「みずほ点訳」ホームページ

「みずほ流」点訳入門教室

1.音の表し方



拗音

6点入力をなさる方には、どうしても今すぐ必要なこととして、ローマ字入力なさる方にも、是非知っておいていただきたいこととして、拗音の話をちょっとします。

「きゃ」「しゅ」「ひょ」など、拗音は、墨字と点字では、表記がずいぶん違います。
点字では、字の大きさが変えられないので、墨字のように小さい字が表記できないからなのですが、それだけではなく、考え方がちょっと違うのです。
「音」という観点から見た場合、なるほど、こういう考え方もあるのか、と、私は当初、いたく感激(?)したものです。
私たちは子どもの頃から、「キャ」という音は「き」に小さく「や」を添えて発音する、と思い込んでいるのですが、必ずしもそうではないんですね。
それは実は、文字に書く場合の約束ごとだったのです。
音としては、むしろローマ字表記の「KYA」が近いのかもしれません。
まっすぐな音である「直音」に対して、「拗音」という名のとおり、ねじれた音、ということであり、「Y」の音が入っている、とも言えます。
点字の表記は、その考え方をとっているのですね。
そこで点字では、まず始めのマスに、4の点を打ちます。
これは、次のマスにある字がねじれますよ、すなわち、拗音ですよ、という宣言であるわけですが、実は、4の点というのは、「Y」の音を表していたりもするのです。
50音の「や行」にこれが使われていますね。
「や」は母音部分の「あ」を下まで下げたものを、「ゆ」は「う」を下げたものを、「よ」は「お」を下げたものを、それぞれ4の点と組み合わせた形です。
つまり、4の点は「Y」の音なのです。
(但し、これは日本語における「音」の上での話で、アルファベットの「Y」とは何の関係もありません)
「キャ」を打つときは、4の点を打ったあとのマスに「カ」を打ちます。
4の点が「Y」の気分なので、あとは残りの「KA」を打てば、「KYA」が完成するわけです。
墨字表記に慣れた目には、どうして「キャ」が4の点に「カ」なのか、「ト」がねじれると何故「チョ」になるのか、すんなりとは納得しにくいのですが、「Y」の存在を考えると、わかりやすいかと思います。

普段そんなこと考えてもみずに、頭から信じ込んでいることって、案外多いのですが、別の角度から見ると、違う景色が見えてビックリ、ということが、点字を学ぶ中でときどきありますね。
たかが「キャ」ですが、ちょっとした新世界の発見です。


濁音や拗音

ちょっと話が戻りますが、濁音や拗音を表す点を前置することについて。
墨字では、「か」を書いたあとに濁点を付けるのに、点字ではなぜ前に置くかというと、指で読むというのは、目で読むのに較べて、一度に読める範囲が非常に小さいのです。
目だって、指と同じくらい紙にくっつけたら、同じくらいの範囲しか捉えられないでしょうね。
そうすると、はじめに「か」と打ってあると、「か」と読んでしまうわけです。
次に濁点があると、一旦「か」と入力されたものを、あ、違った、「が」だ、と訂正しなければなりません。
いちいちそれをやっているのは、ちょっと大変な作業ですね。
だから、最初に濁音だとわかった方がいいのです。
濁点だけでは文字入力は完了していませんから、何が濁るのかな? と、期待して次へいけるのでしょう。
点字では、そういうわけで、前置記号が多いのです。

50音(清音)、濁音、半濁音、促音(小さい「っ」)、長音、拗音、拗(半)濁音、特殊音の打ち方がだいたいつかめたら、練習問題1を打ってみましょう。
墨字の行頭は1字分落ちていますね。
点字では2マス下げて、3マス目から打ち始めてください。
墨字が改行せずに続いているところは、点字では次の行へ移っても行頭をあける必要はありません。
練習問題1のように、単語が並列的に並んでいる場合、言葉と言葉の間は2マスあけてください。
行末ぎりぎりまで打って、2マス、あるいは1マスもあかなくても、次の行頭は1マス目から打ってください。
点字では、行が変わったということは必要なマスあけがされた、とみなされます。

