「みずほ点訳」ホームページ

「みずほ流」点訳入門教室

11.接続詞句・副詞句・慣用句・繰り返し言葉・動植物名など



接続詞句・副詞句・短い語からなる慣用句(『てびき』p49)

実を言うと、この辺は、うまく説明できません。
無責任なようですが、「意味のまとまり」「発音上の切れ目」などを総合的に判断して、続けたり切ったりしてください、ということしか言えないのです。
こんな曖昧な基準ですから、どうしても人によって多少の判断の違いは出てきます。
たとえば、「遊ぶ金欲しさ」「怖いものみたさ」「弱い者いじめ」など、切ってしまうと言葉の一体感が失われてわかりにくくなる、という意見もあります。
けれども、ひと続きにすることで得られる言葉の一体感と、切ったときの触読の容易さと、どちらをとるか、といったときに、誤解を生ずる可能性があるなら前者をとらなければならないけれど、誤解されるほどのことはないというのなら、「アソブ■カネ■ホシサ」「コワイ■モノ■ミタサ」「ヨワイ■モノ■イジメ」と短く切った方がいいだろう、というのが、現在の『てびき』の考え方のようです。
『てびき』にはいくつかの例が出ていますが、それを見ていただければ、だいたいは、ああ、なるほど、こんな感じで切るんだな、と納得できるかと思います。
『てびき』に出ている例に、あともう少し付け加えますから、それらを参考にしてください。
なお、言葉が前の言葉に続くことによって濁る「連濁」の場合は続ける、ということについては、すでに何度か触れましたので、ご了解いただいていると思います。

●接続詞句・副詞句(文法的分類がよくわかっていないので、違うものも混じっているかもしれません。悪しからず)
豈はからんや ―― アニ■ハカランヤ
うんともすんとも ―― ウントモ■スントモ
多かれ少なかれ ―― オオカレ■スクナカレ
遅かれ早かれ ―― オソカレ■ハヤカレ
かくなる上は ―― カクナル■ウエワ
かといって ―― カト■イッテ
これやこの ―― コレヤ■コノ
さすれば ―― サスレバ
さはさりながら ―― サワ■サリナガラ
さにあらず ―― サニ■アラズ
さもありなん ―― サモ■アリナン
さればこそ ―― サレバコソ
しかしながら ―― シカシナガラ
しかる間 ―― シカル■アイダ
しかるが故に ―― シカルガ■ユエニ
してみると ―― シテミルト
そうはいうものの ―― ソーワ■イウ■モノノ
それにつけても ―― ソレニ■ツケテモ
それはさておき ―― ソレワ■サテオキ
それもそのはず ―― ソレモ■ソノ■ハズ
だからといって ―― ダカラト■イッテ
とはいうものの ―― トワ■イウ■モノノ
何とかかんとか ―― ナントカ■カントカ
何としても ―― ナント■シテモ
何にせよ ―― ナンニ■セヨ
念のため ―― ネンノ■タメ
のみならず ―― ノミナラズ
ひょっとしたら ―― ヒョット■シタラ
まずもって ―― マズモッテ
まったくもって ―― マッタクモッテ
万が一 ―― マンガイチ
もしかすると ―― モシカ■スルト
ややあって ―― ヤヤ■アッテ
ややもすれば ―― ヤヤモ■スレバ
より一層 ―― ヨリ■イッソー
れいによって ―― レイニ■ヨッテ

●短い語からなる慣用句
虻蜂とらず ―― アブハチ■トラズ
井の中の蛙 ―― イノ■ナカノ■カワズ
間髪を入れず ―― カン■ハツヲ■イレズ
木で鼻をくくる ―― キデ■ハナヲ■ククル
木に竹を継ぐ ―― キニ■タケヲ■ツグ
草の根わけても ―― クサノ■ネ■ワケテモ
怖いもの知らず ―― コワイ■モノ■シラズ
塞翁が馬 ―― サイオーガ■ウマ
差しつ差されつ ―― サシツ■ササレツ
関の山 ―― セキノヤマ
その場限り ―― ソノバ■カギリ
それ見たことか ―― ソレ■ミタ■コトカ
つかず離れず ―― ツカズ■ハナレズ
寝た子を起こす ―― ネタ■コヲ■オコス
根も葉もない ―― ネモ■ハモ■ナイ
蜂の頭 ―― ハチノ■アタマ
歯に衣着せぬ ―― ハニ■キヌ■キセヌ
忙中閑あり ―― ボーチュー■カン■アリ
耳にたこ ―― ミミニ■タコ
見も知らぬ ―― ミモシラヌ
見る影もない ―― ミル■カゲモ■ナイ
目にもの見せる ―― メニ■モノ■ミセル
目の敵 ―― メノカタキ
目引き袖引き ―― メヒキ■ソデヒキ
元の木阿弥 ―― モトノ■モクアミ
元も子もない ―― モトモ■コモ■ナイ
安物買いの銭失い ―― ヤスモノカイノ■ゼニウシナイ
よくしたもので ―― ヨク■シタ■モノデ

