「みずほ点訳」ホームページ

「みずほ流」点訳入門教室

17.記号(続き)




ここまでの記号でも、多少そういうものもありましたが、以下の記号は、さらに使用場面が限られてきます。
点訳物の種類によっては、こういう記号も必要になってきますが、いつでもどこにでも出てくる、というものではないので、必要になったときに『てびき』を見てくださればいいような気もします。
そして、場合によっては、敢えてこれらの記号を使わない工夫も必要になってきます。


 詩行符類(『てびき』p76〜77)

詩行符は4・5・6の点。二重詩行符はそれを二つ続けます。
1.詩や短歌・俳句に使います。
2.しかも、区切りで行替えせずに書いてあるときです。
3.そしてさらに、原本に行替えの代わりの「/」「//」の記号が使ってある場合に限って使います。 1〜3の条件が全て満たされていなければ、使いません。
つまり、詩であっても行替えしてあるとか、「/」が使われていないとか、逆に「/」があっても詩ではないというときは、使ってはいけません。
原本にたとえ「/」があっても、2マスあけで対処できれば、それでいい場合もあります。


 空欄記号(『てびき』p77〜78)

問題集や参考書では頻繁に使います。(この頃では、教科書もなにやら問題集じみてきましたので、よく出てきます)
見た目のとおりの四角い空欄だけでなく、同じ意味を持つ、空の丸括弧や下線にも使います。
前にも書きましたが、点字の記号は、墨字の記号に形で対応させるのではなく、意味で対応させることが大事です。
「江戸時代の3大改革とは、(  )・(  )・(  )である。」というとき、点字で第1カッコを使うのはよくありません。これは空欄記号を使います。
「エド■ジダイノ■数符3ダイ■カイカクトワ、■空欄記号・■空欄記号・■空欄記号デ■アル。」となります。
空欄に、数字や記号が付いているときには、点字では、空欄記号の直前にその記号などを打ちます。
「(1.)には年代、あ.(  )には出来事、(a)には地名を入れよ」は、「数符1.空欄記号ニワ■ネンダイ、■ア.空欄記号ニワ■デキゴト、■外字符a.空欄記号二ワ■チメイヲ■イレヨ」というふうになります。
原本には、1(  )とか、ア__とか書いてあっても、点字では、「数符1.空欄記号」「ア.空欄記号」あるいは「(ア)空欄記号」などと、ピリオドや括弧を付けて打ちます。
たとえば「亜熱帯」と答えさせたい場合の、「亜__」というのを点字で打つと「ア空欄記号」となりますから、それと区別するためでしょう。


 伏せ字(『てびき』p78〜79)

これは、普通の小説などの文章にも出てきます。
「*月*日、○○建設の△△氏と、現××市長の□□氏が料亭※※で密談し」などという場合です。
古文書などの引用で、判読できない文字を□で表すこともあります。(この場合に伏せ字記号を使うときは、その旨明記する必要があるようです)
検閲のあった時代の出版物では、肝腎なところがみんな伏せ字になっていたりしました。
それがどんなにあからさまに実名を想像させるものであっても、もちろん、点訳者が実名を入れたりしてはいけません。
これらの伏せ字は、とりあえず、○には「濁点マ」、△には「濁点ミ」、□には「濁点ム」、×には「濁点メ」、それ以外には「濁点モ」を当てます。
でも、原本で、○△□×*などを区別する意味、というか、意図がない場合、つまり、この本では伏せ字にいろんな形を使っているけれど意味があって書き分けているとは思えない、というときには、敢えて原本が使っている伏せ字の形にこだわらず、全部○にしてしまってもいいと思います。
伏せ字だということがわかればいい場合もあるのです。
尤も、原本に忠実に、というのも点訳の大原則のひとつです。
わかりやすく、という原則と、どういう場合にどちらを優先させるかは、読者、点訳者、所属グループなどの方針によります。
2桁以上の数字の一部に伏せ字があるときには、原本がどういう伏せ字を使っているかにかかわらず、×を使います。
19**年と書いてあっても、19△△年と書いてあっても、19××年と打つ、ということです。
伏せ字とそれに続けるべき仮名の間は、アルファベットの場合と同じで、仮名が助詞・助動詞なら1マスあけ、それ以外ならツナギ符です。


 %(『てびき』p79)

普通の文章の中に出てきたときには、概ね仮名書きします。
その方が読みやすいでしょう。
たくさんまとめて出てくる場合や、表やグラフなどでは、この記号、つまり「外字符p」を使います。 仮名書きより短く済みます。
使い方は、外字に準じます。


 &(『てびき』p79)