    −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  練習問題 1
 烏  たぬき  スカンク  ハイエナ  くろさい  蛍  猪  マントヒヒ  山猫  カメレオン
 もぐら  ザリガニ  ミドリガメ  みずくらげ  ガラガラヘビ  パンダ  ペンギン
 ラッコ  ほっけ  モルモット  おっとせい
 カンガルー  マングース  チンパンジー  ビーバー
 鯱  肺魚  ジャッカル  ピューマ
 シェパード  ウォンバット  フェレット  ディンゴ
    −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

パソコンで打つと、ひとつづきに打つ言葉は、行末に入り切れなければ自動的に次の行に移ってくれます。
手打ちの場合には、これを自分で考えて(数えて)やらないといけなかったので、慣れるまで大変でした。
点字では、言葉と言葉の間にマスをあける「分かち書き」をするので(それについてはあとで出てきます)、ひとつづきに打つべきものは行をまたいで打ってはいけないのです。
どこが切れ目かわからなくなっちゃいますからね。


<練習問題1>について

単語を羅列する場合には、語の間は2マスずつあけていただいた方がいいですね。
マスをあけることについてはあとでお話しますが、内部にマスあけを含む言葉が並ぶと、どこが単語の切れ目なのかわからなくなってしまうので、内部の切れ目と外部の切れ目を区別するためです。


「は」・「へ」・長音

基本的に、墨字を点字にするときの仮名遣いは、現代仮名遣いで、ということになっています。
『日本点字表記法』にも、「点字の基本的な仮名遣いも、現代仮名遣いにほぼ対応している」と書かれています。
「みずほ点訳」という言葉はそのまま「ミズホ■テンヤク」となります(■は1マスあける、という意味です)。
しかし、実際には、山のように例外があります。
「ほぼ対応している」の「ほぼ」という言葉は、その「例外」のことを言っているわけですね。
点字の仮名遣いを覚えるということは、つまり、その例外を覚えることだ、といってもいいくらいです。

大きなポイントは、表記法によると、つぎの2点です。
1.現代仮名遣いで、「は」「へ」と書き表している助詞を、点字の基本的な仮名遣いでは、発音するとおり「ワ」「エ」で書き表す。
2.ウ列とオ列の長音のうち、「現代仮名遣い」で「う」と書き表す長音部分を、点字の基本的な仮名遣いでは、長音符を用いて書き表す。

1.の意味するところは、「私は仕事へ行きます」という文章を点訳すると、「ワタシワ■シゴトエ■イキマス」となる、ということです。
「ハハワ■ハワ■ワルク■ナイ」、これは表記法に出ている例ですが、墨字では「母は歯は悪くない」という文章です。
これをこのまま点字に置き換えると、「ハハハ■ハハ■ワルク■ナイ」という、意味不明の文章になってしまいます。
耳で聞いた音どおりに、助詞の「は」や「へ」を「ワ」「エ」と書き表すことは、表音文字である点字で、意味を理解する為に必要なことなのでしょうね。

2.の長音は、簡単にいえば、「お父さん」は「オトウサン」ではなく、「オトーサン」と書きなさい、ということです。
これも、助詞の「は」や「へ」と同様に、耳で聞いたとおりに書き表す、ということからこういった表記になるのだと思います。
これは、ウ列の長音とオ列の長音に限ったことなので、「お父さん」は「オトーサン」でも、「お母さん」は「オカーサン」とはならず、墨字のとおり「オカアサン」となり、「お姉さん」は「オネーサン」ではなく、「オネエサン」、「弟」は「オトウト」ではなく、「オトート」になります。
「お兄さん」は、「オニイサン」で、「妹」は「イモート」・・・
なんだか混乱してきちゃいますね。

長音の表し方は、今回のてびきの改定で、外来語などの場合、原本の表記通りでよい、ということになりました。
原本に「ニュウヨーク」と書いてあれば、発音が「ニューヨーク」であっても、点字でも「ニュウヨーク」と書いていい、ということですね。

しかし、日本語に関しては、ウ列・オ列の長音は、長音符を使うことになります。

「点字の勉強は、週末、福祉センターへ行って、一生懸命やっています」を点訳すると、
「テンジノ■ベンキョーワ、■シューマツ、■フクシ■センターエ■イッテ、■イッショー■ケンメイ■ヤッテ■イマス」となります。