ろくな説明もせずに、練習問題もないものですが、ここでは、この言葉はどう打ったら伝わりそうかなあ、いままで出てきた他の言葉の切れ続きとあまり矛盾しないようにするにはどうしたらいいかな、と考えながらやってみてください。
それが当たっているかどうかということに一喜一憂なさらずに、考える過程を楽しんでいただけたら、と思います。
そして、結果的に類例を増やせればいい、というおつもりでどうぞ。

      −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  練習問題 19
 1.振り返るまでもなく、追っ手がすぐ後ろに迫っているのはわかっていた。何が何でも逃げのびなければならない。それでいて、脚はまるで自分の脚ではないように、思い通りに動かない。どうしたわけか、地面を蹴る力が全然ない。むしろ、地面に粘り着いている感じで、引きはがすのにいちいち力が要る。このままでは、あっという間に追いつかれる。

 2.息が苦しい。酸素が肺にまで入ってこない。空気を吸おうとするのに、肺はすでに一杯で、新しい空気の入る余地がない。もしかすると、一度息を吐けばいいのかもしれない、と頭では思うのだが、いかんせん、そんな余裕はないのだ。息を吐いている2、3秒の間に酸欠で倒れてしまうに違いない。

 3.それにしても、方角がわからない。さっきから同じところをぐるぐる回っているのではないか、という疑念が沸き上がってきて、頭の中がその考えで一杯になってしまう。自分がどこに向かって走っているのか、皆目見当がつかなくなっている。何はともあれ奴等の手から逃げなければならない。さもないと、生きて帰ることは望めないだろう。それだけはわかる。

 4.それはそうと、何故この街には人がいないのだろう。さっきから住宅街と思われる地域に入り込んでいるのだが、人っ子一人見かけない。まるで廃墟のような街だ。人影さえ見えれば何とか助けを求めることができるかもしれないのに、まわり中がシンと静まり返っている。こともあろうに、人間どころか犬1匹見当たらない。それはおかしい。どう考えても不自然極まりない。

 5.かてて加えて、日の光が眩しい。目を細めてもなお、周りの景色がやけに白っぽい。とても上空など見上げられないほど陽射しが強い。にもかかわらず、物の影というものがない。陰影を失って、気味の悪いほど平板に見える。影のない世界は、奥行きをもたない。実体のない虚像のようだ。

 6.そこで、はたと考えた。ひょっとするとこれは夢なのかもしれない。単なる夢の断片なのかもしれない。そう、それはとても魅力的な考えだ。だとすれば、この絶体絶命の状況から脱出できるかもしれない。一瞬にして、自分の部屋のいつもの柔らかい毛布の中で、充分な睡眠のあとの満ち足りた目覚めに移行していく、あの甘美な感覚が現れるのかもしれない。

 7.そういう覚醒、そういう劇的な場面転換を切に願っている自分が、はっきりと自覚できる。しかしながら、祈るような思いでその瞬間を待っても、あいも変わらず、脚は重くへばりつき、息絶えだえの状態だし、街は真っ白で誰もいない。状況はちっとも変わらない。いや、むしろ背後に迫る足音がますますもって近づいたような気がする。

 8.そうこうするうちに、下り坂にさしかかったようだ。脚の粘着性は相変わらずなのだが、脚を地面から離してから次につくまでの時間が心なしか短くなった。その部分にだけ加速度がつく。それかあらぬか、呼吸はさらに乱れ、もはや手足にも脳にも酸素は供給されず、どこもかしこも感覚がなくなってきた。

