「みずほ点訳」ホームページ

「みずほ流」点訳入門教室

14.囲み記号




囲み記号(『てびき』p63〜)

「囲み記号」というのはその名の通り、囲むための記号ですので、必ず開き記号と閉じ記号がセットになっています。
カギ類、カッコ類、指示符類、外国語引用符、段落挿入符、点訳者挿入符など、種類や用途はいろいろですが、基本的な使い方のルールは共通しています。
『てびき』の「囲み記号」の説明のところには、必ず「内側は続け、外側は分かち書きの規則にしたがう」と書いてあるはずです。
つまり囲み記号の種類に関わらず、開き記号と直後の語句や記号類との間と、閉じ記号と直前の語句や記号類との間は続ける、ということです。
囲み記号の内側は続けるというのは、かなり優先順位の高いルールなので、開きの直後・閉じの直前は、常に、どんな文字・記号でもくっつくと覚えていいと思います。
そして、あとは普通に分かち書きをします。
しかし、外国語引用符のような例外もありますので、注意します。

まずカギ類です。
墨字の会話文で使われる「  」は、第1カギ3,6の点3,6の点)を使います。
カギ類の中では一番多く使用されているものですね。
会話でなくても、墨字で「  」が使われていれば、点字でもほぼ第1カギを使えばいいと思います。

『  』は、二重カギ(フタエカギまたはニジュウカギ)といいます。
これもおおむね、原本で『  』となっていれば、点字でも二重カギ(5,6の点3,6の点3,6の点2,3の点)を使います。
『  』は、本や映画などのタイトルを囲むのに用いられることが多いものです。
また、「  」の中でさらに「  」を使いたいとき、中のカギは『  』になります。

第2カギ5,6の点3の点6の点2,3の点)はとても働き者です。
上記の「  」『  』以外のカギ、たとえば<  >、[  ]、【  】などが出てきたら、たいてい第2カギを使います。
墨字と違って、点字のカギはそれほどヴァリエーションがありませんので、「  」や『  』以外となると、それぞれのカギを使い分ける必要があるときには、できるだけ工夫して、それぞれのカギの区別がつくようにしますが、とりあえずカギの中に入っていることがわかれば良い、というくらいのときには、おおむね第2カギ、ということになります。

「ひとつの文の中に、カギで囲んだ語句が並列する場合、閉じと開きの間は1マスあける」と『てびき』にあります。これは、
<私が好きなものは、「りんご」「みかん」「栗」「いちご」というところかな。> 
いうようなときは、「りんご」「みかん」「栗」「いちご」のあいだで文章が切れているわけではないので、それぞれの間を1マスあけるだけで良い、ということです。
また、「ひとつの文の中に、カギ類で囲まれた文が並列するときは、その間を2マスあけてよい」となっています。
<彼女は、「りんごはダイエット向きね」「お正月といったらみかんだし」「栗はやっぱり栗きんとんかな」「いちごは女峰がおいしいのよ」などと際限なくしゃべり続けた。>
というような文章は、「彼女は、」から「しゃべり続けた。」まで一続きの文章ではあるのですが、カギで囲まれたひとつひとつの文も、語句の並列とは違い、一文ということができますので、それぞれの間を2マスあけにしたほうがいい、ということだと思います。

カギの閉じ記号のあとに句点がなくても、いったん文章が切れているような場合は、次の文との間を2マスあけます。
「ええ、ほんとうなのよ」彼女はうなずいた。→「エエ、■ホントーナノヨ」■■カノジョワ■ウナズイタ。

次はカッコ類です。
カッコといえば、(  )というやつですね。
通常このカッコは丸カッコと呼ばれます。
丸カッコには、ほぼ第1カッコ2,3,5,6の点2,3,5,6の点)を使います。
カギ類と同様に、カッコ類も使い分けが必要なときは、まず(  )に第1カッコを使い、そのほかのカッコを二重カッコ5,6の点2,3,5,6の点2,3,5,6の点2,3の点)や第2カッコ5の点2,3,5,6の点2,3,5,6の点2の点)に対応させることが多いと思います。
墨字では、(  )の中にまた同じ(  )があることもありますが、原本がそうなっていても点字ではこれを避けます。
理由は…そうです、点字の第1カッコは、開き記号と閉じ記号が同じだからです。
開きの次に出てくれば、閉じだと認識されてしまうんですね。
原本で(  )の中にもう一つ(  )が出てきたときは、中を二重カッコに変えます。