最初、長音や「ワ」「エ」には少し苦労するかもしれません。
がんばって、たくさん打って、慣れてしまいましょう。


長音

拗音のところで言ったように、点字は墨字より「音」に忠実な表記になっています。
「おとうさん」の「う」の部分は、実は「う」と発音するわけではなく、「と」が伸びているんですね。
そういう場合には「う」と書こう、というのが墨字の取り決めです。
点字では、こういう「う」については、音に忠実に長音符で表します。
『てびき』(p13〜14)では、ア列の長音、イ列の長音・・・というふうに説明してありますが、ちょっと複雑です。
耳から入った音を点字で表す必要のある視覚障害者には適切な説明ですが、墨字表記をよく知っている晴眼者には、「仮名で書いたときに『う』で書き表す長音の場合に、点字では長音符を使う」と思っていただくのが簡単だと思います。

ここからは、ちょっとややこしく聞こえる話になります。
動詞の語尾で「食う」「吸う」「縫う」「結う」「狂う」「揃う」「拾う」「奮う」など、場合によっては長音に聞こえることもあります。
でもこれらは、ワ行五段活用の終止・連体形ですから、長音ではなく「う」なんですね。
ですから、「クウ」「スウ」「ヌウ」などと打ちます。
ところが、紛らわしいことに、「う音便」になっている場合は長音で打つんです。
「食うて」「吸うた」「狂うとった」は、もともとは「食いて」「吸いた」「狂いておった」が音便で長音に変わったものですね。
こういう場合は「う」と発音するわけではないので、長音符で表します。
「思うのですが」「思うようにならない」「思うところあって」などは「ウ」ですが、「思うてもみなんだ」「思うとったに」「思うたからには」などは長音符なんです。
現在ではこれは「思ってもみなかった」のように促音便になっているので、そう言い換えられるかどうかやってみればわかります。
それだけのことなので、ご心配なく。
ただ、実際には、そういう表記に慣れるまでには少し打ってみる必要があるでしょう。

助詞の「は」「へ」も音に忠実に「ワ」「エ」と打つんですが、片方では、「を」は「ヲ」を使うし、「言う」は発音とは違って、現代仮名遣い通り「イウ」と書きます。
耳から入る音に忠実に、という原則と、現代仮名遣い通り、という原則とが、あちこちでせめぎあっています。
どの場合にどちらの原則が優位に立つかは、これから少しずつ出会いながら慣れていくことになるでしょう。
ローマ字入力の方は、特にご注意ください。

では、長音の表記と助詞の「は」などに気をつけて、練習問題2をどうぞ。(■は、マスをあけるところです。読点は5と6の点で、そのあと1マスあけます。句点は2、5、6の点です。墨字で改行してあるところは、点字でも改行し、3マス目から打ちます)

    −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  練習問題 2
 夏休みも■もう■終わりですが■まだ■まだ■暑さが■続きそうです。
 年々■暑さが■身に■こたえるような■気が■します。
 年齢の■せいばかりでは■ないかも■しれません。
 地球■温暖化の■影響でしょうか。
 ヨハネスブルグの■環境■サミットで■世界の■国々の■代表が■協議■して■います。
 利害の■対立も■報道■されて■いますが、■有効な■調整が■なされる■ことを■期待■します。
 私たちは■日常■生活の■中で■可能な■ことを■少しずつでも■気長に■やって■いくしか■ないのでしょうね。
 でも、■電力■消費を■減らそうと■言いながら■クーラーの■スイッチが■容易には■切れません。
 せめて■今日は■掃除機を■かけるのは■やめよう、■と■いうのは■ちょっと■ちがったかな。
    −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


<練習問題2>について

墨字表記に慣れていると、ついつい「う」とか「は」とか打ってしまうことが多いのですが。
「もう」「続きそうです」「こたえるような」「地球」「影響でしょうか」「環境」「代表」「協議」「報道」「有効」「調整」「日常」「可能な」「ないのでしょうね」「消費」「減らそうと」「クーラー」「容易には」「今日」「掃除機」「やめよう」の、23個の「う」と2個のカタカナの長音符に、計25個の長音符が使われます。
助詞の「は」は5カ所ですね。
この仮名遣いに慣れたら、今度は日常生活でお気をつけください。
私は、役所や銀行で書類に仮名をふるとき、何度間違えたことか!