 9.流れ落ちる汗が目に入ると、視界は白い1枚の板のようになってしまった。今となってはほとんど勘だけに頼って走り続けるしかない。汗を拭う余裕もない。もうだめだ。にっちもさっちもいかない。万事休す。

 10.突然、脚がつくべき場所を失った。当然のことながら体は支えをなくし、有無を言わせぬ急激な落下が始まった。何がどうなっているのか、考えてもわかるわけがない。ただひたすら落ちてゆく。もう、どうにでもなれ。どっちみち、これ以上どうにもなりようがないではないか。意識がだんだんに薄れてゆく。そして、白かった世界がみるみるうちに暗くなっていった。
      −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


<練習問題19>について

もしかしてこの辺が接続詞句、副詞句、慣用句かな、と思われるところを抜き出してみますね。

1.振り返るまでもなく――フリカエルマデモ■ナク  「振り返る」が複合動詞で、それに「まで」と「も」という助詞がつくので、長くなりますね。
  何が何でも――ナニガ■ナンデモ
  それでいて――ソレデ■イテ
  どうしたわけか――ドー■シタ■ワケカ
  あっという間に――アット■イウ■マニ
2.もしかすると――モシカ■スルト
  いかんせん――イカン■セン  1語のようにも感じますが、もとをただせば「如何にせむ」ですから切ります。
3.それにしても――ソレニ■シテモ
  何はともあれ――ナニワ■トモアレ
  さもないと――サモ■ナイト
4.人間どころか――ニンゲンドコロカ
  こともあろうに――コトモ■アローニ
  どう考えても――ドー■カンガエテモ
5.かてて加えて――カテテ■クワエテ
  にもかかわらず――ニモ■カカワラズ
6.ひょっとすると――ヒョット■スルト
  だとすれば――ダト■スレバ
  一瞬にして――イッシュンニシテ  これは、文語的表現の「にして」の使い方のところで出てきましたね。
7.しかしながら――シカシナガラ
  あいも変わらず――アイモ■カワラズ
  ますますもって――マスマスモッテ
8.そうこうするうちに――ソーコー■スル■ウチニ
  心なしか――ココロナシカ
  それかあらぬか――ソレカ■アラヌカ
  どこもかしこも――ドコモ■カシコモ
9.今となっては――イマト■ナッテワ
  にっちもさっちも――ニッチモ■サッチモ
  万事休す――バンジ■キュース
10.当然のことながら――トーゼンノ■コトナガラ
  有無を言わせぬ――ウムヲ■イワセヌ
  みるみるうちに――ミルミル■ウチニ


繰り返し言葉・動植物名など(『てびき』p50〜)

『てびき』p50〜52にかけて出てくる語の切れ続きについても、『てびき』の言うとおりで、ことさら付け加えることはあまりありません。
なんだか無責任ですが、このあたりまでくると、いままでこの『入門教室』でおりにふれてお話してきたことがらから、だいたい切れ続きの目安がつく場合が多いと思います。

数字のあとにつく「以下」とか「弱」とか「増」とかいった2拍以下の語は、『てびき』では「意味の理解を助ける場合には発音上の切れ目を考慮して区切ってよい」となっています。
拍数に関係なく、これらの語は続けると非常に意味がとりにくくなることが多いと思います。
「10ニンゲンダカラ■ゼンブデ■30ニン」が「10人減だから」とは、なかなかわかりません。
やはり「10ニン■ゲン」と書いたほうがまだしもわかってもらえそうです。
切り離してその語だけ際立たせたほうが、理解の助けになる語は2拍でも切る場合があるということですね。
「10パーセント増し」「3ミリ幅」「1センチ角」など、発音上ひと続きの方がすんなり読めると判断される場合の2拍語は、複合名詞のルールどおり、続けていいと思います。

繰り返し言葉は、繰り返すことで一語となっている場合は続けます。
「いやいやをする」とか「いろいろある」「夜な夜な現れる」などのように使われる場合です。
「ナカナカ■スゴイ」「モシモシ■オタズネ■シマス」「ウチウチデ■キメマショー」「オノオノ■ジュンビ■シテ」「ウツウツト■シテ■タノシメナイ」などなど。