前述のように、カッコを使うさいの分かち書きルールはカギ類とほぼ同じです。
カッコの開き記号と直後の語句・記号、閉じ記号と直前の語句・記号のあいだはマスあけをしません。
ただ、開き記号の前をあけるかどうかは、そのカッコの性質によって異なります。
カッコ内の語や文が、カッコの前の語の説明になっていれば続けますし、単なる挿入の場合は切って書きます。
でも、説明なのか挿入なのか、判然としないものも多々あります。
そういうときは、点訳者が判断してどちらかに決めるわけですが、どちらであっても、それほどわけがわからなくなるとかいったものではありませんので、あまり神経質に考えなくてもいいと思います。

外字符によって表されるアルファベットのあとの説明のカッコは続けますが、外引符の場合は、カッコの前は切って書きます。
これについては「外国語引用符」のところでも書きます。

カギ類でもカッコ類でも、気をつけるべきは、「誤読」ということです。
記号類は、続けて書くと誤読されたり、意味がわからなくなったりする場合が多いのです。

「犯人(男31歳)(指名手配中)」を、
「ハンニン2,3,5,6の点オトコ■31サイ2,3,5,6の点2,3,5,6の点シメイ■テハイチュー2,3,5,6の点」と書くのはよくありません。
オトコからテハイチューまでを同じカッコ内にいれるか、それぞれのあいだを1マスあけます。

「第1カギの閉じと開き」「第1カッコの閉じと開き」「第1カッコの閉じと点訳者挿入符の開き」「点訳者挿入符の閉じと第1カッコの開き」などの符号間は1マスあけしたほうがよい、ということになっています。

次は指示符類です(第1指示符は5の点3,6の点3,6の点2の点)。
点字の指示符というのは、原本の傍点やアンダーライン、字体の変更などに対応させます。
傍点やアンダーラインは、書き手がその部分だけ他のところと区別したい、強調したいと思っているところに使われるわけですから、点訳でもその気分はなるべく伝えたいものです。
しかし、指示符類にかぎらず、記号類というのはあまり多用するととても煩雑になって読みづらくなります。
他の省略不可能な記号類は別ですが、指示符類は、つけなくても読むのに支障がないと判断して、省略してしまうことが多い記号です。
もちろん、傍点なりアンダーラインなりが非常に重要な意味を持つ場合、たとえば試験問題などで、
アンダーラインの語句の意味を述べよ、とか、
傍点の箇所について正しいと思われる解釈を選べ、とか、
そういうふうに書いてあったら、指示符は必要でしょう。
しかし、そういった場合以外では、指示符類は、内容に応じて省略してよい場合も多い、と考えていいと思います(点訳者が勝手気ままに省略していいわけではありませんので、校正者などとよく相談のうえ、判断してください)。
指示符には、上記の第1指示符の他に、第2、第3指示符があり、試験問題や参考書などで必要なときには使い分けます。

外国語引用符
すでに何度も出てきたように、外国語引用符(2,3,6の点3,5,6の点、以下、外引符)は、アルファベットの語句・文を囲むために用いる囲み記号です。
外引符の使い方のルールで、他のカギ・カッコ類と異なるのは、閉じ記号のあとに助詞・助動詞・カッコ類の開き記号がきたときには、1マスあける、ということです。
これはすでにお話しました。
「伊勢海老は、shrimpではなく、lobsterだよ」は、
「イセエビワ、■2,3,6の点shrimp3,5,6の点■デワ■ナク、■2,3,6の点lobster3,5,6の点■ダヨ」
「彼女はとてもlady(淑女)とはいえないね」は、
「カノジョワ■トテモ■2,3,6の点lady3,5,6の点2,3,5,6の点シュクジョ2,3,5,6の点トワ■イエナイネ」となると思います。

つぎは、『てびき』では発音記号符5,6の点2,3の点)となっています。
しかし、残念ながら私はこの記号を使う点訳を手がけたことがありません。
ですからこの項目について説明するのは不適格と言えます。
専門書などはまた別でしょうが、一般の本で、この種の記号類が多用されている場合は稀で、もし、これらの記号を使う局面に至ったときは、それなりに時間をかけてその使用法を勉強する必要があるのではないか、と思います。
よくご存知の方に、説明をお願いできれば幸いです。

