この教室も、「語の書き表し方」「分かち書き」のおおよそのところを見てきました。
説明が下手で意味不明だったり、混乱していたり、不充分だったり、練習問題がヘンだったり、いろいろ至らない点はあると思います。
お気づきの点、ご不審の点、これはおかしいとか、こういうときはどうするの?とか、どんどんお寄せください。
但し、私たちでお答えできることは限られていますので、すぐに適切な回答は出てこないかもしれません。
それはそれで、みんなで悩むとか、先輩諸氏に教えていただくとか、あれこれ考えていきたいと思います。
これから「記号」のところに入っていきます。
今後ともよろしくおつきあいください。
点字の中でも、記号は使います。
ただ、その使用は、墨字の場合に較べると限られています。
点字の記号の歴史はあまり古くありません。
墨字の文章記号として一番一般的な、読点と句点にしても、点字の文章に普通に広く使われるようになったのは、ここ20年か30年のことだと思います。
それまでは、読点の代わりに1マスあけ、句点の代わりに2マスあけ、ということになっていたようです。
わりに最近まで、句点は使うけれど読点は使わない、というやり方は普通でした。
今でも、古くからの点字読者の中には、句読点があると読みにくい、とおっしゃる方が少なくありません。
ひとつには、点字はマスあけがあるので、読点をつけなくても墨字でズラズラ書くほどはわかりにくくない、ということがあります。
そしてやはり、視覚で捉えるのとは違って、一度に把握できる範囲が限られているので、句読点もいちいち触って読まなければならない、という煩わしさもあります。
けれども近年、点字で専門書を読んだり、受験したりする人が増え、読点の有無で微妙に意味が変わることや、墨字と点字を対応させる必要があることが問題になってきたようです。
そこで、句読点はもちろん、いろいろな記号が使われだしました。
参考書や試験問題など、墨字のものには実に多種多様な記号が使われています。
アンダーラインひとつとっても、1重あり、2重あり、波線あり、点線あり、果ては黒、青、赤、オレンジ・・・とカラフルで、それをひとつずつ区別しないと、意味が通じません。
その辺になると、点字の記号として定められているものだけでは対応できないので、別途方法を考えなくてはなりませんね。
現在は、多分どこの講習会でも、ひととおりの記号は勉強すると思います。
ただ、実際に点訳するときには、点訳物の種類や読者の希望などによって、どのくらいの記号を使うかを考えましょう。
不必要な記号は使わない方がいいのです。
とはいえ、何が必要で何が不必要かは、なかなか難しい問題ですが。
それから、墨字の記号というのは、使った者勝ち、なんでもあり、みたいなところがあるのですが、点字では種類も限られていますし、用途も決まっています。
たとえば、墨字の「〜」は、特に近頃、「あ〜ぁ」とか「ぎゃ〜」とかいう場合にも使ったりするのですが、「〜」に対応する点字記号は「3時〜5時」とか「京都〜大阪」など、範囲を表す場合にしか使いません。
小中学生の点字教室では必ずと言っていいくらい、ハートマークや音符マークはどうやって書くの? と聞かれます。
近頃の子どもたちは、そういうマークがないと思ったことを書けないのかもしれませんね。
残念ながら、今のところ点字にはそういうマークはありません。
さて、それでは、句読符から見ていきましょう。
1.「水・木・金」は並列関係を示す中点なので、点字でも中点をつけます。
けれども、墨字でも「水木金」というふうに書くこともあり、その場合は「スイ モク キン」と打つことになって、それで充分意味はとれるわけです。
ならば、わざわざ中点をつけるには及ばない、という意見もあると思います。
ですから、点訳物の種類などにもよって、その辺は使い分けていいでしょう。
たとえば市町村や団体のお知らせ・催し物案内でしたら、内容が伝わる、ということに主眼があり、簡潔であることが求められているでしょうから、敢えて中点をつけなくてもいいと思いますし、文学作品などで、作者の表現方法をできるだけ忠実に伝えたいときには、中点を省かない方がいいでしょう。
「わあ、働きすぎだあ!」「それとも、風邪?」「よりによって、こんな日に!」はそれぞれ独立した文章だと考えられますから、これらの「!」「?」は句点に代わるものとして、あとを2マスあけます。
