改新(西暦645(大化1)年)』のときに天智天皇や藤原鎌足(大化の改新のときはまだ中臣鎌足)に殺された。
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<練習問題29>について

かなりむちゃくちゃな問題でした。
こういうひどい文章の点訳の機会はそうそうないと思いますので、ご安心を。
要点だけ書いてみます。

1.ちなみに推古(これは諡号――おくりな(死後おくられる尊称)で、もとの名前は額田部女王(ぬかたべのひめみこ)というらしい)

推古のあとは説明のカッコといえますので、前に続けます。
(死後・・・)のカッコがさらに中にありますので、区別するために、中のほうは二重カッコを使うことにします。
(ぬかたべの・・)はルビのカッコですが、このルビは「額田部女王」の読み方ですので、点訳では不必要です。ですからここはカッコの使い分けを考える必要はありません。

2.やまほどお妾さん(というか、正妻やら第二夫人・第三夫人やら、)

このカッコを説明と捉えるか挿入と考えるかは解釈次第のように思います。「お妾さん」の説明といえばそうですが、たんに別の文を入れてみた、ともいえそうです。ここでは挿入と考えて、切ってみます。
カッコの閉じの前に読点がありますが、これは使えないので、無しにします。

3.推古天皇は敏達天皇(訳語田大王(おさだのおおきみ))の奥さんだった。

ここの(おさだのおおきみ)も漢字の読みのカッコですので、不要です。

  「敏達」〜「用明(橘豊日大王(たちばなのとよひのおおきみ))」〜「崇峻(泊瀬部大王(はつせべのおおきみ))」〜「推古」、と繋がっていく。(  )内は生前の呼び名で、

ここの波線は第1カギに続くことになりますので、使えません。
ここで「〜」が表している意味から考えても、矢印か棒線にするのがいいと思います。波線がひとつだけなら、「から」と言い換える手もあると思います。

  天皇になる前には「大兄(おおえ)(皇位を継承する可能性のある皇子のことを言うらしい。

(おおえ)は、漢字の読みのカッコですので、不要になります。
そこで、(皇位を・・)のカッコを使い分けたり、1マス空けて書く必要はなくなります。
オオエに続けて(コーイヲ・・・)と書きます。

4.(もちろん、同母・異母、いろいろなんだけど、)。

ここの読点も省略します。

5.婚姻関係をのべよ、とか(そんな問題は出ないか、)

カッコの閉じの前の読点は省略。
このカッコは挿入でしょうね。だから1マスあけ。

  ・・・。聖徳太子(ちなみにかれの本名(?)は厩戸王子(うまやどのおうじ)というそうだけど、かなり怪しい説によると、彼はほんとうは<イエス・キリスト>(時代が違うだろ、時代が!)で、だから厩――馬小屋で生まれた、そういうわけで『うまやど』、・・・『源義経=ジンギスカン説』よりむちゃくちゃ怪しい説だ)

このへんは、かなり無茶な書き方をしています。
どことどこがセットのカッコか整理します。
(?)は、ほんとうなら、原本どおりでいいのですが、ここの部分はすでに( )に囲まれています。
そこで、カッコの使い分けが必要になりますが、ほかにも区別しなければならないカッコがあるので、この(?)はカッコ無しにしてしまうのは、どうでしょう?
カレノ■ホンミョー?■ワ で、わかってもらえるのではないか、と思います。
(うまやどのおうじ)は漢字の読みのルビですから、必要ありません。
<イエス・キリスト>は、カッコではありませんので、そのまま第2カギを使います。
次の(時代がちがうだろ・・・)が区別の必要なカッコです。
二重カッコを使うのがいいでしょう。
これも、異論もあるとおもいますが、挿入のカッコと考えて1マスあけにしてみます。

  奥さんは蘇我馬子の娘で、蘇我蝦夷の同母妹・刀自古(とじこ)さんという(またまたちなみに、蝦夷・刀自古兄妹の腹違いの妹が、崇峻帝の何番目かの奥さんである(注1))。

(またまたちなみに・・・)は挿入文。
(注1)のカッコははずして、文中注記符を使います。

  入鹿くんのお母さん(つまり蝦夷さんの奥さん)(このひとは一説によると、

ここでは、カッコが重なっていますので、間を1マスあけます。
どちらも説明文ですが、(つまり・・・)のほうは、前の語に続けられますが、あとの(このひとは・・・)は前に続けられません。

6.入鹿くんが崇峻帝(日本史上珍しくも臣下に殺された天皇)(この臣下ってのは、何を隠そう馬子さんである)

ここも上記と同様、(日本史上・・・)のカッコは前の語に続け、つぎの(この臣下・・・)は切ることになります。

  (本名は「うじのかいたこのおうじょ」という妙な名前の人物である(ワープロで漢字が出てこない!))、

(ワープロで・・・)はカッコ内に入っているので、二重カッコなどに変えます。

7.『大化の改新(西暦645(大化1)年)』
この元号のカッコも別のカッコにしましょう。






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