と、逃げてしまったところで、次は点訳者挿入符2,3,5,6の点2,3,5,6の点2,3,5,6の点2,3,5,6の点)です。
点訳者の間では「点訳者による注記」という意味で「点注(てんちゅう)」と呼ばれることもあります。
原本には書かれていないけれども、点訳するとどうしてもわかりづらくなってしまう記述や、誤解を生じそうな記述(同音異義語など)について、点訳者が説明を入れる場合に使います。
用法は説明のカッコと同じで、説明したい語の直後に使います。

「彼は黄海に航海に出て後悔した」なんていうときは、やはり「黄海」「航海」「後悔」のあとになんらかの説明が必要でしょう。たとえば、
「カレワ■コーカイ2,3,5,6の点2,3,5,6の点キイロイ■ウミ2,3,5,6の点2,3,5,6の点ニ■コーカイ2,3,5,6の点2,3,5,6の点ウミヲ■ワタル2,3,5,6の点2,3,5,6の点ニ■デテ■コーカイ2,3,5,6の点2,3,5,6の点クヤム2,3,5,6の点2,3,5,6の点■シタ」なんて具合です(この説明が一番適切かどうかはわかりません)。
漢字を説明するのがいい場合もあるし、別のわかりやすい言い方に変えるのもいいかもしれません。

難しいのは、どこにどれだけの説明を入れるか、という判断のほうだと思います。
普通の小説やエッセイの場合なら、あまり点訳者挿入符は使いません。
多少わかりづらい語があっても、前後関係で予想のつく場合も多いですし、たいていの「わかりづらさ」は放っておくのが普通です。
点訳者挿入符はあくまでも、「点字であるがゆえにわかりづらい部分」の理解を手助けするためのものなので、読み手の知識の多寡に関わる「むずかしさ」に関して、点訳者が口出しするのは極力避けたほうがいいと思います。
しかし、一般図書ではなく、試験問題や説明書など、意味がわからないとどうにもならないものについては、もちろん適切な説明をつけます。
点訳を依頼してきたひとが、できるだけ説明をつけて欲しい、と言った場合も同様です。
説明は、客観的に、簡潔に書きます。
それは、ときにはとても難しいことなので、周りのひとの意見を聞くことをお勧めします。

段落挿入符2,3,5,6の点2,3,5,6の点■〜■2,3,5,6の点2,3,5,6の点
これは一見すると、点訳者挿入符と同じようですが、開きのあとと、閉じの前に空白マスがあります。
この空白マスを含めて3マスの記号なのです。
この記号だけ「カッコで囲む文や語句・記号類とカッコの内側は続ける」というルールが適用されないわけでありません。空白マスを含んだ3マスの開きや閉じに続けるのです。
だから、必ず空白マスがあるということを表さないといけません。
2,3,5,6の点2,3,5,6の点■〜■2,3,5,6の点2,3,5,6の点の閉じ記号の前で行替えになった場合、空白マスからあとだけを次行に持ってきてはいけないのです。
その前の一続きの語も一緒に行替えをします。
2,3,5,6の点2,3,5,6の点■アイチケンノ■チューシン■トシワ■ナゴヤシデス■2,3,5,6の点2,3,5,6の点
といったような場合、ナゴヤシデスまで前行に入っても、■2,3,5,6の点2,3,5,6の点の部分だけではなく、ナゴヤシデス■2,3,5,6の点2,3,5,6の点までを次行に持ってくる、ということです。
段落挿入符は、本文の要約、前文、宣伝文句、お芝居のト書き、などに使われます。
タイトル類ではないけれど、主となる部分ともちょっとちがう文章だよ、ということを伝えるものですね。
段落挿入符の開き記号は、3マス目以外から書き出すことはできないので、書き出し位置が下げてある挿入文は、段落挿入符を使用しないか、書き出し位置を3マス目に変更するかします。