2.「見合い?をする」という場合の「?」は明らかに文の途中ですから、あとは1マスあけます。
「えっ? 違うよ」の場合、両方の解釈が可能かもしれませんね。
「えっ?」が独立の文だと考えればあとを2マスあけるし、「えっ、違うよ」と同じ感じだと思えば、1マスでいいでしょう。
点訳者の解釈次第です。
細かいことを言うなら、この練習問題では、「?」のあと墨字で1字分あけてあるところは文が切れている、という書き方をしています。
文中のときは、あけてありません。
そういう表記の法則を見つけられれば、ここは文が終わっているつもりなのかな、と当りをつけることができます。
けれども、文中でも1字分あける書き方もあるので、この本では、あるいはこの書き手は、どういう表記をしているのかを見極めないと、参考にはなりません。
「それだけでもないかナ?」のあとは2マスあけでいいですね。
3.「あゆみ・ひとみ・まい」は並列なので、原則として中点をつけます。
特に、固有名詞の並列なので、はっきりさせるために中点があった方がいいと思います。
「月2、3回」の打ち方はいいですか?
およその数ですから、「数符2数符3カイ」で、読点は使いません。
4.「インテリア・デザイナー」「スイミング・スクール」の中点は、点字では省きます。
マスあけがあるので、わざわざ中点で区切る必要はありません。
「幼児・学童」は並列ですから、中点をつけるのが一般的です。
「見習い・兼・雑用係」はどうでしょう?
「見習い」と「雑用係」は並列的な関係ですが、少なくとも「兼」は違いますね。
ですから、これは「ミナライ■ケン■ザツヨーガカリ」だろうと思います。
「画廊・アリス」の中点は、最近新たに「つけてよい」ということになった、言い換えの場合ですね。
画廊であるアリス、ということでしょう。
でも、もしかすると、この画廊は「画廊・アリス」という名前なのかもしれません。
この文からでは、そのへんの事情はわかりませんが、いずれにしても中点をつけておけばいいですね。
「先生!してる」の「!」は、文の途中ですから、あとは1マスあけです。
5.「私?」は短いけれど独立した文なので、「知らないでしょ?」のあとと同様、2マスあけます。
「ベスト・ミステリー・クラブ」「ステップ・アップ・シリーズ」の中点は要りません。
それに対して「囲碁・将棋」は並列ですから、中点をつけます。
「5、6号」は、先ほどの「2、3回」と同じですね。
6.「デザイナー・森川優子・42歳」の中点はどうですか?
並列でしょうか?
彼女についての情報という意味では、並列的な関係かもしれません。
でも、内容的にその3語が並列関係だとは言いにくいですね。
では、言い換えに当たるでしょうか?
「デザイナー・森川優子」だけなら、言い換えですね。
ただ、年齢までは言い換えとは言えそうもありません。
となると、「デザイナー・■モリカワ■ユーコ■■数符42サイ」あるいは「デザイナー■■モリカワ■ユーコ■■数符42サイ」でしょうか。
こんなところで2マスあけるなどという話は聞いていない、とお思いでしょうね。
これについては『てびき』では少し先のp98〜99にあります。
「森川優子」という言葉が姓と名の間にマスあけを含むので、「デザイナー■モリカワ■ユーコ■数符42サイ」だと、等間隔にあいてしまい、ま、この場合は誤解は生じないと思いますが、具合の悪いことも出てくるのですね。
それを避けるために、中点や読点をつけずに別の言葉が並ぶとき、しかもその言葉の内部にマスあけが含まれるときは、外部は2マスあけます。
この辺については、別の意見もあるかもしれません。
7.「ナント!!うちのオヤジ」「どうしてくれよう!ってかんじ」は文の途中ですね。
あとは1マスあけです。
8.「1994・10・27」は、『てびき』p62に書き方の例が載っていますね。
1マスあけに変える、ということです。
それで間違いではありません。
ただ、この場合、表とか箇条書とかではなく、普通の文章の、しかも、かなり喋りに近い表現の中ですね。
そうすると「数符1994ネン■数符10ガツ■数符27ニチ」と打ってしまった方が滑らかに読めるのかもしれない、という気もします。
私だったら年月日を入れて打つだろうな、と思いました。
「できないじゃない?」のあとも2マスあけます。
9.「時間・知力・労力・演技力」は並列関係ですから、原則として中点をつけます。
「東京・新橋」はどうでしょう?