しかし、「雨雨降れ降れ」の場合は、「アメアメ」とか「フレフレ」という語があるわけではありませんので、2拍でも、それぞれ切って「アメ■アメ■フレ■フレ」と書きます。
「イタ■イタ、■ミツケタヨ」「アソビニ■イケ■イケ(行け行け)ッテ■イウカラ」「テガミヲ■カキ■カキ(書き書き)■タメイキ■ツイテ」などなど。
ただし、字面は同じでも、「そうそう、忘れてた」というときは「そう、忘れてた」と同じ意味で、強めただけ、という感じなので「ソー■ソー」と切りますが、「そうそう付き合ってもいられないよ」「そうそう甘い顔はできない」なんていうときは「ソーソー」と続けます。意味とアクセントが違うんですね。
でも、わかりにくいときもあります。

繰り返し言葉は2拍でも3拍以上でも、そのひとつひとつが意味のまとまりのある語であれば、切ることになっています。
「知らず知らず」は「知らず」という語に意味がある、「別れ別れ」「思い思い」も「別れ」や「思い」に意味があるので、切りなさい、ということです。
ほんとうは、「知らず知らず」「別れ別れ」「思い思い」というように、一続きで書いてこその語であろうと思います。
しかし、点字の触読で意味がつかめるのは、個人差もあるでしょうが、だいたい7文字前後まで、といいますから、濁点も含んでの「シラズシラズ」を読みとるのは、やはりたいへんという判断で、意味のまとまりごとに極力切ることになったのだと思います。

このあたりは、他の複合語に比べればわりあい簡単なところだと思います。
同時に、つい間違えてしまいやすい部分でもあります。
「汗をかきかき」なんて、続けてしまいそうでしょ?
動詞の連用形の繰り返しというのは、「〜をしながら」という雰囲気を出すのによく使われます。
「話を聞き聞きメモをとった」「彼を待ち待ち仕事をしていた」「お茶を飲み飲みおしゃべりしましょ」「肩を揉み揉みパソコンに向っている」「好きな曲を歌い歌い手も叩いている」「愚痴をこぼしこぼし笑ってるじゃない」「間違え間違え、どうにか出来上がった」などなど。
こういった繰り返しは、みな切って書いていいと思います。

擬声語・擬態語は、拍数で切ったり続けたりします。
3拍なら切って、2拍なら続けます。
「ドキドキする」は「ドキドキ■スル」
「ドキンドキンする」なら「ドキン■ドキン■スル」
2拍の語が4回繰り返されたら、二つに分け、3回のときは一続きにします。
「ガラガラガラガラ音をたてないでよ」・・・「ガラガラ■ガラガラ■オトヲ■タテナイデヨ」
「ガラガラガラとうがいした」・・・「ガラガラガラト■ウガイ■シタ」
『てびき』の用例になっている「グデン■グデン」や「ウツラ■ウツラ」などは、どう考えても、「グデン」や「ウツラ」だけで使うことはない、繰り返してはじめて一語になるような語だと思うのですが、これも、なるべく短くという方針に添って、切ることになったようです。

次は、動植物名等の切れ続きです。
これはちょっとやっかいかもしれません。
基本的には複合名詞の切り方と考え方は同じです。3拍以上の意味のまとまりごとに切って書く、ということですね。
しかし、以前は、これらの語はみなひと続きで書いていました。
意味のまとまり、といっても、ものの名前として使われているわけですから、いわば固有名詞で、それを切って書くのはおかしい、ということだったのです。
だから、「リュウグウノオトヒメノモトユイノキリハズシ」も、みな続けるか、あまり意味がつかみにくいようなら、適宜つなぎ符を挟んで書いていました。
しかし、『てびき』の改定で、これらの言葉も他の複合名詞と同様に扱うことになりました。