以上、非常に大雑把で頼りない説明になってしまいました。
こうやってまとめて説明しようとすると、いかにも難しげに見えますが、実際の点訳作業の中では、ほぼ原本どおりにやっていけばだいじょうぶです。
使用頻度の高い記号はすぐ覚えられますから、たまにしか出てこない記号を、そのつど『てびき』などを活用し、ついでに先輩の点訳者も活用(?)し、使い方を覚えればいいのです。
めったにお目にかからない記号類まで、今、何が何でも覚えておかなくてはならない、ということはないと思います。
      −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  練習問題 24
 1.「そりゃあね、フランス料理が悪いとは言わないけどさ」と、あからさまな不満顔で<カンタン>のやつが言った。<カンタン>っていうのは、もちろんあだ名で、本名が<寛太>という、いまどき珍しいガキ大将のような名前なので、いつのまにか<カンタン>になってしまった。見た目もガキ大将がそのまま大人になったような、「童顔」を絵に描いたような顔をしている。

 2.「フランス料理ってのはね、そのまま食べりゃうまいのに、なんだかんだこねくり回して、その、えーと、なんだ、ソースだ、ムースだ、ディップだって、もとがいったい何だったんだか、さっぱりわからなくして食うような料理だよな。俺はね、そういうわけのわからねえものじゃなくってさ、これは魚だ、これは肉だって、氏素性のはっきりわかるような食い物を食いたいわけよ。」

 3.「<カンタン>は、要するに、簡単に素材がわかるようなものがいいと、言ってるわけだな」と、三嶋(こいつは、<カンタン>とは正反対の、銀縁眼鏡の優等生タイプだ)が言った。「しかし、<カンタン>のフランス料理に対する認識は、猫が日ごろ食べなれたキャット・フード以外のものを出されると、何を食べさせられるかわからない、と警戒して手を出さない、というのと同程度のものだな。要するに無知なるがゆえの恐怖感が、拒絶反応を引き起こしているというわけだ」 <カンタン>は目を剥いた。「俺は猫並みかよ。それに、猫ってのはあんがい頭がいいんだぜ。キャット・フードも、うまいやつなら、慣れてなくてもちゃんと食べる。」

 4.「猫の話をしてんのかよ、おれたちは」<カヌマ>が半畳を入れた。<カヌマ>っていうのも、あだ名だ。こいつは、栃木県の鹿沼市の出身なのだ。鹿沼市といえば、版画家の川上澄生の出身地で、美大で版画を専攻していた俺は、何度か鹿沼の「川上澄生美術館」に足を運んだことがある。『南蛮船』は大好きな作品だ(おっと、閑話休題)。

 5.「てことはだ、こちらの<カンタン>先生は、フランス料理なんぞという、素材を冒涜するような食い物ではなく、“こちらはお魚さまでございます”“あちらはお野菜さまでございます”というような明快至極なものを食いたい、とこうおっしゃるわけだな」と三嶋。「としたら、やっぱり中華か?」そう続けたのは、<カヌマ>だ。

 6.「中華料理か、いいねえ」と俺は言った。「近所の<来来軒>じゃなくってさ、Hotel Pacific Japanの<海楼閣>あたりで・・・」 すると、<カヌマ>が鼻の先で笑った。「<海楼閣>だあ??知らないやつは幸せだねえ。俺たちの財布の中身もかえりみずによく言ってくれるよ。<海楼閣>なんぞに行ったら、まあ、ラーメンの麺が二筋か三筋も食えりゃあおんのじだろうな」

 7.「そんなに高えの?」と<カンタン>。「たまには『東京グルメガイド』でも読んで勉強しろよ」と<カヌマ>がせせら笑う。「ああいうところはだな、値段が高けりゃうまいもんだ、と信じて疑わない、味のわかんねえ金持ちが行くところさ。餃子一皿(いいとこ三個くらいしか乗っかってねえやつだ)に2千円がとこも出して、“さすがに一流ホテルのお味は違いますわねえ”なんて、きいたふうな口たたいて、その実、3丁目の小汚い<好々軒>の餃子を出されたって、まるっきり気がつかねえような連中が、ありがたがって食ってんのさ」

 8.「俺は<好々軒>の餃子はうまいと思うぜ。300円で8個ってのは、安いしさ」と、<カンタン>が子供のような声を出した。「幸いなるかな、汝の名は貧乏人」と三嶋がまぜっかえした。「とにかく、俺たちは腹がへってるんだから、なんでもいいから食いに行こうぜ」と俺は言った。確か、NTT(これは、電話関係の某大会社ではなく、[日本トラベル・トラブル]という、旅行先でのトラブル処理を請け負っている会社のことだ)本社ビルの地下に小奇麗な中華料理屋があったことを思い出した。名前は「TienTien」。看板の横に「天天」と書いてあるから、それを中国語読みしたつもりなのだろうが、「天」は、ほんとうは「tian」で、「tien」という発音は中国語には無い。いい加減なもんだ。ま、うまけりゃなんだっていいんだけどね。
      −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