これは東京と新橋ではなくて、東京の中の新橋、という意味ですね。
ある意味では、言い換え、と言えなくはないかなあ、とも思います。
「言い換え」といっても、A=Bという関係ではありませんね。
「エッセイスト・小島洋一郎」もエッセイスト=小島さんなのではありません。
中学校で英語を習ったときに、関係代名詞の訳語として出てきた「〜であるところの」という感じです。
「東京・新橋」がそれに当たるかどうか、ちょっと自信がないのです。
私は、この場合、中点はつけなくていいと思っています。
「トーキョー■シンバシ」で充分わかりますし、敢えて中点をつけると、並列なのかな、という誤解を生む可能性があるように思うのです。
これまで、並列のときには中点を使う、ということが多かったからです。
ただ、この点に関しても、異論はあると思います。
「入門教室」などというところでこんな曖昧な話をするのは、多分、不謹慎・不適切なのでしょうが、でも、このあたりが「みずほ流」ということで、お許しください。
「チャイニーズ・レストラン」「スペシャル・ランチ」の中点は不要です。
「ひ・み・つ」は、前にも書いたように、必ずしも決まった打ち方があるわけではありませんが、1マスあけでいいかなあ、という程度です。
10.「起きるか!って」は文の途中なので1マスあけ。他の「!」や「?」は文の終わりで、句点に相当するので、2マスあけます。「ぎゃーっ!!」については、2.の「えっ?」と同じですね。
「9:45」は、「数符9ジ■数符45フン」と読み下してしまっていいでしょうね。
記号のことではありませんが、「止まってるぅっ。」の表記はどうするのがいいでしょう?
墨字では小さい「ぅ」に小さい「っ」なのですが、点字ではこういうところに小文字符を使ってはいけないので、「トマッテルーッ。」と長音符+促音符にしていいかと思います。
でも、「トマッテルウッ」の方が実際の発音に近いですか?
さて、こういう文章には、外来語ではない言葉のカタカナ表記がよく出てきます。
それなりのニュアンスを持っていることが多く、目から受ける印象は、平仮名の「すてき」、カタカナの「ステキ」、漢字の「素敵」ではかなり違います。
「おやじ」「オヤジ」「親父」も多分違うイメージだと思います。
終助詞の「ね」「な」「よ」なども、平仮名とカタカナではちょっと気分が違うでしょう。
けれども、残念ながら、仮名点字には今のところそれを区別する機能はありません。
Q. 中点の説明の所で、「五・一五事件」「三・三・七拍子」などの中点も、点字では要らないと書かれていますが、このとおり入力すると「数符5数符15■ジケン」と表記されることになりますよね?
もし仮に、「2・3事件」というものがあったら、「数符2数符3■ジケン」となってしまい、2〜3件の事件というような、およその数を表す書き方とごっちゃになってしまったりはしないのでしょうか?
2月3日に事件が起こるとして、「二・三事件」。
なるほど、語呂はよくないけれど、有り得なくはないですね。
その場合、点字では「数符2数符3■ジケン」と打ちます。
一方、事件が二つ三つある時は、「数符2数符3ジケン」でしょうね。
単位というか、助数詞は、前の数字に続けますから。
そういう意味では、墨字の方が区別がつきにくいんですね。
マスあけって便利、ということもあるわけです。
ですから、墨字で「二・三事件」と出てきたら、要注意です。
どういう意味の「二・三」だか、よくお確かめください。