仮名遣い

さて、仮名遣いのことをちょっと。
点訳は、墨字で書いてあることをそのまま点字になおせばいいのだから、簡単! と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
でも、点字は仮名だけですし、墨字は漢字にルビが付いていることは少ないので、漢字をどう読むかはもちろん、仮名書きするとどう書くのか、ということがわからないと点字で打てません。
「地面」「地震」など「地」のつく言葉は、「地」の読みが本来「ち」であるのに、どうして「じめん」「じしん」なのだろうか? とか、「神通力」は、「じんつうりき」か「じんづうりき」か、はたまた「じんずうりき」か? とか、墨字の仮名遣いというのも、結構厄介なものです。
たいていの言葉は、辞書をひけばわかりますが、中にはわからないものもあります。

外来語の仮名遣いは原本通り、ということになっています。
「カルシウム」と書いてあればそのとおり、「カルシューム」と書いてあってもそのとおり。
「原本どおり」というのも、点訳の大事な原則のひとつです。
だから簡単といえば簡単なのですが、外来語がすべてカタカナで書かれているかというと、そうでない場合もあるんです。
『てびき』にも「老酒」「白頭」の例が出ていますね。
あまり古くない時代に中国・朝鮮などから入ってきた言葉(古い時代に入ってきた「漢語」は普通外来語に含めません)や固有名詞です。
「焼売」「餃子」なども、普段外来語だなんて意識せずに使っていたりしますが、さてどう表記するのかとなると、迷ってしまいます。
「シュウマイ」なのか「シューマイ」なのか、「ギョウザ」か「ギョーザ」か・・・?
ルビがふってあればいいんですけどね。


漢字を読むこと

「みずほ点訳」で過去に話題になった言葉について、ちょっと書いてみますね。

「固執」・・・みなさんはこれをどう読まれるでしょう?
「こしつ」?「こしゅう」?
私はずっと、「こしゅう」と読んでいました。
ところが、『新明解国語辞典』第5版によると、「こしゅう」は、「こしつ」の老人語となっています。
『大辞林』では、「こしつ」は「こしゅう」の慣用読み、としながらも、どちらかいえば「こしつ」を主にとっています。

また、「連中」っていう言葉、どう読みますか?
今は「れんちゅう」って読む人が多いでしょうか。
『広辞苑』第1版では、「れんじゅう」を主にとっています。
ところが、またもや『新明解国語辞典』では、「れんじゅう」は「れんちゅう」の老人語、となっているのです。

言葉はどんどん変化します。
使う人の年代によっても、漢字の読み方に少しずつ違いがあって、そのどちらがまちがいともいえない、という語も多いのです。
本来誤用であったものが、修正されずに流布していった結果、正しい読み方を駆逐してしまう、ということもあるかもしれません。

いずれにしても、点訳のさいには、読み方を決めなくてはなりません。
点訳する本が、時代劇なら「れんじゅう」の方がいいかもしれないし、現代ものなら「れんちゅう」がいいかもしれません。

また、同じ漢字でも、読み方が違うことで、微妙にニュアンスが変わることもあります。
「その間」は、「そのかん」「そのあいだ」では、いくらか意味合いがちがいます。
「その後」を「そのご」「そののち」「そのあと」のどれで読むかで、やはりちょっと印象が変わります。
「経緯」を「けいい」と読むか「いきさつ」と読むかでも、何か違いが出てきそうな気がします。
「年中」は「ねんじゅう」と「ねんちゅう」とでは、あきらかに違う意味です。
「14年末」を「14ねんすえ」と「14ねんまつ」では、やっぱりどこか違いがありそうです。
文章の前後関係・文脈で読み取って、どう読むか、決めなくてはなりません。

辞書を調べても、こういったことは教えてくれません。
晴眼者は、漢字を「音」として読んでいるというより、意味として捉えているので、その「音」がどうであるか、ふだんあまり考えていません(漢字の読みのテストでも受けるときは別ですが)。
ふつうはそれで充分なので、点訳も、ただ墨字を点字に置き換えればいいだけだろう、と思ってしまうのですが(実は私もそうでした)、やってみると、なかなかそう簡単にはいきません。
厄介な語に限って、ルビがついていないことが多かったりしますね。

ね、点訳って奥が深いでしょ?
「みずほ」では、もっぱら「ボケ防止」と称して、せっせと頭を悩ませることにしています。






<<BACK   INDEX   NEXT>>