問題は、こういった専門用語の切れ続きは、素人にはわかりづらいことが多い、ということです。
『てびき』の用例の「カラス■ノエンドー」、私はてっきり「カラスノ■エンドー」だと思っていました。
私の知識不足といってしまえばそうなのですが、点訳者がみな動植物名の権威であるわけはないので、こういった誤解が多かれ少なかれ生じることは当然といえます。
もちろん、できるかぎり調べるのが点訳者の仕事ですが、いつもきちんと調べられるとはかぎりません。
確実に切れ続きがわかるとき以外は、全部続けてしまうほうが無難と言えます。間違う危険を犯すより、わかりづらいほうがまだマシということですね。
『てびき』では、「区切ると意味の理解を損なうと思われる場合」は、つなぎ符を使うか、全部続けなさい、となっています。
意味を損なうというより、確実に切れ続きを伝えることが出来そうにないと判断した時は、不用意に切らないほうがよい、というのが私の考えです。

『点字表記辞典』によると、「小深山カタバミ」は「コ■ミヤマ■カタバミ」と切ることになっています。
この「コ(小)」は、「深山」だけにかかるのではなく、「ミヤマカタバミ」という語全体にかかっているので、「コ」を「ミヤマ」だけにくっつけるわけにはいかない、という考え方です。
こういった場合、もしも意味がわからなければ、「コミヤマカタバミ」と全部続けてしまったほうが、「コミヤマ■カタバミ」という不正確な切り方をするよりは良い、と言えます。
「シベリアン■ハスキー」とか「セイヨー■タンポポ(西洋たんぽぽ)」とかいった、素人にも切れ続きがわかるような名前の動植物ばかりではないのですから。

こういった語の用例を出すのはなかなか難しいので、ちょっと子供の図鑑を引っ張り出してみました。
スコッティッシュ■テリア、イングリッシュ■セッター、グレート■ピレネーズ、これらは犬の名前ですが、このくらいだと切れ続きは簡単ですね。
オールド■イングリッシュ■シープ■ドッグ、長いですが、切るところはこうなるでしょう。
ドワーフロップイヤー、これはウサギです。切り方はドワーフ■ロップ■イヤーでしょうか?
キマダラセセリ、これは蝶ですが、キマダラ■セセリ? それともキ■マダラ■セセリでしょうか?
黄色いまだらのセセリ蝶なら前者、黄色いマダラセセリなら後者、でも、そこまではっきりわかるひとが、そうたくさんいるとも思えません。
オオヤマカワゲラはオオヤマ■カワゲラなんでしょうねえ・・・それとも、ヤマカワゲラという種類のカワゲラがいて、それの大きいの、だとしたら「オオ」は「ヤマカワゲラ」全体にかかる接頭語ですから全部続けることになるでしょう。
アオアズマヤドリ、これは鳥です。「アズマヤドリ(鳥)」の前に2拍の「アオ」がついているので、全部続けていいですね? まさか「アズマ」+「ヤドリ(宿り)」で「アオ■アズマ■ヤドリ」ではありませんよね?
ひとくちに意味のまとまり、といっても、その「まとまり」がちっともわからないことが多々あります。ことに動植物名は日本語のものでもカタカナで書いてあることが多いので、意味をつかむ手がかりが少ないのです。
先入観や憶測で切れ続きを決めてしまわないほうが良いと思います。

上記のように、言葉が専門的になると、『てびき』の言うところの「意味のまとまり」というのがどんどんわかりづらくなります。
次に出てくる(p52)医学用語なども、正直なところ、何をもって意味のまとまりと考えるか、お医者さんでもなければ確実にはわかりません。
しかし、どの語がどこまでかかっているか、何が何を修飾しているか、あれこれ考えて点訳していくほかないと思います。
「流行性角結膜炎」・・・リューコーセイ■カクケツマクエン? 結膜炎と角膜炎を併発することらしいんですが・・・
「虹彩毛様体炎」・・・コーサイ■モーヨータイエン 毛様体の炎症だとすると、こうなるでしょうか?
「脳動脈硬化」・・・ノー■ドーミャク■コーカ? それともノードーミャク■コーカ?
「心内膜炎」・・・シンナイマクエン? シン■ナイマクエン?
だんだんわからなくなってきました。
ちっとも説明になっていなくてすみません。
「意味のまとまり」って、けっこうむずかしいこと、わかっていただけましたか?