普通の文章の中に出てきたときで、仮名書きしてもいいところは仮名にしましょう。
その方が読みやすいでしょう。
たとえば、「K&K」のように、固有名詞に含まれているので勝手に変えるわけにはいかないとか、「アンパサンド(&)というのは、andの意味の記号です」という説明文の場合には、この記号を使います。
但し、これは日本語の中で使います。
外国語モードになっているときには、このまま使うことはできません。
それから、ここからは、異論のあるところかもしれませんが、私たちは、墨字の&をすべて「アンド」と発音しているわけではありませんよね。
たとえば、「チャゲ&飛鳥」は、多分多くの人が「チャゲ アンド アスカ」と言っていると思うのですが、「内山田洋&クールファイブ」と書いてあっても、「アンド」と言わないのではないかと思うのです。
墨字では、「と」の代わり、あるいは中点の代わりに、かなり装飾的に&を使うこともあります。 「3泊4日激安ツアー 北海道流氷ロマン&カニ食べ放題」などというとき、「アンド」と発音するのはどうも気恥ずかしい気がします。
「アンド」と打ってしまえば、「アンド」と読むしかないんだけれども、&の読みは、サイレントも含めて、実は幾通りかあるのではないでしょうか。
マークというのは、漢字と同じように、表意記号であるわけですから。
そういう意味では、一律に読み下すよりは、記号をそのまま打った方がいい、という意見もあると思います。
ただ、読者にとって、殊に中途失明の、触読経験の浅い読者にとっては、記号は少ないにこしたことはない、というのも事実です。
難しいところですね。
ここでは、ケースバイケースと言っておくしかありません。


 *・#・小文字符(『てびき』p79〜80)

使う場面は非常に限られています。
キーボードの説明くらいと考えていただいていいと思います。
(ただ、そういうものの需要は高くなっていますから、その限られた場面が出てくる頻度は決して少なくないでしょう)
それ以外の意味でこの形の記号が使われていても、点字ではこの記号を使ってはいけません。

それでは、練習問題をどうぞ。

      −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  練習問題 28
 1.1925年、選挙権の納税条件が撤廃され、25歳以上の男子に選挙権を与える普通選挙法が成立した。それは、画期的なことであった。手元の資料によると、
※<全人口に占める有権者の割合> 1890年1.1%/1902年2.2%/1920年4.6%/1928年20.0%/1946年51.2%

 2.このように、普通選挙制の実施によって、有権者数は全人口の20%、それまでの4倍以上になった。戦後(1946年)の急激な増加は、女性が参政権を獲得したことと、年齢が20歳以上に引き下げられたことによる。

 3.普通選挙も女性の参政権も、今となっては当たり前のことで、なかなか有難味も感じられない。血の滲むような闘いの結果勝ちとられた権利であることなど、忘れ去られている。これで突然、次の選挙から△千万円以上の高額納税者しか投票できません、ということになったら、少しは騒ぎになるだろうか――。

 4.「べつにィ、かんけェねェよ」という若者もいそうである。若い人に限らず、大人の権利意識・責任意識も非常に危うい。戦争と抑圧の時代を生きてきた70代以上、40年ほど前にあの政治の季節を経験してきた5、60代の人々にさえ、無関心・無自覚が蔓延しているかに見える。

 5.「以下の(  )の中に適当な数字または語句を下の選択肢から選んで記号で入れよ。( 1 )年 平城京遷都、( 2 )年 養老律令の成立、741年 ( a )建立の詔、( 3 )年 墾田永年私財法・・・{a.645 b.694 c.710 d.718 e.743 f.764 g.法隆寺 h.国分寺 i.盧舎那大仏・・・}解答欄 1__ 2__ a__ 3__・・・」などという丸暗記で切り抜けられる問題や、正しいものに○/間違っているものに×を付けよ、という○×式の試験問題で選り分けられてきたせいだろうか?

 6.そういう知識はもちろん決して無駄ではないし、思考の材料・前提になっていくものではあるが、それ自体は目的ではない。中高生が、「なぁんでこんなもん覚えなくちゃなんねぇんだよぉ」と不満顔をするのも、強ち故なきことではない。その先がなければ、たいして意味のあることではないのだ。

 7.学校時代にあれほど時間を費やした<歴史学習>から何ひとつ学ばない、というのは、それはそれでスゴイことだ。日本人は、と一般化してはいけないかもしれないが、点と点を繋げて考える、ということが不得手なのかもしれない、と思うことがある。過去の学校教育が、そういう思考回路を作ることに熱心でなかったのだろうか?