<練習問題24>について

この練習問題で考えたいのは、いろいろ出てくるカギ類・カッコ類をどうするか、ということと、点訳者挿入符が必要なところがあるか、あるとしたらどういうふうに使うか、ということだと思います。

1.
会話のカギはそのまま第1カギを使えばいいですね。
「童顔」のところもそのままで問題はないと思います。
会話文と「童顔」のカギは意味が違う、といえばそうですが、原本どおりが原則ですし、同じカギを使っても、混乱を招くことはないと思います。
<>は、第2カギを使えばいいですね。
「・・・イワナイケドサ」ト、
<カンタン>ノ
<カンタン>ッテ
<カンタ>ト
<カンタン>ニ
「ドーガン」ヲ
以上は、カギの閉じのあと、助詞(付属語)がきていますので、続けて書きます。以下も同様です。

2.
ここは、全部ひと組の「 」の中の文章ですので、とくに難しいことはないですね。
カギの開きの直後・閉じの直前を続ければ、あとはふつうの分かち書きです。
「氏素性」は「ウジ■スジョー」と切って書きます。

3.
「<カンタン>ワ のところは、第1カギの開きの直後に第2カギの開きがきていますが、誤読の対象とはならない記号の続き方ですので、そのまま書きます。
三嶋のあとの丸カッコは、説明のカッコ(三嶋君について解説しているわけですね)ですので、続けて書きます。
「・・・ト■イウ■ワケダ」までと、そのあとの、<カンタン>ワ■メヲ■ムイタ。は、別々の文章ですので、あいだを2マスあけます。カギの閉じにすぐ続けて書いてあっても、文章が切れているか、助詞などの付属語がついていないか、などで、2マスあけかどうかを決めます。

4.
「・・・オレタチワ」■■<カヌマ>ガ も、カギ閉じのあと、付属語もありませんし、文章が切れている、と考えていいと思います。
ここでは、<カヌマ>と「鹿沼」という同音の語が出てきます。
同じ音なので、点訳者挿入符が必要かどうか、一応考えてみたほうがいいのですが、ここでは、あだ名のほうは<>で囲まれていますし、囲まれていなかったにしても、前後関係でどちらのことを言っているのかわかると思います。
こういった場合は、あるいは異論もあるかもしれませんが、説明の必要はないと考えていいと思います。
『南蛮船』は、版画作品の名前で、原文も二重カギになっていますので、そのまま点字でも二重カギを使います。
(おっと、閑話休題)は、説明ではなく、挿入のカッコと解釈できますので、前に続けず、1マスあけて書きます。

5.
会話文の中に“ ”が使われていて、別の会話文が挿入されています。
また、あだ名に< >がすでに使われていますので、カギを使い分ける必要があるかな?と考えてしまいますね。
しかし、この文章の内容を考えると、カギの使い分けがそれほど必要とも思えません。
「 」と< >と“ ”に書かれている語の違いについて述べよ、とかいった場合は区別の必要がありますが、ここでは、「 」はそのままで、<>と“ ”は同じ第2カギを使ってかまわないのではないかと思います。ことさら混乱することはないでしょうから。

6.
Hotel Pacific Japanは、外国語引用符で囲みます。そのあとの「の」は前を1マスあけ。
<カイローカク>■アタリデ■・・・」■■スルト、
「アタリ(辺り)」は自立語(形式名詞)なので前を1マスあけ。点線の前は語なので1マスあけますが、カギ閉じは記号ですので続けて書きます。
スルトからまた別の文章ですので、前は2マスあけます。

7.
『東京グルメガイド』は、どうやら本か雑誌の名前みたいですね。そのまま二重カギでいいですね。
餃子一皿のあとの丸カッコは、餃子についての説明と言えますので、続けて書きます。
“さすがに・・・”の“  ”も、第2カギで支障はないと思います。
<好好軒>はなんて読んだらいいでしょう?
原文にとくにルビもありませんし、こういうときは点訳者が妥当な読みを考えるしかないので、日本語読みで「こうこうけん」でもいいですが、中華料理屋さんなので、「はおはおけん」と中国風に読むのもいいかもしれません。