では、練習問題20です。
動植物名と医学用語の入った例文というのは、私の手にあまるので、ここでは繰り返し言葉の用例を書いてみます。
特定の品詞・用語の使い方の練習というより、できるだけいろいろな長文を点訳して、語の切れ続きに慣れてしまいましょう。
      −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  練習問題 20
 1.へえ、またまたあいつがやって来たって? それでまたずるずるべったり、家に居座るつもりだな。だいたいね、今まであいつのおかげでどれだけごたごたが起こったと思っているんだい? 夜な夜なの遊郭通いでかみさんには逃げられる、花街の女郎にいれあげて、みるみる借金は大きくなる、子供はほったらかしで、長屋でビイビイ泣いてるってのに、たまに朝帰りしたかと思ったら、「ぐずぐずわめいていねえで、酒でも買ってきやがれ」なんぞと、子供を張り飛ばす始末だ。

 2.あれは、いつだったっけ? そうそう、3月の初め、ようよう春の日差しが戻ってきたかというころだった。やつめ、借金のかたに、上の娘を女郎屋に売り飛ばそうと、娘には「綺麗なおべべが着られるところへ行こうな」なんぞとみえみえの嘘をついて、連れて行こうとしたんだよな。ところがこの娘が親に似ず賢い子で、「綺麗なおべべより妹達と一緒がいい」ときた。

 3.やつは、年端も行かない下の娘たちをだましだまししながら、こそこそと上の娘に因果を含めて、どうにかこうにか女衒のところへ娘を連れていった。娘はもちろん戦々恐々、自分の身に何が起こったか、おおかた見当がつく年頃だから、女衒の顔を見てぶるぶる震えだした。見る見るうちに両の目に涙があふれて、ヒックヒックとしゃくりあげ始めた。

 4.やつめ、女衒の手前、娘が納得ずくで来たと、汗をかきかき言いつのった。しかし女衒もだてに商売はしていない。「見ればこの娘、いいところ五つ六つのガキじゃあねえか。てめえの不始末をこんなガキに押し付けるたあ、いい根性だ」 やつはすっかり小さくなってぐずぐずと言い訳する。「で、でも、その、あっしだって、どうしようもなくて、泣く泣く・・・」「なにが、泣く泣くだ。おととい来やがれ。借金の始末はてめえ自身でなんとかするんだな」

 5.そういうわけで、娘はすっかり喜んで、女衒に手を振り振り帰ってきたというわけだが、やつにしてみれば、借金のかたはつかずじまい、いつ借金取りが家に押しかけてくるか、生きた心地もしないということになってしまった。仕方がねえから、長屋の大家と俺たちとで、侃侃諤諤の言い合いの末、とにかく女郎屋に頼み込んで、借金はしばらく待ってもらう、奴は俺たちが責任をもって、ゆめゆめ夜逃げなどさせない、ということで決着がついたわけだ。

 6.やつときたら、それをいいことに、昼間っから酒を飲んではグデングデン、上の娘が飲み屋に引き取りに行って、つっかえつっかえわびをいれては 父親を連れ帰っているって言うんだから、けなげなもんだ。まったくやつは、行った先行った先でことを起こしているというわけだ。おい、うちに金の無心にきたら、がたがた言う前に追い返せ。奴の言い訳にはもう飽き飽きしてるんだ。やつのかわりに娘がきたら、親父に知られないように、二文か三文包んでやんな。
      −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


<練習問題20>について

練習問題20から繰り返しの言葉を書き出してみます。
切るものは切り方も書いておきましたが、でももうおわかりですね。

1.またまた(マタ■マタ)
  ずるずる
  ごたごた
  夜な夜な
  みるみる
  ビイビイ
  ぐずぐず
2.そうそう(ソー■ソー)
  ようよう
  みえみえ
3.だましだまししながら(ダマシ■ダマシ■シナガラ)
  こそこそ
  戦々恐々(センセン■キョーキョー)
  ぶるぶる
  見る見る
  ヒックヒック(ヒック■ヒック)
4.かきかき(カキ■カキ)
  ぐずぐず
  泣く泣く
5.振り振り(フリ■フリ)
  侃侃諤諤(カンカン■ガクガク)
  ゆめゆめ
6.グデングデン(グデン■グデン)
  つっかえつっかえ(ツッカエ■ツッカエ)
  行った先行った先(イッタ■サキ■イッタ■サキ)
  がたがた
  飽き飽き






<<BACK   INDEX   NEXT>>