 8.そんな反省に立って、今年度から小中学校に「総合学習*」が導入された。学力低下の元凶のように言われたり、現場が手探り状態であることに苛立ちもあり、いろいろ批判もあるようだが、性急な判断は慎みたい。目前の一時的な結果に目を奪われると、結局いつも右往左往するだけに終わり、現場の混乱が恒常的に続くことになる。教育の真の成果は、一朝一夕に出るものではないだろう。そしてまた、器に何を盛るかによって、器は生きもし、死にもする。
    * 正式には、「総合的な学習の時間」というらしい。
      −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


<練習問題28>について

厄介な部分に入ってきましたね。
これ、という正解があるわけではない部分なので、それだけに難しいんですよね。
でも、点訳の真髄、というか、一番大事な、そして、面白いところは、こういうところかもしれません。
どうやったら伝わるか、どうやったら読みやすいか、誰かが決めてくれるのではなく、いろいろな条件を考えあわせて、自分で決めなくてはなりません。
もちろん、それは自分勝手に、ということではありませんが。
ただ、こういう領域は、きっと機械が苦手とするところだろうな、と思ったりします。
では、例によって、記号のところだけ書き出してみます。

 1.※は不要ですね。ほとんど意味はないと思います。
資料のタイトルを囲む<>は第2カギでいいでしょう。
あるいは、こうして別行にするのであれば、敢えて囲まなくてもいいかもしれません。
この資料が、独立したものであれば、タイトルはもちろん別行にして、何年、何パーセントというのを1行ずつに分けて打った方がいいと思いますが、今回は、中途半端に文の中に入っていますね。
ですから、第2カギでくくったタイトルのあと、2マスあけて何年、何パーセントを、読点で続けていく方法でもいいように思います。
独立の表のように扱うなら、「%」の記号は、「外字符p」でいいでしょうし、全く文の中、という扱いにするなら、仮名書きでいいでしょう。
今回は中途半端なので、どちらでもいい、というところでしょうか。
これは記号で書く、という人もいれば、これくらいは仮名書きだ、という人もいる、ということです。
「/」はこの場合、段落の省略というほどのこともありませんね。
もし1行ずつに分けない場合には、読点に置き換えていいと思います。

 2.こちらの「%」は、文の中ですから、仮名書きでいいでしょう。
前のところを記号で書いたとしても、ここは仮名でいいと思います。

 3.「△千万円」は、「濁点ミ..センマンエン」です。
ただ、「△」という形に特に意味があるわけでもないので、場合によっては他の伏せ字でもいいでしょう。

 4.「べつにィ、かんけェねェよ」の小さい字は、小文字符で表してはいけません。
この場合は小さくせずに、「ベツニイ、■カンケエ■ネエヨ」と打ちます。

 5.括弧やアンダーラインが空欄の意味で使われていますね。その場合は、空欄記号を使います。
空欄の中に付いている数字や記号は前へ出します。
「数符1.空欄記号ネン■■ヘイジョーキョー■セント、」という具合です。
「ネン」のあとは1マスでも間違いではないと思いますが、平城京と遷都の間の結びつきとは違う、一線を画す、という感じで2マスあけていいと思います。もちろんこの辺も、周りの環境次第です。
選択肢を囲む{ }という形の括弧は、特にその形に意味があるわけではありませんね。
問題の部分や解答欄と区別したいだけでしょう。点字でも、区別はしておいた方がいいですね。
全体が第1カギに入っていますから、その中で同じカギは使えません。第2カギでいいと思います。
今、この問題は、文の中に引用されているわけですが、ほんとうに、問題集なり試験問題などを点訳する場合には、問題も選択肢も1項目1行にする方がいいようです。
一刻を争っているとき、なるべく速く探せるように。
ここでは、単なる引用なので、そういう必要はないと思います。
「○」「×」などは、この場合、伏せ字ではないので、読み下します。
また、「/」は読点でいいでしょう。「タダシイ■モノニ■マル、■マチガッテ■イル■モノニ■バツヲ■ツケヨ、■ト■イウ■マルバツシキノ」というふうになります。

 6.「なぁんでこんなもん覚えなくちゃなんねぇんだよぉ」の小さい文字も、4.と同じですね。

 7.<歴史学習>の囲み記号は、第2カギでいいですね。ちょっとした強調の意味ですから、場合によっては、第1カギでもかまいません。この文の中では他に第1カギを使っているのですが、特にそれと紛らわしい、ということもないでしょう。
誰かの発言だと思ってしまう、という可能性がなければ、必ずしも使い分けなくてもいいと思います。

 8.「総合学習*」の注は、わざわざ別のところで説明しなくても、直に括弧書きで入れていいと思います。
たいして長い注ではないからです。
このくらいの長さの注をどうするかは、人によって違うかもしれません。
文が途中で分断されることを嫌う読者もいると思いますし、いちいち注を探しにいかなければならないのは煩わしいと思う人もいるでしょう。
難しいところですが、自分が読むとしたらどうかなあ、と考えて打ってくださればいいと思います。
もし注を別にするのであれば、文中注記符を使います。伏せ字記号は使わないでください。






<<BACK   INDEX   NEXT>>