8.
NTTのあとは、説明のカッコですので続けていいですね。
[日本トラベル・トラブル]の[  ]はどうしますか?
点字にはそれほどたくさんのカギはないので、場合によっては、カッコ類も動員して区別しなければならないこともありますが、ここではそれほど厳密な区別は必要ないので、ここも第2カギでいいと思います。
ということは、この文章中の「  」と『  』以外のカギは、みんな第2カギでいいということになります。
どうしても、違う形のカギが必要なのだけれど、もう使い果たしてしまった、などという場合は、苦肉の策で、カッコ類で代用することもあるかもしれませんが、そういうときには、カッコで囲まれている部分がどういった内容のことか、あらかじめ断り書きを書いておいたほうがいいと思います。
「天天」の「天」は「tian」という発音なのに、間違っている、と文句を言っているわけですが、点字では「テン」とあっても、「天」なのか「点」なのか「転」なのか、わかりません。
「tian」と発音される「テン」はどれなのか?という疑問を読んでいる人が感じるかもしれません。
そこで、ここには点訳者挿入符を使って、「テン」について簡単な説明を入れることにします。
「テンテン((テンクーノ■テン))」でもいいし、「テンゴクノ■テン」なんていうのでもいいですね。
挿入符を入れる場所は、説明したい語が出てきたときにすぐの場合もあるし、この文章の場合だと、次の行に、「天」は、ほんとうは「tian」で――という「天」という漢字の読み方に言及した一文が出てきますので、そのときでもいいと思います。

しかし、この「天」の説明も、どうしても必要というほどのものではありません。
あれば親切ですが、なくても読むのに支障はないし、中国語の発音について書かれた文ではないので、「テン」が「天」であっても「点」であっても「添」であっても、誰も困ることはありません。
だから、この点訳者挿入符も、必要ないというひとも多いと思います。
点訳者挿入符の要・不要は、その本の内容・種類・実用度等にかなり左右されますので、全体として、どれくらいの説明が必要とされる本か、ある程度方針を立てて点訳していくといいと思います。

「tian」「tien」は第1カギの中に、外国語引用符で囲んだtianなりtienをいれますが、この場合も2種類のカギの開き・閉じが重なっても、誤読されることはないので続けて書いて大丈夫です。
外国語引用符で書かれた語が別のカギやカッコでさらに囲まれているときは、それらの閉じ記号のあとはふつうの分かち書きに従います。
「tian」デ、「tien」トの、「デ」や「ト」は第1カギの閉じに続けていいのです。
「  」があることで、そこから先はもう日本語モードになっているわけですね。


Q. 練習24のなかに「なんだかんだ」という語句がありますが、辞書で調べてみると<連語>となっていました。連語は「ナンダ■カンダ」というように、切っても構わない語句なのでしょうか?
「いつのまにか」という語句も、「いつの間」というのが連語として辞書に載っていましたが、切ってもいいなら「イツノ■マニカ」と点訳できることになりますが。


「なんだかんだ」は、連語ということですね。
連語というのは、『大辞林』によると、「ふたつ以上の単語が連結し、ひとつの単語に等しい働きをもつもの」となっています。
例としては、「我が君」とか「もひとつ」などが載っているのですが、このうち、点訳では「我が君」は切るし、「もひとつ」は切らないんです。
ということは、連語であることが、続けたり切ったりの条件になるとは限らないのではないでしょうか?
やはり、「なんだかんだ」は「なんだ」の部分の自立性がかなり高いとか、リズム的にも切るほうがしっくりくるとか、そういう要素もありそうな気がしますがどうでしょう?
慣用句でも切るもの切らないもの、いろいろですし、連語もそれぞれの語の自立性によって、切れ続きが違ってくるのではないかと思います。

「いつの間にか」は、もう一語であると言っても、みんなが納得してくれる範疇に入っているように思います。
その線引きは難しいですし、点訳者によっても少しずつ違っています。
「何もかも」はふつう「ナニモ■カモ」と切って書くのですが、もう一続きでもいいだろうと判断して、続けているところもあります。
「いつのまにか」は、ほとんどのひとが一続きにして支障はなかろう、と考えている、そういうあたりに位置することばなんですね、きっと。






<<BACK   INDEX   NEXT>>